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リアさんは3年生の先輩なんですよ?

試合開始と同時に戦闘が始まるのかと思いきや、少しの間時間が止まったかのように世界が静寂に包まれた。それまで聞こえていた黄色い声援も、観客のざわつきも一気に消えさり、2人を包みこむ神妙な空気だけが風となって流れていく。




カチャ……。


先に動いたのはゼノさんだった。

重そうなトンファーの剣身が持ち上がり……。


ブオンッ!!


風を切った。


それまでそこにあったはずのフェルトさんの上半身が消えているように見える。


そもそも試合が始まった時、2人の間には10m以上の距離があったはずなのに、ゼノさんの姿がぶれる様に見えたと思った次の瞬間。フェルトさんのいた位置からものすごい音が聞こえ、初めて会場にいた人達が気付き、観客の首が一斉に動く。


右手に持った武器を薙ぎ空を斬ると、そのまま遠心力を使って斜めに1回転し、左手の武器を自分の真上まで持ち上げる。上半身を後ろに反らして避けただけのフェルトさんに向けて、真上からそのまま振り下ろした。


「おっ……らぁぁぁっ!」


ドオオオン!!


もうなんていうか爆発音にしか聞こえない武器の破壊力。

それだけであの武器がどれだけ重いのかがわかるほどだ。


「うわっ!」

「きゃっ……。」


観客席から息を呑む音が聞こえてきた。

あんな衝撃、まともにくらってればひとたまりも無い。

しかもフェルトさんの持ってる得物はものすごく細いのだ。あんな武器であんな重量の攻撃を受けれるはずがない……。


リングを壊して巻き上がった砂埃が、一閃の光と共に一気に吹き飛んだ。


砂煙の中から現れたのは、ゼノさんが振り下ろした武器の上に乗るフェルトさん。

その腕から伸びている細い槍が、ゼノさんの首筋を貫いている。


「ひっ!」

観客が貫通しているように見間違えるのも仕方のないほど。


ゼノさんも間一髪。右半身を斜め後ろに反らして避けられた物の、首筋から尋常じゃない血が噴きだしていた。

フェルトさんに乗られた左手の武器を乱暴に持ち上げ追い払うと、ゼノさんが距離を取りつつ首筋に力を入れ出血を止める。真上に放り出されたフェルトさんが、華麗に壊れたリングの上に着地した。


ねぇ。あのまともに当たりもしなかった一突きでゼノさんの皮膚を貫いてしまうのであれば、それって刃が無いとかあるとかもはや関係ないんじゃないとか思うのは、ボクだけなのかな?

しかも砂煙があがってからフェルトさんがその砂煙を払う一閃まで、彼は一歩も動いていない。……つまりその場で突き出した風圧だけであの威力ってことだ。


ガチンッ!!!


ゼノさんの両手に持つ左右の得物が、ゼノさんの後ろ側で交錯し音を上げた。


またゼノさんの体がぶれる。

早すぎて目で追えないとか、これで身体強化の魔法を使ってないなんて正直信じられない……。というか信じたくない……。


ゼノさんが消えたのは2度目。と言うことは見るべきは……

フェルトさんの居る場所だ。


キンッ!


という短い金属音が聞こえると、ゼノさんと交錯するフェルトさんの姿が目に入った。

鋏のように両手武器の剣のような部分を交錯させているゼノさんの、その武器の作用点にフェルトさんの細い槍が挟まっている。折れる事もなく2つの刃を止めているのだ。


よく見れば作用点がゼノさん側に近すぎてちゃんと作用する前に止められてしまっているようだ。鋏のような効果がちゃんと発揮されていないのがわかるけど、それを一点で止めるとかどんな反射神経なのよ……。しかもあの速度に、あの馬鹿力を受けて細身の槍一本で。涼しい顔のまま。


フェルトさんが受けている槍を押し出し、そのままゼノさんを斬りつける。押し込まれたゼノさんが後ろに引くが、異常に長い刃がゼノさんの胸をそのまま切りつけた。




「……は、はやぁぁぁいっ!!皆さん追えてますかー!?私はぜんっぜん見えませんっ!!」


ようやく実況のリアさんが思い出したように言葉を発すると、観客席から息が漏れる音が聞こえた。皆が息を止めたまま、2度の攻防に魅入ってしまっていたのだ。


「シルヴィア様!これは今どういう状況なんでしょうか!?」

「見ての通りよ?」


「見ての通りだそうですっ!!!」


そんなやり取りに、試合においていかれている観客の大半がどっと笑う。

大半の人が、その攻防シーンすら追えていない。


「……フェルト様が圧倒的に優勢ね。さっきからゼノ様が攻めているけど全て受け流されてしまっているもの。」

「シルヴィア様見えてるんですか!?」


「端緒だけよ……。」

「流石っ!!流石うら若き天・才・爆・乳・美少女!」


「なっ!リア!?貴女何を実況で言ってるのよ!?」




ガチャン!


そんなやり取りを実況席で続けていると、ゼノさんが武器を落とした。どうやらトンファー型の魔導具の機構部分を捨て、後ろについていた大剣を取り出したようだ。

もちろん魔導具の機構部分はこの試合じゃ使えないから取り外されているはずだし、重量による攻撃よりも素早さを取る作戦かな?

