魔導具の製作に興味はありますよ?
一言大声で叫びたい。
意味がわからないっっ!!!!
とっ!!!
あ。でもね?ここは商業ギルド内なんだよ?いくら公共の場とは言え人んちの中なわけだよね。大声で叫べるはずも無いってことくらいわかってるんだよ。っていうか叫んだらボクが恥ずかしいからやんないよ?
とは言え、そんなもやもやを抱えながらエストさんが書類を読み終わるのを待っていると、突然エストさんの顔が振りあがり、ボクを見た。
思わず目が合ってしまう。
まぁねぇ。そりゃあねぇ……?
自分の夢だった個人店を持つ夢に近づいたと思ったら、経営面ていう一番大事な所に邪魔者が設定されてるんじゃ、そりゃ一言くらい言ってやりたくなるってもんだよね。それも設定されているのが1度や2度くらいしか会ったことの無い出自もわからない小娘ってんだから。そりゃ文句もいいたくなるってものよね。
いやね?ボクだって今聞いた話……あ、いや。まだ聞いてもいないわ。
説明すらされていないこの状況で、何か言われた所でなんとも言えないんですけど。
いいですよ。わかってます。何でも言ってください。
受け止めますから!
顔を見ながらは無理なので、目をぎゅっと瞑りますっ!
はいっ!準備はオーケーですよっ!!
「そうか!よろしくな!」
ソウカヨ、ロシクナー?
なんていう文句なんだろう。こっちの人の方言とか職人さん達の隠語かな?
きっとものすごい罵倒過ぎて、伝わらないように言ってくれたに違いない。
「いやぁ、楽しみだなぁ!」
イヤアタノシミダナア?
うぅ……なんて言われてるんだろう??
きっといなくなっちゃえ的な、多分そんな事を言われたに違いないんだよ!
……うん。ボクだって正直意味わかってないんだから!
誤解とか?なんかの間違いなんだし。それが正せればきっと大丈夫だよね?
はい、次行きましょう!
エストさんの罵倒はちょっと理解できなかったけど、お話を先に進めない事には何の解決にもならない。そう思いギルド職員さんに顔を向けると、やっと説明が始まった。
「いえね。先ほどお二人でされていたお話。聞こえていたんですよ。向こうの部屋に。」
うん?二人でしていた話って、ボクとエストさんの話だよね?
どんな話してたっけか……?
……う~ん、確かポイントカードを作ったりだとか、接客の仕方だとか、そんなとりとめも無いような経営関係の話を自慢気にボクが語って……って!
って聞こえてたんかいっ!!
ここ商業ギルドだよ!?
商業ギルドで無知な素人が自慢気に経営について語るとか恥でしかないじゃんっ!?うっわ、はっずっ……!お顔が真っ赤になっちゃってるのが自分でもわかりますけど!余計恥ずかしいよぅ……。
「それが大変面白そうだというお話になりましてね?二人で貴女が語り終わるのを待っていたのですよ。」
……へ?オモシロイ……?
あっ、尾も白い?確かにボクってば全身白いけど、流石に尾っぽは無いよ……?
あれ?無いよね?……うん。ない。
あれぇ?ちょっとさっきからエストさんと職員さんが何言ってるのか全然理解できない。っていうか頭に入ってこない。ボクの頭が回っていないのかな?
「ふふ。そんなに難しく考えなくてもいいのですよ?」
ボクが本気で分からない顔をしていると、難しく考えているのだと思われたのか職員さんに笑われてしまった。
「い、いえ。あの……ちょっと何言ってるか分からないっていうか……。」
「大分混乱されているようですね。」
いやいや、こんないきなり……はっきり言っちゃえばよく知りもしない職人さんたちと突然店を建ててやるから、その経営をしろって言われて『はいそうですか。わかりました!』なんて言える女子学生がこの世にいるわけ…………
あっ……いるわぁ……。
ボクのよく知ってる人にそういうの喜々として首突っ込んでく女子学生いるわぁ……。
まぁその規格外っ娘は置いておくとして、改めて言うよ?……いるわけないでしょ!?
声には出しませんけどっ!!……出てないよね!?
「それでは1から……そうですね。その前提である0から説明しないといけませんね。」
「はぁ……?」
もう頭の中がぐっちゃだよ……。
「まず、貴女も先ほどからおっしゃっていらっしゃいましたように、ゲルジア様は事業の経営という面に関しては、とても疎くいらっしゃる。」
言い方はオブラートに包んでるけど、つまりお師匠様は会社の経営面はてんでダメって事ね。まぁあんな雰囲気とか言葉使いで接客が出来るほど、世の中は甘くないよね。
「ゲルジア様の経営しておられます工房は、その経営面を殆どこの商業ギルドから派遣されております職員が代行しております。そして、その代行にはそれなりの金額……稼ぎが必要となるのです。」
「はぁ…………?」
技術があるのと、会社を運営するのは別物。
そんなのは分かってるけど、だからって何でボクみたいな見ず知らずのどこの馬の骨とも知らぬか弱い美少女に白羽の矢が立つんですかね?
