学園祭も終わります。
「ねっ?どうだった?」
「…………こ、こんばんわ。ごめんなさい……どちら様かしら……?」
「はぁ!?ボ、ボクだよ!?ママッ!!」
「………………え?レティー……シア?」
「え?……じゃないよ!え?じゃぁ!!」
自分でいうのもなんだけどこんなに特徴的な外見してる子なんてそうそういないでしょ!?そんな事よりも、いくらこんな格好してるからって自分の娘がわからないって母親としてどうなのよっ!!
……っていうのもね?
武道会が全て終わりを告げた頃には、既に夜となってしまった。
表彰式には、式典としてボク達登壇者にドレスコードが設けられててね。なぜか学生服じゃダメとか言われてしまったんだよ。
もちろん正装であれば何でもいいんだけど、ボクは学生服以外なんていう条件を出されてしまえばドレス着用に正装なんて持ち合わせているわけもない。
ドレスを着るのには時間が掛かってしまう。
急いで寮へ戻ると、寮の入口には見知った紳士のおじ様がいてくれたのだ。
「レティーシア様、こちらへどうぞ。」
着替えを手伝ってもらう予定で付いてきてもらったイオネちゃんと顔を見合わせながら、寮の入口に簡易的に張ってあったテントのような場所の中へ通されると、これまた見知った面々が。
イオネちゃんも一度会った事のある人達。まぁつまりはアルカンシエルの総支配人様と、その従業員さん達が待機してくれていたのだ。
「シルヴィア様に用意しておくようにと。昨日依頼をしていただきまして。」
……シルって本当に予知能力とか持ってるんじゃないの?
ボクとはまだ出会ってから日が浅いから打ち明けてくれてないだけってことなのでは?
……本当にそうだったら、ちょっと悲しい気もするけどね。
そんな用意周到で不可思議な現象に疑問を抱いていると、ものの10秒程度でボクの着ていた防具が脱がされ、1分も経たないうちに真っ赤なドレスが着せられていた。
……ぐぅ。このドレスは露出が高いから、もう1着の方のドレスを着て行こうかと思っていたのに……。
よく見ると今まで着ていた下着まで綺麗に折りたたんで置いてあった。
ちらっと確認すると、いつの間にかドレスに合うような真っ赤な下着を着けている。
うぅっ……もう恥ずかしいどころの話じゃないよっ!
ボ、ボクってばさっきまで試合してたんだよっ!?
あ、汗の匂いとか……色んな……さぁっ!!うぅぅっ!!
「体もお拭きしておきましたので、大丈夫ですよ。」
気にしていたのに気付かれてしまったのか、突然お姉さんにそう言われてしまった。
いつの間にそんなことまで……。
くんくんと腕の匂いを嗅いでみたりしたら、むしろいい匂いがした。
「いかがですか?」
「……いい……匂いです……。」
「そうですか。」
カチャという音と共に、鏡が目の前に掲げられる。
泥だらけになった顔は跡形もなく拭き取られ、見たこともない化粧がボクの顔を彩っていく。
「真っ白なお顔。やはり化粧が映えますね。」
……誰でしょう?この鏡の人。
化粧ってすごいんだなぁ……。
にこっとアルカンシエルの従業員さんである女性が笑った次の瞬間、テントの入口が開いた。
「うわぁ……相変わらず早いねぇ。それに、すっごく可愛い!」
入口のまん前にいたイオネちゃんの顔に華のような明るい笑顔が咲く。
「……ごめんね、イオネちゃん。わざわざ付いてきて貰ったのに。」
「ううん。絶対私がいても1時間以上は掛かっちゃっただろうから、むしろ助かったくらいだよ。流石シル様だよね。」
「う、うん……。」
流石だとは思うし、着替えが順調すぎるくらい順調に終わって助かったのも確かなんだけど……。なんだか納得いかないのはボクだけなのかな!?
全部シルの掌の上で踊ってるみたいじゃない!!
だって武道会トーナメントで優勝しない限り、ここには着替えに戻ってこなかったんだよ!?
