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決着。

「始め!!」


決勝なのにリアさんの掛け声は無く。

ぐだぐだの運営に見かねたのか、審判が自分の判断で試合を開始させた。


誰も文句など言えないまま決勝戦が始まる。


心配だった選手2人は、もうこんな展開慣れているのか気になど留める事なく試合へ集中している。

プレセアさんの雰囲気で集中しているかどうかなんてすぐわかるんだよ。

だって……ねぇ?


普段のプレセアさんの事なんて知らないボクが、こんな彼女の事を知っている様な事言っていいのかわからないけど、最低限会場外にいるプレセアさんは基本小さくなっている事が多い。言動もちょこちょこしていて可愛いし、礼儀も正しい。

なのに試合に集中しだすと、どこぞの女王様ばりに性格が急変するのだ。普段小さくなって猫背になっている時と真逆で胸を張り、顎が上がる。もうなんていうか、性格が変わるというかもはや2重人格だって言われた方が納得するかもしれない。




ガチャンッ!


プレセアさんのシザーレイジが乱雑に開かれる音がする。

次の瞬間いつものようにプレセアさんの姿が消えた。


ギンッ!


フェルトさんがシザーレイジの刃を受け止める音が続いて鳴り響く。


アニエラさんの戟を壊した時と全く同じ構え。

この後プレセアさんが刃を閉じ、武器破壊へと移行する流れが脳内に映し出される。


ガチンッ!!


描いた予測通りシザーレイジの刃が閉じ、フェルトさんの刃の長い槍の柄の部分がシザーレイジによって挟まれる……が、アニエラさんの時とは結果が違い、フェルトさんの槍は壊れる事無くシザーレイジもろともプレセアさんを押し返した。


ふっ……と閉じようとしていた鋏刃に加わる力が抜けると、そのまま踏み込んだプレセアさんが、開いたシザーレイジを槍に滑らせフェルトさんの喉下を突きにかかる。

斬るも突くも、挟むも放すも自由自在。

確かにあれは対峙する相手からすればものすごい厄介そうだ。


突く動作と同時に開いたシザーレイジがフェルトさんの槍をすり抜け、突きを避けられた喉を更に分断するかのように挟み込もうとする。


「っぐっ……。」


どうにか上体を逸らし首を引いたフェルトさんが後退。


……先によろめいたのはプレセアさんの方だった。

防具が壊されて開いているお腹を摩りながら後ずさっている。


プレセアさんの猛攻にばっか目が行ってしまい、フェルトさんが反撃した場面が全く見えなかった。でも明らかに何かはされたようで、防御の薄い……というより全く防御力のないプレセアさんの綺麗なお腹が、また青ずんで行く。


「ああっとぉ!!フェルト、女の子のお腹に一撃っ!なんと前の試合で壊された箇所を狙ってきましたね!!!極悪非道とはこのことかぁ!!」

「常道よ。」


「おおおっとぉ!?私の隣にも情がまっっったく無い!!冷たい子がいっ…………痛い!痛い!シルヴィアちゃんお尻抓らないでっ!!」


キッと睨……んでいるであろうプレセアさんの顔がフェルトさんを視界に捉える。

試合中はあの実況すら気にならないのだろうか。

ある意味すごい。




「……よっ!!」


今度はプレセアさんを見ていたところに、突然フェルトさんの体が現れた。

突然振り下ろされる刃の長い槍を左肩の上でどうにか受け止めるが……。


「んぁっ!」


受け止められた槍の柄が直角に曲がり、波を打つ槍の刃先がプレセアさんの背中を打ちつける。

そうなる事を知っていたのか、プレセアさんはダメージを受けること自体に驚いているようではないけど、ボク達からしてみたら何が起きたのか全くわからない。


突然槍が折れ、プレセアさんを打ち付けたかと思ったら、また槍が何事も無かったかのように真っ直ぐに戻る。


驚きはしなかったものの、背中を打たれ硬直してしまったプレセアさんの体を更にフェルトさんの左足が蹴り上げ……。プレセアさんの細い体が宙に浮き、地面を転がる。


「ああっ!プレセアちゃん!?」

悲痛なリアさんの実況とは真逆に、観客席からは黄色い声援が巻き起こる。


追撃に入ったフェルトさんの槍が、転がるプレセアさんの体を何度も捉えに突き刺さるが、間一髪。

顔の真横に突き刺さった瞬間、プレセアさんの両足がフェルトさんの体を持ち上げた。そのままフェルトさんはふわっと着地すると、プレセアさんも立ち上がる。


「女の敵!女の敵です!あのヤロウ!プレセアちゃんの綺麗なお顔をなんだと思っているのかーーー!」


実況が完全に私情丸出しだけれど、もう皆これはこういうものなんだと受け入れているようだ。面白がるプレセアさんファンの低い怒声が実況に乗っかり、フェルトさんファンが黄色い声でわーきゃー叫んでいる。




