ティグロ先輩の災難。
試合が終わった後のインタビューで、リンクは何故リング上の優位を捨ててまで下に降りたのかと聞かれた際、こう答えたという。
「その方が格好いいだろ?」
……。
流石に今回ばかりはボクもシルに倣うとしよう。
馬鹿王子……と。
結局試合結果は順当に終わり、1度の猛攻で攻め切れなかったティグロ先輩の攻め手が一瞬止まってしまった隙を見て、リンクの足がティグロ先輩の鳩尾にクリーンヒット。形勢は逆転し、そのままひっくり返る事は無かった。
とは言えティグロ先輩も完全に負けたわけではなく、最後まで倒れることなくリンクの攻撃を受けていたが、審判が止めに入る頃にはティグロ先輩の体中には打撲痕と殺傷がそこら中に出来てしまっていたらしい。魔法モニターに一瞬映し出されてしまったティグロ先輩の身体は、見るも無残な事になっていた。
「このような場であろうことか精神を乱し、泥仕合にもつれ込んだどころか……負けかけた相手を最終的に地力の差で勝ちまでもっていってしまうなど以ての外。それならば最初からキチンとやっていればこんなことにはなりようもないわけですし、相手であるティグロ様に対し失礼すぎるわ。最悪ですわね。0点」
「あはは……。」
実況席からは最後まで国の第一王子を罵る言葉が聞こえていました……とさ。
「リンク様、危なかったですね……。」
「流石にあれで負けたらちょっと幻滅だよ……。ティグロ先輩には悪いけど……。」
「さっきの試合同様ちょっとまだお二人には差がありました?」
「うん。ティグロ先輩も頑張ってるんだけどねぇ。」
「決勝の舞台なのに、シード選手ってすごいんですねぇ。」
「だねぇ。」
なんて話をイオネちゃんとしていたんだけど……。よく考えてみたら、ボクもこの後の全兵種トーナメントの方ではシード選手の扱いを受けてるんだよね……。つまりそう思われてるのであれば、下手な試合はできないってことだ。
「はいはぁい!!それでは、今回はリングの修復もないので、このまま次の試合に入るそぉです!皆さんおトイレ休憩とか大丈夫ですかぁ~!?私は行きたいですっ!」
「……早くいってらっしゃいな……。」
「じゃ、ちょっとシルヴィアちゃん実況お願いね?!」
「はいはい。じゃあ次の選手の入場です。拍手。」
……シルも仕事ならちゃんとああいうのやるんだね……。
まぁ戦時中なんかは年上しかいないような人達に命令を出してるわけだから、あの程度で恥ずかしがってなんていられないわけだけど……。
シルの淡白な実況にも拍手が沸いた。
次の試合はネロ・グラニオスさんと、クオト・セレイオンさん。
2人とも見たことはないけど、3年生だと思う。
この組み合わせから、トーナメント表の右側を勝ちあがってきた人達になる。ちなみにネロさんが第3シードの選手。両手を挙げ歓声に応えながらリングの上へと上がってきた。
うん。一言でこの人を表すのだとすれば、チャラい人。
男性にしては長めの、肩甲骨あたりまであるボサボサっとした濃い茶色の髪の毛。防具どころか上半身は裸。……まぁ肉体美は素晴らしいの一言だとは思う。
ただ、首から魔道具なのか飾りなのかわからない装飾をちゃらちゃらと引っさげており、武道をたしなんでいる人って皆日焼けするのか、健康的な焼けた肌とバスト部分から背中まで描かれた刺青が目立つ。
その刺青がなんか龍とか虎とかだったらボクの第一印象はイカツイだっただろうけど、そうじゃなくて腕には射抜かれたピンクのハートマークだの背中には大きな翼が描いてあり、格好いいというよりは可愛い。
この世界の美男美女率はどうかしてると思うけど、どう悪く見積もってもイケメンで、ワイルドさがある分、学生のイケメンというよりはダンディ寄りだろうか。今回準々決勝の舞台にあがった男の人で、フツメンなのはティグロ先輩くらいかな。ティグロ先輩だって普通の人達に囲まれてればいい方なんだけどね?でも何故かこういう日の当たる舞台に上がってくる男の人って、それだけで輝いてるからかイケメンが多いよね。
……あ、その理論だとティグロ先輩もイケメンか。じゃあ理論が間違ってるね。
ちなみにネロさん。武器を持っていない。
なんとなくだけど、拳法家って奴なんだと思う。まぁ武器を持ってなければそう思うのは当たり前なんだから推測にすらなってないんだけどね?所作というのだろうか。剣士と拳士では歩き方から構え方や重心なんかが違うから、割とわかりやすかったりする。まぁそれを見越してわざわざ間違った方に誘導し、有利に試合を進める人だっているだろうけど、ことこの学祭に至っては両名名の知れた戦士なんだろうし、今更そんなことをする必要がない。
次にリングに上がってきたのは、クオトさんだ。
皮鎧の軽装をつけていて、目に付くのは背中に背負った大きな弓だ。
軽装には様々な武器が所々に見え隠れしている。
見た目を一言で言えば好青年だろうか。
紺色っぽい短髪の髪の毛に、人のよさそうなお顔。
筋肉質な体つきではないけど、鍛えられた華奢なすらっとした体型。
軽装も地味で、派手な所は一切ない。
「よしっ!がんばるぞっ!」
リングへ上がると、右手を握り締めてそう呟いたのが、魔道モニターを通して会場中に拾われてしまう。
それを聞いた本人が、少し気恥ずかしそうにリングの中央へとそそくさと移動した。
2人がリングの中央で対峙すると、ネロさんが目を瞑り、足を蟹股に広げ、ゆっくりと両腕を広げていく。いかにも拳法家っぽい動き。
「……え?」
どうしてもその仕草が印象的で、目で追ってしまう。
どうやら観客全員がボクと同じく目を奪われている様で、全ての視線が今ネロさんに集中してるんじゃないかと思うくらいの中。
ゆっくりと動くネロさんの身体から、オーラのようなモヤが見えた。
マナではない。魔力を感じられない。
……なんなのかは判らない。気ってやつなのかもしれない。
審判の先生は兵科の先生だから、ネロさんから発せられる気のようなものにも驚くことなく。
「おっ。ネロ今日はやる気だしてんね~。」
「……あれは何かしら?魔力ではなさそうだけれど。」
「……さぁ?なんなんでしょう?」
「私に聞き返されても……。」
「とにかく!ネロはやる気だすといっつもああやって臭いみたいのが体からぷ~ん!ってするんですよ!!今回の大会では初めてだと思います!」
「にお……そ、そうなのね……。」
「……嗅いだ事はありませんっ!!じゃあお二人の準備も整った所で!準々決勝3戦目!始まりますっ!!」
「はじめっ!!」
試合が開始された。
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