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え?ボクもしかして勝ち残らなくて良かったんじゃない……?

基本どの試合も開始されると会場は静まり返る。

なんかボクが思い描いていたような観客席からの熱い応援とか、黄色い声援とかが飛び交うような事はなく、どちらかと言うと息を飲むような静けさに包まれる。

もしかしたらこれが個人戦だからかな?団体戦とかだと色んな場面が行きかうから、そうなったりするのかもしれないね。


でも今回も例に漏れず。ネロさんとプレセアさんの試合が始まると会場は静まり返った。


むしろこの2人である事がもっと静かになる原因であるのかもしれない。激情だとか派手さよりも、静けさや優雅さといった比喩が良く似合う2人。

武器を持たないネロさんと、馬鹿でかい武器を持ったプレセアさん。

鍛えられた筋肉を持つ日焼けした褐色肌のネロさんと、細身で白い肌のプレセアさん。

女好きそうで社交性がありそうなネロさんと、あまり声を出してコミュニケーションをとろうとはしないプレセアさん……。


全く真逆で全然違うのに、纏う空気だけは2人とも同じようなイメージだ。




試合が開始されても、お互いすぐに動き出そうとはしなかった。

ネロさんは前の試合でもそうだったけど、基本受けからのカウンターを狙うスタイルなのか、両足両腕を広げ、またオーラの様な物を漂わせたまま微動だにしない。


それを眺めるプレセアさんも、距離を縮めるどころか肩に背負っていたシザーレイジを引きずるようにリング上へと下ろした。



がりがりがり…………。


大胆にもシザーレイジを引きずるプレセアさんが、歩いて距離を縮めていく。

シザーレイジの射程に入るとプレセアさんが乱暴に振りぬいた。今度は前の試合のようにネロさんの体をすり抜けること無く、ネロさんが左手1本でシザーレイジを受け止める。


すると次の瞬間、プレセアさんの左ストレートがネロさんの顔面を捉え、どうにかガードを滑り込ませたネロさんが数歩後ろに引いた。


「ふぃっ……やぁっぱプレセアちゃん相手じゃ分が悪いかぁ……。」


目を見開いてやれやれといった表情を作っているけど、前の試合ほど余裕は無さそうな気がする。わずか1分にも満たない間に、ネロさんの額には汗が噴き出ているのだから。前の試合では攻撃がすり抜けるように貫通していたのに、なぜか今回は全くそんな効果が見られないのは、きっとプレセアさんがネロさんの攻略法を知っているから。クオトさんも知っていたことから、3年生の間ではそこまで秘匿されたスキル?ではないのかもしれないね。


「ねぇ、貴方の腕、落としてもいい?」


突然拾われる可愛い声に全く似合わない内容。

観客の皆も流石にちょっと引いている。


「…………え?だ、ダメでしょ?普通に考えて。いいって言う訳ないよね!?」

「なんか貴方を見ていると黒い感情が湧くのよ。……間違えて殺しちゃっても後悔しない気がするの。」


「……いやいやいやっ!?ダメでしょ!?これ試合だからね!?死ぬとか死なないとかそういう場面じゃないよ!?」


プレセアさんの話し方がすごく静かなのが逆に怖い。

表情はわからないけど、普通に冗談で言っているような声のトーンでもなければ、唯一見えている口元すら笑ってもいないんだよ……。


カチャ……。


プレセアさんがシザーレイジを槍の様に構えると……


ヴン!!という音が会場中に響く。

ネロさんの顔の真横をシザーレイジが槍の一閃の如く突き抜けたのだ。

ちなみにネロさんが避けただけで、確実にシザーレイジはネロさんの顔……というか首があった場所を突いている。


ぶしゅっ。


一瞬遅れてネロさんの首筋から血が噴出した。

力を入れたのか一瞬で血が止まる。


「っゎぁ!!」


次の瞬間、いつの間に開いていたハサミの片刃が、ガシュン!という接地音と共に閉まる。今までそこにあったネロさんの首が間一髪で引っ込み、無理やり縮めた首が体のバランスを崩した。


がちゃん!!!


シザーレイジがネロさんが態勢を戻す前にリングに叩きつけられるように引かれる。

リングから跳ね返るように薙ぐシザーレイジが、今までそこにあったはずのネロさんの首をまた切り裂いた。


「……あ……。」


何人かの観客から声が漏れる。

またプレセアさんの攻撃がネロさんの首を斬る場面が見えた気がしたのだろう。

っていうかボクにもそう見えたし。


間一髪、刃のないハサミと首の間に腕を滑り込ませて受けたようで、ネロさんの首は繋がっていた。


「ま、まじで殺す気じゃねぇよな……?」

「……まじ。」


「お、おい!」


プレセアさんにわざと体を蹴らせて、その反動でハサミを抜ける。

ネロさんが今度は体をプレセアさんに対して横向きに。右側が前になるように構えると、オーラの色が赤っぽく変化した。




「ね、ねぇシルヴィアちゃん。私さっきネロくんの首、飛んだように見えたんだけど……。」

(わたくし)にも見えたわね。」


「これ、大丈夫なの?プレセアちゃんがあの武器振り回してる時点で、刃があるとか無いとか関係なくない?」

「こんな曖昧なルールでやってきた運営が悪いのよ?」


「……じゃあ全責任は運営委員長と生徒会長に押し付ければいいのかな?」

「……いいんじゃない?(わたくし)達には関係ないのだし。」


「で、でも流石に死人とかはまずいよぉ……。」


まってシル。そんな話実況で会場中に流してるの、本当に怖いから。

っていうか観客で見てる皆さんがそんな場面を想像しちゃってて洒落になってないよ?!


