魔導具の知識と技術が欲しいんですっ!
「俺は嬢ちゃんの事が面白いと言ったんだ。」
あ~……近い近い。
その怖い顔してずんずんと近寄りながら話すのやめてくれないかな。
本気で威圧感しか感じないので……。
「は、はぁ……。」
顔だけ背けてみるけど、どんどんお師匠さんの顔が近づいてくる。
「お前さんはシルヴィア嬢ちゃんのお友達なのだから、それなりの爵位家のご令嬢なのだろう?」
「え?いえ……平民ですけど。」
「……え?」
「は?」
エストさんにはさっき会った時に農家のお嬢様なんだよ~って言ったばかり。
お師匠さんとギルドの職員さんが面食らって動きを止めた。
「ああっ!成程……。」
ぽんっ。と左の掌を右の拳で叩く。
職員さんだけ一人で納得しているのは、ボクがエストさんに言ったように情報として今年平民の子供が魔法学園に入学した事を知っていたからだろう。そこまで知っていれば、もしかしたらシルがボクをどう扱ってるのかまで知っていたとしてもおかしくない。だけど、案の定お師匠さんはそんな事知る由も無く、ボクが平民だという事を理解してくれていないみたいだ。
「どういうことだ?」
「今年、確かに魔法学園に平民の子が飛び級で入ったと言う話がありましたね。……いやはや、その当人がまさか貴女様とは……。」
「……?あそこの授業料は金貨10枚とかそういう次元の金額じゃなかっただろ。桁が違ったはずだ。そこに通えるってことは大商人のお嬢さんか何かか?」
え?桁が違うって魔法学園の授業料っていくらなの!?
「いえいえ、確か魔法適正の高さで特待生制度を用いて入学していたはずですから、その場合は授業料は免除されるはず……ですよね?」
お師匠さんはボクには威圧的に話しかけてくるくせに、会話はギルドの職員さんとしようとする。めちゃくちゃ好意的に捉えてあげられれば、ものすごい恥ずかしがり屋さんなんだろうけど、そもそもボクと会話が成り立てば間に入るなんていらないような会話なのに。
「はい。そのとおりですけど……。」
「その話を聞いたときはまさか飛び級で魔法学園に入学したなんて……。子学校はおろか貴族学校にすら通ってない子が魔法学園の授業になんてついていけるはずもないですからね……。眉唾物だと思っていたのですが……。ちなみに、ついていけるのですか?」
「ど、どうにか……。」
実際は魔法科の授業なんかは子供の頃から勉強してたから、むしろ現段階では学園で習う事の方が遅れているんだけど……。そんなの一々説明するのなんてめんどくさいし、しなくていいことまでする必要もない。
「ほう……。それはそれは。やはり素晴らしいお方のようですね……ゲルジア様。」
「ああ。嬢ちゃんに任せてみようと感じた事は間違いじゃなかった。」
いい大人が2人して悪い顔をしてる様に見えるんですけど。
「話を戻しましょうか。」
「……。」
戻すも何も最初から目的がブレてるのはそっちなんですけど……。
ボクとしてはよくわからないこの状況は無かった事にして、エストさんが手形によるお金を得て個人店が出店できましたね!はい万々歳!終わり!ってなって、協力してあげたんだから、今度ボクにも魔導具の色んなイロハとか?そういうの教えてくれたりとか、欲しい魔導具作ってくれたっていいんだからね!って話で終わる。
これだけが望みなんですがっ!
