目の保養って必要だよね。
防具にも穴が空いて、エリザさんの足元には血溜まりすらできているのに、審判は試合をまだ止めなかった。もちろん止める意思はあったんだろうけど、思いとどまってしまったのだ。
見る見る塞がっていく、その傷を見て。
この人の魔力量、多分一般的な魔法士なんかより遥かにすごい。
最初の水魔法だって、あんな大量の水に激しい水流を加えれば相当な魔力量が必要だし、身体性能的に身体強化もしているだろうし。かなり珍しい神聖魔法を扱えるってことは神聖魔法への適正があるのは間違いないんだろうけど、とはいえ相当の魔力を必要とする。総合すれば魔力量はゆうに200を超えていそうだ。
200あれば魔法士としてはかなり有能なこの世界で、前衛で戦える力をもってこんな大量の魔力を保有できるなんて、相当すごいことなんじゃないだろうか?
ボクの魔力量はグリエンタールとルージュ達のせいで壊れた数値になってるから、比較対象からははずすとしてね。
傷がかなり塞がっている。神聖魔法の適正が相当高いのが、自己治癒の速度からもうかがえた。
それでも立つのがやっとのエリザさんが、槍に体重を預けたまま此方を睨んで目を背けようとしないのだ。戦意が失われていないのを見て、審判の先生も止めるべきか未だ迷っている。
槍にはめ込まれている魔結晶の光が消えている。
流石に全てを治癒できるほどの魔力は残っていなかったようだった。
言葉を発する事もできないであろうエリザさんが、槍を頼りに体を引きずりながらこちらへ近づいてくる。きっと治癒の魔力が足りない事を見越したのであろう左足は殆ど動いていない。
少しずつ。少しずつ。
近づいてきて。
やがて、次元牢獄の前に設置してあった設置盾に当たって歩を止めた。
見えない壁を入らない力で壊そうとするが、びくともせず。
最後の力を振り絞るように、振り上げた槍を振り下ろし。
設置盾に衝突したまま槍が向こうへと飛んでいった。
「化け……もの……めっ……。」
ゆっくりと設置盾に体を預けながら倒れこむ。
「そ、そこまでっ!!」
困った顔で審判を見つめていると、はっと我に返ったように試合を止めた。
……終わってみれば!
なんで睨まれていたのか?なんでリンクのことを聞かれたのか??
全然わからない。
リンク本人に聞けば流石にわかるかもしれないけど、会場が違うし今日は試合が立て続けにあるからお互いそんな時間はなさそうなんだよね……。
自分に負の感情を向けられるのは初めてじゃないとは言え、別に慣れるものでもない。もやもやしながら実技室を後にした。
こんな時に限って、部屋の外に誰も居てくれないものだ。
試合が続くから、あんまり邪魔しちゃいけないっていう理由もあって、今日はそれぞれの選手に逢いに来る人が明らかに少ないのもその一因なんだろうけど。
まさか、こんなよくわからないもやもやを抱えたまま試合が終わるなんて思ってなかったボクとしては……。眉をひそめたまま控え室で次の試合を待つことしかできなかった。
全兵種解禁単騎トーナメント2日目 準決勝。
ここまで来て他のトーナメント表を見ると、1年生でまだトーナメントに残っているのはボクだけだった。いくら幼い頃から魔力を使えるように家で訓練されてきている人達とは言え、その魔力を使っての戦闘や、何かへと役立たせるという実践をこの学園に来てから初めてやるっていう人達がほとんどとなれば、1年上がるに連れて修練度は倍になるってこと。
しかもこの学園では基礎知識みたいな講義なんか一切ない、本当に習いたい事を集中して習うっていう講義の構造上ものすごい濃い時間が過ごせるわけだから、1年間の差っていうのはすごいわけだ。
「ねぇきみ。」
向かい合うのは3年生だと思われる上級生の男性。
「はい?」
「君の防御魔法、生半可な攻撃じゃ壊せそうに無いからさ。死なないようにちゃんと防御してね?」
「はい……え?」
審判の開始の合図が、暴風による風に流されて良く聞こえなかった。
実技室の相手側半分に竜巻が吹き荒れる。
ちょ、ちょっと待って欲しい。
まず最初におかしいのが、審判の合図が消えるってことは合図の前に魔法使ってるじゃん。反則じゃないの?
ちらっと審判の先生に視線を向けるけど、別に気にしている素振りすらない。
……どうやら問題はないらしい。
じゃあそれは百歩置いとくとしても、例えば別に被害を受けたわけじゃないからいいんだとしても、この大会って一応殺傷性の高い魔法って禁止って書いてあったんだけど、武器の刃がつぶされている事以外ほっとんど守られる気がしないよね??
