決勝トーナメントは進みます!
「あぁっ!運命とはなんて残酷なのでしょう……っ!!」
芝居がかったリアさんの実況が会場に響き渡る。
「生き別れの兄と妹……それが初めて戦場で出会ってしまう。それも敵としてっ!!」
「生き別れてもねーし、殺しあうわけでもねーから。」
相変わらずたんたんとした口調のリゥイさんが突っ込みをいれている。
「果たして生き残るはどちらなんでしょうか!?……兄は妹を守る事ができるのかっ!!きっと妹だとわかってしまったクオトは、こんなにっ!!可愛い可愛い妹には手もあげられず……苦悩の中解決策を模索し……そして妹の為に死んでいくのでしょう……。」
「試合で死ぬとかねーから。後何もしないとか、試合としてめっちゃつまんねーからやめれ。」
暴走気味のリアさんの実況は、そういうものだと受け入れられた会場で大いに盛り上がった。クオトさんに罵声のような応援が浴びせられ、たまーにいる人を疑う事も知らないような一般の人達が、リアさんの話を真に受けて同情の眼差しを向けている。
決勝トーナメント2戦目。
クオト・セレイオンvsミーナ・セレイオン。
家名が同じことで分かると思うけど、1つ違いの兄妹なんだそうだ。
確かにクオトさんと同じく、ミーナさんも紺色の長髪をしていて、こうやって対面で向かい合っている所を見るとちゃんと兄妹らしく似ている気がする。
クオトさんは好青年っぽく整ったお顔をしているし、ミーナさんもそんな面影があって美少女なのは確かだと思う。唯一違うのは、クオトさんの好青年っぽいって言うのにはちょっと笑みを浮かべた表情をしている所まで含めているんだけど、ミーナさんは真逆で眉間に皺を寄せていた。
「あはは、リアも面白い事を言うね。」
「アニキッ!今日こそはぶっ殺す!」
お、おう……。どうやらリアさんの妄想通りのような理想的な展開など一切無かったようで……。
おおらかな兄と、気性の荒い妹のようだ。
ミーナさんもお兄さんのクオトさんと同じような皮鎧の軽装を着ていて、カラーリングも一緒な所を見るとお家が用意してくれているのかな?2人の姓であるセレイオン家っていうのがどういう家系なのかなんて、ボクはまさか知るわけも無いし、そういう家系のお話はこの学園で知り合いに聞くと”えっ?”って顔をされるからとても聞きづらいしね。
「始めッ!!」
あちらの世界に行ってしまったままのリアさんから試合開始の合図が出されるのを待っていた審判の先生が、余りに帰ってこないのに待ちかねて試合を開始させた。
試合の開始と同時に、兄妹が右手を横に掲げる。
クオトさんの右下には黒い渦が。
ミーナさんの右横の空中には白い渦が。
巻き起こる。
一瞬でぱっと2人の右横に現れたのは、騎乗用のドラゴンだった。
クオトさんの横にはかなり大きな地竜が。
そしてミーナさんの横にはクオトさんよりも一回り小さい飛龍が召喚される。
地竜は2足歩行型のティラノサウルスのようなフォルムをしていて、飛龍は羽を横に広げたプテラノドンのような感じ。あくまで恐竜で例えればの話だからそこまで似ているわけでもないけどね。
ボクがイメージしていた恐竜よりも、ゴツゴツとしていて鱗も厚そう。
2人の召喚した竜は、共通して皮膚を守る鱗を鎧のように格好良く纏っていて、その兜のような鱗から覗く眼も黄色で肉食獣特有の縦に細い瞳。
鱗の部位も、頭、胸から胴、拳、そして尻尾に厚く際立っていて、本当に鎧を着た竜のようでとても凛々しくて格好いいのだ。
「わぁ!何あれ!召喚獣?かっこいー!」
「セレイオン家は竜を騎獣として従える竜騎士の家系だからな。クオトなんかは珍しい地上竜騎士だ……ってお前もしかして試合見てなかったのか……。」
思わず口にしてしまった問いに、控え室の中では基本一緒にいてくれるリンクが答えてくれた。そういえばクオトさんはリンクと同じ予選トーナメントでリンクを倒して上がってきた人だった。リンクの試合を見てなかったのはバレたけど、ボクだって試合してたんだから仕方ないんだよ?
