遠距離武器ってやっぱり優位性があるよね。
先に動いたのはクオトさんだった。
背負っていたクオトさんの身長くらいありそうな大きな弓をさっと構え、矢筒なんて持ってないのにどこから出したのか弓を引く手には3本の矢。
真っ直ぐ平行に引かれた3本の矢が次の瞬間、ネロさんへ向かって飛んでいく。
特殊な弓の弦からは、あまり想像もしなかった高い音が場内へ鳴り響いた。
ネロさんはまだ一歩も動いてすら居ないどころか、目を瞑ったまま。
それでも矢は速度を持ってネロさんに襲い掛かる。
……はずだった。いや、正確に言えば襲い掛かったで間違いないはずなんだけど。観客の誰もが目を疑っている。だってボクも自分が今見た光景が信じられないんだもの。
矢が3本平行に。ネロさんの身体を捉えたと思った瞬間。
その3本の矢は何事もなかったかのようにネロさんを素通りし、何事もなかったかのようにリングへと落ちていき、鏃がリングに弾かれ宙を舞った。
意味がわからない。避ける素振りどころか目も開けていない。
確かにネロさんが今いる場所の、それも体の中央を3本の矢が抜けていったはずなのに。
ビチン!
観客の殆どが何故ネロさんに矢が当たらなかったのか。未だに理解ができていないまま、ただリングへと叩きつけられた矢に視線を泳がせていると、ネロさんのいたところから大きな音が聞こえた。
観客の視線が一気に戻る。
ネロさんが目の前で短剣を3本受け止めた音だったようで、片手の指の隙間に3本の短剣が刺さっていた。
……ゆっくりとネロさんの目が開いていく。
すべての短剣に塗られている液体の色が違うし、受け止めた反動でその毒が飛び散ったようで、ネロさんの顔や身体に毒々しい色の液体が飛沫になって付着している。どうやらさっきの音は液体が飛び散った音のようだ。
皮膚から吸収するような毒じゃないのか、それともネロさんが皮膚から吸収させないような何かをしているのか。全く体に付着している毒など気にも留めていない。
「ぃよっ!!」
ボク達からしたらネロさんがどんな方法で最初の矢を避けたのかとか、出ているオーラは何なのかとか、あんな液体でヌメヌメしていそうな短剣をどうやって指に挟んで止めたのかとか、そもそも矢は当たらなかったのになぜ短剣は受け止める必要があったのかとか……。訳がわからないことだらけだけど、そこは3年間同じ学園で修行してきた者同士。クオトさんは最初の矢や、投げた短剣が当たらない事など承知の上だったように次の行動に移っている。
いつの間にかネロさんの真後ろ上空に位置取っていたクオトさんの弓から、矢が居抜かれる。
またピィィィンという高い音が、楽器のように奏でた。
「う~ん……?あれってどうなってるんだろうね?」
「レティちゃんにも見えてないんですね……?」
「うん……。全然わかんない……。」
ネロさんが何かしら魔法で作られた虚像だとでも言われた方が全然信じられる。でも、この試合は魔法種禁止で、さらに審判の先生も当たり前だとでも言うように全く魔法を疑いもしていない。まぁ実際魔法を使えば場内に設置してあるマナ感知用の装置みたいなのに引っかかるらしいんだけど、もちろん感知なんてされていないわけで。
今度は後ろを向いたまま、ネロさんの体を矢がすり抜けたのだ。
角度がさっきよりも鋭角だったせいか、今度はネロさんの真正面に矢が突き刺さった。
いや、あの位置に突っ立っててあの位置に矢が刺さるって物理的に無理でしょ。そりゃ魔法が使えれば物理法則なんて捻じ曲げられるかもしれないけど……。それに順ずるような雰囲気があるのは、あのネロさんから出ている白いオーラだけ。もしくはあのジャラジャラ着けている首飾りか何かの効果なのか。そうなのだとしても、魔道具であれば魔力を必要としてしまうため、この試合では一発で失格になってしまうだろうけど。
