数学のお時間?
1時間後には年も明けますね!
ちょうど年明けとタイトル回収がほぼ一緒になりました!
よいお年を!
200人は余裕で収容できるであろう、ひときわ大きな講義室。
あまり目立ちたくないので、後ろの隅っこに陣取っている。
端から、イオネちゃん、ボク、シル。それと、シルの横にアレク様もいた。
「あら? いたの?」
あたかも今気づきましたけど。という空気でシルがアレク様に言い放った。
アレク様は苦笑いしている。
シルは基本皆に優しい。それはボクたちに。とかでも、女の子に。と言うわけでもなく、男女隔てなく。老若男女に。
でもなぜか王子2人にはかなり辛辣だと思う。
いや、ボクも正直、第一王子様の方はなんとなくわかるよ? 手を焼かせられているんだろうなーとか、自由奔放な感じに振り回されているのが大変そうだなーとは思う。
けどアレク様はなんでだろう? 別に手がかかるわけでもないし、結構常識人だと思うのだけれど。
ボクが近づきたくないのは、単純にアレク様の追っかけ貴族嬢に目をつけられたくないだけで、そうでもなければ普通に友達として接したいんだけどな。ボクみたいな平民が王子様に友達とかだめか。
からからから。
講義室は、前側にドアと黒板のような大きな板があり、その対称側に扇状に3列の長机と椅子が放射線状に並んでいる。列の間と間が階段になっており、上っていく形状。
その扉が静かに開くと、魔法科の先生が3人入ってきた。体験授業の時によく見た元素・次元・神聖のそれぞれの先生だ。元素・次元は、男性で黒いローブを。神聖は女性で女性型の紺のローブを着ている。
「それでは、魔法科1限目、全体講義を始める」
元素の先生が話し始めると、残り2人の先生が大きな箱を準備している。
「皆さんもご存知の通り、魔法科最初の全体講義では、教会で使っているものと同じ自己ステータス管理魔法術式を含んだ魔結晶を皆さんにお配りします。さらに、毎年配るのは、この学園で集めたデータベースを更新したもの。つまり教会よりも最新式で、国の重要機密ともとれる情報が入力されているため、素のままの持ち出しを禁止する理由で、この場で1人ずつ血約をしていただきます」
血約とは、血の契約のこと。魔結晶は自分の血を用いて契約し、鍵をかけることで自分にしか扱えないようにするのだ。
この場で当人にしか扱えなくなったことを、先生に示せということらしい。
「ねぇねぇ、シル。もしあの魔結晶が素のままエリュトスにでも渡っちゃったらどうなるのかな?」
「滅ぶわね。国」
「ええ……」
「そりゃ当然よ。グルーネ国が独占している特殊魔法や専売特許が全部戦争相手国に流れるんですもの。それくらい危険で価値のあるものなんだから、貴女も気をつけなさい?」
「うううん。なんか昨日は嬉しくて寝れなかったのに、今になって貰うの怖くなってきたんだけど……」
「それでは、前の方から一人ずつどうぞ」
真反対の席から一人ずつ血約が行われていく。
ボクたちはかなり最後のほうになりそうだ。
一人ずつ血約を終え、席に戻ると、それぞれが自己ステータスの確認をしていた。
5cm大くらいの魔結晶に魔力を流し込むと、A4くらいの大きさのウィンドウが浮かんでいるのが見える。
ただし、ボクが見ている限り、他の誰のウインドウも真っ白。
何が書いてあるのか何も見えない状態になっている。
一人ずつ3分くらいで終わるが、何せ一人ずつなのだ。同学年で午前に魔法科の課目のいずれかをとっている全員がこの講義室におり、100人くらいいる。
ボクたちに順番が回ってきたのは、もう講義の終わる時間寸前。お昼前だった。
「むぅ。ボクも自己ステータスっていうのゆっくり見てみたかったなぁ。そうと知ってたら向こうに座ってたのに」
「まぁいいじゃない。どうせこれからいくらでも見られるわよ」
最後にイオネちゃんが戻ってきた。
「な、失くしたらと思うと……怖くてしかたありませんね……」
大事そうにずっと両手で抱えている。
「それでは、きちんとステータスの確認ができるか、見ておくこと。今配った魔結晶はティア3のとても高価な魔結晶だ。半分以上の容量を自己ステータス管理魔術式で消費されており、ロックされている。後半分は自由に使っても構わないから、自分の魔水晶もしくは魔結晶がない生徒は、今後の授業用に使いなさい」
そう言うと全体授業は終わりだと告げ出ていった。もうお昼だ。
「魔結晶のティアってなんでしょう?」
お昼になり、ステータスの確認は後でゆっくりしようということで、学食へと足を運んだ。
意外にこの発言はボクではない。イオネちゃんだ。
ボクは本の知識はたくさん入っているのだ。魔術のことならなんでもござれ。
「魔水晶の大きさが純度という単位なのに対して、ティアはそうだなぁ。いわゆる“透明度”かな」
