常識って大事。
……確かに。
次元牢獄や設置盾を使えば、リンクが如何にスキルで範囲攻撃をしてこようがボクには届かないだろう。
でもあれは空間面に固定されてしまう魔法だ。
その魔法で防ぐという事は、ボクは基本的に動けないと言う事になってしまう。
「リンクと組むのであれば貴女は後衛なんだから、防御魔法を張って陣を取って置くのは何も悪い事ではないわ。」
「でも相手も人なんだから、動けないんじゃ動かない方を狙ってくるのが普通じゃない?」
「リンクの攻撃が通らないような後衛を狙って、どうやって倒すのよ。」
「まぁ……そうなんだけど。」
次元系防御魔法には弱点があるんだよね……。
魔法発生点が防御面の向こう側に設定できるって言う。
ボクが次元系防御魔法を使いながら魔法を使おうものなら、普通の観察力がある人なら気付いてしまうんじゃないだろうか。
今までは一期一会のモンスター達相手だったから騙しとおせたけど、今回はトーナメントなんだから。ボクを倒そうと研究してくる事が想定されてしまう。
そして何よりまずいのが、武道トーナメントは個人戦が先で、団体戦が後なのだ。
つまりボクが個人戦でそういう風に魔法を使ってしまい対策を立てられてしまうと、もう団体戦では対策済みとなってしまうわけだ……。
こんな弱点誰に言えるわけもないんだよね……。
まぁシルがこの先、ボクの人生の中で敵に回るなんて事起きる気はしないから、シルくらいに知っておいて貰うのはいいんだけど……。弱点を人にさらけ出すっていうのは勇気だ。アドバイスは貰えるかもしれないけど、言いづらいのも確か。
「ん、何?あの防御魔法って、何か不安があるの?」
「う~ん。多分この武道トーナメント中には、ばれちゃうんじゃないかな。」
「……そう。見た事のない程強力な防御魔法だものね。何の代償も無いわけがないのかしら?」
あ、そっか。武道トーナメント中にばれるなら、ここでシルにばれても何の問題もないか。なら相談してしまえばいいんじゃないかな?
「う~ん、代償というか弱点かなぁ?あの魔法って魔法発生点を魔法の内側に設定すれば、貫通できちゃうんだよね……。」
「……?」
一瞬間が開いた。
これはどっちのパターンかなぁ。
「え?それが弱点なの?」
お、嬉しい方のパターンだ。
それはまずいじゃない!的なパターンだと、本気で弱点の克服を考えないといけないのに対して、このパターンだとあまり問題にならない可能性がある。
ボクが持っている知識や常識と、シルが持っている知識や常識は根本的にかなり違う。
どちらかというとボクが持っている知識は常識は、前世のものに偏っているし、頼っている部分がかなり大きいのに対し、シルが持っている知識や常識はこの世界由来の物。
つまり、シルが大丈夫だといえば大抵大丈夫なのだ。
「う、うん。だって相手の魔法がボクの防御魔法の内側で発生したら、どうしようもなくない?」
「……待って?レティは防御魔法を使いながら攻撃魔法を使えるのよね?」
「うん。同じ事を相手がしてきたら、どうにもならないでしょ?」
「できないわね。」
「……え?」
「できるはずないじゃない。そもそもレティはどうやってあの防御魔法の外側に魔素を送っているの?それが私にも全く理解できないわ。それが理解できない限りできっこないじゃない。」
「う……ん?」
いや、対策が出来ないというのなら嬉しい事なんだけど、当たり前の様に言われてしまうと面食らっちゃうんだよ……。今までずっと悩んでいたのが馬鹿みたいじゃない。
「はぁ……。レティの常識面に関して言えば、はっきり言ってリンク未満よね。貴女ももしかしてどこぞの王族なのかしら?」
「むぅ!」
遠まわしに馬鹿よねって言われてる事くらいわかるんだからね!?
だってしょうがなくない!?住む世界が変われば常識も変わるんだから。
前世と今世の話をしてるなじゃないよ?農民と貴族っていう世界の話!農民の常識だったら絶対にシルより詳しいんだから!!
……詳しいよね?多分詳しいと思う……す、少なくとも!シルを除けばこの学園の誰より農民の常識には詳しいんだから!!
えっへん!
「……どんな思考が巡ったらそこで胸を張る結果になるのかしら……。」
お、たまにはシルにもボクの思考を読めない事があるみたい!
してやったり!とか一瞬思ったけど、かなりどうでもいいことを考えていたので置いておくことにします。はい。
「魔法に関してはレティの方が才能も理論も感覚的なところも私よりも遥か先にいるのだから私が教えられるような事はないのだけれど?でも魔法の発生点をずらす時の魔素の流れを考えてみれば私にもわかるわよ?そんなこと。」
魔素の流れ?
「え?レティはどうやって発生点をずらしているのよ。」
「え?座標を設定して……。」
「はぁ?座標?何を言っているの?」
「何といわれても……。」
「待って待って、座標を設定して?それでどうするの?」
「そうするとそこから魔法が出るというか……。」
「……何それ?意味がわからないのだけれど……。」
「え?じゃあ逆にシルは炎の魔法なんかを使う時はどうしてるの?体から近い場所から魔法を発生させたりしたら自分が火傷しちゃうじゃない?」
「それこそ魔素をずらすのよ。もちろん防御魔法を自分側に掛けておく人もいるけど、炎の効果範囲を全て守らないといけないから、魔力の無駄使いよね。」
「魔、魔素をずらすって……?」
「え?本当に言っているの……?こうやって……魔力から魔法に変換する基になる魔素を体の外に流して……。」
シルが実践して魔力を体の外に放出し始めた。
魔力というのは、つまりは自分が取り入れた魔素を体内で圧縮したエネルギーのことを指し、魔素というのは、大気中から生命や無機物にさえも流れるこの世界特有な元素の一種。
「体外に魔力をそのまま流したら空気中に拡散しちゃうんじゃない?」
「そうよ?だからそもそも無理なのよ。戦ってる最中にレティの防御魔法を抜けて貴女の近くに魔法の発生点を設置するなんて。そもそもどうやって魔素をレティの防御魔法の向こう側まで流すのよ。防御魔法で防がれるじゃない。」
体外に魔力を、魔法に変換せずにそのまま流すっていうのは、例えれば息を吐きだすのと同じような感覚になる。吐き出した息は自分の意思で少しは操れるかもしれないけれど、基本的にはすぐに大気中に拡散して消えて行ってしまう。
それを操作して、ボクの次元面のこちら側に魔法発生点を設置する場合、次元面を迂回して回さなくてはならない。ただでさえすぐに拡散してしまう魔力を、防御魔法を迂回するような長いルートを通して魔法設置するなんて、とんでもない魔力量が必要になるってしまうわけだ。
魔法を使うために用いる魔法構造にはすべて魔法発生点の設置記述があるんだよ……。なるほど、これってもしかしてボクが魔法構造を理解したり応用できるっていうグリエンタールのおかげなのかもしれない。
「で?どうやるの?教えなさいよ。常識を教えてあげたんだから。」
「え~。」
とか言ってみたものの、別にシルに魔法構造の事を教える事くらい全然構わないんだけどね。
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