魔導具店・・・経営!?
結局、最終的に結ばされてしまった契約はこんな感じだった。
お店の出店形態は『雑貨店』。
これは魔導具を取り扱うお店であれば一般的で、『魔導具店』と言う魔導具の専門店としてしまう事にそこまでメリットはないのだそうだ。そもそも魔導具の専門店となってしまうと、一般の魔法が使えない人達には敷居が相当高くなってしまい、かなり大きなパトロンさんでも付かない限りはやっていけないんだそうな。
経営権はボクに。お金の管理、並べる品目や入荷する商品からその販売価格に到って、全ての決定権がボクに集約する。もちろんボクが許可を出していれば、従業員さんが入荷したり販売することは可能。
エストさんは専属契約魔導具技師として、そのお店に就く事となる。
エストさんの作成した魔導具はそのお店に所有権が発生し、売り買いすべてにオーナーであるボクの裁量が求められる。これは決定権に準じ、ボクが許可を出していればエストさんや、その他従業員さんが直接交渉することも可能。
更に、エストさんのお師匠さんであるゲルジアさんからの援助も確約。
ゲルジアさんの工房には、まだ独り立ちはしていないけど芽のあるお弟子さんが相当数いるらしい。そのお弟子さんの作成した魔導具の取引優先権すらも得た。しかも、もしそのお弟子さん達がこれから独り立ちするってなった時、厳密には独り立ちではなくなってしまうけど、ボクの経営するその工房への就職を斡旋したりもしてくれるんだそうな。もちろん、雑貨店として成功して人を雇える状況であればの話だけどね。
そもそも魔導具を作成しているってことは、魔法を多少なりとも扱える人達ってことなんだから、子学校か貴族学校には通ってきているはず。それでもどこか問題があってお師匠さんのところに集まっているのだから、経営を自分でしたい!なんて思ってる人自体は少ないのかもしれないね。
更に更に。商業ギルドからの援助も職員さんが約束してくれた。
まず最初に相談費用の免除。
本来商業ギルドに事業相談を持ち掛ける場合、単純な相談であれば無料で済むことも少なくはないらしいんだけど、実地研修とか実態相談なんか、詳しいところまで行くと有料になるところを、事業支援の期間中であれば無料でいいとのこと。事業支援は営業開始から3年間。それと、利子無しの営業資金の融資もついてきた。。
もちろん3年後からの返済は一定額必要だけど、もし3年後経営が波に乗っていなければ返済不要でお店を畳んでも構わないんだって。
その代わり、ボクが話していた経営スタイルの実現を求められた。
そもそもボクに経営のノウハウなんてない。自分でやるとなれば、自分の語った理想を追い求めるしかないのだから、実現を求められようが求められまいが、それしか方法はないのだけれどね。
……まさに至れり尽くせりである。
ボクにリスクというリスクが殆どなく。リターンがものすごい話だ。
美味しい話には気をつけなきゃいけないのは確かなんだけど、この商業ギルドの職員さんが相当腹黒い。つまりはボクに新しい営業スタイルをやらせてみて、うまくいったら取り入れてやればいいという腹づもりなのだろう。上手くいかないのであれば取り入れなければいい。きっと新しい事に挑戦する費用と労力を考えれば、個人経営の雑貨店程度の営業資金の融資なんて、痛くもかゆくも無い出費なわけだ。
上手くいけば貸し出したお金も帰ってきて、新しい経営スタイルが確立されるわけだからね……。ギルドの職員が実際動くわけではなく、ある程度経営を学んだ魔法学園の生徒なんかが主導で、技術士を雇ってお店を経営していく。経営方針の基盤はまさにボクがこれから作り出して行くものを参考にして、商業ギルド側で精査して新たに経営に携わる人達に技術とノウハウを渡して儲けを得る。まさしくフランチャイズ形態の第一歩となるわけだ。
「他にご不明な点はございますか?」
「……開業はいつからになるの?ボクだって学生なんだから、お店なんてあっても学園の授業だってあるんだし……。そんなに忙しい事はできないんだよ?」
「ああ、その点につきましてはご安心ください。……まず、開業時期になりますが、最低でもお店の建設と準備が整うのに半年以上は掛かるかと思います。その間にエスト様には売りに出す魔導具や雑貨の準備をしていただきます。」
「え!?お店建てるの!?」
「ええ。それはもちろん。そのための資金は、今日いただいておりますので。」
あ……。エストさんのイヤリングの売り上げは、そんな所に行ってたのね……。
「次に、学園の講義のほうですが、此方の方から学園に打診しておきます。」
「……へ?何を?」
「研究科の講義単位の取得ですね。魔導具ですので、主に軍事課と生活課の単位になるかと思いますが。」
「……え?」
「あら?課外単位取得制度はご存知ありませんか?」
「……えっと……は、はい……。」
多分なんだけど、その制度の書類は一度見た事がある。
フラ先生が特殊魔法課の授業を受ければ、元素と次元魔法の一定の単位を貰えるっていうのを取り付けてくれた時だ。
「魔法学園の講義は、その性質上課外授業での単位取得が認められており、課外で行った実績にあわせた単位が認められますよ。今回の場合は魔導具と言う観点と雑貨店の経営という観点から、研究科の軍事課と生活課、そして魔法科の魔法陣研究課の単位取得にはなりますので、週のどこかのお時間を使っていただいて経営の業務にあたっていただけば、普通に単位を取るよりも遥かに取得単位数も上がるかと思います。……制度の許可が取れなければもちろん単位は貰えませんが、そこはご安心ください。ゲルジア様よりお名前を使っても良いと許可をいただいております。流石にゲルジア様の下で学んでいるとなれば、学園側も単位の取得は認めていただける可能性は高いでしょうから。」
「そ、そうなんですか……。」
ちくしょぅ!特殊魔法課の授業で元素と次元課目を取得できている事で猶予ができたっていう実体験があるせいで、単位が余分に取得できるうまみを知ってしまっていて嬉しさを実感してしまっている。完全に相手の土俵の上で、さらに掌の上を転がされている状況だ……。
「ああ、それと自己紹介が遅れました。……私、グルーネ国商業ギルド本部代表、フルスカ・ガーレンハイトと申します。以後、お見知りおきを。」
「……はい。どうも。」
うわぁ。だと思ったよ……。
さっきから上司の確認なく融資の決定したりとか、話がさくさく進みすぎだし。もう見てればあきらかにやり手って感じの人だもん。
それにしたって商業ギルドのグルーネ本部代表って、つまりこの国にある商業ギルドで一番偉い人ってことだよね?……まぁここが王都の商業ギルドなんだから、そりゃここで一番偉い人っていったらそうなるよね……。
この人、苦手だ。
そう思っちゃうくらいには、ボクみたいな一般市民は掌の上で転がされてしまったわけで。欲しかった物が手に入る嬉しさと、いいようにしてやられちゃった悔しさだけが残ってしまった。
「ふふ。それに気付いてらっしゃる時点で、貴女様には才能がおありですよ。……どうでしょう?よろしければ学園卒業後は商業ギルドの管理職として就職先を用意させていただきますが?」
「……考えておきます……。」
今の所絶対に行きたくないけどねっ!!
あ~もう。なんだかなぁ。
どっと疲れちゃったよ。
早く家に帰って休みたい。
そう思い転移眼を家に飛ばすと、丁度母親が昼食を作っている最中のようだった。
まるで匂いが漂ってくるみたいにおいしそうだ。
「はぁ。もういいや。今日の事は連絡が来るまで忘れよ……。」
連絡が来ないことを切に願ってやまないんだよ……。
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