ま、まぁ……。
そんなこんながございまして。
ボクは今、真っ赤なドレスを着ているのです。
人生初のお化粧顔で。
まぁ、ボク自身だって最初鏡に映った自分が誰だかわかりませんでしたけどね。
「ほ、本当にレティなの?」
未だに信じられないのか、少し近づけたらキスしちゃいそうなくらいまで顔を近づけて確認されてしまった。まぁママとキスなんて子供の頃に何度もしてるんだから、別にいいんだけど。
「うん、そうだよ?」
「まぁ……本当。このままお人形さんにして飾っておきたいわ。」
「ママ……。さらりと怖い事言うのはやめて……。」
「しょうがないじゃない。可愛いんだから。」
表彰式が終わって、副賞と言う名の賞金を手に入れると、その足で急いでママ達のいる場所へと駆けつけたら、この有様だったわけだ。
ま、いいんだけどね?ユフィとジークはすぐに気付いてくれたみたいだし、ママも気に入ってくれたみたいだし。
表彰式は会場を変えダンスホールで行われた為、立食形式のパーティのようになっていた。
もちろん観客全員が押し寄せたりする事はできないので、魔法モニターで受賞の映像は学園祭の中の到る所で放送されていたんだけどね。
ただ学園祭自体がこれで一旦終わりとなってしまうので、学園内は色々な催し物が一度に開催されていて、表彰式の会場まで実際足を運んだ人はそこまで多くはなかったわけだけど。そのおかげで表彰式の最中に皆の姿を確認することができたんだから、よしとしよう。
「ほら、ママこれ見て!」
そういってもらった褒章袋を開けてみせる。
「な、何よこれ!?」
ここまで驚いた表情なんて初めて見るって位、ママが眼を大きくして驚いていた。
「うわっ!!すごっ!」
「…………。」
ジークなんか声すら出せずに固まっている位にはおかしな金額だよね。
「金貨……120枚でしたっけ?トーナメントの優勝賞金。」
「うん。2つのトーナメント合算でね!今年はかなり少なめなんだって。」
「戦争とか、色々ありましたからね。仕方ないですね。」
イオネちゃんもユフィに捕まってからそのまま、ボクの家族と一緒に行動してくれている。
「ね?これくらい稼げるようになったんだよ。」
「こ、これくらいって……。」
ママが驚くのを通り越して、もはや困惑している。
まぁ正直ボクだってこんな沢山のお金、どうしたらいいのか全然わからないし。
困惑しているっていう所は同じなのかもしれないね。
「お姉ちゃん、これどうするの?こんなお金貰って……。」
「う~ん、どうしようかな?お家に入れちゃっても全然構わないんだけど……。」
「ダメだよ!」
仕送りっていう金額でもない金貨をママに預けようとしたら、ユフィに止められた。
「こんな大きなお金が家になんかあったら、本当に何が起こるかわからないよ!?こんな大金があるなんて悪い人達に知られたら、村ごと襲われちゃってもおかしくないんだから!」
「うっ……確かに……。」
一番末の妹がしっかりしすぎてて泣けてくるんだよ……。
ママもどうやらいらないみたいで、正直に顔がいらないって言ってる。
ユフィとは違う意味で、こんなお金怖くて持っていたくないって顔。
「……そ、そっかぁ……。」
あまり喜ばれなかった事に、なんだかしょんぼりと気持ちがしょげてくる……。
表彰式もパーティもすべて終わり。
ダンスホールから出ると……
ドーーーーーンッ!
と、爆音が夜空から鳴り響いた。
「「「きゃぁっ!」」」
「うわぁっ!!」
突然の爆音に女性陣3人の悲鳴とジークの声が重なる。
「あ、花火だ……。」
シルになんとなく話した事のある花火。ボクも前世では病院で行われていたお祭で打ち上げられていた花火を、窓から眺めていた事がある。
もちろん花火なんて物そのものを再現できるわけもないけど、この世界には魔法があるのだ。いくらでも似たように再現することはできるらしくて……。
ドーーーン!
という爆音が空で鳴り響き、ボク達の体を音の振動が揺さぶる。
夜空では無数の火花が飛び交い、パレードのように踊った。
きっとシルが、ボクの話から魔法で再現したのだろう。
大きな爆発音も、ぱちぱちと火花が音を上げながら落ちる仕草も変わらない。
可笑しいのは、これが魔法だって事だ。
空で踊っている火花って言うのは比喩でもなんでもなくて。
夜空を自由に飛び交う火花が、文字通り夜空を彩った。
「綺麗……。」
突然鳴りはじめた爆音に、最初は戦争がこんな所までもう来ていたのかとパニックになりかけていた学園内も、これが運営委員会の用意したイベントの一つであるという放送が流れると落ち着きを取り戻し、皆で空を見上げる余裕が出始める。
「本当だね……。」
周りを見渡すと、見える限りの人達が夜空を見上げ、見慣れない光景に魅入っていた。
「でも煩いわ……。」
ボクのママだけちょっと感性がずれているのは仕方のないことなんだよ。
だってボクのママなんだもん。
正直ボクも花火の破裂音は煩い気もする。
でも、花火っていうのはこの音があってこその花火でしょ?
慣れてくると、音の振動が心地よいとすら感じる。
……はずだよね?
第2幕 完
第2幕はこれにて終わります。
次からは短編集を挟んでからの3幕になりますので、3幕が始まるまで時系列は続きません。
ここまでのお話で出てきた人物やレティの能力の掘り下げ、周りの人達の動きなんかがメインになります。
もし短編集で語って欲しい、掘り下げて欲しい話なんかありましたら、感想等にてお話をくだされば話ができあがるかもしれません!




