ボクは田舎出身なんだよ?
「おおっ!!」
ざわざわと会場が騒がしくなる。
いい試合とか派手な試合とか。そういう試合があると観客席が沸くのだ。
まぁ沸いた瞬間にいい場面は終わってるんだから、それを合図に魔法モニターを確認した所でもういい場面は見逃しているんだけど。
観客席で見ていると、観客が沸いている試合は、試合をしている人がある程度決まっている事に気付く。
実力が高い事を知られていて注目されていたりはするんだろうけど、その人達の試合内容は見ていて楽しい……?のだ。
楽しいというか綺麗というか、なんというか……”憧れる”だろうか。
大体3回戦が軒並み終わった辺りで試合会場もお昼休憩となり、魔法モニターも学園内のブース紹介画面に移り変わっていく。
「イオネちゃんはもうどっか回ったりした?」
「ううん、まだ全然だよ?朝からずっとここにいたから……。」
「あ、そうなんだ!じゃあお昼から色々回ってみようよ!」
「そうだね!そう思ってパンフレット、あるんだよ?」
「さっすが!じゃあねぇ……」
イオネちゃんと2人で行って見たい場所を羅列していく。
パンフレットに書いてあるマップを見る限り、ほぼ学園全体を使って色々な催し物が行われているみたいだった。
武道会や競技会はメインイベントだけど、メインてことはサブがあるのだ。
「うわぁ!スイーツ通りなるものがあるよ!?」
「あはは、こっちには各地方の名産グルメ会場だって。」
「た、食べる所多すぎない……?」
「まぁ学祭は期間が長いから。色んな所を回れるって意味じゃ沢山あったほうが楽しいよね?」
「確かに……。」
「あ、レティちゃん。トランプ大会だって。」
「ええ?もう大会なんて開いてるの……?」
「みたいだね。後でちょっと覗いて見る?」
「き、気になるね……。」
「ふふっ。」
わいわいと2人でパンフレットを見ながら話していると、なんとなく履修課目を決めていた頃を思い出すよね。なんか懐かしいなぁ。
学祭とは言っても始まってみれば王都でも2番目に大きなお祭りらしく、普段そこまで通りが賑わうことのない王城区の人口密度が増える程にいろんな人が集まっている。
そうなってくれば、もちろん学生だけが色んな催し物を出しているわけではない。むしろ一番気合が入っているのは、各研究室に入っている研究員の先生達あたりかもしれないし、こんな商機を逃すはずがないプロの商人さん達だってここぞとばかりに出張してきたり、露天を張ったりと大忙し。学祭を歩いて回っていると、実際学園の中にすら外部のお店がブースを立ててたりするのをみかけたりもした。
それだけ集客効果があれば、研究員の先生たちによる研究成果の発表なんてのも割と目に付くわけで、そういうのも含めた色んな企業さん達も国外国内問わず来ていて、この学祭で目に付いてスポンサー契約まで至るなんてこと珍しくもないらしい。
「うまっ!!」
「……。」
「皮もぱりぱりしてておいしいよ!イオネちゃんも食べる?」
「あ、いや……私はちょっと……。」
「そう?」
「…。」
ぱく。
「やっぱりこの歯ごたえがいいんだよね。弾力があって中からじわぁって!」
「あはは……。やっぱりって……前にも食べた事あるの?」
「え?ボクほら、山奥の農村にいたからね?」
「あ、そっか……。」
ぱくぱく。
ご飯が欲しい。
この世界の主食はパンなんだよね。
イオネちゃんの顔が引きつっている。
そんなボクが何を食べているのかと言うと。
まぁ。一言で言ってしまえば幼虫だ。白くて長くてウネウネしている。……あ、調理済みなので実際にウネウネはしていないよ?そう見えるのは仕方ないよね。
大きさはボクの親指よりちょっと大きいくらいで、揚げたり焼いたり蒸したりして食べる。頭の部分以外は殆どが可食部で、栄養も満点で味も良く食感もいいから山間部の農村なんかじゃ重宝される食材だ。
もちろん見た目が気持ち悪いのはわかるけど……。子供の頃から食べたりしているとそこまで抵抗を感じないんだよね。とはいえ、別に美味しさを皆に共有してほしいとも思わないし、特に見た目からして女の子に勧めるのは憚られるのもわかるんだけどね。
ちなみにイオネちゃんはちゃんとした普通の料理を食べている。
麺の入ったスワンラータンのような、赤黄色くて辛酸っぱい料理。
ぷちっ。
幼虫を噛み切ると白い液体がジュワァっと出てくる。
「ひぃっ!」
悲鳴まで上げられて引かれてしまった。
そこまでなってくるとボクの嗜虐心が擽られるんだよ……。
強要はしないよ?強要はしないけど、頭だけ取った幼虫を手に乗せて、イオネちゃんの前に差し出した。にこっとだけ笑って、何も言わないでおく。
イオネちゃんが油の抜けたロボットのような動きで、顔だけ遠ざけて幼虫を摘む。イオネちゃん、素直でいい子よね。
一言も嫌とか言わずに、そのまま自分の顔に近づけていく。
ちょっとくらいは興味があったのかな?