「我々としては、貴女様にゲルジア様の工房から独り立ちされるエスト様のサポートをお願いしたいのです。もちろん開店資金は今回の報酬から出るので一切掛かりませんし、それはエスト様もご了承くださっております。」
そういいながら職員さんがエストさんの方をチラッと覗くと、慌ててエストさんが首を縦に振った。
まぁ正直?さっき無理やり罵倒されて、ボクはいらないね!はいさようなら!ってなって終わって欲しいから、罵倒されました!ってことにしてみたけど、なぜかエストさんがボクが経営に携わるってなる事を好意的に受け止めてたのなんて、流石にわかっちゃいるんだよ?……そこは好意的に受け止めて欲しくもなかったんだけど。
「もちろん、魔導具の製作はエスト様がお店の準備ができる半年間を以って行うので、貴女様にしていただくのは経営のみ。更に経営で出た利益の配分は貴女様に全てお任せいたします。」
「え?そんなのエストさんが納得するわけがないよ……。」
「いや、それでいい。」
エストさんの変わりにお師匠さんが答えた。
……どうやらエストさんは本当に経営とかそういうのには疎いらしくて、今何を言われているのかわかっていない。
「よくないよ。エストさんが一生懸命作ったものを、ボクが値段つけて勝手に売り捌いて、更にはエストさんにものすごい薄給で働かせ続ける事だってできちゃうんだよ?」
「そうなりますね。」
「そうなりますねって……。」
そんなのブラック企業もびっくりの奴隷雇用だよ……。
専属契約ってのは、そんなに簡単に解消できちゃうものじゃないんだよ?契約は契約なんだから、もし違反すればエストさんは契約違反のレッテルを貼られてしまう。しかも信用第一なこの世界で専属契約なんていう大事な契約を反故にしたなんてなったらブラックリストに載ったっておかしくないわけで。そうなれば工房に所属できなくなっちゃって仕事自体ができなくなるし、信用がない人を雇ってくれるような職場なんてそうそうあるわけがない。
ブラックリストは商業ギルドが管理している。商業ギルドっていうのは国を跨いでいるんだから、そのリストに載った時点で生涯職を失うも同然なんだから。
「お、おいおい……。」
どうやらやっと少しずつ状況が飲み込めてきたエストさんが、冷や汗を流し始めた。
危機を感じるのがちょっと遅すぎるけどね……。
「貴女様の人柄で、そんな事態が起きるとは思えませんけどね。」
そういわれること事態は嬉しいけど、それとこれとは別の問題だ。
「この数分話してるだけで、人柄云々を言われたってその……」
「お嬢ちゃんはシルヴィア嬢ちゃんのお友達なんだろ?」
職員さんが間に入ってくれているので、お師匠さんとも普通に話はできる。
でもボクの話が終わるのとかをおかまいなしに突然話の間に入ってくるのはびっくりするからやめてほしい……。
「はぁ。まぁそうですけど?……し、親友っていうか?」
も、盛っちゃったかな?!
シルとはまだ会って半年しか経ってないんだけど、親友かどうかなんて一緒にいた時間じゃないよね!?
「それなら安心ですね。」
「……え?」
「シルヴィア様のご親友であろう方が労働環境を省みず、自分の利益を優先させようはずがありませんから。」
「うっ……。」
確かにシルは自分の部下に厳しい所はあるんだろうけど、それは理不尽なものであるはずがない。というかシルの場合自分に厳しすぎる割に、そこまで部下の人達には厳しくないのに、上司があまりに自分に厳しすぎて部下が好んで自分に厳しくしてるようにすら感じるくらいだし。まぁそうでもなければ、あんなに大人の人達がシルを慕ってついてきてくれるはずなんてないんだろうけど。
「そっ、そもそもだよ!?なんてボクが手伝う事が前提で話が進んでいるの!?誰も手伝いますなんて言ってないんだよ!?」
「魔導具の知識が欲しいのではないのですか?」
「あっ……。」
ばれてーら。
も、もちろん、ボクがエストさんを探して売上金を持ってきたのは、エストさんを路頭に迷わせないようにって言う約束があったのが大前提ではあったんだよ?……本心だからね!?
