魔導具って高すぎない?
第2幕が終わり、第3幕との幕間に入ります。
1幕と2幕の間にあったような幕間ではなく、短編集のような話がいくつか続きますので、時系列はバラバラです。このタイミングで人物紹介とか魔法紹介的な話を作ろうかな・・・?
第2~3幕 幕間
「おっにぃさ~ん。こんにちわ!」
「ん?……ああっ!あんときの嬢ちゃん!……確かぁ……ん~エミーリアちゃんだっけ?」
王都中央区にも、露店街と呼ばれる通りが存在する。
もちろん王都まで降りたところにある露店外に比べればかなり規模は小さいけど、店外露店専用の区画がちゃんと整備されていて、きちんと外観として成立している。ここで露店を開くにはそれなりの許可が必要なんだって。まぁ身分がはっきりしていて、出店料さえ払えればそこまで難しいことでもないらしいんだけどね。単なる露店を出すなら王都で出した方が、人通りも多くて出店料も安いわけだから、売り物が王城区である必要がない限りはわざわざこっちで出す必要もないんだろうけど。
「レティーシアだよ!!全っ然合って無いじゃん!!!」
「ああ、そうそう。白い嬢ちゃんな。」
「え~。商売人としてお客さんの名前間違えるのってどうなの~?」
「うっ。子供のクセに正論をいいやがる……。これだから貴族家のお嬢様ってのはなぁ。」
「ふふ~ん!ざ~んねんっ!ボクってば平民なんだなぁ。農家のお嬢様でしたぁ~!」
つい先日、山脈防衛にモンスターパレードとエリュトス間戦争も終わり、戦後処理にはそこまで参加しないボクは、皆を現場に残して先に帰ってきた所だ。
「はぁ?だってそれ、魔法学園の制服だろ?」
「ちっちっちっ。そういう情報も商売人ならちゃんと集めておかないとダメダメだよ~?」
「ぐっ、こんな年下の女の子に正論で言い負かされるのが悔しいぜ……。なんだ?今年は爵位なしで入学した子がいるなんて話があったのか?」
「……ところで、こんな所で何してるの?」
「答えはいわねぇのかい。何してるってそりゃぁおめぇ見りゃわかんだろうよ。露店開いてんだよ。商売中だよ商売。」
「ふぅん。……儲かってる?」
「おかげさまでなっ!」
通りを歩いている人はボク以外に誰もいない。
それどころか、いつもは王都の露店区画までとは言わずとも露天商さん達でにぎわってるこの通りも、やっぱり戦争終わりのこの時期だからだろうけど、随分閑散としていて出ている露店すらちらほらとしか見受けられなかった。
そもそも王城区の露店街を普段から歩いているのは、どちらかといえば上位クランや貴族の人達だし、ここで露天を出すのもそういった魔法を使えること前提の客層向けに出す事が多い。出す方も買う方もまだ出払っているのだ。お客さんなんているはずもないんだけどね。
一纏めに『戦争』なんて一言で片付けるにはいろいろありすぎた大規模なモンスター侵攻やらエリュトスとの戦争が終わり、ボクの通っている魔法学園はそのまま夏休みを迎えた。
魔法学園に通っている生徒の殆どは、将来国や貴族家を背負って立つような子供達。
それも爵位の高いようなお家柄が多い為、これだけ国家規模で大きな戦争が起きるなんていう一大事には大人も子供も関係なく皆大忙し。
あ。昨日まではね?ボクだってお手伝いしてたんだよ?
