はぢめてのたいじんせんっ!
「それではっ!!!第86回王都魔法学園 賢聖祭!ここに開催を宣言いたしますっっ!!」
めちゃくちゃ大きな歓声にファンファーレ、そして魔法で創り出された映像が快晴の空に映し出される。
学園の生徒だけじゃなくてOBやOGもかなりの数いるみたいだし、普段王城区には立ち寄りもしない一般国民の参加や、海外国賓らしい姿まで見える。学園のお祭というより、もう国のお祭といってもいいくらい。
「開催に合わせまして、これより最初のイベント!魔法種禁止個人トーナメントが開始されます!選手の方は進行表通りに受付を済ませておいてください。もし1秒でも遅刻しますと即失格となりますのでお気をつけください!……会場でご覧になる方は混雑が予想されますので、お早めに観戦席の方へとご移動頂きます様お願い申し上げます!学園内に設置されております魔道モニターにて観戦もできますので、チケットの無い方はそちらでのご観戦となります。また、他会場にて各種イベントも行われております。まだ学園入口にてガイドブックをお持ちになられていない方がいらっしゃいましたら、運営委員の方へお尋ねくださーい!」
トーナメントは16試合同時進行で進んでいくものの、丁度ボクは17試合目なので、どこかが終わったら次の試合ということになる。最初の試合に組み込まれている人達ほど急ぐ必要もないのだ。
「おい、レティーシア。」
人ごみの中でも目立つ赤い髪と少し高い背丈が目に付くからすぐにわかる。
「先生……。」
「わかってんだろうな?」
「いや先生、もうちょっと初めての試合前で緊張してる可愛い生徒にかけるべき言葉ってやつはないの……?」
「お前は自分でわかってるのかわかってねぇのかこっちもわからねぇんだけどよ。こんなところであたしが心配するようなやつじゃねぇんだからな。緊張しすぎて固くなるようなこともねぇだろ?外でどれだけ命かけてきたと思ってんだよ。」
「そ、そうは言っても、モンスターと戦うのと人と戦うのじゃ、全然違うんだから……。緊張だってするんだよ?」
「そうそう学園の武道会で死ぬこたぁねぇんだから、できることをやってりゃいいんだよ。兵科の連中だったら武器スキルくらい持ってるやつも1年にだって居はするだろうが、お前ほど生死のかかった経験をしてるやつなんてそうはいねぇんだからよ。」
「むぅ。」
信用してもらえてるのは嬉しいんだけど、本番でくらい優しくしてくれてもいいんと思うんだけどなぁ。せめてアドバイスくれるとか。
トーナメント序盤で使用される4つの会場は、普段実技室として開放している部屋なのでもちろん観客席なんてものが室内にあるわけではない。
準々決勝から使われる会場はそういった目的用に作られたアリーナのような場所なので、相当な人数を収容できるようになっているけど、実技室に観客を押し込んだら大変なことになってしまう。なので、選手の控え室や観客席は別の場所にある広い講義室が割り当てられていた。壁が透き通ってるんじゃないかというくらい鮮明な映像が講義室の壁一面に映し出され、それぞれ見たい試合会場の案内版が観客室の入口に貼ってある。
もちろん各試合を映し出す観戦会場は一つではなく、何か所もの部屋で放映されており、人気の高い対戦カードともなると、そこを放映している部屋の外にまで観客が押し寄せるらしい。
観客室はまだ1回戦も始まっていない今から大盛り上がり。
観客室から入ってすぐの所にはブックメーカーがブースを構えていて、沢山の人が一覧と倍率を見て半券を買っている。この世界に賭博禁止法はないからね。こういうのも商売の一つ……というか、どうみても仕切っているのはこの学園の先輩っぽい人たちだ。
とりあえずボクはまだ観客ではないので、会場に近い選手控え室に。
観客室とは打って変わってシンとした空気が流れていた。
この部屋で待機しているのはボクを含めて30人くらいはいるだろうか。トーナメント表は左右に分かれていて、1回戦があるのは左側11戦、右側10戦のみ。
左側には75人右側には74人分の名前がずらっと並んでいるので、1回戦のない人達は1回戦が全部終わり次第どんどん試合が回ってくることになる。対戦相手も決まっているしね。
