なんだかんだ押し付けました。
「はいっ!皆さ~ん!おはようございます!!今日も元気に午前の司会進行は私っ!リア・ウルベルクが勤めさせていただきますっ!!……ん~、ここで悲しいお知らせがございます。朝一番で申し訳ないんですが、皆さん掲示板はご覧いただけましたでしょうか~?」
リアさんの朝から元気な声が、学園内に響き渡る。
昨日とは違い隣にシルの姿は無く、その代わりリゥイさんがちょこんと座っているのが見えた。司会進行席から顔半分だけが覗いている背丈。逆に小さすぎてわかりやすい。
リアさんの問いかけに、殆どの人がその掲示板に目を通したのであろう会場内にいる観客席がざわついている。掲示された内容が内容なだけに信じられない人が大半なんだろうし、信じられたとしたら今、こんな事をしていていいのかと言う焦燥感に駆られるのは間違いない。
掲示
本国グルーネはロト・エリュトス・フリージア・カルセオラリア4国の情勢悪化による戦争勃発の危機に面し、第一種戦時警戒態勢への移行を発令した。それに伴い、開催中の第86回王都魔法学園 賢聖祭の開催を本日付で凍結とする。延期もしくは中止の確定は戦後に通知。賢聖祭の凍結と共に学園機関による講義期間の見直しも行われる予定。各自連絡を確認のこと。学園祭実行委員会・生徒会・学園理事会
まさかこんなに素早く戦時警戒が発令されるなんて思わなかった。
昨日の今日で、朝には告知が国中を巡っていたんだからすごいよね。もちろん時間的にまだまだ周知には到っていないし、地方には連絡すら行っていないだろう。
ちなみに詳細は国が発令している情報板などで確認ができるけど、そんなのいの一番に朝起きて登校してきた学生が確認しているわけもないし、一般のお客さんだってそうだと思う。あ、もしかしたら王都の掲示板のあるような施設では大騒ぎになっているかもしれないから、王都を通ってきた人は知っていたかもしれないけどね。
「残念な事に、まだ今年のモンスターパレードの脅威に続いていたエリュトスからの侵攻が終わっていなかったどころか、他の国を巻き込んだ大きな戦争になりそう。との事ですね!とは言え戦争が起こりそうなのはフリージア・カルセオラリア国とロトの東方あたりと言う事で、今の所グルーネには関係ありませ~ん!今日でとりあえず学祭は一旦終わってしまいますが、だからこそ!!今日くらいは楽しんでいきましょーーーねぇ!!」
おおーーー!
なんて声もちらほら聞こえはするけど、昨日ほどの盛り上がりは見せなかった。
とは言えリアさんも上手いもので、エリュトスの侵攻と聞けば皆”なんだ例年の戦争が続いているだけか”なんて思ってしまうもの。ざわついていた観客席が一気に落ち着きを取り戻していく。
この学祭は武道会に参加したり観戦している人がすべてではない。
学園内でブースを出している人や、武道会なんかに興味のない学生や一般客だってそれなりの数はいる中、リアさんの声は学園中に届いている。学園にいた人達が一旦落ち着けたのは事実だろう。
そもそも詳細の情報なんて一切まだ開示されていないし、開示されていないどころか王都で協議が開かれるのも今日これから。シルはそちらに参加しなければいけないので今日はここにはいないわけだ。……うん。なんだか可哀想だけど、国の一大事には違いないので仕方ない。
正直な所、リアルタイムで一番詳細を知っているのはボクだったりする。
そのボクがここにいるって事は、そこまで急を要する話ではないってことだったり、まぁ情報が早すぎて信用性の問題なんかもあったりね。国の中枢部の人たちからしても、ロトとフリージア・カルセオラリアが戦時中なんていうのは常識の範疇で今に始まった事ではないわけだし。
