ボクは日常が欲しいんだけどなぁ。
「かっ……からぁっ!!!」
魔法種禁止個人戦トーナメントが終わり、一旦空く時間を利用して、ボク達はまたセト先生のお家のカレー屋さんブースに来ております。
と、言うのもシルをお昼に誘いに行ったら、いつものボク達3人と一緒にもう一人付いて来る事になり、学祭に出ている珍しい料理が食べたいなって話になったので、シルの大好きなカレーを食べに行こうってなったんだよね。
「ふふ。でもおいしいでしょう?」
「辛いよ!見た目も……ちょっと……ねぇ?皆は大丈夫なの?」
「はい。」
「うん。」
「……そ、そうなんだ……。」
まぁ、初めて見る人にはちょっとインパクトあるよねぇ。
そもそもボク達がカレーを初めて3人で食べに行った時、あまり躊躇することなく口に運べたのはボクが嬉々として飛びついていたって言うのが大きいだろうし。
シルはボクの特殊な知識に興味を持っているから、ボクがこの料理を知っているってなった時点で興味を持つだろうし、ボクが飛びついてシルが躊躇しなければ素直なイオネちゃんが一人ストップする事はあまりないわけだからね。
よほどの虫とかゲテモノでない限りだけど。
シルとリアさんは昔っからの知り合いではあるものの、それは貴族としての付き合い程度だったらしい。仲良くなったのはこの学園に来て実行委員会に入ってから。つまり最近なんだそうだ。
シルなんて言ってしまえば大公爵家の次期頭首。しかも現ラインハート家頭首である親から家督を譲るのだともう言い渡されている。ってことは、現第一王子であるリンクも次期王である事には変わりないけど、それでもまだ王様になるって明確に確定しているわけではない事を考えれば、この学園内にいる生徒の中で一番権力を持っているのはシルだって言っても、きっと皆納得するだろう。実績を見てみれば、そんじょそこらの当代貴族様なんかよりも、もしかしたら権力があると思われててもおかしくないくらいだからね。
こんな貴族しかいない学園でそれだけの権力を持っているシルからすれば、どちらかと言えばこの学園で面識の無い人のほうが珍しいわけだ。
まぁつまりシルは顔は広いけど、余りに優秀すぎるせいで貴族である学校に通っている同年代からは一歩引かれた場所でお付き合いされる形となってしまっていたのが貴族学校まで。
「にしてもシルヴィアちゃん。この学校に来てから雰囲気変わったよね。」
「……そうかしら?」
「3年前とはぜんっぜん違うよ?もっとツンツントゲトゲしてたもん。」
「そんなことないと思うのだけれど……?」
リアさんは3年生なので、貴族学校でも一緒だったらしい。
ちなみにリアさんは侯爵家でもかなり豪族として有名なお家の長女さんなんだそうな。家柄上権力を持つお家は学園生活中役員を任されがちなわけで、貴族学校の生徒会でも一緒だったんだって。
「シルヴィアちゃんに仲のいいお友達がいること自体びっくりだよぉ。」
「ちょっと。どういう意味よ。」
「だってそうでしょ?今までシルヴィアちゃんに近づいてきたお友達って、皆政治的な繋がりとか、損得で寄ってくる人ばっかりだったじゃない?それにうんざりしていたのは他でもないシルヴィアちゃんでしょ?まぁ私はそんなのあんまり興味ないから事務的なお付き合いしか今までしてこなかったけど~。」
「……そういう人が多かったのは認めるわよ。」
「いつも一緒にいる子なんて、今までいなかったじゃない?」
「へぇ、シルって意外と寂しい子だったんだね。」
うっ。
隣同士に座っているボクとリアさんが一度に睨まれてしまい、同じ位置でスプーンが止まってしまった。
「ぷっ。やっぱりレティちゃんとリアさんて似てますよね。」
「え!?そうなの?私こんなに真っ白かな?」
「いえいえ、外見のお話じゃなくて、中身の方です。」
「えー。」
「ちょっと!えーって何よ!私と似てたら嫌なの!?」
「……。」
「え!?ちょっと!?何か言ってよ!?っていうか否定して!?」
「確かに。ちょっと似てるかも……しれないわね……。」
こんなに4人でゆっくりしているのは、午後の魔法種禁止団体戦トーナメントの進行は実行委員の別の人がやるからなんだって。
それぞれの武道会トーナメント4種類で司会進行する委員会の人は決まっていて、リアさんもシルも今日はもう委員会のお仕事はないんだそうな。
