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試合は順調に?

戦時警戒が国から発令されるも、まだ戦争の事なんて皆からしたら対岸の火事。毎年モンスターパレードやエリュトスとの戦争に、勝ち続けてしまったが故の盲目的な安心感というのは危険でもあるけれど、ずっと緊張しっぱなしじゃ疲れちゃうのも確かなんだよね。


そもそも自国にまで戦火が及んでいるわけでもなければ、今この学園内にいるのは学生と一般の人達ばかりなわけで、人との戦争に駆り出される人はそこまで多いわけではない。それならそんな皆に後僅かばかりの日常くらい送らせてくれたってばちは当たらないってものだよね?


もちろんグルーネ国自体の戦争が始まってしまえば、参加しなきゃいけない人達はいないわけじゃないけど騎士位を持っているお家の人達等一部だけだし、学生が駆り出されるとしても戦争になるってことがある程度決まってきて、更にその後から。騎士となった人たちが戦争に参加するのは職務だから仕方ないけど、未来ある学生を戦争の矢面に立たせるなんて愚行でしかないわけだし。

そうともなれば、ボク達は今日までで一旦中止されてしまう学祭を最後まで楽しむしかないんだよ!


とは言えボクは今回の戦争には自分から首を突っ込んじゃってるんだけどね。

全く関係無い訳でもないし、そりゃもちろんボクが何もしなくても国の優秀な中枢の人たちは何とかしてくれるんだろうけど、自分にしかできないことがあって、それが自分のためにしかならないのなら、何もしないなんて選択肢があるわけがない。




遠くでリアさんの実況の声が聞こえる会場内の控え室。トーナメントが開始されてから試合が終わるたびに、当たり前だけどどんどん人は減っていった。


初戦はマリアンヌさん対アンディさん。

実力差は歴然としていたけれど、まさかのイオネちゃんが新開発した薬品にアンディさんが目をつけての不意を突く作戦に、あわや逆転になろうかと言うところまで行ったけど、マリアンヌさんの魔法が想定以上だったこともあり、結果はマリアンヌさんの勝利に終わった。


2戦目は兄妹対決。

セレイオン家はドラゴンライダーの家系なんだそうな。ただ単純に馬や騎獣に乗っているならともかく、魔獣や聖獣といった類であるドラゴンなんかと契約をして戦うライダーと呼ばれる兵科の人達は、意思疎通や契約した魔力のやり取りに魔力の扱いが兼ねられてしまうため、魔法種禁止トーナメントでは騎獣を使用したりすることはできないわけだ。


なんで前のトーナメントで使わなかったんだろうね?って疑問を口にしたら、え?そんなことも知らないの?って顔しながらリンクが教えてくれた。


……知らないし。いいじゃん別に。




ボクのドラゴンライダーってイメージから言うと、空を飛んでる騎獣乗りさんのイメージ。それは間違いではないらしくて、妹さんであるミーナさんの方が一般的なドラゴンライダーとしての姿なんだって。兄であるクオトさんの乗っていた竜は一般的ではないんだそうな。

ちなみにドラグナーは竜騎士であって、兵科の一種。

ドラゴンライダーはドラゴンに乗っている人全般なので、別に兵士である必要はないって言う使い分けになるから、例えば冒険者がドラゴンと契約して騎乗している場合はドラゴンライダーとなる。つまりミーナさんは兵士にはまだなっていないから、ドラゴンライダーが正しいんだって。




ちなみにリンクはクオトさんの竜に手も足もでずに負けたんだって。


本人の負け惜しみ曰く。


「スキル制限がかけられてて武器もまともなもん使えないのに、あんな堅ぇ生き物にダメージ通るわけねぇだろ。」


らしい。

普通に正論すぎて、なんでそんなルールが今までまかり通されてきたのか、この国の王子を問い詰めたい。

ちなみに兄であるクオトさんが乗っていたのは地竜と言うタイプで、空を飛ぶ事はできないけど地上戦に関して騎乗ユニット最強の部類になるんだとか。足は馬よりも速くて、皮膚強度なんて比較にすらならない。更には牙もあって攻撃もできるわ魔力も持ってるからブレスも吐けるわって、そりゃ確かに強そうだ。

