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魔法は攻撃の手段なんかよりも……。

「ネロ!!……っ早くっ救護班入って!!」


リアさんの悲痛な叫びが会場に響き渡ると、慌てたように救護の先生達がリング上へと駆け上がった。

……さっきの試合から2試合連続。凄惨という程ではないにせよ、それでも”試合”と呼ぶにはちょっと行き過ぎている結果が続いている気がする。

これがこのトーナメントでは当たり前なのかな?例年の熾烈さを知らないからちょっとわからないけど……。それでもシルの落ち着きを見ているとそこまで珍しい事ではなさそうなのかも。っていうかまぁ全兵種解禁トーナメントの方が明らかに危険度は高いだろうしね。


リアさんが優しすぎるのかもしれないし。

まぁそれが普通の反応だし、いいことだと思うけどね。



試合は審判の采配で止められるし、流石に腕が千切られちゃえば誰だって止めに入るよね。だって出血多量でいつどうなってもおかしくない状態なんだから。

腕を犠牲にさえしなければ、プレセアさんも相当辛そうだったから、もしかしたら戦闘続行不可能で結果はもしかしたら逆転していたかもしれない。でも、腕を犠牲にしなければプレセアさんに渾身の一撃を撃つ事は適わなかったに違いない。




確かにボクは初めてのモンスターパレードと言う戦争を生き延びて、それなりに功績としても評価してもらった。あの時はまぁどちらかといえば後方支援だったし、近くにはシルの姫騎士隊というこの国のエース級の人達が近くに何人もいたのが大きかっただろう。

とは言えこの人達よりも遥かに危険なモンスターがあそこにはうじゃうじゃ居たはずなのだ。1対1ではないにせよ、リンクが重傷を負わされて、兵士の詰めていた砦がいとも簡単に落とされそうになるくらいには。


今更恐怖がこみ上げてくる。

相手の戦力を理解していなかったのは、ボクにとっては幸運だったのかもしれない。




いや……なんというか。

例えば、この試合シーンでボクが魔法を使って相手を殺さなきゃいけないよって状況だった場合。


正直なところ魔法さえ使えるのであれば殺せるんだとは思うよ?

もちろんネロさんもフェルトさんもプレセアさんも、ここから更に魔法と言う名の奇跡が上乗せされるんだから、もっと強くなるとは思うけど、そこはさして問題ではない。


試合だから難しいだけで、ボクの魔法は相手の命を奪うのには相当都合のいい類の魔法なんだから。


それに比べるとヴィンフリーデさんなんかは正直無理。こういう試合形式で向かい合う限り絶対に今のボクでは勝てないと思う。

あの人の本気の本気はまだ見たことはないけれど、次元境界を切り裂くことが出来て、次元魔法に対抗されてしまう時点で勝ちようがないから。ちなみに確実に把握しているわけじゃないけど、ヴィンフリーデさんは多分それが出来るんだと思う。買いかぶりとか憧れとか、そういうんじゃないけど……。


リンクがボクの設置盾(アンカーシールド)を切り裂いた、あの攻撃を見てから。

なんとなく確信はしているんだよね。あの人の近接格闘能力はもう1種の化け物だと思うんだよ。




そういう面で言えばそれなりに魔法という実力を伴っていたから切り抜けられたのかもしれないけど、自己評価で安心できるほどボクには戦闘経験なんてないわけで。


気を抜いていればボクも次の瞬間首を切り落とされてたっておかしくないって事に、平和の中に帰ってきて理解が追いついちゃった今、腕が切断される様を見て初めてボクに恐怖を教えてくれる。


”よかったわね。”


ボクが冒険者ギルドに初めて行った時、おじさん達に取り囲まれてすごい怖い体験をした時。寮に戻るとシルがそう言ってくれたことがある。


命をかける場面で初めて恐怖を感じるのではもう遅かったりするのだ。そういう場面じゃない安全な状況で恐怖を知れるって事はいい事だ。


そういう話だったっけ。

そんなシルの声が頭の中に過ぎった。




プレセアさんも救護班の人達に運ばれて行く。

内臓ダメージが相当酷いらしく、めちゃくちゃ苦しそうだ。立ち上がることはおろか、下半身に全くと言っていいほど力が入らないみたいで、蹲ったまま担架へと乗せられていった。

ネロさんは……神聖魔法で必死に繋げようとしている手を眺めながら、何を思っているのだろう。遠い目をしていた。

四肢欠損を神聖魔法で治すのはかなり難しい。とは言え今斬られたばかりで、斬られた先があるのであればほぼ確実に繋げる事はできるはずなのだ。

もし万が一治らなかったのだとしても、見たことはないけど次元魔法による復元固有魔法を扱える人っていうのが待機しているはずだからね。ネロさんの腕が治らない見込みはかなり薄いはず。


とは言えリアさんの動揺が会場を取り巻き、気持ちが伝播してしまっている。


「リア……リア!大丈夫?」

「あっ……え?……あ、はい……。」


「大丈夫?貴女本当にこういうの向いてないんじゃない?」

「……やっぱり、そうなのかなぁ。」


「いいわ。少し休んでいなさい。」


シルが明らかに体調の悪そうなリアさんを気遣いそういうと、素直にリアさんが実況席を立ち、とぼとぼとどこかへ抜けて行ってしまった。


「…………それでは会場の皆様にお知らせです。次の決勝は準決勝より連戦になってしまう為、30分の休憩時間を挟みます。30分後こちらからアナウンス致しますので、それまでご自由にして頂いて構いません。それでは30分後に。」


