♠妹弟達の露店労働。
「いらっしゃいませ~~っ!!」
「……あ~……あぢぃ……。くそっ……あ痛っ。」
周りに比べて少し大きめの露店。
とくに露店の大きさっていうのは決められていないらしいんだが、基本皆が出す露店が同じ様な大きさになるのは、その露店自体を殆ど同じ工房で作成しているのが大きい。大きさは決められていないとは言え、出店許可の出ている区画は守らないといけないんだから、まぁ同じような大きさになるのは当り前なんだろうけど。
露店に立つ人の数で使いやすいサイズ感ってのは決まってくる。そう考えれば露店で立つ人数なんて圧倒的に1人が多いんだから、同じようなサイズの露店が立ち並ぶのは自然ってもんだよな。だから必然とそれぞれの露店通りには、同じような大きさの露店が立ち並んでいるわけだし、この露店がそれよりも少し大きめなのもそのせいだ。
ユフィが客引きをして、俺はグランさんの手伝い。
慣れない手つきで食材を切り分けるもんだから余計に力が入っちまって、炎天下がきついんだよなぁ。時間もそろそろお昼時になる頃にさしかかってきた。日が真上辺りまで登ってきているせいで影が一番無くなる時間帯。俺は露店の屋根から丁度少し外れた場所で作業しているせいで、直射日光を浴びながらまな板と格闘中だよ……。結構つらいんだぜ、これ。
家の農業手伝ってた時だって炎天下だったのは同じだったけど、こんな都会のど真ん中じゃ、田舎の山の上とは環境が違いすぎる。
風も通り抜けないし、拭いたとしても生暖かい。
なんで料理はユフィに任せてないのかって?
そりゃ俺だってそうしたいさ。この目の前にある切り分けられた食材見てたって自分でも思うよ。不ぞろいのカットに、所々崩れた食材。ボールから溢して使えなくなっちまった材料……。つくづく俺に料理の才能はないと思う。ここまで不器用だとは自分だって思ってなかったさ。
でも、客引きはどう考えたってユフィがやった方がいいだろ? 姉ちゃん程じゃないにせよ、あいつだって結構可愛い部類だろうし。こんな無愛想な男が店前に立つよりは華があったほうがいい。
「あっ!エミリアちゃん!いらっしゃい!!」
地獄の炎天下の中、まな板とずっと格闘していると遠くでユフィのそんな声が耳に入ってきた。あ、まな板ってユフィの事じゃなくて、本物のまな板な。え? ユフィのどこがまな板かって? そんなのほら。みりゃわかるだろ……?
エミリアってのは、俺達が皆に話しかけられる様になった日、一番最初に声を掛けにきてくれたピンク色の髪の毛をした女の子。あれからユフィとは結構仲良くなったらしくて、一緒にいるのをよく見かける。
エミリアの方はユフィよりも濃いピンク色で、髪の毛も肩上の辺りまでしかないのに、髪量が多く見えるのは姉ちゃんみたいにウェーブがかかっているからかな。
表情も動作もおっとりしているから話しやすくて俺も気軽に話していたら、後でユフィに聞いた話エミリアって結構爵位も格式も高いお家柄のお嬢様らしい。俺たちが平民だから知らないだけなのか、それとも貴族の間では交流があるから皆は知ってるのか……。誰もエミリアの家の爵位を言及したりはしないから、実際の爵位は知らないんだけど。
ちなみに爵位という貴族階級のほかにも、騎士位という同じような階級が存在したりしてることから、爵位や騎士位だけで見ても、割と貴族っていう家系は多い。ただし、その中でも爵位や騎士位が同じ序列であっても、お家柄では優劣が発生していたりするんだそうな。例えば、本来子爵と男爵では、この国の制度上では子爵の方が爵位は高いけど、新興で上り調子の男爵と、落ちぶれて陥没寸前の子爵を比べれば、明らかに『格式』が新興男爵の方が高いと世間ではみなされるらしい。
そして、その最上位であるのが現最高爵位である公爵で、格式が最も高いとされている『ラインハート家』なんだそうな。そんな雲の上の存在、俺達にはこれから一生関係なさそうだけど。
実際の所、学校内ではあまり家柄の話というのは出てこない。
なんとなく皆の話し方を見ていれば、一定の相手に気を使ったりだとか使わなかったりだとか。そんな仕草を細かく見ていてやっと、どうにか家柄の格の差って奴を感じられる程度で、誰もそれを笠に着たりだとか卑屈になったりだとかしていない所を見ると、学校内で家柄の話をするというのは、もしかしたらご法度なんだろうか?
