人数が少ないのなら、少ないなりに。
特に理由を聞かされていたわけではないけど、理解はできる。
人数というのはそのまま戦力だ。つまり最大5人まで揃えていいはずの団体戦で、2人しか登録できなかったボク達はその時点でハンデを背負っているのと一緒なのだ。
相手も5人揃えている訳ではないけれど、4人いるという時点で単純な人数の差で考えれば戦力は倍になるって事なんだから、わざわざ人数で負けているボク達が相手の土俵に乗って戦闘をしなきゃいけない理由なんてさらさら無いわけで。
リンクが開始の合図と共に走り出したのは、向かい合った相手の方向へではなく、向かって左側へと一直線に走り出したのだ。
団体戦では実技室1部屋で試合が執り行われる。
つまり個人戦の時のように部屋割りが分割されているわけではないので、実技室の中にある色んな地形を選ぶ事ができるわけだ。
実技室の構造としては、入口側が最も平坦で舗装された地面となっており、奥へ行くにつれ草原、森、岩場、山肌と険しい地面構造になっていく。
試合の開始地点は入口付近のお互いに平坦な場所。
つまり相手が最も連携を取りやすい場所なのだ。人数で負けているボク達がわざわざそんな場所で相手と交戦してあげる必要性がない。
ちなみに、競技会に限らず武道会にも時間制限というものはある。
もちろん長時間の戦闘となってくれば危険も増すわけだし当たり前なんだけど、武道会は競技会程力が拮抗したり時間に物を言わせる必要がないので、細かく明確に決められているわけではないのだ。
ただ、大体長くても30分もすれば試合は止められる。
時間制限による試合停止の場合、試合結果は判定へと持ち込まれるんだけど、その際団体戦による人数差による優劣は一切加味されないのだ。
と、言う事は。
有利な地形を求めてリンクが先に動き出した時点で、相手側はそれに応じて動かなければいけない状況に追い込まれていくと言う事になる。
視界の悪い場所に持ち込まれて、チクチクとリンクに横槍入れられながらボクを追う状況になってしまったのでは、相手としたら人数差を捨てるようなものだからだ。
リンクを追うボクの後ろから痛いくらいのプレッシャーを感じる。
ちゃんと後ろを追ってきてくれているらしい。
流石に走る事に関してはここ数ヶ月で相当頑張ってきたからね。
早々簡単に追いつかれないくらいの自信はあるんだよ。
しばらく走ると、すぐに追いつかれることは無いと踏んだリンクがペースを落としてボクの横に並んだ。
「岩場まで行くぞ。足場は悪いがいけるか?」
こくり。と頷く。
リンクが一直線に実技室の奥へと走り出した時点で理解していたからだ。
足場が悪ければ連携は取り難い。
戦い辛いのと、連携がとり難いのは別物。相手が悪い足場を得意としている奇特な芸やスキルでも持っていない限りは、戦い辛くて連携が取り難くなるという2重苦を強いられる相手に対して、ボク達はこういう場所で戦う方が勝率が高いのだ。
連携というのは人数が増えれば増えるほど難しい。
もちろん相手のほうが人数が少なくて、囲える状況になれば連携なんていう高度な技術の出る幕もなく優位なのは言うまでもないけど、連携を取らざるを得ない状況が続くのであれば人数的な優位は技術力に大いに依存してしまうこととなる。
もちろん、相手も相手で全くそんな技術が無いなんて事はあり得ないだろうけど、それでも学生の域であれば粗はあって当然なわけだ。
足場も悪く視界の通らない状況で、武器を振り回せば味方を傷つけてしまうかもしれないし、かといって相手の方が人数が少ないのに1対1の状況に持ち込まれる訳にもいかず、2人の優位な状況を生かすためには常に最低でも2人が連携して戦い続ける必要がある。
さらに足場を利用して2人が立ち回れないような狭い場所に逃げられてしまえば、数の優位など簡単に消えうせてしまうのだ。
もちろんスタミナ面で言えば1対1ずつ組んで1人がやられてももう一人後ろに控えているっていう状況は有利であるといえなくも無いけど、いくら実践を重んじている大会とは言え時間制限があるこの状況で、万が一人数が多い方のチームが1人でも落とされてしまい、そのまま時間制限が来てしまったとしたら?
