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研究室って結構広いんですね。

「レティーシア。こっちだ」


そんなことを考えていると、いつの間にか先生は部屋の奥のほうに移動していた。

武器や、武器の整備器具、訓練関係の器具の置かれた部屋を抜け、奥に見える扉を抜けると、今度は兵科というよりは魔法科よりな部屋に出た。2科の先生をやっているから、それぞれの部屋を持っているのか。


「レティーシア、ここはあたしの魔法科用の研究室だ。学園の研究員も5人ここにいるから、今度紹介してやるな。今度から特殊魔法課授業の時は、この研究室に直接来てくれ」


学園の研究員とは、講師の資格は持たないが、講師の下でそれぞれ研究の手伝いをしている人だ。ほとんどは、この学園の卒業者が占めているらしい。


「さて、今日は初回だがレティーシアは自分の固有魔法を扱ったことはあるか?」

「はい、あります」


「お、そうか。お前の固有魔法は実は完全に初物らしくてな。過去のデータはない。だから筆記やら調べるってよりは実践的なものになっていく予定だ」

「わかりました」


ボクとしてもそう願っていたのでありがたい。次元や元素の授業のように、基礎からまたやり始めたらどうしようかと思っていたところだ。


「で? どうやって魔法を使ったんだ? 別に今まで魔法教育を受けてきた訳じゃなかったよな? なんか他の構造が応用できるのか? それとも領主のところにでも目をかけてくれるやつでもいたか?」

「いえ、自分でなんとなく魔法構造を構築して……」


「は? ……ん? お前もしかして魔法構造描けんのか?」




ちなみに『魔法構造』っていうのは、陣のような図形柄。単一の基本図形に効果図形を重ねた、前世でいうところの魔法陣のような物に似ている。

さらに『魔法術式』っていうのは、その魔法構造を複数重ねたり組み合わせたりしたもので、魔法構造を別の魔法構造で覆ったりだとか、重ねる場所を変えたりすることで効果が変わったり、強度調整ができたりなんかするわけだ。

魔法構造や術式の構築に失敗してしまうと、思っていたとおりの魔法が発動できず失敗になってしまう。大半は発動せずに事は終わってくれるんだけど……。最悪の場合、暴発してしまい自分が死ぬだけならまだしも。街ごと吹き飛ばして大惨事になるなんてことも過去には起きてたりするらしい。


だからこそ、魔水晶という媒体を用いて、そういった瑕疵が起きないように調整するわけだ。魔力を直接魔法構造に変換して魔法っていう効果にするには、相当な長時間を静かな場所で集中しなくちゃいけなくなるわけだ。もちろん昔だったら長時間を使ってても魔法による効果の恩恵っていうのは大きかったんだろうけど、魔水晶という媒体に保存しておけば一瞬で魔法効果を扱える現代においてしまえば何の意味も無い。魔法の主戦場はやっぱり戦闘力。戦闘中に無駄な時間なんてかけていたら命に係わるわけだしね。


魔法構造っていうのは一種の公式みたいなもので、その公式の成り立ちや意味、みたいなものまでもを理解している人なんて、魔法構造を研究している一部の人達くらいなものだろう。


実際のところ魔水晶に魔法構造を記録する際には、魔力で魔水晶を覆いながら魔法構造を思い浮かべて記録する。もちろん思い浮かべるわけだから使いたい魔法構造は記憶していなければ登録もできないけど、戦闘中でもなければ別に魔法目録のような物を見ながら記録すればよい。

魔水晶というその名の通り、そもそもその魔法構造が構造としてなり得ていなければ、魔水晶には記録自体ができない。この構造の理解が感覚的にできるかどうか、が魔法適正なんだろうね。だから適性のない魔法は何時間かけても魔水晶に登録できないし、適性のある魔法は物の数秒で登録できてしまうわけだ。


魔法構造自体は図形柄をしているのから、“書く”ではなく“描く”になる。


ボクはグリエンタールのスキルですでに魔法構造スキルを習得できていたのは、小さい頃からこういった理屈を勉強してきた結果、スキルとして獲得していたんだと思う。

実際沢山勉強したしね。

何にせよ、前世の数学的な理論を知っているかいないかでは、こういう理屈にたどり着くのも難しいのかもしれないんだよね。


「はい。スキルも魔法術式まで描けます」

「あぁ!? なんだ、マジもんの天才かよ。ま、あたしとしちゃありがてぇ。本来は特殊魔法課の授業は魔法構造の構築を模索するところから始まるもんなんだがな。お前みたいな完全新規の魔法っつーのは、既存魔法の魔法構造じゃ起動すらできねぇ場合が多いんだよ」


勉強の成果なのか、スキルがとれていたおかげなのか。どういう魔法を使いたい時はどういう構造に描けばいいのか自然にわかったりする。魔法構造を理解して構築することができれば、それで昨日使ってみた時に“ステータス画面を見えなくできる”という使い方ができることだってわかるわけだ。


