思っていたより感慨深いものがあるのかも?
……まるで時が止まったかのような静寂が続いた。
リングの上には、蹲ったまま意識を失ったのか、そのまま倒れこんでしまったマリアンヌさんと、ただ何が起こったのか理解できず立ち尽くした審判の先生が視界に残っているだけ。
観客席の方は幾重にも張り巡らされた防御魔法で見えないし、司会実況の声も聞こえない。
「うわ、何この魔法術式……。すごい出鱈目。」
さっき奪った魔法の魔法術式を確認してみるも、意味を成して魔法を発動させる為に作られたような跡が見られなかった。
ただ火力と熱量を無理に、無駄に、無闇に組み合わされており、不安定さが制御を難しくしている魔法。魔力効率もすこぶる悪いし、こんな魔法術式じゃ自滅しか見えないような。むしろこんな魔法良く現実的に発動したと思うよ……。普通こんな出鱈目に魔法構造なんて構築しても、うんともすんとも言わずに魔法が起動すらしないのに奇跡かのように魔法が発動している。
魔力暴走が本当に暴走したのだろう。
最悪なことに、マリアンヌさんから無限に魔力を吸い出すような術式へと成り代わってしまっていた。魔力暴走により召喚した英霊を強制排除した弊害なのだろうか。それにしたって、こんな欠陥があるんじゃ自分の命を落としかねないよ……。
ボンッ!
「うわわっ!?」
とりあえず対処が可能なのはわかったから、再現してみようとしたけど、あんな大きなエネルギーの塊が出来る前に爆発して破裂してしまった。……こんな魔法よくあんなに大きくなるまで制御していたね、マリアンヌさん……。
「そ、そこまで?!……しょ、勝者レティーシア!」
ボクが再現してみようとした魔法の破裂音で我に返ったのか、審判の先生がやっと試合を止めた。
普通に一歩間違えれば大惨事だったかもしれないのに、暢気なものだよね。
って言うか、主に大惨事を被りそうだったのは、ずっとボクだったんですけどね?審判の先生がもっと早く止めてくれていたら、こんなことにもならなかったのに。
……審判の合図を待つ前に、見た事の無い騎士服を着ている人たちや、講師の先生たちがリング上へなだれ込んできた。きっとあの人達が、この魔法トーナメントで何かあった時の為にいる対処係の人達なんだと思う。
流石にさっきくらいの危ない場面であれば、それなりの実力を持った人が対処に当たりだすってわけだね。観客席の防御魔法の対応とかもものすごく早かったし、強制的に止めに入らなかったのは、あの魔法がもし弾けたとしても止められるからだろう。もちろんボクには彼等の実力なんて知りようも無いわけだけど、こういう場面でそういう役割を任されている人達なのだ。きっとボクが何もせずともマリアンヌさんと審判の先生達は守られたのかもしれない。
ま、だからって自分のできる事を放り出して目の前にいる人をただ見捨てるなんて、できるわけもないし、したくもないけどね。
「ど、どう……なったんだ……?」
観客席からどよどよと声が上がり始めたのが聞こえてきた。
展開している防御壁のせいで魔法モニターすら見えないのだ。
状況の知りようもないよね。
とは言え、審判の声は聞こえたのだろう。
防御魔法が次第にどんどん解除されていき、観客席とリングのある会場の間が薄く透き通ってきて、見える様になってきた。見えるようになって行く上で、どんどん観客席からあがるざわめきが音量を増していく。
「ど、どうなったの……?」
「……まーじか?これ。」
実況の声に答えるべく、審判の先生がボクの方へと近づいてきて……
次元牢獄に顔からぶつかって鼻を強打した。
そういえばボクも顔中鼻血だらけだ。
こんな姿で人前にいるのはちょっと恥ずかしいかも。
抗議するような目でボクの事を見ながら次元牢獄を解除しろっていうジェスチャーをしてくる。……なんかこの人嫌いかも。魔法に巻き込まれそうになっていた被害者さんとは言え、そもそもこの人がその前の段階で試合を止めてさえいればあんな危険な事にはならなかったのに。
本音を言っちゃうとね?ちょっと位はざまぁとか思ったよ?……思ったけど、仕方なく次元牢獄を解除してあげると、ボクの右腕を掴んで乱暴に空へと向かって振り上げた。
その瞬間……観客席が湧く。
幾重にもかけられていた防御魔法が、一斉に解除されたのだ。
「………………え!?」
正直全く予想もしていなかった反応に目をぱちくりさせながらキョロキョロと観客席を見回していると、ママとユフィとジーク、それにイオネちゃんが視界に映った。
……ママ、約束どおりボク勝ったよ。
なんだか嬉しくなって、強制的に掴んで振り上げられている右手ではなく、自分で左手を上げママ達に向かって手を振ってみた。
ここからでもママが困惑顔をしているのが手に取るようにわかっちゃうよね。
ユフィとジークは……嬉しそうに両手を上げて振り返してくれる。
な、なんだか今更嬉しさがこみ上げて来たよ!