後1発でボクとリンクが倒せるっていう状況でもない限り、判定は少数のチームに傾いてしまうのは言うまでもないだろう。
人数が試合で優位な材料にならないということは、足手まといを入れるのはデメリットに他ならないわけで。そうなれば規定最大数の5人を揃えるチームが少ないのにも頷ける。
「ここでいいだろ。」
「うん。」
流石と言うべきか、事前に実技室のやりやすい場所を知っていたのであろうリンクが、速度を緩めて戦闘態勢を取り、待ち構える。ボクも習ってリンクと背中合わせに武器を構えた。
岩場と山肌の境目だろうか。
足場はかなり大きめの岩でごつごつとしていて、あまり平らな足場が無い。
さらに山肌側には大きな岩があり、相手がボク達を取り囲んだとしても1方向の警戒を削る事が出来る場所。例えどんなにリンクが頑張ってボクの背中方面180°を全て止めていてくれたとして、ボクの警戒範囲が前方の180°部分だけだったとしても、それが90°削れてくれるというのはとてもありがたい。
さらに足場も悪く連携の取りにくい場所。
相手からしたらこの場所にまでバトルフィールドを引っ張られた時点で作戦面では完全にしてやられている状況のはず。……わざと泳がされたのでなければ、だけどね。
リンクが戦闘態勢に入り振り返ると、ボクはリンクの後ろ側へ回り相手を待ち構える。すぐに会敵するほど距離が詰められていない時点で、予想だにしないような奇策でもない限り、こちらの策が相手の上を行っていると思って問題はなさそうだ。
ボクの呼吸がある程度整い始めた所で、対戦相手の4人が追いついてくるのが見えた。4人全員が確認できたことで、ある程度奇策の警戒も必要なくなる。
もちろんこの場面で疲労して息の上がっている相手を待ってやる必要もない。
リンクが一気に飛び出していった。
ボクはリンクの命令を忠実に守って一定距離を開けつつも付いて行く。
「なっっ!!」
「くっ!?」
突然ものすごいスピードで折り返してきたリンクに対し、突然で防御行動しか対応できなかった一人がリンクの剣で吹き飛ばされた。
剣1つで、武器を持ち防具を着て、尚且つ防御して踏ん張った人間一人を吹き飛ばすとかどんな運動エネルギーよ。魔法という力が働いてないのに、リンクの運動性能自体が魔法のように見える。
見事に移動と筋力のエネルギーを一人に集約し、相手1人を吹き飛ばした反動を利用してその左横にいたもう一人にリンクの足が襲う。
こうなってしまえばボクの仕事じゃ、リンクのような立ち回りはできずとも槍を構えこのまま残っている2人の内の1人に突っ込めば良いのだ。
槍の直線攻撃というのはとても厄介で、受けるという選択肢がほぼできない。
混乱していて回避行動が間に合うはずの無い相手の一人に、潰してある槍の先端が突き刺さった。堅い防具が砕け、肉体がある場所を抉る感触。
「うぐっ!?」
「うげ!?やばっ!!」
咄嗟に槍を引き抜くと、ぬらりとした血が刃部に付着していた。いくら刃を作っていないとはいえ、これだけの力が加わればああも簡単に貫通してしまうものなのか……。
どう見てもボクがアニエラさんにやられた時よりも重傷だ。
次の瞬間、咄嗟に横から入ってきた審判員が治癒を始めた。治癒を受けた選手は何があっても試合に戻る事はできないので、その時点で一人脱落。安心して後ろを振り返ると、吹き飛ばされた1人はそのまま意識を失い、リンクの足が鳩尾に入っていた1人がその場に倒れこみ。最後の1人がボクに向かって突進して来ようとしたまま……倒れ込んだ。
倒れ込む体の後ろから、リンクの体が現れる。
「そこまでっ!!」
主審の先生が終了の合図を出す。
と同時に、倒れている相手への回復へと副審の先生達が駆け寄っていった。
「レティは女にしては素早いし体力もあるよな。それをちゃんと上手く使ってればアニエラん時も、もう少しまともに戦えたんじゃねぇか?」
「……そうなのかな?」
そんなこと今更言われた所で、もう終わってるんですけどね。
まぁリンクがアドバイスをくれるなんて事自体が珍しいので、素直に受け止めておく事にしようかな。
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