「で、どんな魔法なんだ? ちょっと見せてくれよ」

「はい、例えば……」


わかりやすいのは温度で体感できる炎系魔法だろう。

そう思い、手のひらに火柱を浮かべる。火柱といってもここは室内だ。小さすぎても温度がわからないので、顔よりも少し大きいくらいものにしておく。


その魔法にクリアの魔法を重ねる。これは炎を作り出す魔法の上にクリアの魔法を重ねただけなので魔法術式の構築は必要とせず、単純に魔法を2つ発動させるだけ。


「ん? 魔法を消す魔法……? いや、熱を感じるな。まさか魔法を見えなくする魔法なのか?」

「はい、炎魔法はまだ消してません」


「ほお、鑑定検査の結果では物体を透視するものではないか。という結果がきていたが、こりゃもっと応用の幅が広いな」


この固有魔法は、名前も()ることながら、光魔法のベクトル面に特化した魔法として応用ができる。ボクたちが“そこにある物”……今回の場合、炎を目で認識するには、炎自身が光源なのでそのまま眼に届き見えるのだが、光源ではない場合は光が物質に当たり反射することで初めて見えるようになる。つまり、炎の場合は炎の周囲の光の屈折率を変えてやったり、光を放射させないことで、それ以外の場合も光の屈折や反射の状態を変えることで見えなくなるのだ。


光の屈折率は温度で変わる。炎は見えないが熱は出ているため、炎の上空に揺れた空気が見えた。


「……消せるのは魔法だけか?」


先生の顔がとても険しい。なぜだろう?


「いえ、物体もできると思います」

「ちょっとやってみてくれ」


そう言われて、机においてあった短剣を渡される。

こんなところに短剣が置いてあるのは危ないと思うんだけど。


実はクリアという魔法は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだが、複雑な形を消すには空間指定の次元魔法が重なるため、魔法術式の構築が必要となる。




クリア魔法を光魔法で再現できるか? と言われたら、今回の使用方法なら普通にできる。

ではなぜクリアが固有魔法なのか? と言えば、それは“ベクトル定義が魔法構造内に定義されている”というところが元素魔法との大きな違いだ。

クリアの固有魔法資質を持たずに、こんな魔法構造をデタラメに構築したところで発動すらできないだろうけど、ベクトル定義を次元魔法構造として元素魔法構造と一緒に魔法術式として構築すれば再現はできなくはない。


しかし、応用性が激減しすぎてあまり実用的とは言えないだろう。

光のベクトルは、物の位置や光のあたる角度で常に変化している。この光の方向(ベクトル)を術式として定義してしまうと、光の角度が変わったり物が動いた瞬間に見えてしまうから。

つまり、先ほどの炎を消すというのは炎が常に揺れているため、光魔法ではほぼ実現が不可能な魔法なのだ。




さて、短剣を消す術式はクリアであればそこまで難しくはない。短剣の形状に合わせて空間認識を固定する次元魔法構造は頭の中に入っているため、術式として掛け合わせる。


「できました」


短剣がスッと消えた。


「あたしに渡してみろ」


そういわれたので、視えない柄がちゃんと握れるように受け渡す。

視えなくとも、別に触覚までをも消してるわけじゃないから、掌で感じた感覚を頼りに、先生が短剣を握りこみ、軽く振るって見せた。


「……やっぱり、この魔法は戦闘向きだな。あたしのところに話が来るわけだ」


そういいながら机の上に短剣が置かれる。

まだ魔法の効果を消していないから、実際そこに短剣があるのかどうかがわからないんだけど。


特殊魔法の担当講師は、講師の得意分野できまることが多いらしい。


「戦闘向き……ですか?」


ボクとしては、冒険者に興味はあるけど、今まで生きてきた中で戦闘なんて無縁も無縁……

単純にとてもじゃないけど怖いんだよね。冒険者になるには克服しなくちゃいけないけど、とりあえず後回しにしてきた。


「うーん、例えばな……いまあたしが短剣を机の上に置いたのはわかったよな?」

「はい」


そういうと、部屋に立てかけてあった、なんの変哲もない片手剣を渡された。

先生も同じ剣を手に取る。


「今からあたしがゆっくり剣を振る。レティーシアはその動きに合わせてその剣で防いでみてくれ」


そう言われると、ボクでも防げる速度で先生が剣を振り下ろした。

かちん。と、とても軽い音が鳴る。


「じゃあ次に」


そういって不可視化したままの短剣を、再度先生が手に取る。

視えてないはずなのに、柄がどこを向いているのかわかるように手に取る当たり、先生の空間把握能力が高いことに、少し感心してしまった。


ああ、なるほど。これすっごい怖いわ。


「今からさっきと同じことをするぞ?」

「ちょっ先生! 無理! 怖っ!」


「だよな」


慌ててクリア魔法を解除すると、先生の手から短剣が見えるようになった。


「この魔法、こと対人戦じゃ卑怯すぎるくらいに有効だな。相手が治療できない盲目状態を強いられるようなもんだ。炎を消せるってことは、自分も消せるんだろ?」

「やったことはないですけど、多分できますね」


いつの間にか先生の額に汗が浮かんでいた。

でも、口元が笑っていて、正直どういう感情なのかはボクには理解できない表情。


「レティーシア。お前、魔法術式の構築もできるんだよな?」

「え? あ、はい。短剣消すのも魔法術式を構築してますよ」


「ああ、そりゃそうか……ちょっとそこらへん見ててもいいし、座っててもいいから待っててくれ。10分ほどで戻るわ」



そう言い残すと、先生は慌てて研究室から出ていってしまった。


確かに物体を透過できる魔法というのは、戦闘中とんでもなく有益であることは間違いない。

だけど、ボクはクリアという魔法が、()()()()()()()()ことを知っている。


グリエンタールのおかげなのか、一度理解してしまえば魔法構造が鮮明に頭に浮かんでくる。

そして、魔法構造の意味を知識で理解している。


つまり、何ができるのかはその時点で理解することができるわけだ。

正直、もう一つの効果についてはあまり検証する気はなかった。


もしできてしまったら、今の実験よりも遥かに危険度が高いから。




とりあえず、特殊魔法課の授業では、透過・透視の応用性について勉強していこうかな。



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