でも結局お手伝い程度ではやる事も限られてしまう。家柄なんてものもなければ決済権なんて一切持ち合わせていないボクにとっては無縁の忙しさに、多少の寂しさなんかも感じちゃったりなんかして。肉体労働とか、できる範囲で細々とシルの周りの戦後処理を手伝っていると、一息吐きにボクのところに寄ってくれたシルと話す時間ができたのだ。
コルツゼンベルグ領主邸の一室。
窓の外には、跡形も無くなってしまった防衛砦から、モンスターパレードに限らないモンスター侵攻を防ぐため、緊急で駐留する兵士さんの部隊が出発するところだった。
窓際に立つシルを照らす光が、右耳に輝く翼を模したイヤリングに反射し、室内に水面のような光を演出する。
「ねぇレティ、これなんだけど……。」
「あ、うん。」
シルが右耳につけたままのイヤリングを軽くなでる。
「買い取る事はできるのかしら?」
「え!?いいの!?」
「おいくらか、聞いてもらえる?」
「え~っと、確か……。」
確かボクは、あのイヤリングをシルにつけた時「お土産だよ」くらいにしか言ってなかったはずだ。このイヤリングが売り物で、シルに試しに使って貰っていたなんて説明は一切していない。
なのに最初からそのつもりでいたらしいシルは、当たり前のように『買い取る』という話をしてきた。……う~ん、本当はボクが買い取ってプレゼントをしたい気持ちもあったんだけど、結局今の所今回の戦争で貰えた報酬は戦争が始まる直前に貰った分だけ。
だけっていうには相当な金額なんだけど、この手持ちでは到底お兄さんが言っていた金額には届かないんだよね。
露店を出していたお兄さんは、確か売り切り価格で金貨50枚って言ってたっけ。
でも売り切り価格って事はほぼ原価かそれ以下で、お兄さんに儲けはないのかもしれない。
「販売価格で金貨80枚、売り切り価格で金貨50枚って言ってたかなぁ。」
シルなんかは特に、これから戦後処理でお金がいくらあっても足りないはず。
とは言えこれを作ってくれたお兄さんにも生活があるからね。
これがなくなったら借金地獄で生活すらできないって言ってたし、お金を渡さないわけにはいかないだろう。……う~ん。もうちょっと頑張ってればシルにお金を用意してもらう必要もなかっただけに、なんだか悔しい。
「そう。なら金貨……そうね90枚出すわ。」
「えぇっ!?いいの??10枚も多いけど……。これからお金もいっぱい必要なんじゃない?」
「これのおかげで防げた損害を考えればね。特に戦死者は当初の予定よりも大分減ったもの。人の命をお金に換算することはできないけれど、金貨90枚くらいなら安いものよ。」
安いって言ったって、金貨90枚っていうのは豪邸が建てられる金額だ。
いくら高級品だとは言え、イヤリング1つの値段と考えると眩暈がしてくる金額ではある。
「でも、売値80枚なら安い買い物したってことで買っておけばいいんじゃない?わざわざこれからお金が必要な時に上乗せしなくても……。」
金貨10枚は、銀貨640枚分。
前世価値的に言えば銀貨1枚で1万円くらいだから、平均的な家庭の年収くらいを上乗せしてるくらいになる。上乗せというにはちょっと多いし、こちらの世界からしたら銀貨1枚あれば4人家族が数か月くらいは暮らせるのだ。物価を含めればこちらの世界の方が遥かに安い。
「必要な投資なのよ。売値と生活費があれば、もう少しくらいいいものを作ることに専念できるでしょう?優秀な物が作れる職人にお金が渡らず諦めてしまうのでは、グルーネは毎年戦争で疲弊していくだけになってしまうわ。特に、こういう時だからお金を出さないといけないのよ。」
そういいながら、「はい、これ。」と1枚の紙を渡された。
金額とラインハート家の紋章が入っている紙。
為替手形って奴だと思うけど、これってシルが発行できるものなの?