じゃあなんで皆が気にしているのかといえば、そりゃ国が警戒令を出したら何かあるんじゃないかと怖がるのは当たり前だし、エリュトスと言う名前がそこに連なっている事に不安を感じてしまうわけだ。エリュトスとグルーネが戦争している事なんて、グルーネ民であれば誰だって知っている。つまり、もしもエリュトスがロトvsフリージア・カルセオラリアの戦争に介入した事で均衡が崩れ去り、ロトが負けるなんて事がありえてしまえば、エリュトスと戦争をしているグルーネが次に巻き込まれるんじゃないか?なんていう想像は簡単にできるわけで。そりゃ不安にもなって当たり前というもの。
ただ単純に、国が準備する期間というものが必要なのであれば、このタイミングでボクはせめてシルには報告しなければいけなかったし、それを重く受け止めたシルや王様が即日の内に国民に発令したわけだ。
実際今日明日でフリージア・カルセオラリアが大規模な戦争を始めようとするのは確かだけど、その対戦国は主にロトとなる。しかも単純にフリージア・カルセオラリアが同盟国として共闘したとしても、時世の流れからすればロトに軍配が上がると予測される程、ロトの軍事力は高いわけだからそこまで問題があるとも言えないし、問題があるならばこうなる前に友好国であるグルーネにロトから救援要請が届いていたとしてもおかしくないのだから。例えエリュトスが対戦相手国に加わり同盟国が増えようとも、ロトとの戦争を継続したままグルーネにまで軍を分割して侵攻してくるとは、とてもじゃないけど考え難い。
つまり、グルーネには一定の準備猶予はあるし、見守るしかない段階なのだ。
ただし、もしも万が一ロトが落ちてしまえば次はグルーネとなるのはわかりきっている事。このまま静観していることなど許されるはずも無いし、そもそもロトはお隣さんで友好国なのだ。何も救援要請がないから助けないなんて選択肢は元から無いわけで。
まぁそんな会議が王都にて、今日これから執り行われていくのだろう。
そりゃ各地にいる貴族や騎士を集めなきゃいけないわけで、それだけでもどんなに急いでも数日間から数週間は要するだろうから、実際国の方針が決まって動き出せるのには少なく見積もっても十数日は、遅くなれば月単位でかかることにはなってしまう。
ボク達は学生である。
今すぐに動かなきゃいけないので無いならば、今日くらいは皆が頑張って準備してきた学祭を楽しんでいたっていいんじゃないですかね?
まぁ、ボクなんかは何もしてないですけどね?
そんなこんなで、今日の内に学祭中に色々出そうと思っていた人は展示やら研究発表やらをやりきらなきゃいけないって事で大忙し。
武道会の会場も一番のメインである全兵種系トーナメントの決勝はちゃんと執り行われるし、研究員の先生たちとしては本来であれば研究会で大々的に発表する予定だった研究成果を個展のような形で発表しなきゃいけないし。何より可哀想なのは競技会が全面カットされてしまった事だ。競技会の方に賭けている生徒だって少なからずいたはずなんだけど、戦争警戒が解除されるのがどれだけ先になるかなんてわかるはずもないのだから、学祭が再開される可能性は限りなく低い。
とは言え学祭の後半が完全に中止と決まったわけでもない。
もしかしたらロトが戦争でさっさと完勝してしまい、グルーネは警戒するだけして警戒損をくらうかもしれないのだ。警戒損って言ったって、そうなってくれる事が一番望ましいんだけどね。
まぁでも、そうなればもしかしたら学祭の後半だって延期されるだけで開催されるかもしれないからね。学園の運営自体は、そこまで戦時状況が切迫してこない限りは細々と開園している予定らしいし。まぁでも、戦争準備ってことは少なからずフラ先生のような上級冒険者の一部や、上級爵位や騎士位を持つ学園の講師陣には警戒発令により召集がかかるから、講師がいなくなっちゃって講義が出来ないって所が少なからず出てきたりもする。
「それでは皆さん!ご覧下さい!」
リアさんの元気な声が木霊し、リング中央に浮かんだ魔法モニターに選手の名前が映し出された。
16人の予選トーナメント通過者が羅列されている。
Aトーナメント1位:マリアンヌ・ゼストメイア(3)
Aトーナメント2位:リエス・ルヴィナーク(3)
