赤髪先生は、初心に帰ります。
「ちっ……あいつ説教だな。帰ったら覚えてろよ……」
そんな事を口走っちまったら、めちゃくちゃな殺気が飛んできた。上位悪魔とかいう2人がこちらを睨みつけてくる。
にしても主位精霊ってなんだよ。交渉するだけでも数百人の人間の魔力と魂が枯れちまうくらい魔力が必要だって話じゃなかったっけか? なんだ? ってことはあいつ、交渉どころか契約できるようなバカげた魔力を一人で持ってるって事か? 今度魔力量もちゃんと表示させるか。確かに天才級の魔力量と魔力回復値はもってただろうが、そんなバカげた魔力量じゃなかったはずだったんだがなぁ。
あたしの中のフレイドラが必要以上に怯えるせいであたしの体も自由に動かせない。
「先日……魔導具と思われる感知に引っかかってしまいましてね。その調査にいらしたのでしょう? お疲れ様でございます。もう用事はほぼ終わりましたので、我々はこの地から去ります故、ご安心を」
「何の用事だったんだ?」
「もちろん……秘密にございます。」
「あたしがレティーシア直属の上司みたいなものだとしてもか?」
「ええ。主様の命無く契約内容を伝える事は、悪魔としての性質上不可能ですので」
「ま、だよな」
……悪魔として、か。
精霊の中でも悪魔と天使ってのは一線を画する力を持っている事で知られている。
両方の精霊は、共に願いを叶えるという契約形態を得意とする関係上、かなりの力が無ければそもそも願いなど叶えられるはずもないからだ。
「ちっ。まぁいいか。あいつの契約精霊ならこの国に不都合が起きる事もなさそうだ……。はぁ……。身元がわかったんならギルドの方も問題ねぇか……。クエスト完了だ! 引き上げるぞ!」
「……それが賢明かしらね。私も無駄に命を懸けたりとかしたくないわっ。今度レティ子ちゃんに会ったら色々聞いちゃおうかしら?」
「ぬぅ。あの子の成長速度はおかしすぎるのであるが……」
不安……なんだろうな。
特にレティーシアの事を知っているこの2人は。
他の連中はあたしの知り合いならって事で納得はしてくれるものの、最高戦力を集めたってわけでもないが、トップクランに所属している奴が手も足も出なかった相手を使役してる奴がいるってんだから気にならないわけがない。
手も足も出なかったというのは言い過ぎだな。仲間に悪いか。
あたし達は自分たちが努力を惜しまず今日まで邁進してきた自信がある。もちろんこのままやられっぱなしだったなんて事は無いからな。攻撃を躱されたとしてもいくらでもやりようはある。人数は圧倒的にこちらの方が多かったんだから。
正直こんなナメられたまま戦闘が終わっちまうことに、心の奥底で納得できないなんてことはあたしが一番よくわかってんだよ。くそっ。あたしがもっと強ければ……。
まぁいい。そんな事今考える事じゃねぇわな。
とにかくあれだな。この戦力は異常すぎる。ここまで来てみて仲間だったからよかったものの、敵対してたらどうなっていたのかと思うとな……。
あ~あいつ、まさか転移眼とかでこの状況見てんじゃねぇだろうな?
見てたらすぐ来いよ? 説教してやるからな!
……ん? あいつまさか、こいつらを学祭のトーナメントで召喚するとか言いださねぇだろうな? ……言いかねねぇな! こんな奴ら出てきたら学園どころか国中がパニックになりかねん。先手打って委員会に拒否させておいてやろう。別に仕返しとかじゃねぇけど、本当にでてきちゃダメな奴らなんだよ。ぜってぇ認めてやらねぇ。
まぁそれで困るあいつを見るのは楽しそうだな。
「ってことだ。問題はない」
「大有りだよっ!!」
「ないだろ。一応所属はグルーネ国の契約精霊だぞ」
「馬鹿げている!! 上位悪魔1体との契約すらもありえないのに、それが2体いて、更に主位悪魔だと!? しかも主位悪魔が1人の人間と契約状態? ……それをどうやって信じろというんだ……?」
激昂して椅子から立ち上がり、次第に顔を覆いながら崩れ落ちていく。
いい年こいたおっさんが元気なもんだ。
「信じろも何も見たままありのままを報告している。それともあたし等の報告が間違っているとでも思っているのか?」
「そんな事思っておらん。思っておらんから頭を抱えておるのだっ!」
「まぁよかったじゃねぇか。敵対国の偵察なら、正直あの場にいた戦力じゃ追い払うだけでうちのクランメンバーから死者が何人でてたかわからねぇくらいだよ」
特に、あの赤いやつが出てきた後じゃ、最悪こっちの全滅もありえたからな。
こんこん。
ギルドマスタールームの扉がノックされ、ガチャリと扉があいた。
ギルマスが返事もしてないのに扉を開けるってのは、ギルマスとしての信用的にどうなんだ? とは思うが、このおっさんだしな。別にいいか。
「ギルドマスター。こちらの書類なんですが……あっ、申し訳ありません。ご来客中でしたか? ……あ。ベガ様でしたか。ご無沙汰しております。」
「なんだ。お前か。」
ギルドマスターの補佐、副ギルドマスターとでもいえばいいんだろうか? 実際副ギルドマスターって役職はないんだが、そういう立場の女。でも正直な話、運営面の実権を握ってるのはこいつと言っても過言ではないやり手なんだよな。マディア・スール。スール伯爵家の養女に当たる女。
「ベガ様はいつ見てもお綺麗で、羨ましいですわ」
「お前はいつ来てもおっさんへの敬意が無くて清々しいよ」
「そんなことはありません。置物として十分過ぎるほど役に立てております」
「お、おい! マディア!?」
「威厳ねぇなぁ。おっさん?」
「ぐっ……!!」
ギルマスが置物じゃなくて、こいつが有能すぎるんだけどな。
まぁどうでもいいか。
「じゃ、あたしは用も済んだし、帰るわ」
「あら。もう少しごゆっくりなさって頂いてもよろしいですのに。ついでにギルマスの座もいかがですか?」
「いらんわ。じゃあな」
「あら、冷たいのですね」
「ぐぬぬぬぬ……」
こいつがいると無駄な仕事を押し付けられかねんからな。
退散するに限る。
ギルドに報告も終わり、報酬を受け取ってアジトへと戻る。
……久々に割の合わない仕事だったな。
掛かった時間や労力に対してじゃない。
あたし達の実力の割に見合わない仕事だったって事だ。
実力に見合ってない仕事ってのは、あたし等が冒険者になって一般冒険者から上級冒険者へ上がろうとして頑張っていた頃以来か。
……懐かしいな。