ごしごしと顔の血を拭くけど、正直人前に立てるような顔、してないかも。
鏡もないからわかんないけど。
「え?嘘っ!?レティーシアちゃんが勝ったの?!」
「ってかあの不安定な魔法はどうなったんだー?」
「どうなったんでしょう?ねぇ?フラ先生。」
「さぁ?消えちまったな。」
「白々しい。」
「はぁい!おめでとうございまぁす!」
見た事の無い人が拡張魔導具を手にリングへと上がってくると、審判の先生が掴んでいたボクの手を放し、その向こう側では未だに意識の戻らないマリアンヌさんが運び出されていく。
「ヒーローインタビューだよ!今のお気持ちをどうぞ!」
「え、あ……はい……。え。」
見た事は無いけど、どうやら実行委員会の人みたいだ。
雰囲気が明るめで元気な女性。
赤茶色の短い髪の毛と、やっぱり活発そうな笑顔が素敵な人なんだよ。
「緊張してる?誰か今の気持ちを伝えたい人とか、いるかな?」
「あ、えと……ママ、見てるー?」
見てるのは知ってるけど、もう一度そういいながら手を振ると、今度は振り返してくれた。
「親御さんが来ているんですねー!いい所見せられてよかったね!……はい、ハンカチ。顔拭いていいよ。」
「はいっ!あ……ありがとうございます!」
高級そうなハンカチ。
ちょっと血を拭くには使いづらい。
ごしごし。
「ところで最後ってどうなったの?多分皆さん見えてなかったんだけどー!」
リゥイさんもさっき疑問を口にしていた部分。
きっと会場の誰もが見えていなかったし、知りたいところなんだろうね。
「秘密ですっ!」
「ええ!?そんなぁ!……秘密ってことはやっぱり、レティーシアさんが対処したって事でいいのよね?」
にこっと笑顔でごまかしておく。
「う~~ん……まぁ貴女の場合、公表できない能力も多そうだものね……。」
「そ、そんな事は……ないと思うんですけど……。」
「え~?じゃあ教えてくれるの?」
「えっと、いや……その……先生に怒られちゃうので……。」
「ほらぁ!言えないんじゃなぁい!」
「あはは……。」
まぁ実際の所秘匿してるって程でもないんだから、言えないわけじゃないんだけどね。
とはいう物の、自分の能力を言いふらすことがあまりいい結果を生まない事くらい想像はできるしね。先生に止められていなくたって、自分から言いたいとは思えないよね。
そのまま恙無くインタビューが進行されていく。
「それじゃ、表彰は全部終わったらするから、ちゃんと今日表彰式まで残っててね?」
最後にそういわれて会場を後にした。
まぁ、残ってるも何も……ボクは午後も決勝トーナメントに出るんですけどね……。
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