リアさんがちょっと元気の無い様子で実況席を後にしていくのが見える。

大丈夫かな?ボクとしては面識はないけど、ちょっと心配にはなるよね。


シルがリアさんを送る目も、そんな感情を映している気がするよ……。




「やっぱり、こういう場面は何度見ても慣れませんね……。」


イオネちゃんもあまり気分は良く無さそうだけど、一般客程ではないのはやっぱり戦争っていうものを経験している差だろうか。戦争時イオネちゃんが後半配属されていた救護部屋なんてボクが見ていた以上の凄惨たる惨状だったに違いない。……守れなかった命だってあるだろうし。


まぁとはいえ一般客の人達にも、こんな場面を見に来ている人だって少なからずいるわけで。喜んでいる類の人達もそれなりにはいる。

別に趣味が悪いとは言わないよ?だってそれがこの世界の日常なんだから。まぁそれを学生に求めてるって言う所は……たしかに。ちょっと趣味が悪いかもしれないけどね。


むしろこんな武道会なんて試合を好んで見に来ている人達なんだから、こういう場面には慣れている人も結構いるのか、そこまで会場は静まり返っているわけではなかった。


「でも、すごいよね。腕を落としてでも勝ちに行くとか。ボクにはちょっと真似できないかも。」

「あはは……でも、負けちゃいましたけどね。」


「惜しかったね。」

「レティちゃんはネロさんを応援してたんですか?」


「え?ううん。どっちの人も特に面識もないしね?しいて言えばアニエラさんを倒したプレセアさんが勝ってくれた方が、ボクとしてはトーナメントの性質上嬉しくはあるけどね……?」


「残すは決勝でフェルトさん対プレセアさんですね。どっちが勝つんでしょうか?」

「う~ん、わかんないけど、イオネちゃんはどっちを応援してるの?」


「私もどちらの方も面識はないのですが……。」

「やっぱりフェルトさんでしょ?イオネちゃん意外と面食いさんだからねぇ?」


「ええ!?な、なんでですか!?ごっ誤解ですっ!!」


え~?イオネちゃん突然お顔が真っ赤になっちゃって。

ボクは知っているんだよ?イオネちゃんがよく、こっそりイケメンの人達のこと目で追ってること。最近リンクには見向きもしなくなったけどね。


可愛いなぁもぉ。


まぁどちらかと言うと、フェルトさんの方がまだボクからすれば未知数ではあるけど、それを差し引いてもプレセアさんのあの武器と火力はやっかいじゃないでしょうか?

それにしたってこういう試合で決勝に残った2人の扱う武器が、2人とも結構珍しい武器っていうのも因縁めいた物を感じるよね。




「ねぇねぇイオネちゃん。お互い席取りつつ30分の休憩時間でおトイレとか行っておかない?」

「あ、いいですよ。私も行っておきたいかもです。レティちゃん先に行ってきてください。」


「いいの?じゃあ先に行ってくるね。」


休憩時間と公言されているせいか、めちゃくちゃ人が出歩いていて、どこも混雑している。

しょうがないので影から転移し、寮まで戻ってしまう事にした。

寮まで帰れば静まり返っているわけで、あの長い行列に並ぶ必要もないので大助かりだ……。あ……。こういう使い方はしたくないなぁとか昔シルと話した記憶が蘇ってきた。


……ま、使い勝手がいいんだからいいんじゃない?

女って大変よね。トイレの行列長すぎて。


っとと!こんな行列眺めてる場合じゃない。大変なのはイオネちゃんなのだ。早く変わってあげないとね!


「イオネちゃん!もどっ……。」


『主様。今お時間よろしいですか?』


「あ、レティちゃんお帰りー!」


突然脳内に響く声。

毎日報告は受けていたけど、直接時間を取れと言われたのは初めてだ。


「ご、ごめんイオネちゃん!ちょ、ちょっとおトイレ行ってくるね!」

「……?あれ?今行ってきたんじゃ……?」




『どうしたの?何か進展でもあった?』

『はい。ついに監視対象の動きが最終段階に入りました。』


『……最終段階ってことは、そういうこと?』

『はい。』


『どれくらい?』

『早ければ明日の夜か、明後日中には動きがあるかと。』


『うえぇ……。はぁ……もうちょっと学祭、楽しみたかったのになぁ……。ボクまだ皆と学祭っぽいことすらしてないのに。』

『申し訳ございません。わたくしめがもう少し調整を効かせていれば……。』


『あ、ううん!ルージュ達のせいじゃないからね!?……ちなみに、その詳細って文章にして報告書として作れる?』

『はい。もちろんでございます。……そうですね。シルヴィア様の好むような纏め方でよろしいでしょうか?』


『流石、わかってるね。』

『それでは、1時間以内にはおつくりしておきますので。』


『お願いね。』

『承知いたしました。』


せめて学祭が終わるまでは待って欲しかったなぁ……なんて。

そんなの相手からしたら関係ないよね。


「ごめんイオネちゃん!行ってきていいよ!!」

「??うん、じゃあちょっと行ってくるね。」


そう言ってイオネちゃんを送り出すも、混雑している中イオネちゃんが帰ってきたのは試合が始まってからだった。無駄に2度も席を外してごめんねイオネちゃん。


これからちょっと大変な事になるかもしれないんだけどね……。



まぁ、それを今伝える必要はないか。

めいいっぱい楽しんで貰った方がいいからね。

その方がボクも嬉しいし。



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