武器が大きいと威圧感が増すよね。
「始めっ!!」
あまり準備もできない進行速度に、2回目にしてちゃんと対応できているのは自分で自分を褒めてあげたい所だと思う。
入口のウエポンラックから持ってきた槍を構え意識を相手に集中する。ぎゅっと両手を絞るように握り上げ、相手との延長線上に槍を置き、腰を少し落とす。相変わらず柄の太さが女の子の手には少し太すぎるのは、自分でちゃんと用意しなかった弊害かな。どうにか手で包める程度で、お世辞にもフィットしているとは言い難い。手で引き絞って持つにはもう少し柄が細い方がありがたいんだけどな。まぁ女の子が使うようには調整されてないか。
2回戦の相手アニエラさんはというと……。
ボクよりも一回り大きな槍型の武器を構えていた。もちろん自分で用意しているのであろう、派手な装飾に刃だけ木製に差し替えられた矛と横刃。あれは槍じゃなくて戟という武器だろうか?それも片横に刃がついているので方天画戟と呼ばれるやつ。L字型に突き出た刃部は木製の刃になっていて、形もちゃんと木で作ってある。かなり大きな刃部のかなり大きな武器。
さらに腰にはサブウエポンと思しき剣がぶら下がっている。……それもありなのか。そりゃありか。2刀がダメだなんてルールないしね……。
相手の武器を観察していると、戟の先がふらっとゆれた。
「っ!?」
次の瞬間目の前に刃先が飛び込んできたのを、L字の間に槍の柄を滑り込ませ受け止める。
ガチン!!
「おっもっ!!」
前の試合とは段違いに重い衝撃が、槍を握る手から伝わってくる。
「あら。」
少しびっくりしたようにアニエラさんの眉が上がるのが、ボクの視界いっぱいに映し出された。槍と槍の戦闘間隔ではありえない距離。
一瞬のうちに間合いも詰められ、防戦一方のボクの槍は、刃がアニエラさんに向くことがほとんどないのに、相手の2つの刃は受け止めても受け止めても次の瞬間には違う場所から突き出されてくる。
「うわっ!?」
咄嗟に軽くなった相手の戟を受け止めたまま、後ろに飛びのいた。
ヒュッという音が空を斬った。目の前を銀色の塊が過ぎ去る。
下段からサブウエポンの剣による切り上げ。
全く読めていなかったのに避けられたのは偶々だ。
「ちっ。」
アニエラさんの舌打ちが聞こえてくる。
やばい。
まだ始まって数分も経っていないはずなのに、汗が流れるのを感じる。
やむことのない嵐。
全く疲れているように見えない相手。
攻撃なんかしてる余裕もない。暇もない。隙なんてわかんない。
一瞬でも木製の刃を見失えば、すり抜けてくるかのように何度も何度もボクの身体を突き刺しては押し出されてしまう。
まともな致命傷になっていないのは、ただ単純に防具の性能のおかげだ。
武器は制限がかかって攻撃力を抑えられているのに対し、防具の制限はないおかげで、木製の刃であればボクの防具がダメージを通すことはないようだ。
そのおかげでボクは露出している部分への攻撃を抑えるだけで済むから、どうにか持ちこたえられているようなもの。
もちろん、このまま受身に回ったらジリ貧なのは間違いない。
って言うか戟の一撃がいちいち重すぎて、受け止めていたとしても腕がどんどん痺れていくのを感じるし、何より武器の刃先が真っ直ぐボクに向かっていて、そのまま突っ込んでくると遠近感が全くわからないのだ。いつの間にかめちゃめちゃ近くに刃先がある。このままそう何回も都合よく受けられる気がしない。
「せぇぇ……のっ!!」
防御を捨ててでも槍を右肩に背負い込み、振り下ろしながら距離を詰める。
……軽々と戟の柄で受け止められてしまった。
押す力をふっと抜き、そのまま右足を軸に右回りに回転。
槍の柄で突きを放つ。
槍の持ち手の一番下、つまり刃先の反対側には金属の装飾がついていて、ストッパーの役目をしてくれる形になっている。つまりは金属の塊がついているのだ。そこで突かれれば相当なダメージになるはず。
……ま、当たればの話だけど。
空をきる感触。手ごたえなんて無い。
その瞬間。ゾクゾクッと背中から悪寒を感じた。
咄嗟に突いた方向に飛んで逃げるけど、わき腹と背中に痛みが走る。
……ついでにビリビリッ!という嫌な音。
防具の上に羽織っていた制服が破ける音。
「いった!!」
羽織っていた制服が右脇腹の部分から背中全体に掛けて破れて弾き飛ばされてしまったようだ。これ……何枚目だっけ。
「やっぱり。下にいいもの着てるんだ。」