クオトさんが地竜に跨り、ミーナさんが飛竜に飛び乗ると、一定の距離をとって竜同士がにらみ合う。
「グアァァァァ!!」
「クアァァァァ!!」
鳴き声の太い方がクオトさんの地竜だね。
バサバサとミーナさんを乗せた飛竜が地上から飛び立つと、一定の高度を取った所で空を舞い始めた。かく乱するように、背後を取るように空を飛びかう。
クオトさんはと言うと、自由に飛び交う飛竜を視界に追うわけでもなく。
地竜も開始位置からずっと前を向いたまま。
普通、空と陸の戦いなら自由に動き回れる空の方が有利だよね?
空には3次元の移動方向があるし、何より重力が地面方向に向いているので物質的な重量のある物は基本空に行けば行くほど重力の影響を受けて威力も精度も落ちるのに対し、空からの攻撃は重力の分加速度が増すことで、結果威力も増すわけだし。相手は2次元的な回避手段しか持たないわけだから命中・回避の方法もかなり有利。
なのに、その優位を捨てミーナさんがクオトさんに向かって背後から一気に滑空して距離を詰めた。
いつの間にか手に持っていた槍をクオトさんに向けて一気に突き刺す。
……なんていうか殺気が尋常じゃない。
兄に向けて試合でやるような動きじゃなくて、本当に殺しにかかってない……?あれ。
流石にあそこまで殺意が漏れていれば視界内にいないことなど関係ないのか、地竜の尻尾がミーナさんの槍をはたき返した。
攻撃の実らなかった飛竜が、また高度を上げようとするが……。
「クアァッ!!」
いつの間に放ったのか、飛竜の尻尾の付け根に矢が突き刺さっている。
そういえばクオトさん、魔法種禁止トーナメントの決勝で弓を壊されてたけど、綺麗に治ってるんだね。魔法が使えるトーナメントではもちろん次元収納なんていう便利なものだって使えるので、これ見よがしに装備なんか装着してリングに上がってくることはまず無いから気付かなかったんだよ。
「ガァくんっ!!」
ミーナさんが攻撃を受けたことに気付くと、すぐさましっぽに刺さっていた矢を抜き治癒魔法を掛けたのか一瞬で傷がふさがった。
竜も人間と同じ赤い血が流れているらしい。
強引に引っ張ってから傷を治癒するまでに流れた血がリングへと降り注ぐ。
不良少女みたいなガンの飛ばし方をしている割に可愛い名前の騎獣を巧みに操作し、一瞬たりとも空で停滞を選ばないミーナさんが、正直当たれば洒落にならない強さの魔法をお兄さんであるクオトさん目掛けて放っては距離を取る。まぁちゃんと規定通り殺傷性は抑えられているんだろうけど、この大会の基準はかなり曖昧。直ぐにわかってしまうような規定違反でもない限り止められる事はないようだ。
刃のつぶれていない武器を出したりとかね。
ガァくんという名の飛竜も、口から炎を吐き出しながら攻撃に参加していた。
それでも受け流すだけで、空の優位を取られているとは微塵も感じさせないクオトさんとその地竜の立ち振る舞いは見事の一言。
いつ射ったのかわからない矢が、いつの間にか飛竜をとらえ、できた傷からまた赤い雨が降り注いでいく。クオトさんもさっきの試合を見ていたのだ。別に気を抜いているわけではない。無駄に地上を走り回ったところで何も変わらないのだろう。
「くぅっ!!このままじゃいつもとっ……。」
睨み付けるような眼光に、次第に弱気な顔が映り始める。
決着を急いだミーナさんが距離を詰めた。
待っていましたとばかりに振り返るクオトさんの顔が……。
兄が妹を憂うような顔だったことだけが記憶に残った。
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