初めてのラインハート領
考えてみれば当たり前なんだけど、ラインハート家は戦後処理でご多忙真っ只中。
そんな中、日程の都合もつけずに突然王都のお家にお邪魔してしまったので、ラインハート家王都別荘には使用人が殆ど常駐していない状態となっていた。まさかこんな忙しい中、主人はおろか客人一家分までのお料理やらおもてなしをするなんて思ってもみなかった皆さんが、裏でものすごい大変そうにしていたのを感じ取ってしまったのだ。ごめんなさい……。
もちろんそこはラインハート家に仕える従者さんたち。ボクたちの前ではどれだけ大変だろうが、おくびにも出そうとはしなかったわけだけどね。
それでも流石に迷惑なのには違いない。
あまり長居するわけにもいかず、朝起きるとすぐに王都の別荘を出発となった。
シルはもう少し位ゆっくりして行ってもいいって言ってくれたけどね。
流石にあれだけ忙しなく動き回る少人数のメイドさん達を見ていると居たたまれなくなってしまうんだよ。なにせボク達平民からしてみれば、自分達の世話で他人にご迷惑をかけるなんて申し訳ない気持ちしかわかないんだから!
手伝おうとすると絶望顔をされるから手伝うことさえ許されないし。
メイドさん曰く。
シルヴィア様のお客様にお手伝いなどされてしまったら、私は職を失ってしまうので、本気で止めてくれと。結構本気で顔を真っ青にされながら訴えられたら、流石に手を出すに出せるわけもなく……。
夜の内に馬が交換され、道中の汚れもすっかり綺麗になって現れたぴかぴかの馬車が門の前に用意されている。
……あの人数で夜の内に馬車まで洗ったというのか。
ちなみに厨房の中を含めて、使用人さんは合計で3人くらいしか顔を見なかったんだよね。
メイドさんが2人に執事さんが1人。
その3人で突然の来客に部屋を作り、コース料理を7人分。自分達の食事を合わせれば10人分は用意しないといけないだろうに、食材の買い付けから料理までこなし。常にシルに付き添う人が1人いて、ボク達客人の相手にほとんどの時間1人はついていてくれたという事は、実質フリーで動いてる人一人だけ。
それなのに何一つ不便さを感じさせないまま、ちゃっちゃと仕事をこなしていく。
単純にすごい。
「ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。十分なおもてなしも出来ず。いってらっしゃいませ」
きっと寝てないんだろうなぁなんて思いつつ、笑顔で送り出してくれる3人の顔を見ながら馬車に乗り込んだ。
またゆっくりと馬車が走り出す。
フルスト領から王都より、王都からラインハート領の方が遠い。この馬車なら1日かかっちゃうかな。着いたら夜になりそうだ。
また皆でわいわいと遊びながら道中を楽しむ。
今度はパパも入って一緒にね!
もちろん道中ずっとカードゲームをやっていたわけじゃないよ?
寝たり、雑談に花を咲かせたり、景色を楽しんだり。
学校、学園生活の事をパパやママに聞かれたりね。
王都からラインハート領までの道を、ボクはロトに向かう際に一度走ってはいる。けれど、向かう方角が違うので、シル以外ボクもイオネちゃんも、もちろんボクの家族も。
ここからの道のりは皆が始めて訪れる道のりなのだ。
ゆっくり進む景色が綺麗で、景色を見ているだけでも満たされる気分だった。
ロト国はグルーネ国から見て北東側が接している。だからボクは、北東に向かった事はあるんだけど、シルの実家のある町は王都からほぼ真東にあるらしい。
そのままずっと東に突っ切ると、エリュトス、ロト、グルーネの3国の境目があるんだとか。3カ国を3歩で跨げるっていうのも、ちょっと楽しそうじゃない?
……相手が戦時国じゃ、そうでもないか……。
ゆっくりと馬車が進み、日も沈み始めた頃。
道に傾斜が付き始めた。遠くの地平線に見えていた山が随分と大きくなってくる。
そういえばエリュトスとグルーネの国境は渓谷になっていたので、ラインハート領の東南側半分は標高が高くなっているのだろうか?