今までボクが受けた魔法を思い出してみても、普通に死ねるレベルじゃないですかね?相手の防御ありきの威力で魔法が飛んできて、防御が間に合わなければ死んじゃうんじゃ意味なくない?治癒魔法があるから命さえあればいいってこと?まぁ確かに?ボクも先輩を脅すときに次元斬撃使ってるし、設置盾自体が超危険な次元斬撃と同じものなわけだけど。でも、あの魔法は完全にボクのオリジナルだから誰かが止めようがないし。
「いくよっ!!」
う~ん。爽やか系イケメンが、爽やかな声でそう告げると、吹き荒れる風が部屋を荒らすかの如く襲いかかってきた。
ただ、巻き上げる埃も、砂も、物自体が何も無いわけで。
次元牢獄の向こうが側からすっごい音がびゅんびゅん鳴り響いて、時折甲高い音がキン!と次元牢獄に音を立てる。いわゆる鎌鼬ってやつだろうか。
「こ……この威力でも……ダメなのかい……?」
今までの試合を見ていて、色んなシミュレーションもしたのであろうイケメンが、苦笑いのような顔でボクを見つめてくる。
……イケメンに見つめられるのはまぁ……悪い気はしないけど恥ずかしいね。
「略奪。」
竜巻の主導権をボクが奪うと、それに気づいたイケメンが魔力の供給を止め、腰に掛けていた剣を抜き取り、意識を集中して振り回した。
ボクとイケメン先輩の距離は離れたままなのに、振り回す剣先で次元牢獄に高い音がキンキンと鳴り、風を弾いていく。
どうやら略奪も対策済みだったらしく、奪った大型の嵐魔法はボクの周りでランダムに鎌鼬を発生させているだけで、単純に奪った魔法に自分の魔力を注いで自分だけを攻撃し続ける魔法になってしまった。
ここに来るまでのわずか数試合で使ってきた次元牢獄と略奪の魔法に、もう対策が入ってきたことに少し驚きつつも、なんかめっちゃ楽しそうに遠くで演舞を披露しているイケメンを眺めつつ、次元牢獄の外に魔法で10cmくらいの丸い鉄の塊を作っていく。
作ったそばから吹き荒れる竜巻に持ち上げられ、壁や床に衝突しながら竜巻と一緒に部屋を荒らす。追加で魔力を供給し嵐を部屋全体に広げると、ランダム性の高い動きをする鉄球が、イケメン先輩を不規則に襲った。
「ま、まじかよ……どんな魔力量して……うわぁ!?」
最初の内は対応できていたイケメン先輩も、鉄球の数がドンドン増えるにつれ手数が追いつかなくなり。鉄球による打撃と、風による斬撃で無数の傷が体にできていく。
「いてっ!?」
「ぐっ……。」
「うぐ……ぁっ……。」
「くぁっ……。」
「……く……そぅ……。」
見る見るうちにイケメンだったお顔が見る影もなくなってきて。
顔の原型がわからなくなってくる頃には、風も止んで吹き荒れて浮かんでいた鉄球がごろごろと床に落ちて転がる。
ぽきんと折れた剣と一緒に、元イケメン先輩も床に崩れた。
略奪の魔法は、それ自体に消費する魔力はもちろんボクの魔力を使うし、略奪した相手の魔法の強度を、略奪した時点そのものの強度で再現される。つまり、この竜巻を起こした魔法は、ボク側の範囲を中心にして吹き荒れるように魔力が込められており、ボクがこの魔法を奪った時点で魔力の供給はボク側がしないといけないことになる。
それを見越して大技を最初からわざわざ繰り出したのだろう。
もしもボクの魔力量がイケメン先輩よりも遥かに少ないのであれば、この魔法を継続させられた時点で魔力が底をついてしまい、同時にボクを守っている壁も消えると踏んだのだ。
ちなみに、インターセプトの弱点とすれば、ボクが支払うインターセプトの魔力は、相手から奪う魔力+インターセプトの基本魔力。つまり、相手よりも魔力量が多くなければそもそも奪う事すらできないんだけどね。もちろん学園ではボクの魔力量の事はシルとイオネちゃんくらいしか知らないんだから今回の対策は間違っていないというか、ものすごいいいところをついていたんだけど、実際ボクの魔力量よりも1発の威力が大きい魔法なんて、それこそ国が転覆するか星が壊れてもおかしくないクラスの魔法だと言われてもおかしくないと思う。つまりはこの魔法、ボク以外の人が持っててもあまり活用できる魔法ではないのかもしれない。
いつの間にか試合も終わっていて、運び出されている元イケメン先輩の後を追って実技室を出る。
……控え室には、既に決まっている決勝戦の相手だけが待っていた。
よろしければ、ご意見・ご感想お聞かせください。
ご評価・ブクマのワンクリックがとても励みになります。是非よろしくお願いします。
勝手にランキング様に参加しております。応援していただけるようでしたら、
勝手にランキングのリンクをぽちっとお願いします!1日1投票できます!
ブックマークのクリックはすぐ↓に!
ご評価いただける場合は、『連載最新話』の↓にスクロールするとアンケートが表示されています
是非よろしくお願いします!