「!?」


突然、電流が走ったようにボクの体がびくっと反応した。

視界の端に数人、ボクと同じ反応をしている人が見受けられる。


もちろん原因はわかっている。


プレセアさんの眼帯が落ちたのだ。

眼が見えた瞬間、会場が異様な空気に包まれた。


「おっ、やっと眼帯外れたな。綺麗な瞳だ。」


フェルトさんの顔が引きつったような笑みを浮かべると、獣の様に睨んだままのプレセアさんのお顔が一気に赤くなる。怒っているのか照れているのか全くわからないけど。


「あっだめ!皆さん!魔法モニターは見ないで!!」


ダメといわれれば見ちゃうのが悲しい人の性って奴なのか。

リアさんのその絶叫に、モニターを見た一般の人達が泡を吹いて倒れ始めた。


あーなるほど。

あの眼……。


めちゃくちゃ綺麗だ。




魔法モニターに映された、まるで人形の様に綺麗な瞳が獣のようにフェルトさんを睨みつける。

確かにものすごい綺麗なんだけど、威圧感で今にも胸が押しつぶされそうな錯覚を覚える程。確かに何の耐性もない一般の人が見たら気を失ってもおかしくない。


「勝っ……!?っぐっ!!」


……?

なんでだろう?一瞬気を抜いたフェルトさんを開いた刃が襲い、そして真逆方向から閉じる刃がまた襲ってくる。

咄嗟にフェルトさんがどうにか回避すると、シザーレイジの持ち手であった部分が更に打ち付けられた。片手の持ち手を放し、片手で振り回す。シザーレイジ自体にものすごい重量があるのか、風を切る音が尋常じゃない。受けたフェルトさんの体が硬直し、イケメンの顔にプレセアさんの左拳が炸裂した。


吹き飛ぶフェルトさんの体に、容赦ないシザーレイジの連撃。

防御なんてかなぐり捨てた攻撃の嵐に、フェルトさんが往なせなかった攻撃で傷を増やしていく。


……攻め急いでいるのだろうか?特段眼帯が落ちたからと言って身体能力が飛躍的に向上するなんていう様な封印されていた力が呼び起こされちゃう系の事も起こりはしないようだ。

ただものすごい怒りは感じるかな?

試合が始まって変わった性格が、更に激変するとか誰が予想できただろうか……。


「あ……~~あ。プレセアちゃん怒っちゃったね。」

「……どうしたの?彼女。眼帯が外れたら突然動きが変わったようだけれど。」


激しい戦場に全く左右されない実況の進行具合が、ボク達観客の緊張もほぐしてくれる。


「プレセアちゃん、自分のお顔が嫌いなんだって。特にお目目が。それでいつも眼帯してるんだけど……。」

「え?どうして?正直びっくりする程綺麗ですのに。」


「でしょ!?もっと言ってあげてよぉ。自分のお顔見られるとすっごい怒るのよ。プレセアちゃん。自分の眼が獣みたいで怖くて嫌なんだって。まぁ当たり前だけど眼帯でいつも視界が無いわけだから、眼帯取った方がプレセアちゃん強いんだけどね。」


試合している選手のコンプレックスを暴露する実況って中々斬新すぎる。


「なんだ。実は彼女の眼には魔眼とかいう魔法の力でも備わってるのかと思っていたわ。だから魔法の使えないこの試合では封印していたんじゃないのね。」


なにその厨ニ設定。……ボクも思ってました。


「あるよ?」

「え?」


「魔眼?っていう名前じゃなかったと思うけど……なんだっけ?」

「え?それってまずいんじゃない?魔法使ったら反則負けよ?」


「ううん?だってマナ感知に反応無いから、多分ちゃんと抑えてるんじゃない?抑えてなければ爆発力があんな程度じゃないんだよ?」


次々に実況に暴露されていくプレセアさんの個人情報を聞きながら、リングに視線を戻す。


「抑えられないから眼帯してたんじゃないの……?」


「うん。だからさっきフェルトくん、一瞬これで勝ったみたいなドヤ顔して気を抜いたんじゃない?そのまま殴られればよかったのに。」


フェルトさんの心が抉られていくのをまるで現していくかのように、足場のリングがシザーレイジで抉られていく。プレセアさんの息を吐く間もないような猛攻に、2人が争っている周辺はもうすでに平らな部分が殆ど残されていない程の有様になっていた。

そんな中でもどうにか凌ぎきるフェルトさんと、防御する気なんてハナからないプレセアさんの体にも少しずつ増えていく傷痕。


……そんな試合も、突然あっさりと結末を迎える事となった。



バキンッ!!!