しかもそのドラゴンに乗ってるのが遠距離武器の専門家であるクオトさんなわけで。


ドラゴンライダーという職の人が空の優位を捨てるっていうのは、一見馬鹿馬鹿しく思えるかもしれないけど、羽が薄くて弱点になり得てしまうのはどの種族も共通だったりするあたり、弱点を削れる点で言えば、これはこれで理に適っているのかもしれないね。

それに地竜といっても大きさが違う。馬の2~3倍くらいある巨躯にミーナさんが乗っている飛竜は、一般的な大きさで女性のミーナさんが跨れる大きさでしかない。


騎獣の格が違うのか、やっぱりクオトさんが終始圧倒して終わった。


リンクの負け惜しみを擁護するわけじゃないけど、あんな堅そうでおっきい化け物にダメージを通すのは難しいというか、一定以上の火力を持った武器や魔法が禁止されている試合という枠内では無理と言うもの。近づけば地竜の尻尾と牙という凶器に加えて巨体と堅さを併せ持った突進にのしかかり。離れれば地竜の口から放たれる魔法と、クオトさんの弓に魔法という3重攻撃が待っているわけで。

ミーナさんとの試合は相当数をこなしているのか、殆どミーナさんの攻撃が往なされてなす術もないって感じでミーナさんが負けてしまった。


兄の威厳とは強いものだね。




3試合目。

レオ・オルニラクスさん対モルト・レヴァントさん。

レオさんはマリアンヌさんのお付みたいな人で、小言言ってた人ね。で、相手のモルトさんって言うのが騎士団の同期なんだとか。


リングに上がると、騎士団の鎧なのか確かに同じようなデザインの鎧を2人とも着て対面となった。マリアンヌさんが強めの張り手を背中に入れて気合を入れていたのをみると、レオさんとモルトさんの間には何か貴族家特有の確執でもあるのかな?まぁ張り手は装備の上からだから、痛そうなのはマリアンヌさんの手なんだけどね。


試合内容はというと、やっぱりこの2人も前の試合と同じように幾度となく手合わせをしているのか、お互いの戦法を知り尽くしているような立ち回りをしていた。

レオさんの魔法は元素魔法でそれも炎の属性に寄る魔法が多く、相対するモルトさんの魔法も元素魔法で氷の属性に寄る魔法が多いという……。なんというかライバルとして生まれてくるのを宿命付けられたような2人のような。


ただ、この2人は3年生なわけで、もちろん全兵種解禁トーナメントの初戦で見られたようなタダの魔法の打ち合いなんていうしょっぱい試合内容なんかであるわけがない。

両者の魔法は一撃必殺。

火が集合体となり炎となるように、炎が集合体となり焔と化す。物理的な質量を殆ど持たない筈の炎に太陽のような核が生まれ、相対する氷の塊と打ち消しあう。

氷属性魔法を使うモルトさんも、溶けた氷は水となりリングを濡らしフィールドを漂うことで氷結魔法を展開。リングを含めたフィールドを自分の有利な環境に書き換え太陽のような焔を扱うレオさんを迎え撃った。


結果……レオさんが勝ちを収めた。

お互い一歩も引かない攻防ってやつで、次やったらまたレオさんが勝つか?と問われれば難しいほどの僅差。辛勝ってくらいの表現が正しいのかな。

レオさんの左半身はもう凍って動かない状況になっているし、一瞬の判断で押し勝てたものの、その一瞬を誤れば勝敗は逆になっていたのはボクの目で見ても分かったくらいだった。


まぁライバルっていうくらいなんだから、やっぱり実力も拮抗してるんだね。


試合後、モルトさんが手を伸ばすと、レオさんがぱちんとその手を振り払った。

ううん……。あれって試合が終わって握手しようとしてたんじゃないのかな?……もしかしたら、ライバル視しているのはレオさんとマリアンヌさん側だけなのかもしれない。なんかモルトさん顔も穏やかで素朴なせいか良い人っぽいし、負けたことで悔しさを露わにしていることも無く、むしろレオさんとの試合に満足している表情だったんだよね。



まぁ、お互いの事情とか、お家柄の立場とか全然知らないボクがとやかく言う事でもなければ、立ち入るような話でもないんだけどね。


でも自分の株を貶めちゃうのは、残念に見えちゃったりも……するよね。









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