平民の俺たちにはよくわからないけど、気を使ってちゃんと敬った方がいいのか、それとも学校内で気を使うこと自体が無礼にあたるのかすら分からない俺達にとっては、本当は少し位偉ぶってくれた方がありがたい気もするんだけどな……。
「あ。ユフィちゃん。それとジーク君も。こんな所にいたのね。探しちゃったわ。す、すごい人ごみね……。」
「わざわざ来てくれたの!? ありがとうっ!!」
人通りの向こう側で、あきらかに異質な黒装備の2人組がずっとエミリアを監視しているのがみてとれた。どうやらエミリア専属の護衛だろうか。わかりやすいけど、わざとだろう。
「う、うん……。私、露店で買い物って始めてなの。教えてくれる?」
「え? ……あ、うん。もちろん!!こっちだよ!」
まじか。露店で買い物をしたことが無いって事は、やっぱり相当いいとこのお嬢様っぽいな……。そりゃなんとなく言動からして結構すごいんじゃないかとは思ってたけどさ。俺たち平民だけどこんなフレンドリーにしてて大丈夫なのか? 学校内とは違って護衛だってこっちを睨んでるんだぞ? 突然不敬罪だとか言ってひっとらえられたりしないだろうな……。
「あら……。ジーク君が料理しているの? 男の子なのに大変ね。」
「ああ、エミリア。こんにちわ。」
ユフィと2人で露店の中を覗き込むエミリアが、俺を見つけ話しかけてくる。
こういう何気ない友達感ってのが無性に嬉しかったりするのは……かみ殺しておかないとな。後でユフィにからかわれるのはうざいし。
「いらっしゃい。2人のお友達かい?」
「あ……え? 友達……? なのかしら。」
露店のど真ん中で料理を作りながらグランさんがエミリアに話しかけると、咄嗟に否定されてしまった。ユフィがものすごく悲しい顔をしている。
……ほ、本当になんて顔してんだよお前……。
「あ、その……えっと……お友達、よ?」
そこでも疑問系なんだな。さすがに俺も悲しくなってくるぞ……。
まぁユフィはどうやら喜んでるようだから別にいいけど。
「ほらほら、こっちきて座って?」
王都居住区の露店通りは、大通りから1本脇に逸れた場所にある。
もちろん露店通りは王城区の中だけでも色んな場所にあるんだが、俺達が出しているのは飲食店。飲食関係の露店は、比較的居住区か工業区に多くなる傾向があるんだよ。商業区にある飲食関係の露店は、基本持ち歩けるような食べ歩き物だったり、素材そのものを売っているような露店が多くなる。
居住区や工業区は普通に飯を食いに来る客が多いから、露店毎、目の前にテーブルと椅子なんていった飲食スペースを設置してあったりする。グランさんが大きめの露店を購入したのは、このスペースを広く取るってのも一つの理由。
「これとねー……。これ! がお勧めだよ?」
「へぇ……あまり聞いたことのない食べ物ね?」
「それはもう、当店限定ですから!」
ユフィがエミリアに付きっ切りで、椅子に一緒に座りながら接客を始めた。
……おいユフィ。お前客寄せだからな。仕事しろよ。
昼の時間も近づいてきており、かなり人通りも増えてきた。
ちょこちょこ珍しい露店に興味をもった人達が並んでくれている。
はぁ。まぁいいか。
2人で楽しそうに1つのテーブルを囲む2人を見て、グランさんが微笑んでいるのが目に入った。店主が注意するんじゃなければ俺が言うことでもないしな。これ以上客を引いてこられても並ぶ時間が増えるだけだし、じゃあ料理手伝えって言ったって、実際の調理はグランさんがしている。もう十分な下準備は終わっているし、簡単な手伝いは俺だけで済むし。何より、いくら少し大きな露店とは言え、店の内側に3人は少し狭すぎるんだけど。それにしても店主の前で堂々とバイトサボってやがるのに。この人は俺たちに結構甘いのかもしれない。
……それから。
今日が露店出店から2日目だったのにも関わらず、店は大盛況していた。俺達は大忙し。普通にきつかった……。
エミリアに限らず、学校で仲良くしてくれてる連中が結構きてくれたってのも嬉しい誤算かな。ユフィは接客やら客引きを適度にこなしながら上手くやっていた。
ちなみに俺達が出しているのは、中華料理と言うらしい。
グランさんが代々受け継いできた料理で、ちょっとユフィと一緒にアレンジを加えたから元の料理とは全然違うものもあるんだけど、ベースは中華料理っていうのがベースになっている。
あの感動のチャーハンはもちろん、殆ど改良を加えていないのは主食系。ユフィがグランさんと一緒に開発したのは、どうやらそのほとんどがデザート類なんだそうだ。一番びっくりしたのは、あのチャーハン。なんと賄いとして作っていただけであって、前の店舗ではメニューにすら入れていなかったらしい。勿体なさすぎるだろ。あんな美味いもの、この世に2つとないのに。
ユフィが手を加えさせてもらったデザートも、春巻きの皮を使ったクレープって奴がものすごく売れていた。特に、俺達と同じ年代の女が興味を持つようで、ユフィの友達なんかは皆それを頼んで喜んでくれていた。なんでユフィがクレープなんて料理を知っていたのかなんて、当たり前だけど心当たりは1人しかいない。よく母さんと3人で台所でなんかしてたからな。それを自分なりにグランさんのお店とマッチするようにアレンジしたんだろう。
春巻きの皮を揚げずに少し蒸して、生クリームや果物なんかを中に入れて巻く。巻いた皮のもちもち感と、生クリームと果物の甘さがマッチして確かに美味い。しかも皮はある程度作り置きできるから売りやすい割に儲けも結構でるんだぜ?