ものすごい音が会場から鳴り響く。


「「あっ。」」


実況席に座っている2人の声がシンクロする。


その視界の先には、仁王立ちのまま突然止まったプレセアさんの姿。

ぽっきりと刃先が両方とも折れたシザーレイジを、だらんと握りしめ……。


からん。


渇いた音が静まり返った会場に鳴り響いた。


「…………降参。」


か細い可愛い声が、魔法モニターに乗って会場を包み込んだ。

シザーレイジをその場に投げ捨てると、崩れかけていたリングにずしんと沈み込んでいく。


つりあがっていたプレセアさんの目尻が、ゆっくりと静かに垂れ下がっていく。

それを両手で顔を隠して、恥ずかしがるようにそそくさと会場から逃げていくプレセアさん。




「普通にすっごく綺麗だよね?」

「です……よねぇ?そんなにコンプレックスなんでしょうか?」


思わず本心がいつものごとく口を吐いてしまうと、隣のイオネちゃんからも同意が返ってきた。確かに黒目が獣のように鋭いけど、すごい綺麗なんだよ?どちらかというと怖いのは、プレセアさんの目じゃなくて、戦闘中の雰囲気の方じゃないでしょうか……。


プレセアさんの殺気にあてられたのは、本当に何の耐性もない一般の人が数十人。観客席に救護の先生が数人介抱に回っている。




「ってことは……?優勝は!?……フェルトくんでーす。……はぁ……。拍手ー。」


尻すぼみの司会に、凌ぎきったというだけで満足に立てないフェルトさんがリングの上で寝転がった。呼吸が荒いのが、魔法モニターを通さなくても分かる。

優勝したフェルトさんが魔法モニターにドアップで映ると、悲鳴と息を飲む声が聞こえた。


切り傷と打撲痕でボロボロの体。

防具の金属は剥がれ落ち、流れた血が肌を赤く染める。


「お~い、フェルトー。優勝だぞー。」


リゥイさんがボロボロのリングへ上がると、優勝インタビューに駆けつけた。小さいながらも手を貸し、フェルトさんを起こしてあげる。

フェルトさんの目の前にマイクが差し出されるが、声も出せないのか応答はしなかった。


「はい!と言うことでヒーローインタビューでしたぁ!いやぁプレセアちゃん、あと一歩でしたねぇ。」

「……武器が壊れても、素手でいけたんじゃないかしら?現状お互い致命傷になるような攻撃は受けていなかったし、どう見てもプレセアさんのほうが押していたじゃない。」


「う~ん、というか多分だけど、プレセアちゃんこれ以上お顔を晒すのが耐えられなかったんじゃないかなぁ。あの武器って扱いが難しいから、少しでも雑に扱うとすぐにああやって折れちゃうんだけど……そのタイミングで素に戻ったと言いますか……。」

「勿体無いわね。勝てる試合を捨ててしまうのは……。」


「まぁ、私としてはフェルトくんがボコボコにされているのを見てて爽快すっきりだったのでよしとしましょう!!」

「リア……。可哀想な子。」


「……うっ。年下に哀れんだ目で見られる程哀れな事はないよぉ……。」


フェルトさんの周りに救護の先生が駆け寄って、治癒魔法を掛けている。



「それでは!!第……何回だっけ!?武道トーナメント魔法種禁止単騎戦、決勝トーナメントはこれにて終了!優勝はフェルト・ディア・エリンでしたぁ~~!!では皆さん、お昼を過ぎたら団体戦が始まりますよぉ!!そちらもお見逃し無くっ!!」


「じゃ、おつぅ。」


ヒーローインタビューもままならないまま、リゥイさんもリングから退場していった。



…………。


なんていうかね?多分なんだけど。

プレセアさんが使っていた試合用のシザーレイジって武器の素材。あの黒い奴。あれって多分黒天鋼だと思うんだよね。ボクの防具に使われているというか、使ってくれた金属なんだけど。あれを素手で振り回して折れるって一体どんな力なのよ……。





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