ゲームとリアルの違いって大きいんです。
「え?あいつ、まだ連携が出来ないの?」
「え?まだって?」
その日の夜。
授業と自主トレーニングを終え寮に戻るとシルが先に帰ってきていたので、リンクとの連携の話を切り出してみた。やっぱり戦略や戦術って言ったらシルだもん。
シルは別に武道トーナメントに参加する側でもないし、運営側だからってアドバイスできないなんて事もないだろうしね。
「……1年も先にここの学園に入学してるんだから、流石に誰かと組んで戦闘くらいの経験はしているはずよね?」
「うん?だってボクやフラ先生と一緒にクエストに出たり、戦争の時にも一緒にいた事あるよ?最初に冒険者ギルドで会ったときも、ここの学園の同研究室生?っぽい人と一緒に来てたし。」
「そうよね?だからリンクやアレクを誘ったらいいんじゃないって言ったのだけれど……。確かにあの馬鹿王子、頭は悪くないのだけれど馬鹿なのよね。」
シルが王子2人に使う言葉使いや態度は好きの裏返しかな?
馬鹿馬鹿とは言うけど、本当に本気で貶したりしてる所は見た事ないしね。ボクに組むように薦めてくれたり、どちらかというと信頼している感じ。
「まぁボクが王子様に向かってこういっちゃうのもなんだけど……。なんとなく馬鹿っていうのはわかる気がするよ……。リンクもアレクも全然頭は悪くないし2人ともすごいのに、どこか不器用というか?」
「でしょう?要領が悪いのかしらね。2つの事を同時にはできないのよ。」
2つの事を同時にやるのって、意外に難しいよね。
きっと2人ができて当たり前だと思われているのは、基本的に王子2人も能力が高いからだと思う。周りの評価が高いが故に、その評価に見合っていない部分が少しでもあると悪目立ちしちゃうのかなぁ。可哀想に。
「うん……。でもそれと連携ができないのって何か関係があるの?」
「大ありよ。特にリンクの方はね。」
「そうなんだ……。」
「あいつ、馬鹿力でしょう?スキルの効果範囲もかなり広いのよ。それが一人の時ならいいのだけれど……。」
「あ、味方がいると……?」
「そ。巻き込んでしまうのよ。……昔何かあったらしいのよね。味方に大怪我させちゃって。王子だからそこまで言われなかったらしいけど、それが逆にあいつの中で消化しきれていないのよ。」
「へぇ……。」
ボクが転生したこの世界は、ボクが前世で知っていたグリエンタールの愛惜っていう恋愛シミュレーションゲームに似ている世界なのはなんとなくわかっている。
スキルの感じとか、世界観とか、フラグの回収とか、イベントとか。そういったものが余りに酷似しすぎているし、何よりボクが持っているスキルの名前がそのまんまだしね。
でも恋愛シミュレーションゲームに、そんなに細かい魔法の設定なんて付いているわけもないからね……。ゲームの世界ではあまり気にするはずではなかった甘い設定が、リアルの世界に変わった途端、突然怖いことになったりする。その中でも確かに一番怖いのはフレンドリーファイア。味方を傷つけることだ。
何が嫌って、この世界の人間はちょっと魔法の才能がある人であれば、ボクの前世で記録されていたような世界記録を簡単に塗り替えられてしまう事。
この学園に入れるくらいの魔法が最低限使えれば、前世の人達に比べて陸上競技能力なんて話にもならないだろうし、武道競技も相手に触られることなく余裕で勝てる。前世の世界には科学と物量という脅威があったから、戦争をしたらどちらが勝つかなんてわからないけど……。まず個々人の能力差からしたら一騎当千と言っても過言ではないだろう。そのくらい魔法の力っていうのは突出してて異常なんだよね。
その中でボクが一番怖いのは、リンクのようにスピードが速い前衛がいること。
ゲームではシステム的にスピードが速いっていうのは有利な要素でしかなかったんだけどなぁ。敵に攻撃の先手を取れるとか、敵の攻撃を避けられるとか。
でも現実になってくると話はちょっと違う。
そもそも敵の攻撃を受けるというのは、ゲームみたいにHPが残っていれば大丈夫!なんてことにはならないので、基本回避率はほぼ100%でなくてはならない。
防御という手段があるから全てを回避する必要はないにせよ、防御と回避を足して100。これが大原則。ゲームみたいにHPが満タンの100だろうがHPが瀕死の1だろうが同じ動きができるのは、ゲームに傷害による能力パラメータの減衰システムなんて入れたら面白くなくなるから。でも現実じゃ70にもなれば行動に制限がかかってきて、どんどん動きが悪くなる。ましてや残り1なんていう瀕死状態で動けるなんてことは絶対にありえないのだ。
回復魔法もあるけど、回復なんていうのは最終手段。一瞬動きが鈍れば、それは死に繋がってしまうのだから。
リンクはものすごく動きが速い。
体力が無限に続くし、相手を圧倒するくらいの武のスキルもある。
故に動きが読めないし、ボクが後ろから適当に敵へ攻撃を撃とうものなら、間違ってリンクに当たりかねないのだ。邪魔でしかない。
こないだのラーズニクス戦では、相手が大きすぎてずっと宙に浮いていたのもあって、そこまでやり辛さは感じなかったけど、今度の武道トーナメントは確実に相手は人。
大きさも人の個人差程度の差しかないわけで……。
「なんとなく、想像はついたかしら?」
少し待っていたシルが、なんとなくリンクとの共闘を映像的に頭に思い浮かべ終わったのを見計らって話を再開する。
「やり辛いでしょ?あいつ空気読めないから、気付かないのよ。周りのそういう気持ちにもね。……今まではそれでよかったのでしょうけど、今回は共闘することに意味のある大会じゃない?そういうのもあって誘われていないのでしょうね。」
リンクを団体戦に誘った時に口走ってた
『誘われねぇからな』
っていうのは、そういう理由もあったのかもしれない。
てっきり王子だし、倒したほうが拍がつく側なのかと勘違いしてたんだけど。
「う~ん。でも最近は空気も少しずつ読めるようになってきたんだよ?」
「恋って偉大よね。」
「う……。なんか恥ずかしいからやだ。」
「あら、私は少し楽しいわ。」
いつもボクがニヤニヤしながらシルを眺めている事が多いのに、仕返しのようにシルがニヤニヤとボクを見て微笑みだした。
そんなところまでシルに優位性を取られてしまったら、ボクは何もできなくなっちゃうじゃない!悔しい。
「でも、じゃあなんでボクに誘うようにアドバイスしたの?」
「それは、ここ1年であいつが成長している期待がほんのひと欠片くらいと……。」
ほんの欠片くらいしかなかったの……。
「レティならできるでしょ?」
「え?何を?」
「あいつの攻撃を防ぐ事よ。」
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