「今日はありがとうね……。はい。これが今日の2人のお給金だよ。」
そういいながら俺たちに袋を渡してくれる。
重さと大きさが1日分とかいうレベルではない。
「こ、こんなに!? いいの……?」
「それに、1日毎貰わなくても1ヶ月毎でもいいですよ? 買い出しとかにお金も必要ですよね? 俺等、ここで少し賄い作ってもらってるだけでくいっぱぐれないし。」
中を見てみると大量の銅貨と鉄貨。
目算2人合わせれば銀貨1枚分くらいあるんじゃないだろうか……。
「いえいえ。露天商は日払いが普通ですからね。本当はもう少し色を付けたいくらいですよ。ユフィさんが頑張って開発してくれたお料理も順調ですし、貴女達のおかげで貴族様方が物珍しい料理を警戒せずに買っていってくれていますからね。」
「え!? い、いいですよ。こんなに沢山貰ったしこれ以上なんて……。それより、ちゃんと忙しい時は私とジークを雇ってくれれば、ね?」
「ええ。それはもちろん。むしろ毎日来ていただいても構いませんよ?」
「ふふ。ありがとうございます! でもあんまり忙しくない時間に3人もいたら邪魔だろうし、忙しい時だけでいいからね!」
「ん~……2人がいるから忙しくなれるのですから、本当に来てくれてもいいんですけどねぇ……。」
最後のグランさんの呟きが、ユフィは聞こえなかったようだ。まぁ伝えるつもりが無いのであれば、俺がその言葉を拾う必要もないだろう。そう思ってくれることは本当にうれしいことだけど、実際どちらかと言えばユフィがいれば忙しくなるだろうが、俺だけじゃその手伝いくらいしかできないだろうからな。
その後。
俺たちは週に何度か忙しくなる日に合わせ、グランさんの露店でバイトをさせてもらっている。グランさんが呟いた通り、俺達が手伝いをする日にあわせてお客さんの数が増えているのは……やっぱりユフィのせいだろう。一定数のお客さんが、明らかにユフィを目的にくるからだ。あまり人見知りしない性格もあってか、学校の友達じゃないお客さんも、顔を覚えた相手とは一緒の席に座って雑談しながら客引きしているのが割とウケてるようで、それを目的に足しげく通ってくれてるお兄さんやおっさんが相当な金を落としてくれていたりする。
王城区の中なだけあって、そのほとんどが貴族様だったりするわけだから、何か問題が起きようはずもないのがいいところなんだよな。だってそいつらに限らず、ここら辺で買い物をする人はほとんど護衛をつけているわけで、自分が何かすれば護衛から家に報告が行きかねないし、何か問題を起こそうものなら、武装した護衛がそんじょそこらから駆けつけてくるんだから。
最初は客を取られて迷惑そうに睨んできた周りの露店も、今では相乗効果で人が入るとわかってむしろ応援してくれている。たまに差し入れとかくれるし、グランさんもお隣付き合い?って奴が上手くいっているようで何より。
今度会ったら姉ちゃんも呼んでやろうかな。
どんな顔をするだろうか。
もしかしたらあの姉ちゃんの事だから、驚く前にまた一口食っただけでなんかアイデアとか閃いたりするのかもしれないけどな。
……ま、期待しておくとしようかな。
そんな俺たちのバイト先が、姉ちゃんの運営する“とあるお店”と一緒になって王都中を巻き込んでいくのは……
また別の話。
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