アニエラさんがぽつんと呟いたのが聞こえた。
そりゃそうでしょ!流石にボクだって怪我なんかしたくないよ。
まぁアニエラさんが呟いたのは、割と当たっている感覚があるのに、明らかにダメージが通っていないことに疑問を感じていたからだろうけど。
もちろんボクだってわざわざ戦闘に向かない制服なんか着てこんなところに出たくなんかないけど、こんなに衆目を集める会場でこんなに露出の高い格好で衆目に晒されるのは勘弁して欲しいわけで。弱点である露出部をわざわざ晒す必要性もないしね。
今じゃその制服も破れてしまい、赤い光が制服の切れ目から鼓動を繰り返している。
そんなことより!下は制服のスカートのみなんだよね。
パレオを羽織りながらスカートなんて履けなかったので、パレオ型の防具はつけていないのだ。下のスカートを破るのは是非ともやめていただきたい。お願いします。
破れて動き辛くなった制服を脱ぎ捨てる。
槍を静かに構えなおすと、相手も戟をこちらに向けて腰を落とした。
鋭い視線がボクを睨みつける。
「はぁぁっ!!」
「っ!!」
世界の進む速度が急激に遅くなる感覚。
お互いに走り詰め寄る距離がゆっくりと縮まっていく。
そのまま槍と戟が交差していく光景が、はっきりと認識できるほどに。
他の試合の騒音どころか、環境音すらも一切聞こえない世界。
戟の横刃に槍が滑り込むと、方天画戟の横刃が急にくるっと回転した。
アニエラさんが武器を回したのだろう。
完全に捉っていた槍が弾かれ、向かい合うお互いの間からボクの槍だけが弾き飛ばされていく。
やっば!
声に出す事もできない。
まだゆっくりと映る世界の中、アニエラさんが槍を弾いて弾道がボクの身体からそれている戟を宙に投げ、腰の剣を引き抜き顔の横に引き絞る。槍の重量に完全に体が流れたボクは、防御する事も許されない。
「ふぐぅぅっっ!!!」
剣の突きが胸に突き刺さった。
体勢を崩して投げ出されていた体が、鋭い突きを受け急激に弾き飛ばされる。
「いっだぁぁい!!!」
「そ、そこまで!え?」
すぐに上体を起こすと、審判がとめに入った瞬間だった。
ああ……どうやら負けてしまったようだ。
まぁ槍も完全に手放してしまい、アニエラさんの前に転がっているからね。
どう見ても負けは負けだ。
「君、大丈夫なのかい?すぐに治療班がくるから……。」
大丈夫なわけないでしょ!!
刃は潰してあるとは言え剣の先で胸を思いっきり貫かれたんだから。
……まぁ骨とかは折れてなさそうだけど。
審判が心配して覗き込んでいる顔の向こう側に、ぽかんとしたアニエラさんの顔が映った。試合の後はスポーツマンシップよろしく握手で終わるべき!そう思って立ち上がりアニエラさんの目の前で手を差し出すと、反射条件だろうか?手を握り返してくれた。
「あ、貴女どういう体をしているの?さっきの突きを受けてなんともないの?」
「なんともないわけないでしょ!めちゃくちゃ痛いよっ!?ほらっ!!」
胸の辺りの防具をはだけると、1cmくらい紫色に変色している。打撲かな。
「そ、その程度?……その防具かしら。すごいのね骨どころか内臓まで達していてもおかしくないはずだったんだけど。」
ちょっとまって?……内臓?胸にある内臓って心臓ですけど??
そこまで達したら死んじゃうんですけど……?
「う~ん、勝てる気はしなかったけど、結局1発も当てられないのかぁ……。悔しいかも。」
実際当てられるとか当てられないとかの次元なんかじゃなくて、まともに攻撃もさせてもらえなかったんだけどね……。
「はぁ。不甲斐なさに落ち込んでるのは私の方だわ。貴女、魔法士でしょ?しかも魔法学園に入ってまだ半年足らずの。そんな魔法士に魔法を禁止させて接近戦だけでこれだけ打ち合われたら前衛の立場が無いわ。」
「……うう~ん、そんなもんかなぁ。」
「ましてや一発入れようなんて。私の自信を砕きにでもきているのかしら?学園で見かけるたびに殺意が沸いてきてしまいそうね。」
「うえ!?」
「……冗談よ。冗談。」
……顔が全く笑ってませんけど!?
アニエラさんがすっと目を逸らし、そのまま会場を後にする。
その姿を目で追っていると、治癒の先生が走ってくるのが見えた。自己治癒で簡単に治るので、そんな大掛かりにタンカとか持ってこられても……もう治りましたけどね?
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