お風呂の中で話してると、何時間でも入れちゃうよね。
「お姉ちゃんおっそ~い!」
「あら、用事はもう終わったの?」
簡易式典が終わって部屋に案内されると、そこに家族の姿はもうなかった。
リンクとアレクは、式典の付添としてこの宿に来ただけらしくて一緒に温泉旅行を楽しむわけではないらしい。お仕事中なら仕方ないよね。
それなりぶりに会った気はするけど、そういえば一言も会話しなかったね。
後期が始まったらどうせまた会うだろうけど。
家族の姿が無かったのは、先に大浴場へ行っていたからだ。
折角なのでボクもイオネちゃんと一緒にごはん前に行ってみることに。
シルは王様達とまだお話があったようなので、置いて先に戻ってきたのだ。
「わぁ!広~い!」
「私、温泉って初めてなので……。ちょ、ちょっと恥ずかしいね。」
乳白色のお湯が、岩で作られた大きな湯船をいっぱいに満たしている。作りは建物と同じく和風で、衝立も木で作られていたり、松の庭園まで造られていて、ボクとしては懐かしさを感じざるを得ない作りだった。
まぁ前世でも実際温泉に行ったことなんてないんだけどね!
端っこにはママとユフィが2人だけでお湯につかっていて、他のお客さんはいないみたいだ。ボクの隣ではイオネちゃんが恥ずかしそうにタオルで身を隠している。
「はいは~い! 温泉にタオルを着けちゃいけないからね!」
「ちょ、ちょっと! レティちゃん!?」
そういいながらタオルを剥ぎとると、その場にうずくまって動かなくなってしまった。
まぁ可愛いのでよしとしよう。
そのままほっといて温泉に浸かる。
もちろん、掛け湯も忘れずにね。
「おぅぁ~あったかぁ。」
「見て見てお姉ちゃん、このお湯お肌がすべすべになるんだって~!」
ユフィが近づいて来て腕を触らせてくる。
うん。ユフィの肌は元からすべすべだと思うけどね!確かにつるつるしてる。
肌触りがとても気持ちいい。
「ちょっと! お姉ちゃんのバカ! どこまで触るのよ!!」
逃げられちゃった。残念。
イオネちゃんも決心したのか、見よう見まねで掛け湯をしてお風呂の中に。
お風呂に入れば乳白色で見えないとわかったのか、落ち着いたようだ。
「あ、気持ちいい~!」
「でしょ? 温泉はこうじゃないとね!」
「あれ? レティちゃんは温泉入ったことあるの?」
「……え? ないよ?」
「そ、そうなんだ? それにしてはよく知ってそうだったけど……」
いや、実際ないんだけどね……。
でも温泉のシーンは嫌というほど見ていたので、なんかもう知っているものという感覚しかなかったんだよ。
「ほ、ほら。王都にもガイドブックがあったからね? それを見て知ってたんだよ」
「ああ! そういえば学園にもあったね~。正直ちらっと見た時は、知らない人とお風呂に入るなんて信じられなかったかなぁ」
「今日は知らない人もいなくて、貸切みたいだね!」
「みたい、じゃなくて貸切よ?」
後ろからシルの声が聞こえた。
え?この旅館、今日貸切なの……?
そう思いながら顔を上げ、声がした上を覗くと、シルの……顔が見えない。
ボリューム感やば。
「あれ?もうお話は終わったの?」
「ええ。私は休暇中だもの。お仕事のお話なんて持ち込まないわ」
王様相手にそれもすごいと思うけど……。
シルは流石に慣れたもので。
恥ずかしがる素振りなど微塵もないようだ。
う~ん。あのスタイルじゃ恥ずかしがる必要がないのか。
むしろ見せつけるべきなんじゃなかろうか。
……そんなこと言ったらイオネちゃんに悪いか。ごめんね、イオネちゃん。
ふとイオネちゃんを見ると、さっきよりも温泉に深く浸かってる気がする。
さっきは肩まで出てたのに、顎まで入っちゃってるよ……。
あ、ユフィもだ。
そんな入り方してると、すぐ上せちゃうよ……?
「ふぅ。」
ぬぬぬ。
自分の事を棚に上げるようだけど、髪の毛はお風呂に浸かる際、お風呂に入らないように頭の上でまとめるんだけどね?