でも、じゃあ下心が無かったかといわれればそんな事は全然なくて。
あわよくば売上金の一部を貰えるかもー!とか、欲しい魔導具の優遇をしてもらえるかもー!!とか。そういうのが頭を過ぎるどころか、結構な面積占領していた事は否定はしないよ!
だって売れてなかった高価な魔道具を売ってきて、しかも売値からさらに金貨10枚を引き出したのはボクがシルに渡りをつけたおかげだし、今のこのご時世の中、シル程にこの短期間であの魔導具を効果的に使いこなす場面のある大金持ちなんて他にいなかったはずでしょ?そしたら……ね?ちょっとくらい……ね?ボクだっておいしい思いしたっていいじゃない?いいよね!?ね!!?
多分、そういう所を全部見透かされているわけだ。
この職員さんには。
正直なところ、お金には今の所そこまで困っていない。
自分が最低限の生活が出来れば、それ以上をそこまで望むほどいい暮らしに慣れちゃったわけじゃないし、シルへの借金も返済できたわけだしね。
ただ、どちらかと言えば魔導具に関しての知識は欲しい。
魔導具っていうのは、まだそこまで発展していない分野であまり注目もされていないけど、ボクが前世の記憶を元に欲しい物を作り出すとすれば、一番『機械』に近いものだからだ。
ボクが魔法で作りだせるのは、やっぱりどこまで行っても魔法でしかなくて、魔法が使えないとどうにもならないのでは意味もなく、魔法が使えたとしてもその場でしか効果を発揮しないものであり、これからの生活の基盤になったり文明の利器となっていくには、どう考えたって魔導具が必要。
もちろん学園でも魔導具の講義はあるし、実際魔導具を作っている学生さんだっているんだけど、ここにいるのは生の技術者だ。
学園では最新の魔導具の研究なんかは現場よりも遥かに進んでいるのかもしれないけど、技術力と言うのは日々の努力こそが物を言う。しかもお師匠さんはその技術士の中でも相当な人なんだろうし、言ってしまえばこのお師匠さんからは年間で金貨15枚を払えるくらいの魔導具を作り出せるようなお弟子さんが何人も輩出されているという事。つまり、そのお師匠さんに独り立ちを認められたエストさんにもそれなりの技術がある事はもう明白ということにもなる。
そこに渡りがつくのであればボクの下心は満たされちゃうわけだし、そんな技術力を持った専属契約の魔導具技師さんがボク主導の契約で付いて来てくれるとなれば、下心を満たして溢れちゃうくらいになっちゃうわけだ。
それすらも全て織り込み済みで、さらに苦手な経営利益という面倒な部分は丸投げできるとなれば、エストさんも懸念無く独り立ちできて嬉しい。皆にウィンウィンって状況が出来上がっている。
まぁそれもこれも、ボクが信用に足るような人物であって、経営ができる腕があるなんていう架空の大前提が働いてるのには納得しかねるんだけど。
「流石、もうご理解いただきましたようで。何よりでございます。」
ボクの表情がころころ変わり、苦い表情になった所で思考を遮るようにギルドの職員さんの声に現実へと引き戻された。
……ああ、きっとこの人は敵に回しちゃいけない人なんだ。
シル達のような、賢王の子孫じみた読心術は感じないものの、ボクの技術、計算力、理解力、判断力。そして何を考えているかを把握して、それでも尚、話を進めようとしている。
そりゃ、こんな話突然されたらボクだって騙されてるかとか怖くないわけもないけど、順序だてて説明もしてもらって、期待してますよって内容の話をされて嬉しくないわけもない。
「うぅん……。いくらシルと一緒にいるって言ったって、ボクは素人ですよ……?商業ギルドって、そういう素人の相談とかにも乗ってくれるの?」
「ええ、もちろん。この話を進めたのは私なのですから、私自らいくらでも。ご相談にはお乗りしますとも。」
「うぅ……はぁ。じゃぁ……わかりました……。」
結局この後は、とんとん拍子に話が進んでしまうことになった。
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