Anger is a brief, or a momentary, madness.
俺が戦時中に重傷を負ったことは、緘口令が敷かれていてその戦場にいた兵士には伝わっていない。その場に居た者と、戦争軍上層部の一部にしか伝えられていないからだ。
戦時中にそんな話が出回ったら兵も混乱しかねないから敷かれた緘口令だったが、その後の対応が完全に止まってしまった話ももちろん知っている。
まさかアレクがあんなに混乱するだなんて思いもよらなかったし、ラインハート家の叔父さん達含め、指揮を取れるやつが全員戦場から飛ばされちまったのは、不運で片づけるにはあまりに無警戒すぎた話だ。アレクとイリーアとの件はモンスターパレードの後に聞いた話。シルヴィア達の援軍があと少し遅かったらと考えると、俺の罪と責任は計り知れないものだろう。
それでも今責任を問われることなく普通に学園生活を送れているのは、もちろんモンスターパレードの規模が想定以上であったという事実もさることながら、情報操作が功を奏しているのも否めない。
いち王子でしかない俺如きが全権を任されていたなんてことはないし、俺なんかに責任を押し付けて軍の奴等が自分の無能を棚に上げてるわけでもないわけだから、そこまで元々責任を問われる立場じゃないんだが、それは言い訳ってもんだな。俺がもっとしっかりしてたら防げた犠牲はゴマンとあったし、それを俺の従兄弟で、年下で、女であるシルヴィアが成し遂げてんだから。
悪い事が続いたのは確かだ。
まさかラインハートの叔父さん達が一斉に敵と一緒に転送されていってしまうとは誰も予想できなかったし、規模と戦力を誤って俺が重傷を負うハメになってしまったこと、それも呪い付きで。そしてその場に指揮がまともにできる人材が残っていなかった事。
ま、指揮系統の混乱を招いたのは紛れも無く俺の責任なのは事実だよな。
きっとこいつらから見れば、戦場で見てきた兵士の証言がすべてなんだろう。
俺が逃げていく所をみたってのは、あのデカブツと戦いにレティと砦の外に出た時だろうな。あんときはもう俺が指揮をする必要もなかったし、実際逃げたわけでもねぇんだが……。そりゃ混乱を体験した兵士から見たらそう見えても仕方ないか。
「そうかっ!それはすまなかったっなっ!!。」
そう叫びながら弾き返すと、2人の顔が逆立ち殺気が一層と増した。
ぴりぴりと肌を焼くように敵意が向けられるのがわかる。
「認めるんだな!?お前が無能だったせいで……っ!!!エルトアはっ!こいつの姉は俺の婚約者だったんだ!!」
そういって長剣の男が短剣の男を指差す。
なるほど、そういう関係だったのか。
まぁ俺が無能なのは認めるよ。そんなこと遥か昔から知ってるさ。
知略では従兄弟に及ばす、実力では姉に勝てた試しすらない。2人とも女だ。そんな情けない男が無能以外のなんだってんだよ。
「で?お前等はモンスターパレードの時何をしてたんだ?婚約者を戦地に追いやって、ぶるぶると部屋の片隅で震えてたってか?」
「なんだとっ!?ふ、ふっ!!ふざけるな!!俺達だって行けるものなら一緒に行きたかったさ!!でもっ!」
「でもなんだよ?パパについてくるなって言われたから、婚約者送り出して一人で部屋の隅っこで震えながら待ってたんだろ?」
「こいつっ!!!」
「おっお前に!!お前に何がわかるっ!!」
激情に駆られた男が渾身の一振りを振り下ろす。
その予定の無い行動に、短剣の男が一瞬遅れた。
「ああ、わかるさ。自分の無能さが情けないんだろうよ。」
「んぐっ!!?」
振り下ろす柄を掴み上げ左手一つで剣を止める。
顔が近い。
男の涙が顔に当たった。
「なら俺よりも強くなれよ。俺よりも軍を纏められるようになれ。俺よりも偉くなって見せろ。国の王子なんて大したもんじゃねぇよ。だけど俺がお前を認めたら、すべてをお前に任せて……やるからよっ!!!」
右手に持っていた剣を手放し、拳を溜め、一気に真正面に解き放つ。
正拳突き。
究極的に言えば、人体を破壊するのに武器なんか必要ない。
男の体が武器ごと森の闇へと転がっていった。
とはいえ防具の上からだ。そこまで大きなダメージとまではいかねぇだろうが、あれだけまともに入れば相当ダメージは残るはず。
一手遅れて振りぬかれた短剣を、腕ごと吹き飛ばした拳とは逆の手で掴み上げ、遠心力を使いそのまま真上に放り投げる。
なんとなく、こいつは長剣の男よりも俺に対する殺気が薄かった気がする。すべて俺への恨みにしてしまうことに違和感を少なからず覚えていたのかもしれない。
その違和感が一瞬動きを遅らせたのか。
落ちてくる男に、もはや抵抗は無く。
そのまま振り絞った拳でぶん殴る。
木々の合間を抜け、バウンドしながら吹き飛んでいく男が暗闇の中へと消えていった。
「ってぇな畜生。」
流石に鎧を着た大の男2人を殴り飛ばして拳が無事なはずもない。
砕けた拳の感覚がなかった。
右手はもう握る事すらできず、左手で落とした剣を拾い上げる。
「さて、後一人だな。無事だといいが……。」
ふと、試合前に感じていた嫌な焦燥感のようなものを思い出し、森からの抜け道を探した。
・・・
・・
・
自分が方向音痴だと思ったことは過去一度もないんだが、でもまさかこんな急いでる時に限って戻りたい方向の逆方向に出ちまうってのは、運が悪いっつーのかなんつーのか……。
そこから更に急いで試合開始地点へ戻ると、遠くに2人の人の影が見えてきた。
よかった。2人は最初の位置から動いていなかったようだ。
もしここにいなければ、また探す手間がかかったからな。
そう思い、姿が見えたことに少し安堵しながら近寄っていくと、ふとレティの後ろに人の影が隠れているのが目に映る。
さっき正拳突きで殴り飛ばした男だ。
よく見るとレティの肌が真っ赤に染まっている。
所々血で染まっていない肌は、いつもの綺麗な白からは程遠いほど黒ずんでいるのが見える。
それだけでも頭が真っ白になったのに……。
後ろに隠れていた男が、防御だけで精一杯だったレティを長剣で背中から思いっきり横薙ぎに斬りつけたのだ。無駄な体力を浪費したせいで追いつくこともできなかった。
刃がつぶされている分、斬りつけたというよりは殴りつけたに近い。
目の前で自分が守るべき女の体が、吹き飛ばされる。
真っ白だった頭の中が……
……赤く染まる。
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