「もうそろそろ武道会トーナメント団体戦が始まるわね。」
シルの呟くような言葉に、自然と3人の視線も会場のほうを向く。
意外と最初は文句を言っていた割りに後半は何も言わなくなりカレーを食べきった所を見ると、リアさんのお口にも合ったようで何より。
ちょっとゆっくり目に食事をしていると、もう午後の部が始まるくらいの時間になっていた。団体戦の決勝戦はどことは言わないけど1チーム棄権が出ているので、繰り上げが行われている。
個人戦を見てわかるように、上位陣の実力がかなり抜けているのもあって、いくら決勝トーナメントとは言え、初戦の1戦は力の差が出ているのは割と容易に想像がついた。
「見に行く?」
シルがボク達3人に話を振ると、リアさんは悲しげな顔を横に振った。
「ううん。私はやめておく。明日もやんないといけないし。」
いくらこの学園にいて、こういう争い事と隣同士にいる世界でも、戦闘や誰かが傷つく事に慣れている人ばかりではない。
むしろボクからすればリアさんの感性のほうが正常で、モンスターや人の血、ましてや死骸なんか見てもなんとも思わなくなりかけてきてるボク達のほうが壊れているんだとは思うんだけど。
「そう……。貴女達は?」
「私は……そうですね。どちらにせよ団体戦はそこまで知っている人が出ているわけではないので、この時間に学祭を回ってみてもいいかもしれませんね。」
「ボクはー、まぁフラ先生の研究室の先輩達が出てるけど、どうせ結果は見えてるんでしょ?あの団体戦。」
「まぁ、個人戦の結果を見たら明らかなのよね。」
そりゃそうでしょ……。
だって8強に残ってるうちのフェルトさん・ネロさん・プレセアさん・クオトさん・ゼノさんが同じパーティなんだもん。しかも5人パーティ……。何だよそれって感じじゃない?
まぁ、魔法能力はわからないけど、ネロ・ゼノが前衛でフェルト・プレセアが中衛、クオトが後衛の5人パーティ。もう理想形でしかないわけで。3年生の兵科強豪チームなんだって。魔法が得意な子は別に居るから、いつものパーティっていう訳じゃないらしいけど、同じクランなんだとか。
確かに1つのチームが突出した力を持つってのはある事なんだけど、これじゃあ余りに結果が見えすぎていて観戦したとしても5人のチーム力を見るだけの試合になるのは目に見えているよね。
まぁそう考えると、他の8強に進出したリンク・ティグロ・アニエラは2年生。
今年の2年生が軒並み1位のパーティ以外を抑えてきたってことは、2年生の代って実は相当強いんじゃないかってことが伺えるわけなんだけど。
「あ、そうそうシル。後でちょっと時間いいかな?」
「……何?あまり良い予感はしないわね。ここでは話せない事なの?」
「……ここで話してもいいけど……。」
そういいながらリアさんとイオネちゃんに視線を送り、シルを最後に見つめる。
「……多分、私に報告の来ている話だと思うわ。リアはこう見えても豪族の長女なんだから、このままリアに話を通しておくのもいいかもしれないわね。」
シルにはシルの情報網がある。きっとその話で合っていそうだ。
イオネちゃんを巻き込むのは、もうそこまで引け目を感じることは無い。むしろイオネちゃんだって内緒で色々やられた方が気分良くないだろうし、イオネちゃんは巻き込んでも後方にいてくれるありがたい縁の下の力持ちユニットだ。そこまで危険を伴うこともないわけだしね。
「じゃあ……ルージュ。」
「ここに。」
「うひゃ!?……え?誰?」
「もう出来てる?」
「はい。もちろんでございます。こちらを。」
突然現れた褐色美女に、リアさんがものすごく驚いているのを無視して話を進めると、自分のリアクションに対するリアクションがない事にリアさんが膨れてしまった。
まぁ、可愛いだけなんですけど。
「はい、シル。……あれ?ちゃんと4部あるね。」
「もちろんでございます。」
流石すぎますルージュさん……。
ボクは正直、毎日頭の中でルージュ達の報告は受けていたので現状は把握している。
3人が報告書を読み進めるのを静かに待ち……。
シルの顔が上がると、ボクと目が合った。
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