皆、強い覚悟を持っているんだよ・・・。
「や、やめ……て……。」
セレネさんがぶるぶると震えながら硬直してしまった。
よくわからないけど、この世界では強いらしい兎さんの獣人?魔人?も、環境ストレスには弱いらしい。この魔法はアニエラさんの時に一度披露しているわけで、セレネさんがどう考えても自分の固有魔法と相性が悪そうなボクの次元面を片っ端から殴り飛ばしてでも近寄りたかったのは、この魔法を広域で使われたくなかったからなのかも。
「寒い……嫌ぁ……。」
セレネさんの魔人化のような魔法が解けて、手が人間の物に戻ってしまっている。
兎さんのお手手の方が毛がある分暖かいような気もするけど、戻しているってことはそういう訳でもないのかな?
温度変化というのはストレスの代表格。それも苦痛を感じる程ともなれば相当のね。
ちなみにボクは、自分を次元牢獄で囲っておけばアニエラさんとの試合のときのように、一人でぬくぬくできるんだよ。
ほんと、便利だよね。次元魔法。
……
……
……
「あ、あの……。」
そういえばアニエラさんもそうだったな。
人一倍ストレスに弱いとは言え、ここまで勝ち上がってきたような人なんだ。
セレネさんも自分から降参を言う気はないらしい。
むしろもうそれを言う気力すらないんじゃないかという格好で、蹲って止まってしまっていたから、審判の先生にアイコンタクトで試合を止めて貰おうとすると、審判の先生が頷いて……。
「そっ……」
バチン!
試合を止めようとすると、セレネさんが動いて審判の言葉を遮る。
それが何度が続いた。
それにしても、打開策が無ければこれ以上続けたらいくらアニエラさんの時とは違い、魔法の効力は落としているとは言えセレネさん達の命に関わってしまう。
「さっぶ!!!うぅぅぅぅぅ~~~。」
「うぅ。こっちにも先生早く来て……。」
観客席と闘技場のフィールド間に張られている防御魔法は、ボクが張ったわけじゃない。
つまり次元魔法じゃないので、温度を遮断しないのだ。
観客席では魔法の使用が禁止されていて出来ない為、自分で暖を取る事もできずにいる。
環境的にはセレネさんよりも遥かにマシだろうとはいえ、観客席にはボクのママだっているわけで、折角こんな所まで一大決心して見に来てくれているのに、凍えさせるのは忍びないのだ。
ボクを応援してくれている数少ない一部の人達には心から謝罪します。
ごめんなさい。
……セレネさんファンであるその他大多数は……うん。まぁどうでもいいや。
ざまぁ。
そんなこんなで観客席にもこんな環境が波及してしまっており、対策として先生達が魔法を使って一定間隔毎に暖を取っている状況。
でもこんな無駄にだだっ広い会場で、魔力量が200にも満たない先生達一人辺りが魔法で暖を取れる時間なんてそこまで長くも無い。
どんどん会場の気温は下がる一方だった。
「あああああ……あの子の魔力量どうなってるの!?」
「……知らない。ばばっ馬鹿げてる。…………こんな長時間広大なフィールド……で……さむっ……。しゃべり……たくないっ……。」
実況席の2人が実況を放棄するくらいには劣悪な状況になっているはずなのに……。
その数倍も厳しい状態を耐えているセレネさんて、どれだけすごいんだろう。
最初の反応を見たって、多分セレネさんが兎さんの特徴よろしく温度変化に相当弱いのは間違いなさそうなのに……。
どれだけの時間が流れただろうか。
流石に審判の先生が強制的に試合を止めようとしてきた頃。
「できた……。」
そういうと、蹲って動かなかったセレネさんの顔が少し上がり。
ボクを見つめた。
ああ、魔力。回復したんだ。
一気に晴れていく。
フィールド全体に張っていた低温による霜が解け、水に変わる。
ちなみに余談だけど、この世界の空気は驚くほど全く汚染されていない。
マナという物質の効果なのかわからないけど、都会である王都すら空気が澄んでいるのだ。
もちろん馬車が埃を巻き上げたりはするだろうけど、それでもその埃や塵が浄化されるのがものすごい早いのだ。
更にここは王都の中央区。
人が巻き起こす埃はあれど、交通量の多い道路ほどでもなければ殆ど汚染される前に浄化されてしまうんだけど……。
実は空気が澄んでいると、どんなに寒くても吐く息が白くならないのだ。
吐く息が白くなるのは、空気中に浮かんでいる埃や塵やらなんやらの物質に吐く息に含まれる水分が付着して、それが急激に冷却される事で可視化される。
ちなみに、これは水蒸気ではなく湯気。
シルの温泉旅行に行った時、温泉に湯気が上がっていなかったんだよね。
マナがこの世界に与えてくれている祝福は、魔法という奇跡だけではないってことだね。
……うんうん。
そんな全くこの場にそぐわない事を考えながら状況を見守ると、蒸し暑いくらいに会場の温度が上がってきていた。
セレネさんの固有魔法は、ベクトルに干渉できる。
ボクの魔法は、効果は弱めているとは言え『絶対零度』。つまり温度を強制的に下げるのだ。
干渉されたボクの魔法は、やがて温度を下げるどころか上げて行き。
フィールドの気温がぐんぐんと上がっていった。
低気温化によって、空気中に含まれていた水蒸気が水へと変化して霜になって付着していたものが、また水蒸気へと戻っていく。
湿度は変わらないはずなのに、なぜか蒸し暑く感じた。
「……。」
流石にアニエラさんの時とは状況が違ったので、絶対零度をそのまま使ったわけじゃないからね?だって本気でそんな魔法このフィールドに使ったらセレネさんの命はなくなってしまうじゃない。絶対零度ってマイナス273度だよ?耐えられるとか耐えられないとかいう問題じゃなく、生物が生命活動を維持できる温度帯ではないのだから。
とは言え、セレネさんが我慢できない程度には厳しくしたつもりだったのだ。
ふらふらとようやく立ち上がったセレネさんが、もう既に焦点の合わなくなってきている目でボクを見つめた。
兎さんは寒さに弱いのではない。
温度変化に弱いのだ。
……つまり、この状況はセレネさんにとって何も改善されていない。
むしろその逆で……。
「セレネさん……。」
「わっ……私って……こんな……弱点があったの……。」
まぁあれだけ強制的に環境を変化させられでもしない限り、魔法である程度の温度変化や環境の変化に対応できるこの世界で、兎さんがストレスを感じやすいなんてこと知る由もないのかもしれない。
「魔兎……族の子に……知り合いでも……いるの?」
セレネさんが自分の後ろに張ってある設置盾に身を預けながら、どうにか捻り出すような声で会話を続ける。
魔力の回復を待って、どうにかボクの魔法に干渉できたということは。
今セレネさんの魔力量はからっぽなのだ。
自分の体調を回復させることすらできないのだろう。
「セレネさん……。」
「………………そう。今度は……待ってくれないのね。」
そういうと、やっと立ち上がった体を設置盾に完全に預け、そのままずり落ちる様に腰を下ろした。
「はぁ……。」
短いため息を吐き。
辛そうな顔で審判にアイコンタクトをすると、審判がそれを理解し。
試合を終わらせた。
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