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やっと・・・ここまできました。

「魔力残量はどうかしら?少しは回復した?もう少し時間はあるのよ?」


いつの間にリングに上がっていたんだろう。


30分の休憩ってリアさんの声は聞こえていたけど、控え室に戻っても誰もいない。

こういう時なんかはさ、ほら。最後まで頑張れよ!なんて先生とか先生の研究室の先輩辺りが応援に来てくれても良さそうなんじゃないかな?なんて思ったりもしたけれど、ほとんど2年生である先輩達からしてみたらボクは来年にもいるわけで。一番蹴落とさなきゃいけないライバルに昇格しちゃったのであれば、そんなことをわざわざ言いに来てくれる程お人良しでも、なにより悔しくないわけでもないよね。


あれ?っていうかボクって決勝戦進出者だよね?

それなら誰かが休憩時間だとか決勝戦の開始時間を教えに来てくれても良くない??


あ。そうですか。

そんな事いつもの如く自分で調べろって事ね……。


まぁ確かに分かっている事を一々説明されるというのは、とても煩わしいからね。ほら、勉強しようとしてたのに勉強しなさいって言われるとか、片付けようと思ってたのに片付けなさいって言われたりすると、急に湧き上がっていたやる気がマイナスへ変換されてしまうようなアレに等しいわけで。

それが決勝戦に駒を進められるような人物であれば、わざわざそんな事説明するまでもないし、試合前の大事な時間にそんなマイナスになり得る話をしになんてこないわけで。

……そうですか。そうですよね。……はい。自分で調べます。




こういう時はあのステータス魔法に全部書いてあるっていうのが、この学園に来てボクが学んだ事の一つだ。……うん……。すっごい事細かに記載されていました。

しかもこれ、イベントの進行なんかも毎日随時更新されているみたいでとても分かりやすい。いやぁほんと。これ見ないとかどこのお子様よ。馬鹿だねー。


それによると、決勝トーナメント進出者の心境とか、気配りの仕方なんていう事すら記載されており、極力会いに行かないように暗に示唆されている文言すらあった。


妹達がここまで会いに来たのはこれを読んでいないんだから知りようも無かったわけだ。……つまり何が言いたいのかと言うと、ボクの妹は別に空気が読めない子ではないって事だよ?むしろ周りにとっても気を使ってくれるいい子なんだよ??わかってくれたかな?


暗に示唆されていると言うのは公式に禁止しているわけではないと言うだけで、殆どの人が会いにいってはだめですよ。って受け取れるくらいの文言で注意がされている。ってことは、これから決勝の始まるこの状況で尋ねてきてくれる人なんて結局誰もいなかったのだ。


手持ち無沙汰になってしまったボクは、流石にちょっと早すぎるかなとは思いつつも10分も経たないうちにリングへと顔を出してしまっていた。


そこには既にマリアンヌさんが待ち構えている。


もちろん魔法モニターに映っていたからマリアンヌさんがリング上にいる事は確認済みでここまで来ちゃったんだけどね。

どうせボクの魔力量は減ってすらいないのだ。待っていたってしょうがない。


「大丈夫ですよ。満タンです!」

「へぇ、そう……。なら気兼ねはいらないわね。」


「はい!大丈夫です!」


ボクのその受け答えが気に入らなかったのか。

マリアンヌさんの眉間に一瞬、皺が寄った。


「そう。ならもう始めてもいいのではなくて?」


そういいながらマリアンヌさんの視線が向かうのは、審判の先生の方ではなくリアさんとリゥイさんのいる実況席の方だった。

確かに今まで試合開始の合図を出してきたのは、開始の瞬間は審判の先生であったにせよ、進行上はすべてリアさんの実況によるものだった。

実況席の合図がなくても試合は始められるのかもしれないけど、審判の声は魔法モニターが拾わない限り観客席には殆ど届きはしない。実際の所試合の進行をしているのは、やっぱりその名の通り司会進行席にいるリアさん達なのだろうし、尚且つあそこで放送してもらわないと観客席に伝わらない。休憩時間を出しちゃっているものを、勝手に始めちゃうのは申し訳ないしね。なにせ決勝なわけだし。


