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こういうのって、なんだか慣れてなくて。

キン!!


という短い音は、何の音だったんだろうか。


お互いの武器が掠めた音なのか。

はたまたどちらかの武器が相手の防具を貫いた音か。


最後の一閃。


お互いに相手の攻撃を受けるなんて事は眼中にも無く、フェルトさんの鋭い槍筋とリンクの放つ横薙ぎの剣筋が交差した。




……結果は一目瞭然だった。


リンクの放った剣筋が、フェルトさんへ届く事はなかったのだから。


「そこまでっ!!」

「決着!!決着です!!早く!救護班王子の治癒をっ!!!」


リアさんの実況が珍しく慌てている。

そりゃ普通に王子の胸に槍が突き刺さってりゃそりゃ慌てるよね。


いつもよりも多いんじゃないかと言う救護の先生がリングへと駆けつけ、リンクの治癒を始めた。


ぐぢゅっ。

槍が引き抜かれ、大量の血があふれ出す。


あまりの光景に頭がついていかなかった観客側から、初めて息を呑む音がした。

膝をつくも、意識があるのであろう王子の姿に少し安堵のため息も交じりながら。


フェルトさんは、何も告げずにリングを後にする。




観客席からは悲鳴も、悲痛な叫びすら起きず。

静まり返った。


誰かの力が抜け、腰を下ろした音だろうか。

がたっという音が聞こえると、止まっていた時が動き出したかのように観客達が、いつの間にか立ち上がっていた腰を下ろし始めた。




「ま……負けちゃい……ましたね……。」

「うん……。」


「だ、大丈夫でしょうか?!リンク王子、槍が突き刺さっていましたけど!?」

「だ、大丈夫じゃないかな?あの程度ならすぐに治せるだろうし。」


ほっとイオネちゃんが息をつくのを見て、ボクも真似をする。

イオネちゃんだってあの程度すぐに治るであろうことは百も承知だ。

それでも、誰かに『大丈夫』って言って欲しい気持ちは、ボクにも理解できる。


リングの方へもう一度視線を移すと、応急処置を終えたリンクが会場の外へ運ばれていく所だった。


……そりゃ素人目に見ててもリンクがフェルトさんに勝てるとはボクだって思ってなかったよ?リンクとはそれなりにパーティ組んで一緒にクエストなんかに出かけてたりするわけで、ある程度実力を知っているつもりだし。

いくらいつもは魔法で身体強化しているとは言え、それなりに一緒にいたんだからある程度の実力までは分かっているつもり。つもりなだけかもしれないけどね。


逆に言えばフェルトさんの実力は、ボクからすれば未知数だったわけだけど……。

あの準決勝を見る限り、正直フェルトさんのほうが全然優位だと感じたのは事実で。結果それが覆る事はなかったわけだ。


むしろリンクはかなり善戦したんだと思う。

別にボクはこういう試合に詳しいわけでもないんだけどさ。そんなボクが感じるくらいあれだけ差があったのに、そこまで一方的な内容じゃなかったんだから。


「イオネちゃん。ボクちょっと……。」

「うん。行ってきてあげて。」


「すぐ戻るから!席取っといてね!」

「うん!」




居ても立っても居られない自分がいた。

ボクが駆けつけたところで何か変わるわけでもない。

むしろリンクからしたら嫌なのかも。負けた後でボクに会うなんて男の子からしたらやっぱり嫌だよね。


それでもなんとなく。

行かなきゃいけない気がして、走り出した。


本当は転移したいんだけど、この観衆の中転移を使っちゃう事がどんなリスクになるかわからないから。

人ごみを掻き分けて、選手用の救護室へ駆け込んだ。




ばたん!


意外に大きな音を立ててしまい、救護についていた先生が扉に顔を向けられてしまった……。

難しい顔をされたので、頭を下げて謝りながらベッドに寝かされているリンクへ近づいていく。


「何の用だよ……。」


顔はあちらを向けたまま。

こちらを向こうとはしなかった。


どうやら治癒はもう終わってるらしくて、穴の空いた防具が外れてベッドの近くに乱雑に置かれている。まだ洗い流していないリンクの血で真っ赤に染まった金属と革の鎧。治癒の先生も、貫通した傷が完全に塞がっているのを確認し終わり、細かい傷も大体回復できたのか。静かに席を立っていく。




がちゃん。




2人の他に誰もいなくなった部屋で、遠くから歓声が聞こえる。


「んー。落ち込んでるだろうから励ましに?」

「ほっとけ。」


「まぁまぁ。いいじゃん。」


ぺちぺち。


リンクが向こうを向いたままなので、何もつけていない素肌の背中が掛けられている薄いシーツから覗いている。

筋肉質で広い背中。思わず触ってみる。


「うわ、硬っ。ねぇ~なんで最後押してたのに、決着なんかつけるのに同意しちゃったの?そんな簡単に回復するようなダメージじゃなかったし、あのままじわじわと嫌らしくこ~!ね?行けば勝てたかもしれないのに。」

「……。」


べちべち。


強めに叩いてみるけど、何の反応もなかった。


そのままリンクの髪を両手でぐしゃぐしゃとかき乱す。


「うりゃっ!!」

「ぅぉい!何するんだよ!」


慌ててボクの手を振り払うけど、それでもリンクは向こうを向いたままこちらを振り向こうとはしなかった。


「……」

「……」


「ま、格好は……良かったんじゃない?」

「……。」


もう回復したようだし、別にお見舞いに来たわけでもない。

ボクはそのまま救護室を後にした。




「あら、レティ。きてたのね。」


部屋から出てすぐの帰り道、シルとすれ違った。


「あ、シルも様子見にきたの?」

「ええ。どう?落ち込んでた?」


「う~ん、まぁ……それなりには、ね。」


王子なのに傷はどうだったのかって聞かないのはシルらしい。


「シルは、お仕事の方はいいの?」

「……ええ。そうね。じゃあちょっと様子だけ見てすぐ戻ろうかしら。」


「ふふっ。シルの実況?解説?なんだか面白いね。」

「……面白くしてるはずじゃないのよね……。」


「ふふふっ。ま、頑張ってね!お昼になったら一緒にどっかまわろ!」

「はいはい。じゃ、ちょっと行ってくるわ。」


「は~い!」




シルが部屋に入っていくのを見送る。


スパァン!!


という音がすぐに部屋の中から聞こえてきたのを聞いて、イオネちゃんが取っておいてくれる席へと歩いて戻った。




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