戦時中なのもあるんだろうけど、この世界には詳細な地図というものがないのでよくわからないんだよね。大雑把な地図なら見た事はあるけど、標高や高低差までは書かれていなかった気がする。
「ああ、もうすぐ着くわね」
道の感じが変わったのが合図なのか、シルが外を確認することなくそう言い放った。
確かに道の質が土から石っぽい硬い質に変わり、馬車の車輪の音が一音高くなった。
王都の周りは草原に囲まれていたので、今日の旅路の出発点は広大な緑の草原から始まり、しばらくすると林道や、そこまで深いわけではない森の中へと続くような道へと入った。
さらにそこから抜けると、岩肌が見え始め、緑一色だった草原に黄色の土肌が見え始める景色に変わる。更に更にそこから進むにつれ、標高が上がり始め、肌色に岩肌の灰色が混ざり始めたのがまさに今。
「わぁ! お姉ちゃん見て見て! すごい綺麗だよ……!」
日が沈むくらいの時間になりユフィに言われて馬車の窓から外を眺めると、遠く向こうに街明かりが見え始めた。流石、王都と同じくらいの規模の街といわれるだけあって、色んな種類の光が灯っているのがよくわかる。魔道具の光だろう。区画ごとに使用できる魔道具の明かりの種類でも決められているのだろうか?ものすごく光の概観が整っているように見えるのだ。
「ほんとだ……。すごい綺麗。」
馬車が大きな関所を止まる事無く通過していく。
他国と近いからだろうか。関所の大きさは王都のそれを遥かに凌駕していた。
縦にも横にも。とにかく大きくて順番待ちをしている馬車や人がかなり大量に並んでいるのが見える。そんな順番待ちの列の人達や街中を通り過ぎていく人達が、馬車に礼をしながら過ぎていくのが窓から伺えた。
恥ずかしいので窓から見えない場所に引いておく。
それからしばらくすると、馬車が止まった。
どうやらシルのお家に着いたようだ。
「さ、着いたわよ。皆、中へ行きましょう。」
自動で馬車の扉が開く。
いや、実際は手動なんだけどね。外から人が開けてくれたので、ボクからは自動に見えたってだけなんだけど。
「「「おかえりなさいませ。」」」
扉の向こう側には、城と呼んで遜色のない建物と、ものすごい使用人の列。
門を抜けた場所に馬車が止まっているんだけど、その馬車から門の位置まで使用人の列がずらーーっと並んでいた。
王都の別荘は3人でまわしていたのに、天地の差だよ。
並んでいる人を全部数えたわけじゃないけど、軽く40人くらいはいるんじゃないだろうか?
馬車から降りるシル以外の足が止まった。
足が出ようとしてくれない……。
「どうしたの? 行くわよ?」
どうしたの?じゃないよ!
一応とか言ったら失礼だけど、一応貴族であるイオネちゃんですら馬車から降りようとしないんだよ!?平民のボク達家族があんな中に入っていけるわけがないんだよ……。
「ああ、出迎えは不要よ。各自仕事に戻っていいわ。」
シルが気付いたのか、使用人の列にそう告げると一斉に使用人がいなくなった。
統率されすぎてて、まるで軍隊のようだよ……
「うわ……」
「わぁ……」
「……」
人はこうもびっくりしすぎると声すら出ないものなのか。
ボクの家族に至っては、萎縮しすぎて感嘆の声すらだせなくなってるじゃない……。
パパはともかく、ママの顔まで真っ青なのを見るのはいつぶりだろうか?
ボクがアレクに魔水晶の欠片を貰ってきた時以来かなぁ・・。
もうね。
城と呼んでも遜色ないとかじゃない。
城だよ。城。
なんていうか……うん。
全貌が見えなさ過ぎて、言葉にできません……。
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