分からない事は置いておくとしても、石材のリングに突き刺さる矢の方もどうなのよ。ちなみに鏃は大会規定により刃の形にはなっておらず、どちらかというと鉄の塊のような物がついているような感じ。とは言え刃として削られていないだけで、あんな速度で命中すれば、そんなの刃があろうが無かろうが突き刺さると思うんだけど、それはまた人の肌であればって話であって、石に突き刺さるってのはまた別の話のような気もする。まぁそれはどんな武器種でもある程度同じではあるんだけど、あれが一般人の足にでも刺さったら、骨すら破壊して貫通してるって言ってるのと一緒だよ?そりゃ相手も一般人じゃないけどさ。
でも鋭利になどなっていないような、そんなものが突き刺さるっていうのはどれだけの力を持って矢を射らなくてはならないのか。それも空中という足のついていない状態で……。
「げっ!!」
魔法モニターが声を拾ったのは、クオトさんの声だった。
ピシッという音がどこかから聞こえたかと思うと、突然ネロさんの体が消えたのだ。
今日みた試合での中で言えば、ゼノさんのような消え方に近い。
ってことは……。
まだ上空にいたクオトさんに視線を戻すと、そこには接近したネロさんの姿があった。右手を振りかぶり、クオトさんのどてっ腹を目掛けて振りぬく。
声を発したって事は見えていたんだろうね。
一瞬先に気付いていたクオトさんが、咄嗟に弓でガードするも……
バキンッ!!
と、そのまま弓をへし折りクオトさんの肋骨の辺りへネロさんの拳が突き刺さった。宙に浮いていてどうしようもないクオトさんが観客席の方へ吹き飛び、観客席と会場の間に張られている魔法壁に激突し、そのまま落下する。
「……っうべっ……くそっ!!」
自分で3mは飛んでいたんじゃないかと言う高さから殴られ、更に上に吹き飛ばされたのだ。魔法壁に衝突した時には倍の6mくらい上空に飛ばされていたと思う。そこから落ちれば当然落下ダメージもハンパな物ではないはずなのに、いつの間にか落下地点へ追撃に来ていたネロさんの攻撃をクオトさんが間一髪。すれすれで避けて距離を取る。
流石にダメージが無いわけがない。
かなりふらついていて、距離を取った先でクオトさんが片膝を突いた。
ネロさんはと言うと、クオトさんに避けられたせいで殴ってしまった壁の衝撃のせいなのか、そのまま硬直しているようだ。粉々になった壁の粉塵が舞い、埃がネロさんを包んでいる。
魔法壁が設置してあるのは観客席と会場の間だけ。観客席は会場からすれば5mくらい高い所にあるので、その5m分は普通の壁で魔法は張られていないのだ。もちろん観客席の目の前に張られているのは魔法の壁なんだから透明で、ちゃんと会場が肉眼で見える様になっているけど、透明とはいえそこに何かあるかな?くらいには認識できるくらいの透明度のものが張られている。
既に弓は真っ二つに折られてしまい使い物にならない。
クオトさんが名残惜しそうに壊されてしまった弓を捨て、懐から短剣を取り出した。短剣にしては刃の部分が長めで、長剣の半分以上はありそう。あんな物を懐に忍ばせてたら普通、すごい動き難いんじゃないのかなぁなんて思うけど、クオトさんの動きが悪かった瞬間なんて今考えてみても思い浮かばないからね。そういうものなんだろう。
未だに最初からちらついていた、装備の間に見えている武器が見える。ってことはまだまだ暗器を……見えてるものを暗器といっていいのかはわからないけど……持っていそう。
ネロさんが居るはずの粉塵が床に落ち晴れて行くと、ネロさんが発していたオーラによって粉塵が揺れているのが見えた。
会場が静寂に包まれている。
……あれ?シル……?実況のお仕事しなくていいの……?
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