「ほぇ~?」
「魔力構造をaとして、自然数に置き換えるととても簡単だよ。魔水晶は純度=大きさ。1cm大で、大体魔力構造1個分の保存容量とした場合。魔結晶のティアは乗数計算すると、大体の保存容量が計算できるの」
「え? そんな話聞いたことありませんわ」
シルがちょっとびっくりしている。なかなか見ない光景だね。
「そりゃ、なんとなくのボクのイメージだもの。全然当てはまらないものもあるみたいだけど、本に出てくる保存容量の知識だけで考えると、あながち間違っていないと思うよ。例えば、今日貰った魔結晶は大体5cm大だから魔水晶の純度でいうと5。でしょ?」
定規はないが、親指と人差し指で顔の前に持ってきてみる。
「まぁ、大体そのくらいかしら……」
「で、ティア3ってことは、5の3乗だから、保存領域は125くらいになるの。でも、自己ステータス管理術式と、それをロックする術式が組み込まれているから……」
自分で1,2秒で組み込める火炎構造を1つずつ登録していく。
「ほら、ちょうど60個で登録できなくなったでしょ? だから、管理術式とロック術式で使われている容量は65。大体先生たちが言っていた半分で合ってるね」
「ほ、本当ね……。ねぇレティ、それって誰かに話したりした?」
「え……? いや、なんとなくのイメージだったから誰ともこんな話したことないけど……。」
「……」
シルが黙ってしまった。
「レティちゃん、これ、もしかしてすごい発見なんじゃ?」
あれ? 前世の知識的なイメージだったんけど、まずかったかな?
「今の話、ちょっとラインハートの研究室に回して検証させてみていい? もし実証されたら貴女昨日使ったお金くらい一瞬で賄えるわよ」
ボクの前世にはパソコンとか電子機器という科学製品の類が発展していたため、代数に置き換えて式を作ったりという計算方法が当たり前だったけど、魔法っていう神様の力に頼るこの世界に、そんな方法は必要なかったのかもしれない。
なんとなく、イメージで。こういうもの。
そう決め付けているのだろう。
雷も神様が落としていると信じられてるこの世界で、ボクが雷起したら皆どう思うだろう? 多分できると思うんだけど。
「ちなみに教えてほしいんだけど、魔法構造を代数として容量を割り出せた場合、レティは自己ステータス管理術式やロック術式が消費する保存領域の計算ができたりするの?」
「え、うん。普通に一次方程式じゃない?」
「一次方程式?」
一次方程式って前世じゃ中学生くらいの知識じゃないの……?
「公式っていうのかなぁ……。? ただ、管理術式とかロック術式自体の構造が分かるわけじゃないけど、逆算すればどのくらいの容量の魔法構造が使われているかはわかるよね」
「ちょっとごめん、全然意味がわからないことがわかったわ。はぁ。レティが飛び級で今までの学校一切いかずにいきなりこの学園にきた天才なのを忘れていたわ。私としたことが」
「私もレティちゃんが何をいってるのかさっぱり……」
「ええ……」
一般市民がわからないならわかるけど、シルは公爵令嬢で最上級の教育を受けてきたはずだ。
わからないわけがない。
「え、じゃあ聞くけど、シル。ボクが昨日シルと買いに行った服を、とある複数の友達に2枚ずつあげたら、5枚余りました。でも、3枚ずつ渡すと2枚足りません。友達の数は何人?」
「あげないでくれる?……7人かしら?」
「あげないよ?……どうやって計算したの?」
「イメージできるじゃない」
「それを式にすると?」
「式……? にする必要があるの?」
ああ、なるほど、こっちの世界の人は、魔法を使うためのイメージ力が、ボクの前世とは比べ物にならないくらいすごいんだ。だから数を数字や式にして書き出す必要がなく、魔法という式の結果をマナで出力できる。
これじゃあ数学は発展しないわけだ。数学が発展しなければ科学が発展しようもない。
「それを式にすると、さっきの魔結晶の保存容量は計算できるよ」
「……なるほど。まぁいいわ。どうせレティは夏休みにうちにくるのですもの。うふふふふ。とにかくレティ! 今の話は人には言ってはだめよ! 秘密よ! ひ・み・つ」
「う、うん……」
まぁ、別に誰に話そうとしていた話ではないからいいけど。
「ねぇ!そんなことより、ステータス。見てみようよ!」
「いいですわよ。お食事も終わったことですし、一回部屋に帰りましょうか」
「イオネちゃんも一緒にいこ!」
「はい!」
「……僕、空気だなぁ」
「アレク様、もうちょっと頑張ったほうがいいよ。リンク様結構アプローチしてるみたいだぜ?」
「はぁ」
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