魔導具工房の見学です!
「あ~、嬢ちゃん。これ、俺じゃ扱えないからちょっと工房まで来てくれねぇか?」
そう言われ案内された工房まで付いていくと、王城区を抜け王都の工業区へとやってきた。
王都の中心には王城区があり、その王城区の中心にはお城がある。
実は学園の敷地は王城区の西側3分の2程もあり、王城区の南門から西側にかけてものすごい広さの敷地が魔法学園の敷地。
そして工業区というのは、王都の南門を含む西側3分の2の地域が工業区にあたるわけで。
つまりは王都を上から見ると、学園の敷地を王都側へ放射線状に見た地域が工業区となっているという、とても分かりやすい構造になっている。
因みにわざとこうなったわけじゃなくて、偶然らしいんだけどね。
学園の敷地に直接接続されている王城区の西門を抜けてから北側へと少し歩くと、それだけで通りの先には生活区が見え始め、生活区と工業区の丁度区切りあたりには大きな工場があった。どうやら目的地はあの大きな工場のような建物らしい。
一般的に工業区っていうのは、その名前の通り工場のような建物が所狭しと建っているんだけど、その割にはその大きな工場の周辺には建物が乱立しておらず、結構広い敷地内には大きな工場以外、他に何も建っていない。そんな所に一つだけぽつんと大きな工場が建っているという立地となっているせいで目を引く建物。
外観はやっぱり工場といった造りで鉄っぽい大きな素材が継ぎ接ぎされており、角ばった形状のどこかからは何本もの煙が立ち込めている。
「なんだエスト。もう切り上げてきたのか?」
大きな扉を潜り建物に入ると、そこにはこれまた大きな窯や何に使うのかわからないような機械のような物がたくさん並んでいて、その周りにも作業台みたいなものが乱立している。一般的な工場よろしく、鉄のさびと油の臭いが充満していて、インテリアなんてものに気を使うような素振りすらない無骨な工場のそれと変わらない。見渡せば色んな場所で結構な人数の職人さん達が働いているのが見てとれた。
働きに来ているというよりは、工房を借りにきていると言った方が正しいかもしれない。周りの職人さんと協力して物を作っている人も数人はいれど、基本殆どの人は個人で仕事をしているようだ。
うぅん……。もしかしたらこんな事を考えちゃうのは失礼なのかもしれないけど、見事に男性のお兄さんからおじさんと言った歳の人ばっかり。女性っ気は微塵も感じられない。
ボクが立ち入るのに少し踏みとどまってしまうのは、トラウマだけが原因だけじゃないと思うんだよね。まぁあの時とは違って今なら何が起きても転移で逃げられるし、ボクが来た事に気付いていないくらい集中して物作りに取り組んでいる人達に向かって、まさかこんな事を考えてる時点で、本当に申し訳ない気持ちになってしまうんだけど。
「いや、あのイヤリングが売れたんだよ。師匠はどこだ?奥か?」
「おお?まじかよ。よかったじゃねぇか。すげぇ物好きもいたものだなぁ。」
入口付近にいたお兄さんがエストさんと話している。
同僚さんかな?
ちらっとこちらに視線を向けたのは、ボクがその購入者だと思ったのだろう。
ちなみにエストさんというのは、ボクにあのイヤリングを貸してくれた露天商のお兄さんの名前。でも実際自己紹介されたわけじゃないのにボクがお兄さんの名前を知っているのはおかしいからね。ボクとしてはお兄さんと言う呼び方で合ってはいるんだけどね。
名前はグリエンタールでお兄さんの居場所を探す時に知ったんだよ。
「こっちだ。来てくれ。」
そう言われ薄暗い工場の中へ付いていくと、鉄板のような扉の前まで案内された。
扉と呼ぶにはあまりにも無骨で、鉄板と言うにはあまりにも分厚い。
むしろ金庫の扉といわれた方が納得するんじゃないかという扉。所々錆びついているのが、なんだか工場感を更に演出している気もしてくる。
その扉の横に取り付けられている魔導具をエストさんが操作すると、ガチャン。と扉の鍵が開く音がした。……電子ロックみたいなものなのかな??電子ではないから魔子ロック?まぁどうでもいいか。流石、魔導具を製作する職人さんが集まっているだけはあって、技術はすごい進んでいるみたいだ。
エストさんがものすごく重そうな扉をやっとの事で開くと、奥には更にごちゃごちゃした製作空間が広がっていた。向こうを向いて作業をしていたであろう、一人の背の小さな白髪の老人が顔だけ此方に向ける。
ドワーフ族のおじいちゃんだろうか。
筋肉の付き方がすごいし、人族で背が低い感じの体つきでは無さそうな気がする。
「なんだ。」
とっても低い声。
「師匠、これを確認してほしいんだけど。」
「……あぁ?」
そう言いながらエストさんがボクの持ってきた手形をお師匠さんに渡すと、しぶしぶといった表情で受け取った。
やっぱり職人さんというのはイメージ通り頑固で仕事の邪魔をされるのが嫌って人が多いのかな?流石に入ってきた所程の広さじゃないにせよ、この扉の内側は一人で製作に篭るにはものすごく広い。そんな場所を一人で使ってるんだから、すごい有名な職人さんなのかもしれないね。
「ラインハート家の紋章に……シルヴィア嬢ちゃんのサインじゃねぇか。ああ?これどうしたんだ?」
「ああ、はい……。俺がこないだ作った魔導具あったじゃないですか。あれを彼女に……」
2人が話し始めたので入口に立って待っていると、エストさんがお師匠さんに事の経緯を説明している間に何度か2人と目が合った。
こちらに顔を向けたお師匠さんは、白い髪の毛がそのまま長いお髭までずっと伸びていて、全く太っていないのに横幅が結構大きい。ドワーフ族の特徴なのかな?鍛冶屋にいたヨルテさんはもうちょっとシュッとしていた気もするけど、確かヨルテさんはハイドワーフ族だって言ってたっけ。ってことはこのお師匠さんは純粋なドワーフさんなのかな?……個人差とかもあるか。
とにかく腕と足が丸太のように太くて、胴が短い。
まるで玩具のお人形さんのようだ。
……まぁ可愛くは無いけどね。
一通りエストさんの説明が終わったのか、お師匠さんがボクの方に近づいてきた。
どす、どすという足音が耳につく。
「おい。お嬢ちゃんはシルヴィア嬢ちゃんの使いなのか?」
「い、いえ……あの……ボクはシル……シルヴィアさんのお友達で……」
いくらドワーフで背が小さいとは言え、声が低くてすごく怖い。
近くで見ると顔も怖い。
表情がなんか怒ってるように見えるし、真っ直ぐボクを睨んでくる。
で、でもボク何もしてないよ?
きっとこういう顔なんだと自分に言い聞かせながら、おじさん恐怖症と相まって上手く言葉がでてこない中、一生懸命経緯を説明してみた。しどろもどろになってしまう説明にお師匠さんの眉間に皺が寄る。……うぅ。もっと怖い。泣きそう……。
「し、師匠!」
そんな状況を察してか、エストさんがボクとお師匠さんの間に入ってくれた。
「悪いな。師匠は普段からあんな感じなんだ。」
そういわれたお師匠さんがエストさんの後ろで頭を掻きながら、ボクと話したいことをエストさんに伝え、エストさんがボクと会話をする。
……なんだろうこの状況。
ボクとしては助かるとは言え……。
なんだか申し訳なくて切なくなってくるよ……。
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