「え~っとぉ……。そう言われましてもぉ……休憩時間は30分って言っちゃったんですよねぇ。観客席や観戦モニターの向こう側にいる皆さんの準備ができていないといいますかぁ……。」

「てか、休憩時間は30分と決まっている。始めて良い訳がない。」


観客席にはまばらに空席が見て取れる。

今まで戦争開戦の告知があろうと満席で、スタンディングまでいた会場内としては空席が目に付くだけでも観客側はまだ戻ってきているわけでもなさそう。


「それじゃあこういうのはどう?……休憩時間は30分。後20分弱よね?」

「え、えぇ……。そうですねぇ。」


リアさんだって自分で休憩は30分と言ってしまった手前、役者が揃ったので30分経ってないけど始めますねー!なんて事言えるわけがないよね。


「わかったわ。なら、20分間は戦闘行為はしないわ?でも、魔法を行使して準備しておくって言うのはどう?それなら集まった瞬間にクライマックスよ?楽しいでしょう?」

「え~っとぉ……。でも流石にそれはちょっとぉ……。」


「もちろん、レティーシアちゃんの同意が取れれば、の話よ?……どうかしら。」


普通に考えれば受ける必要のない提案。

そもそもマリアンヌさんの固有魔法かな?……は、英霊召喚術。それも今までの試合を見てきた所、一度に召喚するのは1体までで、最高召喚数は5体だった。

同時に1体しか召喚できないのかどうかはわからないけど、その要因の一つとして魔力量不足が挙げられるのかもしれない。

そもそも魔力量が200を超えるのが珍しいこの世界で、あの強度の英霊を5体も召喚するとなれば相当な魔力を消費する事など容易に想像できるという物。

魔力量の最大値は決まっている。どんなに休憩を取ろうがその最大値以上に蓄積される事は無いのだから、毎回最大5体しか召喚しないマリアンヌさんの最大魔力量では、どんなに時間を掛けて魔力を回復したとて結局試合中に召喚できる数は限られるという事。前にリゥイさんが5体以上出せるってぽろっとこぼしてたし、この提案はそういう事。


つまりこの提案に乗ることは、マリアンヌさんの実力が今まで以上に上がってしまう事を意味している。


「いいですよ。」


そんな事マリアンヌさん自身が百も承知だったのだろう。

ボクがそう答えると、さっきは一瞬しか寄らなかった眉間の皺が固定された。


「……ほんと、セレネの言う通りよ。可愛くないわね。」




ボクだって分かってはいたけど、マリアンヌさんはそんな提案を本気でしていたわけではない。

単純に挑発だったのだ。魔力を回復する時間が必要ないなんて言ったボクに、それなら今すぐ始めてやろうか?っていうね。


決勝トーナメントの会場が1つしかなく、それもこの決勝トーナメントがワンデイトーナメントである以上、どうしたって進行順に因る有利不利の差がでてしまう。

特に魔法に依存しなくちゃ勝てもしない全兵種解禁トーナメントではその差は大きくなり、決勝戦へ近づけば近づくほど順番による魔力の回復量に差がついてしまうのは当たり前。

運も実力の内なのだ。

ボクの運が悪いのではない。マリアンヌさんの運が良いのだ。


それなのに、試合開始時間の20分も前に会場に出てきて、魔力の回復を待つ必要はないだの、自分が明らかに有利になる条件を提示してもさらっとなんとも無いようにその条件を飲む。

マリアンヌさんからしたら面白いはずがないよね。


控え室で話した感じからすれば、マリアンヌさんは何をしてでも試合に勝てればいいっていうタイプではないし、試合に負けてしまったレオさんに説教はしていたものの理不尽に怒鳴りつけるような人でもなかった。


きっと、ボクに控え室に戻れって言ってくれたのだろう。

もちろんそこには、魔力の無い状態でつまらない試合をしてくれるなよ。

って言う意味が含まれていることなんて、当たり前の事なのだから。





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