いつの間にか、こんなにも成長していたのね。
「ママ……。」
ごめんなさいって……。
それはボクが言わないといけないのに。
「ママ、ごめ……」
「ちょっとママ!?何やってるのよ!!」
「ユ、ユフィ?」
とても心配をかけてしまった……。ママに謝ろうかと思って近づくと、ユフィのピンク色に揺れる髪の毛が間を遮った。
仁王立ちで憔悴しているママににじり寄っていく。
「知らない人についてっちゃいけないなんて、子供でも知っている事よ!?それに、王都は治安がいいから野宿できる!?全っ然よくないから!!マーデン村なら魔獣や野獣にさえ気を付ければ野宿だって出来るかもしれないけど、王都でママなんかが野宿したら一晩で殺されちゃうか捕まって酷い事されちゃうわよ!!」
「ユフィちゃん……。」
ママも突然怒り出したユフィに面食らってびっくりしている。
「お姉ちゃんがいなかったのなら、なんで私達のところにこなかったの!?たまったま偶然!お姉ちゃんの知り合い?っぽい人だったからよかったものの、ママは美人なんだから!そんなに簡単に男の人についてったらダメなんだからね!?」
「あ、あの……その……ご、ごめんね……?」
ユフィが言っている事が正しいとは言え、それはボク達が王都に住んでいたから知っている事。そんな事知る由も無いママにここで怒っても、もう過ぎてしまった事ではある。が、ユフィの言っていることは尤もでもある。
ボクだってユフィに言われなければ、自分の事で精一杯でまさかママが見に来ているだなんて思ってもみなかったんだから、もしも犯罪になんてあっていたとしても、気づいてもあげられなかったかもしれないのだから。
ただ、ここは無事だったことを喜んであげるべきだろう。
……娘に美人だといわれてちょっと回復してきたみたいだし。
それに、ママはびっくりするほど運がいいのだ。
きっと普段よりもものすごい人混みでごった返している王都の、それも街中であの人とすれ違い、それも気にかけて貰えたのはママの運が成せる技だと思うんだけどね。
宥める様にユフィを背中から抱きしめると、くるり。と此方に向きなおした。
「大体!!お姉ちゃんがいけないんだからね!?お姉ちゃんがどれだけすごいのかなんて、ずっとお姉ちゃんの傍にいた私とジークが知らないとでも思った?ジークはお姉ちゃんの事大好きすぎてあんまりお姉ちゃんの事疑いもしないけど、私はお姉ちゃんが隠し事してたらすぅ~~ぐわかるんだからっ!!どうせ戦争の時だって救護なんかじゃなくてもっと危ないとこにでもいたんでしょ?どうせ領主様に呼ばれた時も、なんか危険な事に首突っ込んできたんでしょ?」
「ちょっ!おまっ!おいユフィ!?」
ジークが顔を赤くしてユフィを止めに掛かるけど、すごい剣幕のユフィに睨まれると蛇ににらまれた蛙のごとくピシっと止まってしまった。
確かに戦争が終わって帰省した際、ユフィには怪しまれていたけど、やっぱり領主様の依頼で留守にしてた時の事も感づかれていたのね……。
「私とジークは今日初めてここに来たばっかだから、お姉ちゃんが昨日までどんな試合をしてたのかとか知らないけどね?そりゃ……なんか危険な事とか?他にも色々隠してるんだろうけど、そういうのはパパやママや私達に心配かけたくないからだっていうのも分かるよ?でも、もうちょっとやりようだってあったんじゃない!?ママが危なかったのは、ママのせいだけど!私達だって家族だもん!お姉ちゃんの力にだってなりたいのにっ!!」
がしっと抱きついてきたユフィを受け止めると、少し震えているようだった。
ボクは皆の知らないところでなんか危ない事ばっかしているし、ママは一歩間違えれば大怪我どころじゃ済まない事になっていたかもしれないし。そういう想いが一気に溢れてしまったのだろう。
うぅっ。
妹が正しすぎて何も言えないよ……。
結局一番下の妹がママよりボクよりしっかりしてるってどういう事なの……。
「ご、ごめんね?ユフィ。それにママも。結局ボクがちゃんと皆に話してなかったせいで危ない目にあわせちゃいそうになっちゃったね。」
よしよし……。
今度は頭を撫でてあげても振りほどかれることはなく。
さらさらの髪の毛が気持ちいい。
「う~ん。もちろん、ちょっと危ない事してたのを、心配かけたくなくて言えなかったっていうのもあるんだけど……。なんて言っていいのかわからなかったんだよね。」
部屋の中では誰も一言もしゃべらない中、遠くで歓声が沸きあがっているのが聞こえる。
ボクが話しだすと、皆の視線が一斉に此方に向いた。
ユフィは黒い毛並みに顔を埋めたまま。
……どうやら気持ちよくて気に入ったみたいだ。
「……ごめんね。気の利いた事、言えないや。」
ママだって今日まではボクの試合を観戦していられたってことは、一番危なそうに見えた魔法種禁止トーナメント単騎戦でアニエラさんに負けた時の試合では逃げ出さなかったってことだ。
もちろん、だから心配しなかったてわけじゃないだろうけど、まぁその後も色々とね……。吹き飛ばされるわ、いいように嬲られるわ……。いい所なんて全然無いまま、心配しているママの気持ちが積もり積もって今日許容量を超えちゃったのかもしれないけど。
きっと、ママが言っていたボクが怖くて震えてたって言う試合は、ガルドさんとの試合の事だ。
確かに、あの試合は怖くて震えてたよね。
……おじさん顔に。
でも、ボクのトラウマなんて周りの人たちが知ってるはずもないし、知られないようにしていたわけで。ましてや家を出てから起きた出来事によるトラウマなんだから、家族だって知ってるわけもないし。
あの試合を見たら、そりゃボクがガルドさんの攻撃に怖くて震えているように見えてもおかしくなかったのかもしれない。
かもっていうか……。実際ママにはそう見えたんだろうね。
疲れたって、怖くたって、痛くたってどうしようもなくても。
それでもボクはこの学園祭の武道会トーナメント中、今まで一度もあんなに震えてたりする事はしなかった。結局なんだかんだ言って楽しかったんだよ。
楽しく……やれていたんだと思う。
それが、ガルドさんとの試合では突然震え上がってしまった。
きっとそれが、ママの中では一番怖かったんだね。
なんとなくだけど、ママが王都に着いたときにママの事を助けてくれた人物像には心当たりがある。
ボクが困ってた時に助けに来てくれたり、ボクが一人落ち込んでいる時に声をかけてくれたり。あの人、ボクだけに飽き足らずママにまで手をかけてくるとは。
なんていう天然系たらしなんでしょうか!全く。許せないよね。あんなに可愛い奥さんがいるっていうのに!年下の美少女だけでは飽き足らず、人妻にまで手を出してくるなんて!
……そういえばモンスターパレードの一件が分かってきてロカスエロで急に別れてから、まだ一度も会ってないや。
奥さんにはモンスターパレード中も大分お世話になったし。
……今度お礼を言っておかないとね。
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