胸はないけど天才なんですよ!?
当たり前だけどボクはイオネちゃんと、冒険者ギルドなんかのクエストを一緒にこなしたりしたことはある。それも一度とかじゃなくて何度も。
……ちゃんと仲良いんだからね?
ただボクがいつもクエストに出るメンバーで行くとなると、神聖魔法に適正のあるイオネちゃんの立ち位置は当然バッファーの位置になるわけで。その為いつも前線で相手とやりあったりと言うよりは、味方の強化管理、回復、全体的な視野での戦況把握がイオネちゃんの主なお仕事となる。
そりゃモンスターや魔獣なんかの数が多くてイオネちゃんが対応する事はあっても、まともに正面から相手と向き合って戦う姿っていうのは、ボクですら初めてみるのだ。
イオネちゃんが受ける兵科の講義はボクと一緒に受ける総合課の講義くらいなもので、総合課では実践訓練よりも基礎訓練や基礎知識が殆どなので実践訓練なんて今の所やったことないし、研究科の授業で対人の実践訓練なんていうのも相当珍しいだろうしね。そう考えればセト先生ですらイオネちゃんのそういう姿を見たことはないのではないだろうか?
セト先生と2人、魔法モニターの前で祈っていると、画面に映っていた2人の影が動き出した。
多分相手の男子生徒も1年生だと思う。
面識はないけど顔になんとなく見覚えがあるんだよね。
講義が選択式で受けられるものだから、同じ学年であろうとほとんど会った事の無い同級生もそれなりの数がいる。例えばシルとは魔法科の授業以外ではあまり会わないのもそのせいなんだよね。
ってことはなんだけど、逆に言えばボクは魔法科と兵科の授講義には結構顔を出しているほうなんだから、ボクが殆ど会ったことも無いとなれば、ボクがあまり取らない政治経済的な講義や商業的な講義なんかをメインで取っている人って事になる。そうなのであれば戦闘能力を磨く種類の講義にはあまり顔を出していないのだから、武道会トーナメント1回戦の相手としてはイオネちゃんにとって実力の差がつきすぎない絶好の相手。
まぁ友達贔屓目を差し引いたとしても、イオネちゃんにはクエストで外に出ている実経験がある分だけ優位に進められるんじゃないかとは思っている。実戦経験っていうのは訓練の何倍もの経験を得られるからね。
いざ戦闘が始まると、そんな相手の男子生徒も他の1回戦を闘う生徒の例に漏れず、足を止めて魔法を打ち合うスタイルだった。
どうやら彼の魔法適正は炎のようで、ファイアーボールやファイアーアローのような魔法が連発してイオネちゃんのいた場所に叩き込まれる。炎の煤が壁や床に当たった衝撃ではじけ飛んだ。
綺麗に魔法が着弾したという事実が今までの戦闘とは異なり周りの注目を集める。
今まではその攻撃に対してお互いが防御魔法を展開し、反撃が行われて魔法戦が開始されていたのに一方的に魔法が着弾したのだ。一般的に見て防御が出来なかったと思われたのか、悲鳴が聞こえた。
もちろん直撃したわけじゃない。
見えている人は見えていたようで、見えている影を追いかける。
防御魔法もかけずに火の中を掻い潜り、相手の懐に潜り込んだイオネちゃんの掌から赤い砂が投げつけられた。
まさか魔法士体をしている華奢な、それも女の子が魔法の中を突っ切ってくるとは思っても見なかったようで防御が遅れた男子生徒が顔の前を腕で覆うと、そのまま投げつけた赤い砂が爆発を始めた。
爆竹のように連鎖する爆発が男子生徒を襲い、爆風が2人を吹き飛ばす。
もちろん投げた方のイオネちゃんは結果を知ってその粉を投げたわけだから防御も万全。無傷で立ち上がるが、防御が十分に間に合わなかった男子生徒の、兜の一部と防具の袖が焼け爛れて剥がれ落ちる。
何が起きたのか理解できない男子生徒が目を剥いて立ち上がり、そのまま後ずさり距離を取ろうとした瞬間。真後ろから矢が背中に突き刺さった。
「うぐっ!」
男子生徒がその衝撃に悲鳴を上げながら背中を確認すると急いで矢を引き抜く。鏃の先から滴る血の色が紫色になっていて血以外の物が付着していたのが遠目にもわかるほど。それを見て解毒と回復の応急処置を施そうと必死にもう一度距離を取るため全力で飛び上がり間を作る。
イオネちゃんはあえて追撃をせずに治療を待っているようだ。
目を瞑り何かを操るように手を前に掲げる。
……さっき投げた砂だろうか?
イオネちゃんの周りが微かに赤く見える気がする。
追撃がこないとわかった男子学生は、最初に爆発で受けたダメージまで回復を終え、流石に防具の修復手段はないが、折角不意打ちで与えたダメージは癒されてしまう形となってしまった。
魔法が使えるトーナメントで一番厄介なのはこれだよね。
魔力が尽きない限り、1撃でしとめられないと回復されてしまうのだ。
それがダメージだろうが状態異常だろうが。
対策の取れるダメージであれば治癒が可能。
もちろん対策の取り辛いダメージも存在するから、そこら辺は技術や魔法応用力によるところではあるんだけど。
回復を待ち終えたイオネちゃんは薄く目を開けると、掲げた手のひらに土魔法で鋭く赤い岩を浮かび上がらせて、打ち出す。
回復を終えたばかりの相手が防御魔法を展開すると、さっきの粉とは比べ物にならないくらいの爆発が着弾と同時に炸裂した。
岩だけを防御できればいいとして岩を弾く防御魔法を展開したことが仇となり、爆発が防御魔法を貫通したのだろう。煙の中を爆風と共に男子生徒が吹き飛んで転がり、横たわったまま動かない。
意識を失っているようでピクリともしない。
「わぉ。何あれ。魔導具?」
「魔法を貫通した?」
待合室の中がざわつき始める。
試合はそのまま審判が止め、イオネちゃんの2回戦進出が決まった。
「やった!」
「ほっ。よかったですね。」
セト先生が祈りを止め、胸を撫で下ろした。
ボクもイオネちゃんが1対1でまともにやりあってる所なんて始めてみたけど、それより何よりイオネちゃんの使った道具は見たことも聞いたこともない。
待合室の中もその道具の話で持ちきりになっている。
なぜ防御魔法を展開したはずの男子生徒がダメージを受けたのか。
全員がこの試合の結果を正しく理解はしていないだろう。普通に考えれば単純に防御魔法の防御力をイオネちゃんの魔法による爆発が上回ったんだと思うだろうからね。
待合室で話題を出しているのは、試合の結果が見えていた生徒だけ。
そもそも防御魔法を攻撃魔法が上回った所で、攻撃魔法の威力は防御魔法の堅さ分減算されることになる。攻撃が防御を上回っただけなのだとしたら、あの男子生徒のダメージ量は明らかにおかしいのだ。
イオネちゃんが創りだした土魔法は、単なる創造土魔法岩塊。ただし、固めたのは魔法で創造した岩じゃなく、最初に投げつけた粉だったのだ。着弾した土魔法自体は防御魔法で弾かれるが、爆発が防御魔法を貫通して相手へ直撃した様に見えたんだよね。
「あれって魔導具なんですか?」
「うふふ。イオネさんが新しく開発したお薬よ。お・く・す・り。」
……お薬?
魔導具とは違うってことかな?
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