鎌の様にギザギザと、削る形状になっている大剣が露になり、ゼノさんがそれを両手に持つ。その準備中だろうが、相手が何をしていようがフェルトさんが攻めに転じる気配は一切無いようだ。


ゼノさんの体がぶれる速度が上がる。

観客も見慣れたもので、フェルトさんのほうに視線を向けると、既に切り結ぶゼノさんとフェルトさんの姿。

ゼノさんの赤黒い大剣2本が乱暴に、それなのに優雅な軌道で連撃を叩き込む。

それをフェルトさんが、白い槍1本で弾き続けた。


観客席で見ているからこそわかる3つの武器の軌道。

赤い2本の軌道が、フェルトさんの体から相当離れた場所で弾かれて戻ってくるのだ。むしろ白く長い槍の軌道が、ゼノさんの体を這いずり回り、傷つける。


ぶわっという風が、フェルトさんの正面を吹き抜けると、突き出した槍が大剣の1本を弾き飛ばした。右手を突きぬかれ体勢を崩したゼノさんが、それでも左手に握った大剣を振り抜こうとすると、先にフェルトさんの右足がゼノさんの胸を……貫通した。……様にまた見える。


ものすごい勢いでゼノさんの体が後ろへ吹き飛んでいく。


「わぁぁぁぁ!これは一体何が起きているのかぁぁぁぁ!?」

「リア、貴女目で追えないのに何でこの仕事請けたの?」


「だってぇ!見えるような子達は全員武道会に参加しちゃうから誰もやってくれないんだもんっ!!シルヴィアちゃんがやってくれたら一番よかったのよっ!?」

「嫌よ。めんどくさい。」


2人の会話が放送に乗って会場中に響き渡る。

緊迫した試合会場と、気の抜けた実況席。


……まぁ緊迫しているのは、ゼノさんだけなのかもしれないけど。


ゼノさんが吹き飛びながら体勢を立て直し、咄嗟に身構えるもフェルトさんは蹴り上げた場所から一歩も動かないまま。


「くそっ!」


左手に残った1本の大剣を、利き手の右手に持ち替えると、中段に構えなおした。

2人の距離は開始の時よりも更に開いて、30mはあるんじゃないかと言う距離まで吹き飛ばされてしまっている。


三度(みたび)。ゼノさんの体がぶれる。直線距離にいて30m離れてやっと、その突進速度を目で追うことが出来た。ゼノさんが両手で持つ1本の赤黒い大剣が、綺麗な軌道を描きフェルトさんを襲う。……しかし、さっき2本ですら押し返された連撃は、あっという間に切り返されてしまい……フェルトさんの綺麗な白い槍が真っ直ぐゼノさんの正中線。心臓を貫いた。


「あっ。」

「あっ。」


ボクの声と、実況席で響くシルの声がかぶった。


ダンッ!!

べチン!!


という音が観客席の真下から聞こえる。

もちろん槍なので刃先は一番丁寧に潰してあるのだろう。もしかしたらゼノさんの防具もすごいのかもしれないけど、槍は貫通することはなく、先ほどの蹴りとは比べ物にならない速度でゼノさんが吹き飛び、観客席の真下にある壁へと激突したのだ。既にその手には、武器は握られておらず、一緒に吹き飛ばされたのか遥か彼方に転がっていく音がする。


重力に従い、壁から落ちようとするゼノさんの喉元を、白い槍が支える。

「ぐっ……。」


「そこまでっ!!」


……フェルトさんが開始位置から動いたの、多分最後だけだ。


審判の終わりの合図を聞き、観客席から一斉に息が漏れるのが聞こえた。


「けっっっちゃくですっっ!!!勝者!フェルト・ディア・エリン!!!いやぁ、終始全然私には試合が見えなかったんですが、シルヴィアちゃんどうだったの?」

「リア、呼び方が戻ってるわ……。」


「あ、シルヴィア様。どうでしたか?」

「……え、ええ。そうね。終始ゼノ様が攻め、それをフェルト様が受け流してカウンターの流れでしたわね。フェルト様、開始位置から動いたの最後だけですわ。」


「これで魔法使ってないとか、2人ともどんな運動神経してるんでしょうねぇ?」

「さぁ……?うちの騎士隊にも同じようなのが何人か居るけど……、あの人達同じ人類じゃないわよね。」


「シルヴィア様も同類ですけどねっ!!では、引き続き準々決勝2試合目が執り行われまぁす!……おっ!次は我が国の王子様!リンク様の登場ですねぇ!!」


そうリアさんが実況席で告げると、会場がわっと一斉に盛り上がった。

リンク意外と人気があるのかしら?


「シルヴィア様はリンク様と従兄弟ですが、応援してたりするんですか?」

「していないわよ。興味ないもの。」


「流石ぁ!王子に辛辣で有名なシルヴィア様ですねぇ!」

「ちょっとリア!そういう個人的なのは止めてくれる?(わたくし)もここから降りるわよ?」


「だ、だめだよ!シルヴィアちゃんがいなくなっちゃったらどうやって進行するのよっ!!」




「あはは、なんか司会の方とシル様、仲よさそうですね。」


イオネちゃんがリアさんとシルのやり取りでさっきから楽しそうだ。




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