今日は土曜日なので。
ちらっ……
ちらっちらっ……。
もうっ!!気付いてよっ!!
いつもは普通に話しかけてくるのに、今日に限って全然話しかけてきてくれない。
ぐぅ。そういえば空気読めない方の王子なんだった。
最近はまぁ気は使ってくれるから改善されているのかと思っていたけど、どうやら間違いだったようだね!
なんて勝手に自分に都合よく他人を貶めながら周りを見渡してみると、確かに皆忙しそうにしている。今日は土曜なので講義を履修していない生徒もいるはずなのに、いつもよりも兵科の訓練施設にいる人口が多い。
5人組で何やら色々な訓練をしているのは、あれが団体戦の練習だろうか。
羨ましい。めちゃくちゃ楽しそう。
「どうした?何か気になるのか?」
軽装兵科の講義を受け、槍装備の訓練をしながらキョロキョロとしていると担当教官に話しかけられてしまった。ちょっと恰幅のいい男性の教官だけど、筋肉もあるのでそこまで見た目が悪いわけではない。30代後半くらいか、40代前半くらいかな?どちらかと言うと優しい顔をしている。
軽装兵科の講義はあまり履修回数が多くないので、まだ基礎中の基礎を受けている所。それでもボクとしては為になるので、訓練内容としては魔法科の初期講義のように暇を持て余す程ではない。ただ、流石に槍スキルを取得しているだけあって、履修内容が楽なのは否めない。
もちろんそれは教官自体も知っており、履修申請だけして他の講義を受け、履修内容がある程度自分の為になる程度まで追いついたら来てくれればいいとは言ってくれているので、講義に身が入っていなくてもそこまで怒られないのだ。
「あ、いえ、その……。皆学祭の準備とかで楽し……忙しそうだなって。」
「ああ、そりゃ今の時期はそうだろうな。君は参加するのかい?それとも今年は観戦だけ?」
「フラ先生が武道トーナメントには参加しろって言うので、そっちは参加するんですけど……。団体戦に出られる程人脈とかなくて……。」
「ああ、君は先日騎士になったんだそうだね。おめでとう。」
「あ、ありがとうございます。」
「騎士に昇格したのであれば、騎士団に所属してみたらどうかな?そうすれば騎士団に所属している子達との面識ができるからね。君以外は皆この学園に入学してくる前から爵位か騎士位を持っていたから、学外での繋がりがあるんだよ。確かに、学内だけで大きな交友関係を築いていくのは大変かもしれないねぇ。」
「そ、そうなんですか……。」
今日朝一で掲示板を見てみたけど、競技会や団体戦メンバーの募集なんて貼り出されていた形跡すらなかった。そりゃそうか。皆本気だもんね。募集かけて知らない人と組むより、ちゃんと自分達で探すのだろう。
まぁ……そのお眼鏡に適わなかった自分がまだ実力不足なのだ。
求めてばっかいてもしょうがないよね。
……
午前4時間、午後4時間。
1講義辺りの履修時間なんだけど。
休憩は何度か入るとは言え、4時間ぶっ通しの兵科っていうのは基礎訓練でも結構辛い。
総合課の辛い奴なんて休憩すら入らない講義内容もザラにあるんだけど……。
まぁ自分で将来どこか職に就く訳ではなく、冒険者とか自由にやっていこうとしたら時間単位のぶっ通しどころじゃなくて、日単位のぶっ通しだって珍しくないだろうから、ある程度はそういう訓練も必要になってくるってことなんだろう。
「ふぅっ……。はぁ……。」
槍を振り続けた腕が重い。
っていうかもう上がらない。
スキルが身について、振りが軽くなったとは言え、そんな簡単に基礎体力があがるわけではないのだ。
むしろボクはスパルタダンジョン攻略のおかげで持久力はものすごいスピードで付いた方だと思う。走り込みと言うのは意外に全身運動で、下半身はもちろん腹筋もものすごい付いた。中々女の子でこんなにちゃんと腹筋が割れている人って珍しいんじゃないかな?……この兵科にいる女の子達は例外とするとしてだけど。
「今日はそこまでにしておきましょうか。」
「……はい。ありがとうございました。」
「どんなにスキルのレベルが上がろうとも、基礎は重要。むしろ熟練者程毎日基礎訓練をこなしているものだからね。継続してがんばってね。」