Bトーナメント1位:ガルド・ガイスト(3)
Bトーナメント2位:ミーナ・セレイオン(2)
Cトーナメント1位:クオト・セレイオン(3)
Cトーナメント2位:リンク・イオ・グルーネ(2)
Dトーナメント1位:フェルト・ディア・エリン(3)
Dトーナメント2位:アデン・リオーニィ(3)
Eトーナメント1位:ヴァン・クライベルク(3)
Eトーナメント2位:モルト・レヴァント(3)
Fトーナメント1位:レオ・オルニラクス(3)
Fトーナメント2位:アニエラ・リキシス(2)
Gトーナメント1位:レティーシア(1)
Gトーナメント2位:ヤシロ・ヤガミ(外)
Hトーナメント1位:セレネ・ルナ・ラゴス(3)
Hトーナメント2位:アンディ・グスト(3)
ふむふむ、なるほどなるほど……。
名前の横にある数字は学年で間違いなさそう。
今年は魔法種禁止トーナメントに2年生の名前が多く入っていたことで、分かり易くするため入れてくれたのかもしれない。……むしろ全兵種解禁に1年生とかいう表記がある事が原因なのかもしれないけど、それはおいておくとして。
なんにせよボクからすれば当たり前だけど上級生ばっかりだし、ほっとんど知らない人ばかりの名前を羅列された所で全く頭に入ってこないよね。
まぁ判るとしたら、リンクと……魔法種禁止決勝トーナメントに出てきてた人くらいなものかな。
リンクって全兵種解禁トーナメントではクオトさんに負けたんだね。
やっぱり魔法を使えない試合で強い人は、魔法を使えばもっと強いんだからある程度昨日見たような人の名前があるのは予想通りかな?う~ん、それでも予想よりは遥かに少ないか。
プレセアさんとかも絶対名前があるんじゃないかと思ってたんだけど、どこで負けたのか名前がない。そもそも出てないって事もあり得るけど。……まぁ魔法を使う場合、プレセアさんのように激情型の戦い方をするとかなりの確率で罠にかかったりハメられたりなんてするから、もしかしたらそういう所で付けこまれたって可能性も十分にあったりもする。プレセアさんなんて平常時はめちゃくちゃ静かそうな人なんだから、あのままの精神状態を戦闘へ持っていけたら相当強くなるんじゃないでしょうか?素人考えって奴なので、別にボクの頭の中からそんな発言を世に出す気はさらさらないし、面識もないボクが彼女の何を知っているんだといわれればその通りなんだけど。
次に、この16人で組まれたトーナメント表が映し出された。
左右に8人ずつのトーナメントで、16人なのでシードはもちろん無し。
1 マリアンヌ・ゼストメイア
2 アンディ・グスト
3 クオト・セレイオン
4 ミーナ・セレイオン
5 レオ・オルニラクス
6 モルト・レヴァント
7 フェルト・ディア・エリン
8 リンク・イオ・グルーネ
9 レティーシア
10アニエラ・リキシス
11ガルド・ガイスト
12リエス・ルヴィナーク
13ヴァン・クライベルク
14アデン・リオーニィ
15セレネ・ルナ・ラゴス
16ヤシロ・ヤガミ
決勝トーナメントは、各予選トーナメントの1位と2位が初戦で当たるように配置されているようだ。トーナメント位置はランダムみたいだけど、当たる相手は予選トーナメントの順位により決まっていたようで、お隣さんの予選トーナメントの1位と2位がどこも対戦相手として当たっているみたいだね。
番号は、トーナメントの左上から数字が振られていき右下が16番となる。
……え?
うわぁ。まさかボクの初戦の相手って……?
よろしければ、ご意見・ご感想お聞かせください。
ご評価・ブクマのワンクリックがとても励みになります。是非よろしくお願いします。
勝手にランキング様に参加しております。応援していただけるようでしたら、
勝手にランキングのリンクをぽちっとお願いします!1日1投票できます!
ブックマークのクリックはすぐ↓に!
ご評価いただける場合は、『連載最新話』の↓にスクロールするとアンケートが表示されています
是非よろしくお願いします!