そうすると、うなじが見えて色っぽくなるんだよね。
なんだかシルがいつもより色っぽい気がする。
上気した頬もそれを助長しているかのようだよ。
「ちょっと。温泉であまり人の事覗くものじゃないわよ。恥ずかしいわ。」
「覗いてるんじゃないよ。凝視してるの凝視」
「……もっと駄目よ……。」
ぷくぷくぷく。
い、イオネちゃん……。
それ以上沈むと、息できなくなっちゃうからね……。
折角だからと持ってきておいたボディソープとシャンプーを、ママとユフィに渡してあげると、喜んで洗い場へ上がっていった。
ボク達よりもかなり前から温泉に浸かっているはずだから、流石に上せ気味だったのだろう。ずっとここにいたのは、多分ボク達を待っていてくれたんじゃないかな?
気に入ってくれたらそのまま石鹸はあげちゃおうかな。
寮に帰ればイリー達に貰った石鹸がまだまだ沢山あるしね。
温泉に入った時には、すぐにママたちが露天風呂の方に見えたので露天風呂に直接来たんだけど、実際にはちゃんと内湯もある。内湯には檜で作られた浴槽に乳白色の温泉がかけ流しになっていて、いくつかの浴槽に分かれていた。
浴槽ごとに温度差があるみたいだ。
内湯へ入っていったユフィが、冷たいお風呂に入って気持ちよさそうにしている。
……ボクも後で入ろっと。
「そういえばさっき貰った勲章って、何がすごいの? イオネちゃんすごい嬉しそうだったけど、いいことあるのかな?」
「あ、そっか。レティちゃんは勲章の授与とか見る機会ないもんね。」
「イオネちゃんはあるんだ?」
「うん。うちは零細貴族だから。貴族の式典なんかはもう絶対出席なんだよね。そういう場で勲章の授与とかがあるの。今年は私、出席できなかったから知らなかったんだけど、まさか自分が貰えるなんて思ってなくて!!」
尻上がりにイオネちゃんのテンションが上がっていく。
イオネちゃんがここまでテンション高いのって珍しいよね?
「……それで、つい……。」
自分でも気づいたのか、恥ずかしそうに湯船に沈んでしまった。
テンション高いイオネちゃんも可愛いからいいのにね。
「へぇ。勲章ってなんかいいことあるの?」
「え?!それはもう!すごい名誉なことなんだよ!!」
「名誉かぁ……。名誉じゃお腹も膨れないんだよねぇ……。」
「ええ!?家の格式もあがるんだよ!!」
「うち平民だから格式とかないんだよね。」
「えええ!?……そ、尊敬されたり……とか……。」
「貴族の人たちに尊敬なんてされたら、こそばゆくて困るかなぁ……。」
「えええぇ……。」
「はぁレティ。貴女、本当に何も聞いてなかったのね。」
「だって突然の事で頭が真っ白だったんだよ。シルのせいだからね?」
「はいはい。貴女一応もう平民位ではなくなったのよ?」
「……うん?」
「勲章を3つに、紋章まで確約された子が、平民のままのわけがないでしょう? 一応騎士位についたのよ。貴女は。」
「きしい?」
「言ってしまえば騎士という爵位ね。グルーネでは爵位と騎士位は別物ですけどね。」
「ナニソレ?」
「……まぁこういうのを習うのは貴族学校だから。貴女よりも、もしかたら妹さん達の方が詳しいんじゃないかしら?」
「そ、そうなの?」
今までいろんな事を教えてた立場としては、弟達にはちょっと聞きづらいなぁ。
「グルーネに奴隷制度はないから平民から始まって、叙勲の際、爵位を賜るか、騎士位を賜るかでその後の階級と役割が変わるのよ。」
「へぇ……?」
「ピンと来てないわね。そうねぇ。簡単に言えば、爵位を持つ場合は政治方面に、騎士位を持つ場合は軍事方面に権限を持ってるってことよ。」
「へぇ……。ボクにもなんか権限とか義務ができちゃったの?」
権限は嬉しいけど、義務は嫌だなぁ……。
「ん~……そうねぇ。例えば私やイオネの様な爵位には、勲功爵、準男爵、男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵の基本7位があるわ。ちなみに今回レティが貰った叙勲は5位以上に与えられる勲章だから、もしも叙勲者が爵位を望むなら男爵ね。」
おお? ってことはイオネちゃんと同じ爵位まで行っちゃうってこと? むしろ当主になれるんだから、イオネちゃんの親相当なのかな?。