「あら、やっぱりそれが何かわかるのね?」
「……?……あ。もしかして試したの?」
そっか。普通に考えれば商家でもない平民のボクが、手形なんてもの知るはずがない。
「レティの知識にも同じような物がやっぱりあるのね?」
「ううん。為替手形はもう殆ど使われてなかった……かな?」
「……ちょっと、そこの所詳しく教えてくれるかしら。」
ボクに『前世』と言う、違う世界の記憶がある事を知ってから、シルは新しい知識を得る事にとても感心が高い。……飢えていると言っても過言ではないかも。
基本的にはボクが思い出したり思いついたりしたものに対して反応してくれる程度なんだけど、ボクの前世は社会にすら出ていなかったのだ。
シルのように経済を動かしたり、取引の商談を纏めたりとか。そんな会社を経営するような知識なんて殆どないわけで、そういう方面の思いつきとなると、ボクの思いつきにまかせてくれていたのでは普段からそういった知識なんて出てくるはずもなく……。
たま~になんだけど、シルの方からボクの知識にアプローチしてくる事があるんだよね。それも今回みたいなケースが殆どで、シルが知りたい事に対して、ボクが当たり前のように何気なく知っている事を聞きだしてくれたりする。
もちろんボクだってシルの為になる事なら出来る限り協力だってしてあげたいんだから、こうしてくれると説明もしやすいんだよ。
まぁ余りにオーバーテクノロジーだったりする事も時にはあったりもするんだろうけど、そういう難しいのはそもそもボクが理解できている程度の知識で、この世界を変えられるほどの原理を説明など出来るはずもないし、そもそも整備されている事業の質が違いすぎてボクの知識程度じゃ話になんなかったりもするし。もちろん、完璧に再現までとはいかずとも、ボクの話す内容で少しでもヒントが得られるのであれば、後はシルに出来るかできないかの判断を任せちゃえばいいからね。電気がなくても魔素があるように、電気事業が整備されていないからと言って何も再現できないわけでもないわけだ。
ボクは単なる引き出しで、シルが扱ってくれるからボクの何気ない知識に価値が生まれる。ボクはこの国が好きだ。感謝もしている。この国がシルに協力する事でで発展してくれるのならとても嬉しいし、この世界に前世の知識を以って介入するって事自体は、もうすでに賢王という前例がいるわけだしね。ダメって事もないだろう。
こんこん……
「シルヴィア様。」
今回で言えば手形とか小切手の類。
そんなものの知識なんて、ボクの前世じゃ扱った事どころか現物を見た事すらない。学生の学習範囲にそんなものは取り扱わなかったしね……。
どう説明していいのか悩んでいると、部屋の外からノック音と男性の声が聞こえた。
「ああ、はい。今行くわ。」
その声にシルが反応する。
「ごめんなさいね。これから会議があるのよ。お話はまた今度聞かせてくれる?」
「うん。」
シルも今やるべき事の順位を間違えるような事はせず、扉の外に待機していた男性と一緒に廊下の向こう側へと消えて行った。
「じゃじゃ~ん。これな~んだ!」
「紙切れ?なんだこれ……っておいおい、ラインハート家の紋章……これ本物か?!」
「本物か?って。ラインハート家の紋章を偽造なんてしたらこの国でどういうレベルの犯罪かわかってるよね?」
「おいおい怖ぇこと言うなよ……」
「あれ?そういえばお兄さんは手形とか扱った事あるんだ?」
為替手形なんてどう考えても露天商が取り扱うような物ではない気もする。
知らないって所から入るんだと思って持ってきたのに、意外にすんなりと受け入れられてしまった。……まぁ話がスムーズに進むんだから何もいけないことはないんだけど。
「あ、ああ。そりゃな。俺だって昔は師匠の工房にいたんだ。何度か師匠んとこの取引でな……。魔導具は金額が金額だからなぁ。即金で買ってもらうよりも、こういうった手形で支払ってもらう事も珍しくは無いんだよ。」
この世界の通過は殆どが硬貨型。
もちろん金貨や銀貨っていう通貨の差はあれど、高額な商品を売買するとなると相当な重量の硬貨を持ち運ばなければならないことになる。
そんなのものすごく大変だし、大量のお金を持ち歩いてるなんて狙ってくださいと言っている様なもので、怖くてたまらないでしょ?
そんな高額な取引で便利なのが手形取引だ。
ボクの知っている現代では約束手形とか小切手なんていう取引方法が主流になっていたけど、この世界はまだ為替手形が主流みたい。約束手形とか小切手があるのなら、シルから渡されるのはそっちだっただろうしね。
とにかく、手形取引であれば悪党共がいくら手形を手に入れても出金できないわけで、取引相手以外には単なる紙切れでしかない。何よりあんなに重い硬貨を大量に持ち運ぶ必要もなくなるわけで、高額な取引であれば此方の方が便利なのは言うまでもないよね。
ただし、それには信用っていう形のないものが絶対的に必要だったりもする。
この世界には法人という人格が制定されていないから、信用とはそのまま家柄の価値と比例する。つまり爵位や騎士位を持っていなければ手形取引はそもそも出来ないし、家柄としてある程度の信用もなければ手形の発行すら仲介してもらえなかったりね。
それなのに、このお兄さんの師匠さんと言う人は手形取引を行っているらしい。
……あれ?でも、シルはボクに当たり前のように手形票を渡してきたよね?
あれれ?もしかしてお兄さんの師匠さんて……シルの知ってる人ってことない??
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