実力差は時に凄惨に。
魔法なんて便利なものがあるせいで、ある程度の才能さえあれば比較的簡単に奇跡が起こせてしまうってのは正直、いいことなのか悪い事なのか……。
もちろん魔法を使うのに努力が必要無いなんて事は一切無くて、魔法を扱うだけでも色んな努力は必要。魔力量を伸ばすだとか、魔法効率を上げるだとか、魔法効果の研究をするとか……挙げたらそれこそきりが無いけどね。
努力すればした分だけ魔法っていう奇跡の効果は上がるし、起こせる奇跡の種類だって増えていく。増えていくけど、魔法という物が才能による部分が大きい事は否定できない事実であって、そこには才能の限界なんていうボーダーだってありうる。
一番最初に経験するボーダーは、幼い頃に魔法修練が出来たのか出来なかったのか。お金と時間がある貴族の子供だけ魔法が使える様になるって言うのが、今この世界で一番最初に訪れるボーダーの一つ。
そして、魔法が使えたとしても魔法適正なんていう物があるのはそのボーダーの最たる例だろう。適正が全く無い魔法は魔水晶に登録することすら適わない。
才能は等しく全員にあるけど、その才能の振れ幅は個別に違うのだ。
とは言え、事象を改変できる魔法という効果は偉大で、莫大な効果を発揮する。
それに比べて、スキルというのは発現するまでに膨大な努力と労力と時間とお金を必要とし、発現してからも更にもっとそれらを膨大な量、重ねなくてはならない分、人の一生程度の時間では一芸を極めるのに一生を費やしてしまうことも珍しくはない。その代わりに魔法とは違って、子供の頃に才能が固定化されてしまうわけではないから、大人になってから磨く事が可能だし、何より魔力を必要としないのが大きい。みんながボクやヴィンフリーデさん達みたいな魔力量を持っているわけじゃないからね。
魔法は良い。教会に行けば自分の適性がわかるんだから。
でもスキルには適正がわかるような手段などなく……。頑張って、頑張って、頑張ってきた結果……自分には頑張った分に見合うだけの才能が無かったなんて事を知ることも少なくはない。
さらにちゃんとスキルが取れたとしても、目に見えてそのスキルによる恩恵を受けることができたとしても、それはあくまで事象毎の効果が高まるだけ。事象を改変するほどの物ではない。
例えば土砂崩れが起きて、道に大きな岩が落ちてきてしまったとしよう。どうにかその岩をどかさないと先へは進めないような状況になったとする。
これをスキルで対処しようとした場合、その岩に物理的な干渉をすることになる。斬るのか、割るのか、はたまた動かすのか。
でも、これを魔法で対処しようとするのならば、それこそ幾万通りもの対処法があるのだ。
斬る事も割ることも動かす事もできる。
物質を変換して他の物に変えてしまうことや、岩の上やど真ん中を突き抜けて道を作ってしまうことだって出来る。
そんな便利な魔法なんて物がある中、スキルを磨き続けるという事がどれだけ辛い事なのかなんて言うまでもない。努力を惜しんではいけない。覚えられるかどうかさえも判らない。覚えれたところで終わるわけでもない。それなのにスキルにも魔法と同じく、才能という壁があるのだから。
人間誰だってつらい事を態々やりたいなんて思わない。それも先が見えないのなら尚更やりたくない。ボクなんか本当にずるいんだろうね。スキルが取れるまでの指標まで数値化できるんだから……。
……プレセアさんのあの華奢な体格が、本当にスキルによるものなのかなんてボクにはわからない。話した事どころか会ったことすらなかったんだから当たり前なんだけど。
でも、まぁそうであるという確信は持てる。
それがプレセアさんの纏う空気なのか、雰囲気なのかは……わからないけど。あの人が努力している次元が、ボクの知っている努力なんて言葉とは到底かみ合わないであろう予感。ボクの知ってる世界なんてものより、何倍も過酷な世界を知っているんじゃないだろうか。
「さぁ!準々決勝最後の試合が始まりまぁす!!私としてはお二人ともお友達なので複雑ではありますがっ!!両者さんとも頑張ってくださいね!!……それでは、試合開始ですっ!!」
「はじめっ!!」
リアさんの合図に合わせて、審判が試合開始を告げた。
アニエラさんが戟を構え、プレセアさんはシザーレイジを肩に背負ったまま……突然消えると、アニエラさんの前に突然現れて片手でシザーレイジを振りぬいた。
ガキンッ!!