口の辺りに持ってきたところで、ぱっと口の中へ押し込んであげた。
決して強要ではない。決して。
「うぐっ!?」
こういうのは食べてしまえばどうということはないのだ。むしろ小さく噛み砕いた方が気持ち悪さが増すだけ。食べるなら一思いに一口で行ったほうがいいんだよ。
「……うぐ?」
ほらね。
もぎゅもぎゅと動いていたイオネちゃんの口が止まった。
「あれ?チーズみたい……?美味しいかも。」
「でしょ?」
あ~そうそう。濃厚なチーズの味だよね。
「で、でもその見た目はちょっと……。」
「まぁ慣れてないとそんなものだよねぇ。」
いや、ボクだって学祭でたまたま売ってたから懐かしくて食べてるだけで、普段からわざわざ虫料理を好き好んで食べようだなんて思わないけどね?
「う、うん……。」
「地域によっては蜘蛛みたいな奴も食べたりするんだって……。」
「うっ……流石にそれは無理……かも……。」
「いや、それはボクだってちょっと無理だよ……。おいしいらしいけどね?」
「へ、へぇ……。」
イオネちゃんの視線がキョロキョロと辺りを見回している。
ここら辺にあったら困るから探しちゃうんだろうね。
それはボクだって困る。
こんなイオネちゃんを見ていたら、買っちゃうじゃないか。
そうしたら嫌でも自分も食べなきゃいけないわけだし。
ちなみに、ここら辺は山間部の農村地帯が出している特産ブース。
野菜とかお肉という普通の食材から、こんな感じのゲテモノ料理まで並んでいるのだ。おっきな蜘蛛の身なら食べた事あるけど、あれは身だけだったからいけたんだよ。見た目は蟹みたいだったしね。
でも流石にね……。蜘蛛の形が残っているのはちょっと……いくらボクでも……ね。
ちなみに、そんなものシルに勧めた日には学園がどうなるかわかったもんじゃないわけで。切実にそういうものを学園内に持ち込まないで欲しいと思います!
もしかしたら本人が委員会の権限を使って手をまわしてるかもしれないけどね。
お腹も満たし、見たり遊んだりできる場所を探して歩き回る。途中、遠方から歓声が聞こえてきた。どうやら武道トーナメントも午後の部が始まったようだ。
《運営委員会からお知らせー。明日のトーナメント表出しといたから登録してある選手は確認しといてねー。じゃ。》ブツッ
ものすごいやる気のなさそうな学内放送が流れた。
「あ、レティちゃんは明日も出るんだよね?魔法種禁止団体戦。」
「……うん。」
「……?どうしたの?」
「今更だけど、ボク足引っ張るだけだろうなって思って。」
「え?そんなこと無いと思うけど……。」
今になって気付いたのでは遅いのだけれど、魔法種禁止単騎戦トーナメントが終わってみて自分の技術的な部分はまだまだ未熟だったことを再確認させられた。リンクがボクと2人で訓練をするときに、合わせる為の訓練じゃなくてお互いが息を揃えた個人訓練メニューだったのは、そもそもボクとリンクじゃ前衛能力に差がありすぎて合わせるなんていうレベルじゃないからだ。
それをわかってたリンクが、魔法種禁止トーナメントの団体戦にまで出てもいいと言ってくれたのに引け目を感じてしまう。
「じゃ、頑張ったらいいんじゃない?」
イオネちゃんと2人でベンチに座ってそんな話をしていると、単純で明解な答えが返ってきた。
「頑張ってどうにかなるレベルじゃ……。」
「それでもいつもやるじゃない?私はレティちゃんのそういう前向きなところ、いつも尊敬してるんだよ?」
「……。」
単純で明解なだけにわかりやすい。
「……うん。そっか。そうだよね。ボクってばまだ1年生なんだし!今年の結果を受け止めて、来年また頑張ればいいよね!」
「そうそう!来年なんてレティちゃんなら全種目優勝しちゃうかもね!」
「あはは、それはないだろうけど!高めに目標設定しておくのは必要かも!」
魔法種禁止団体戦トーナメント。参加団体数59。
5人全員そろえているチームはどちらかと言うと少なく、3人か4人のチームが多い。そもそもこの学園で魔法を用いない戦闘手段だけで5人集められるパーティなんて、そんなにはいないだろうからね。ある程度慣れている自分達のパーティから出てくるんだとすれば、魔法種禁止側の団体戦トーナメントに5人揃えてくる方が珍しいのかもしれない。
流石に2人だけで登録しているチームは……3つだけだけど。
今回のトーナメントも左右1対の1トーナメントのみで構成されていて、1回戦がシードになっているチームが5つある。
ボク達は2人だけと言う事もあり、右上ブロックの一番下に名前があった。つまり右側ブロックのど真ん中。個人戦の時のようにガチガチのシード下じゃないのは、きっとリンクのおかげだろう。
参加団体数は59だけど、結局出てくる人数は個人戦とそこまで変わらない。
明日も忙しい一日になりそうだ。
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