確かにグリエンタールのスキル経験値の表記が一定量ちゃんと進んでいる。
毎日の積み重ねは大事だよね。
いざと言う時に出る動作は、基本自分が身につけた最も信頼できる技術に依存するだろうから。ボクの場合今の所槍だけしか扱えないけど、この技術を根幹にして色々頑張ってみたいところ。
兵科の訓練所は円形に作られていて、囲んでいる外壁は結構高い。
魔法を使えば乗り越えられなくもないけど、3階建ての建物くらいの背は余裕であるので、日が傾いてると簡単に陰ってしまうことから、逆に真上にあるとかなり明るく感じる。
外周2kmもある円型ってことは、直径で約650mくらいあるわけだから、これだけ外壁の背が高くてもそこまで日が入ってこないほどではないんだけどね。体を動かす講義なので、日陰が多い方がありがたいのだろう。
ただ、今のような午前の講義が終わる時間という事は、太陽は真上。
流石に4時間体を動かし続けた熱の篭った体に、残暑の太陽はちょっと鬱陶しい。
「うぅ……。」
今は動くのも億劫なので、壁際に出来た少しの日陰にどさっと腰を下ろし休憩する。
走り込みで腹筋が付くように、武器の基礎訓練も全身を使う。
もちろん一番辛いのは腕で、腕はもう上がらないんだけど……。
全身もうへとへとだ。
まだ夏日で蒸し暑さが残る日差しの中。
こういう日は冷たいシャワーとか浴びたいよ。
魔法を使えばここで水浴びもできなくないけど……。
ボクは女の子なので、こんな人目に付く所でそんな事できるはずもなく。
上半身素っ裸でばしゃばしゃ水を浴びてる男の子達が視界に映る。
羨ましい。
とりあえず体力が回復するまで動けなさそうだった。
400km短距離走で、体力も下半身の筋力も結構付いた方だとは思うけど、筋力が付いたなら疲れないなんてことは絶対にない。
そもそも訓練と言うのは自分の能力次第で強度が変わるのだから、いくら筋力や体力が付こうが、その分訓練強度を上げてしまえば、その分疲労も上がるのだ。
「あ゙あ゙~あっづぃ。」
外壁にもたれていた背をずらし、横になる。
日陰とは言えこの暑さは殺人的だ。
横になった視界には、沢山の生徒がいまだに色んな訓練をしていた。
講義も終わってお昼の時間。学祭に向けた個人や団体のトレーニングだろうか。
とはいえ圧倒的に個人が多いのは、お昼の時間だからだろうか?
それとも今日はこれで講義の時間は終わり。
午後は無いので、団体競技はもっと広い訓練場で練習しているのだろうか。
はたまたライバルにばれないよう、学外で練習しているのか。
横になりながらぼーっと訓練している人達を見ていると、どうやら個人だと思っていた皆も話しかけながら訓練している。知らない仲ではないのだろう。
皆あんな感じで友達ができるのかなぁ。
羨ましい。
びちゃっ!
「ぶへっ!?冷たっ!!!」
突然上から冷水が降って来た。
晴天で雨など降ろうはずも無く、そもそも雨なんていう流量じゃない。
「何?!」
思わず上を見上げると、外壁の上にリンクがいた。
どうやら魔法で水を落としたらしい。
「なんだ。リンクか……。」
視線を戻すと、目の前に足が降ってきた。
10m以上ある場所からの自由落下による着地。
埃は立たなかったけど、結構な衝撃。
怖っ……。
「こんな所で寝てると体から熱が抜けなくなって死んじまうぞ。」
「……。」
熱中症っていう言葉はまだ無いらしい。
「疲れたんだよー。運んで?」
「ああ?別にいいが恥ずかしいのはお前だぞ?」
「……。」
本当に運んでくれそうで怖い。
王子に運ばれるとか羞恥プレイもいいところじゃない。
めちゃくちゃ注目も集めるだろうし。
「うん。いいです。遠慮しておきます。」
「……なんか話があるんじゃねぇのか?」
ひと呼吸ついてから、思い出したかのようにぼそっとそう告げられた。
視線はまだ1度も合っていない。
「……うん?」
「ずっと見てただろ。俺の事。」
「……え!?」
うそっ!?
ばれてたの!?
恥ずっ!!!!
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