咄嗟に戟で受けるも、振りぬく間に開いていた鋏のもう一方の刃が、今度は逆から戻ってくる。……あ、もちろん刃はないけどね?でも鋏だから刃のほうがしっくり来るでしょ?
バキン!!
と嫌な音が鳴る……。
「う、嘘でしょ?!」
アニエラさんの声が、魔法モニターに乗って聞こえてきた。
「あああ~~~っと!いきなり!いきなりです!!プレセアちゃんのシザーレイジの前に、アニエラちゃんの戟があっけなく折られちゃいましたぁ~~~!!!」
片刃を止めた先に、もう片刃が迫ってくることは読んでいたかのように避けたアニエラさんだったが、まさか挟まれた戟がそのまま潰されるとは思ってもみなかったのだろう。
プレセアさんが自分の方に折れて降りかかってきた戟の先端をシザーレイジで振り払うと、その隙にアニエラさんが距離を取る。
「アニエラ……。」
「何よ……。」
「もう戦う術はないでしょ?降参してほしいの。」
困ったような声でプレセアさんが呟く。
……うわ、声がめちゃめちゃ可愛いんですけど。
なんていうの?ああいう声をアニメ声って言うんだっけ?
いや、まぁ今はそんなこと関係ないか……。
「いきなり武器破壊とかする?!酷いじゃない!刃は付け替えてたけど、柄はお気に入りだったのに!!」
名残惜しそうにアニエラさんが床に転がった戟の残骸をちらっと確認するが、どう修復しても元通りにはならなそう。武器として死んでしまっている。
「簡単に壊されるのは実力不足よ……?」
「うっ……そうだけど……。くぅっ!!」
そういってまだ握っていた柄の切れ端をリングに投げ捨てた。
……そのままアニエラさんが格闘の構えをとる。
「……なんのつもり……?」
「私だってこんな簡単に負けを認めるわけにはいかないのよっ!!」
「腕が落ちても……知らないよ……?」
「その程度の事!!」
「綺麗になんて斬れないわよ?……こんな刃もない修練用じゃ、押しつぶされてぐちゃぐちゃになってしまうもの……。魔法でくっつくなんてこと2度と、ないわ……。」
「そ、それは……勘弁してほしいわね。」
そういうものの、アニエラさんが構えを解く事はない。
プレセアさんが右手を振り上げると、その先でシザーレイジがジャキン!!という音を上げて開く。
……一歩。
プレセアさんが一歩動いたと思った瞬間。
アニエラさんの顔の真正面にプレセアさんの顔がもぐりこんでいた。
しゃべっていた距離は、最低でも5mくらいはあったのに……。
既に振りぬかれているシザーレイジを間一髪アニエラさんがしゃがんで避けると、アニエラさんの上で刃がかみ合った金属音が鳴る。
「んぶっ!!」
その瞬間、プレセアさんが右足を蹴り上げたのだ。
下に避けたアニエラさんと、蹴り上げた足が見事に交差して顔を直撃する。
「うわぁぁぁ!クリーンヒットだぁ!!女の命でもあるお顔がぁぁ!アニエラちゃんは大丈夫なのでしょうか!?……えっちょっちょっ!!まっ!!!!」
蹴り上げられて仰け反るアニエラさんに対し、その真上で重なったシザーレイジを引きつけ……突き下ろす。
避けられるはずがない。
仰け反る先にいくら刃が無いとは言え、あんな武器が突き刺さったら無事でいられるはずがない。だって刃の向く先は正中線上……心臓なのだから……。
誰もが次の瞬間起こる凄惨な状況を覚悟した瞬間。
ガチン!!!
「そこまでっ!!」
審判の腕がシザーレイジとアニエラさんの間に入り、間一髪受け止めたのだ。
審判はもちろん魔法を使うことができるので、何らかの魔法で防御したのだろう。特段怪我をした様子は無い。……けど、もしあそこで審判が止めていなかったら?
最低でも生死を彷徨う大怪我は免れなかったんじゃないだろうか。
それくらい真に迫っていたし、だからこそ審判が止めに入ったのだから。
「よ、よかった……。」
リアさんの本気で安堵する声と、力なく席に座る音が会場中に響き渡る。
アニエラさんは意識を飛ばしたわけじゃないけど、そのまま仰向けに倒れこみ起き上がろうとはしなかった。
「……プレセア様、今の追撃は当てるつもりで?」
シルの声が実況席から聞こえる。
くるり、と華麗に振り返ったプレセアさんが、入場した時と同じようにおじぎして答える。
「先生が止めに入ってくれると信じておりましたので。」
「……そう。」
その会話を終えると、そのままプレセアさんがリング上から降りて行った。
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