控え室にも観客席と変わらない大きな映像が壁に映し出されている。壁に映されているんだけど、前世であったような映写機のような感じではなく、壁の向こう側に箱庭が投影されているかのような立体的な映像で、解像度も本当にそこにいるんじゃないのかってくらい綺麗。こういう技術は科学より魔法だね。こちらの世界の方が全然進んでいる。
「始めっ!!」
複数聞こえた始めの合図で、一斉に動き始めた。
実技室はリンクと訓練していた時のような大きな部屋で、部屋の中にはいろんな地形が作られている。普通に障害物として岩や木々が乱立しているし、砂場もあれば平地もあったり、それこそ闘技場のように整備された真っ平らなフィールドだって用意されている。
その実技室を4分割しているので、割り当てられる地形は運次第。
もちろん地形が戦闘フィールド判定になっており、そこを出れば負けとなってしまう。ほぼ足場を岩に取られて、平らな場所を探すほうが難しいような山岳地形での戦闘を強いられている人もいれば、木々が明かりを遮って薄暗い場所での戦闘を強いられる人、何も無い平地で隠れる場所もなく、お互いの力量だけが試される人。様々な環境下での実戦が想定されているこの世界では、こういう戦闘が当たり前のようだ。
地形を生かした戦いも力量のうちだし、自分の得意な地形を引き当てる運も実力のうち。
「う~ん?」
1回戦だからだろうか。
思っていたよりも全体的なレベルはまだそこまで高くはない。
特に、武器スキルを1つでも持っているか、そうでないかでは身体能力に段違いの開きが生じるため、素人のボクが見ていても明らかな違いがわかる。
まぁ初戦なんてシード下なんだからこんなものだろうけど、よく見てみるとその殆どが同級生だ。見ている限り武器スキルを所有している人は半分くらいかなっていうレベルで、魔法を禁止されているだけに、どうみたって兵科主体の子達が圧倒的に有利に進めているようだ。
「次に呼ばれた学生はこちらへ来るように。」
控え室に運営の先生が入ってきて名前を呼んでいく。
もちろんボクが真っ先に呼ばれ、第一実技室の前へと案内された。
人と戦う。
これが人生で初めてだ。
さっき先生が、経験からしてみれば大丈夫みたいなことを言ってくれたけど、その経験だってここ半年間のものでしかないし、何より相手はそこまで作戦を練ってくるわけではないモンスターだったわけで。
もちろん不安は大きい。
でも、少し前までは人と戦うなんて絶対無理だって思っていたのに、武器スキルが取れて、ちょっと体の動かし方がわかってきたら……まさかワクワクしちゃう気持ちが芽生えるだなんて、思ってもみなかったわけだけどね。
「次、レティーシア……。アドルフ・ラギネ。会場1-3へ。」
ボクの名前に性が無いから呼びづらかったのだろう。一瞬名前に詰まりながら会場を案内される。対戦相手の彼も、名前は知らなかったけど多分同じ1年生だと思う。何度か兵科総合の講義会場で見かけたことがあるし。
会場入口に木製や鉄製の武器が沢山ラックにかけられて用意されていた。
刃を潰して事前に認可をとっていれば武器の持ち込みも可能だけど、ボクは刃を潰せるような練習用の武器なんてまさか持ってないので、ラックの中から自分の身長にあった槍を取り出す。
もちろん魔法関係は全部禁止なんだから、ボクが自分の魔法で作った武器も使えないのだ。
流石に木製の武器を使って勝てるほど甘い世界じゃないだろうに、なぜ木製の武器まで用意されているのかというと、スキルの種類によっては木製の方が効果が高かったり、全兵種解禁トーナメントの方で魔法を使用するのに便利だったりだとか、そういう理由が考えられる。
考えられはするけど、基本そういった理由の人たちは自分で武器を持ち込むだろうから、一応用意してあるだけっていうのが本当のところなんだろう。
いつもは自分で作っているからか、鉄製の武器を手に取ってみると、ずっしりと重たく感じる。手触りも冷たいし、女の子が握るには柄がちょっと太い。
「ふぅ。」
「ちっ。ついてねぇなぁ……。」
会場に入り、相手と対面する。15mくらいは離れているだろうか。
「始めっ!!」
えっ!?もうっ!?ちょっと急ぎすぎじゃないですかねっ!?
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