そもそも経営ができないのはお師匠さんであって、エストさんではないわけだし。
エストさんは別に、お師匠さんみたいに自然に威圧的な態度を取る人でもなければ、相手と普通にコミュニケーションくらい取れているわけだし。別にボクなんて必要なくない?まぁ名前は覚えられない人だけど。
「もちろん、経営が出来ないのは、お弟子さんも一緒なわけです。」
「え……?なんで?」
師匠ができないから弟子が出来ないって事はないんじゃないのかな?
「先程も見ましたでしょう?エスト様は先に同じ書類を渡されたにも関わらず、貴女様よりも目を通すのが遅くいらしたのですよ?」
あ~、確かに。そういえばそうだったかも。
横から、うぅっ……という苦い呟きが聞こえてきたけど、聞いていないことにしておこう。というかいいのか貴族出身者たちよ。
「文字の読み書きが全く出来ないとはいわずとも、”出来る”のレベルに達しない者は、殆どの場合どんな業種であれ商業関係や工房関係の仕事に入門や弟子入りなどできず、門前払いされてしまうのが現状。ゲルジア様はそういった方を優先的に集め、技術をつけさせ職を与えるお仕事をなさっておいでなのです。」
な、成程。自分が出来なくて苦労したのを知っているから、同じ経験をしている若者に道を作ってあげている先達のおじいちゃんって訳ね。
もちろんエストさんみたいに読み書きが不得意という人に限らず、色んな分野の苦手っていうのもあるんだろうね。なんだ、普通に単なる良い人じゃんか。
……怖いけど。
「そこで、彼の工房からお弟子さんが旅立つ時、基本的には我が商業ギルドから職員が派遣され、ゲルジア様と同じように経営面はギルド職員への委託という形で補って行くのですが……。」
それなら今回だってそれでいいんじゃないの?わざわざこんな小娘に出張らせたせいで、エストさんも訳のわからない罵倒ばっか言ってる訳だし。
「いやぁ。貴女の経営理論。とても興味がございます。」
「……はぁ!?」
理想を語るのと現実問題経営に携わるのでは全く違うわけで……。
理論が面白いとか言われた所でやっぱり普通に商業ギルドの人が、その面白いと思ってくれた事を実践してくれればいいんじゃないかと思いますし、そっちの方が実務面でもしっかりできそうでいいと思うんですけど……?
「そもそも論にはなってしまうのですが、商業ギルドから職員を派遣する場合、かなり高額な派遣料金が発生します。」
「へぇ……そうなんですか。おいくらくらい?」
高額ってわざわざ言うってことは、それなりに高いと見れば……月あたり銀貨10枚とか取られちゃうんだろうか?
「ええ、その……年俸金貨5枚となっております。」
「はぁ!?年俸って事は年単位の契約なの?しかも年あたり金貨5枚って事は、月あたりに換算すると銀貨40枚超!?たっか!!」
「おお、流石。ご理解も計算もお早いようで。」
「おお……。」
「すげぇ。」
向こう側の座席からもなんか聞こえてきた。
ちょっと黙っててください。
「更にありまして……。商業ギルドから派遣される職員は、オールマイティに全てをこなせるわけではありませんので……。今までの実績上、最低でも3人程雇っていただく事になりますね。そうしますと……。」
「はぁ!?年俸で合計金貨15枚持ってかれるの!?そんなの普通のお店が稼ぐ金額じゃなくない!?」
……あ。
思わず声を荒げてしまった。
「そうなのです。そしてこれはグルーネに限らずどの国の商業ギルドでも一律で同じ金額だと決まっております。もちろん、年俸が金貨になりますから国によっての金貨の時価による差は生まれますが……。つまり現状、ゲルジア様の工房から独り立ちできるお弟子さんは、その支払いが出来るような一流の方のみの状況となっておりまして……。」
「……結局の所、金貨15枚の代わりにボクにやらせようって事じゃない。」
「…………ええ、まぁ。そう取られてしまうのも仕方ないのかもしれませんが。」
取られてしまうって、それ以外どう取れと言うのよ。
つまりはシルに支払いを任せてもらえるような、それも魔法学園の学生が転がってきたから、経営面の勉強もしてるだろうし、高額な金払って商業ギルドから人借りるより安上がりでマシじゃね!?ってことでしょ?
……ん?ボクが魔法学園の学生だって知られたの、ついさっきじゃなかったっけ?
それだと矛盾するな。ボクが魔法学園の生徒だって知ってたのは、エストさんだけだ。
エストさんが説明していたのなら、職員さんがさっき知ったはずはないのだし……。
あれ?じゃあなんでボクに?商人の子供とでも思われてたのかな?
「嬢ちゃん。それは違う。」
向こう側の椅子から低い声が割って入ってきた。
このくらい遠ければそこまで威圧感も感じないんだね。
適切な距離感って奴を護ってくれれば大丈夫っぽいかな……?
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