「大丈夫よ。首が飛んでも手は無い事はないのだし、それにそんなことが起きないように審判の先生がついていてくれるのよ?まさか、万が一にもそんなこと起きるはずが無いわ。」


……シルが更に審判員の先生達にも圧を掛けている気がする。

気がするってか掛けてるんですけどね。


「ふっ……っふっ!!……ふぅっ!!…………ってぇ!?くそっ!!」


ネロさんがプレセアさんの不規則な攻撃を間一髪で避けていく。


プレセアさんの踊るような攻撃で、刃を避けたと思ったらなぜか避けた先にはハサミのもう片刃。そして次の瞬間、避けたはずの刃が逆方向から戻ってくるなんていう予測のしようも無い不規則な攻撃の軌道と連続性。

避けきる事は適わず、追い詰められながら確実にネロさんが削られていた。


試合であれば刃がないからまだ受け止められる。でも、あれが本当に殺し合いだったら……?いくら肉体を強化できるとは言え、ネロさんの上半身が無くなっている姿を想像しそうでやめておいた。

というか、もしかしたら刃を潰してあるだけの他の人たちとは違い、丸い棒状のハサミになっているのは刃を作ったら危ないどころの話じゃないせいなのかもしれない……。


しかもあのシザーレイジって武器、接続されている支点を自由自在に離せるのだ。

どういう仕組みなのか。接続すらも自由自在。それがスキルなのかはわからないけど、挟み込んだと思った次の瞬間には2本の片手剣のように舞い、そしていつの間にか繋がっている2本の刃がまた、人体を切断しようと襲い掛かる。


……何あれ。怖すぎる。


ネロさんは魔法ではない人体強化っぽいスキルを持っている様で、たまに腕がシザーレイジに挟まれていても、キン!!という甲高い音がして切断までは到らずすっぽ抜けている。

切断まで到っていないだけで、腕には打撲痕や殺傷痕が刻まれ続け……。あんなのネロさんじゃなければ1度捕まった時点で腕の先なんか無くなってるんですけど。


刃が無くてあの威力じゃ、刃があったらどうなるの……?

どうしても想像したくもない悪夢が脳裏をよぎってしまう。


「くそっ……。」


次第にダメージを受けすぎて紫に変色したネロさんの右手が上がらなくなり、右肩から先をプランと下げている状態にまで追い込まれていた。左腕もまさか無事なんてことはなく、どう軽く考えても複数個所は骨折している。


しかも。

ネロさんが切り返しで攻撃している場面を今の所1度も見れていない。


相性が悪すぎるのだ。


ネロさんが素手や足で攻撃して、もしシザーレイジで受け止められたら……?

攻撃して伸びきっている腕を捕らえられてしまえば切断すらもありえるだろう。


「セット……。」


ネロさんが左腕を前に構えを左右逆に変えると、オーラの色が青く染まった。

あのオーラが何かしらのスキルなのは間違いない。

更になんとなくだけど、構えによって効果が変わるんじゃないだろうか。両手を広げて正面に構えている時のオーラは白かったし、右腕を前にしている時は赤かったし。


「ふぅ……。」


久しぶりにプレセアさんの可愛い声が会場に響く。


「もう終わりにしよ?」


ぞくっと。

寒気が奔った。


そう呟くたプレセアさんが、シザーレイジを頭の上に掲げバトンの様に振り回しだしたのだ。回転する鋏の刃が、プレセアさんの体を貫通するかのように綺麗に回転する。




プレセアさんの姿が、次の瞬間消えた。


バキン!


「っぐぅ!!」


今までで一番鈍い音が聞こえた。

既に上がらなくなった右腕でシザーレイジを止めると……


ネロさんがそのままプレセアさんの懐に飛び込んだ。


ザシュッ。


嫌な音が聞こえる。


パンッ!!


何かが弾ける音が聞こえた。


「っ!?」

「…………んぅっ……けほっけほっ……。」


飛び退いたのはプレセアさんだ。


たった1発受けただけなのにお腹部分の革鎧がビリビリに弾け飛び、プレセアさんのくびれた綺麗なお腹が露出している。見えている肌色が見る見るうちに青く染まっていく。


「んぐっ……あっ……。」


やっぱり体が細い分ダメージに耐性はあまりないようで、プレセアさんがお腹を抱えて立つ事ができないようだ。

そしてネロさんのオーラが跳ね上がり、殺気が会場を包み込む。


「ストップ!ストォップ!!」




引き込まれていた……。


観客の誰もが息を飲み、()()()()()を追ってしまっていた……。


審判がネロさんとプレセアさんの間に入り試合を止めた事で、ふと意識を取り戻したかのように現実に戻される。


「四肢欠損により戦闘続行不能!勝者プレセア!!」



……ネロさんの潰れた右肘から先が、リングの上に無残にも取り残されていた。




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