「イオネの場合、男爵令嬢で緑王特別功労勲章を貰ったから、イオネは大人になれば家督を受け継がなくても依然として男爵位が保障されるわ。新しく自分の名前でね。」
「え、じゃあ、ボクとイオネちゃんは同じ階級になれたってこと?」
「いえ……。貴女の場合、華心叙勲章、緑王特別陞爵勲章、緑王特級武勲章の3つだから。陞爵してさらに二階級特別陞爵で、位階で言えば第3位。爵位でたとえると伯爵クラスの大出世よ。」
「えええ!?」
「ただし。最初に戻るけど、爵位と騎士位は違うわ。爵位はどうしても政治方面の実地が必要なの。いきなり何も知らない戦馬鹿が、武功だけ挙げて国の政治に口を出してきたら、国が傾いてしまうでしょ?」
「……それは……そうかも。」
「それでも貴女の場合、爵位を望んで魔法学園を卒業すれば、伯爵とはいかずとも子爵位は確実に貰えるわね。伯爵以上は領地を与えないといけないから、今は陞爵が難しいのよ。」
「へぇ……?じゃあ子爵以下は領地がなくてもなれるの?」
そういえばイオネちゃんの家も領地がない貴族さんなんだっけ。
「ええ、そうよ。貴族は領地の経営だけが仕事じゃないから。子爵以下で上爵位の領地を一部運営しているご家庭はあっても、自分の領地を持っているお家は少ないわね。」
「へぇ……。じゃあ騎士位っていうのは?」
「それこそ貴女にうってつけの階級よ? 冒険者としてやっていくのにも、とても便利なんだから。」
冒険者って、そういう階級とかに縛られない自由なお仕事だと思ってたんだけど、違うのかな?確かに、実際に爵位を持っている人も結構いるみたいだし。
「騎士位は全部で10位階あるわ。騎士、上騎士、騎尉、上騎尉、騎佐、上騎佐、将軍、上将軍、元帥、聖王の10位階。実際一番上の聖王っていうのは王位と同位だから、賢王が生まれた時に制定されただけで賢王以外には今まで一人もいないのだから、9位階かしら。」
「ふんふん。じゃあボクはどこに入ったことになるのかな?」
「騎士位の場合元帥が1位階だから、叙爵の後二階級特別陞爵で貴女は将軍位ね。」
えぇ……突然将軍とか言われても困るんですけど……。
「レティの場合、実際軍部に所属してるわけじゃないんだから、将軍と同じ権限があるわけじゃないわよ?ただ、将軍と同じ権利はあるわ。」
「権利?」
「ええ。例えばこないだの様な戦争に参加する場合、軍事会議に参加できるし、軍事会議であれば口出しもできるわ。口出しできるのは将軍位以上からなのよ?」
「……へぇ……」
「うわぁ、レティちゃんすごいね……」
いやぁ、その気は今のところないからなぁ……。
シルに任せておけばいいじゃん……?
「自分の軍隊を持つことも可能よ?ちなみに、爵位と騎士位両方を持つ貴族もいるわ。」
「え?そんなことできるの?」
「ええ。権限が別れているから、両方を持っていないと難しいこともあるのよ。ただ、両方の叙爵を得るっていうのは、とても大変だけれどね。」
今回の戦争だけで、ボクはものすごい特別陞爵をすることができた……らしい。
実際実感なんてないし、何していいのかわからないんだけど。
でも、シルの夢は自分で爵位を賜る事って、学園に入った時に聞いてるんだよね。
今回の戦争だって、正直シルが一番の功労者じゃないんだろうか?ほぼすべての戦場を仕切っていたのはラインハート家で、その指揮を殆どしたのはシルなんだから。
そうなってくると、シルが爵位を自分で賜れないはずがないのだけれど、何故なんだろう?
イオネちゃんも男爵位を貰ったような物だよね?
……こういうのって、本人に聞いちゃってもいいのかなぁ?
「……私が目標にしているのはね、天爵っていう賢王由来の特殊な爵位なのよ。」
聞く前に伝わっちゃうんだよなぁ……。
まぁいいんだけど。
「それは何がいいの?」
「国を持てるわよ?」
「……は?」
「……え?」
思わずイオネちゃんとハモっちゃったじゃない……。言葉は違うけど!
それにしてもびっくりだよ……。
え?どういうこと?
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