新しい文化が広まります!
馬車はゆっくりと進み、王都を経由してラインハート領へと向かっていく。
本来であればフルスト領から王都まで行くのに、馬車で8~10時間といった所。
だけれど、この馬車はかなりゆっくりで、半日以上の時間がかかった。
「旅行用の馬車と言うものは道中をも楽しむものよ。」
そうシルに言われたとおり、ただ通り過ぎていた道のりも違って見える。
さらに馬車の中は快適で、飽きるわけもなく。
パパに至っては眠ってしまっていた。
自分の家にあるベッドよりも、この馬車の椅子の方が寝心地がいいとかいいながら。
確かに……。ふかふかで気持ちいいけどね。
パパが寝るくらいのスペースは余裕で空いているので、一人横になっている。
まぁ正直な所を言うとすれば、色々と心配し続けるよりも考えるのを放棄して寝てしまった方が気が楽だったんだろうけどね。
ママは常識人だと思うけど、どこか抜けている所があるし。
そこまで心配性ではないからパパ程ストレスも感じないんだろう。
「ねぇシル! なんか白い紙とか無い?」
「紙? なんで?」
「こういう時の遊びの定番があるの! それやってみない?」
「あら……面白そうね。」
シルはこういう時にボクが言い出す事が、前世の知識であることをすぐに察してくれる。
ビーチバレーの時もそうだったけど、ボクが持ってくる知識はそのままシルの商魂にも火をつけるようで。度々知り合いの商人と話もしているようだった。
「ん~でも、こんなのしかないわ。」
そう言われて差し出されたのは、お菓子の下敷きになっていた厚紙だ。
白地で、裏に絵柄が書いてある。
……むしろもってこいじゃないか。
厚紙を並べ、端っこを切り落とし、魔法で正確に長方形型に切り出していく。
裏地をそろえる事はできないけど、それはしょうがないよね。
大体横幅6cm縦幅9cmくらいに切り出してカード型に。
ダイヤ・スペード・クローバー・ハートの絵柄を書いてっと。
1~10、J,Q,Kにジョーカーを2枚くらい作っておけばいいかな?
そう!トランプだ。
実は、これに似た物が王都でも作られているが、こんなに種類はないし、もっと単純。
カード総数も24種類で、遊べるゲームもそこまで無いのに対して、トランプカードというのは基本種類でも52枚。そこにジョーカーを入れると54枚と、今はやっているカードゲームの2倍をゆうに超える。
だからこそ遊べるゲームの種類も膨大に増えるし、遊んでいられる時間も長いのだ。
「あら、カードゲーム? 今王都でも流行っているわよね?」
「あ、うん。あれとはちょっと違うけどね」
「そうね、確かあのカードゲームはこんなに枚数が多くなかったはずよね。」
「そうそう。……じゃじゃーん!トランプカードだよ!」
「わぁ、レティちゃん絵も上手だね!」
「えっ!? ありがとう! このハートマーク可愛くない?」
「可愛いと思う!」
「で?姉ちゃん。それはどうやって使うんだよ?」
「私達も学校でカードゲームやらせてもらった事あるけど、あんまし面白いとは思わなかったわ。お姉ちゃんが作ったゲームの方が面白かったもん」
ボクは今この世界にあるカードゲームをやった事は無かったけど……。
面白くないの? どういうルールだったんだろう?
「う~ん、なんか裏に書いてある絵柄を当てたり……。」
神経衰弱みたいな?
まさか魔法のある世界だから、透視ありきのゲームとかじゃないよね……?
「カードを一斉に出して、数字が大きかった方が勝つってだけだったり……。」
それは……つまんなそうだね……。
「よくあれで何時間もゲームしてられるよなぁ。」
「お姉ちゃんが昔教えてくれた五目並べの方がずっと面白いわ。」
「あ、そういえば教えたね。あれって、もっと複雑なゲームの簡易版なんだよ?」
「へぇ! そうなんだ! お姉ちゃん今度はそれ教えてよ!」
「ご、ごめんね。お姉ちゃんもそこまで詳しくは知らないんだ……。」
「そっかぁ……」
囲碁なんてルールをちょっと知ってるくらいで、まさか教えられるわけもなく。
まぁ将棋くらいなら囲碁よりはわかるから教えられるかな。
昔のボクじゃ、駒を作れなかったからできなかったけど、今なら作れそうだ。
今度そっちを教えてあげよう。
「姉ちゃん、今日はそのトランプってカードでゲームするんだろ?どうやるんだ?」
「そうよレティ。そろそろ教えなさい。」
単純にゲームを楽しみたい双子に対して、シルの期待の方向はちょっとずれている気がするけどね……。
まぁカードゲームは出来る人が沢山いるからこそ面白いのだ。
シルが世に広めてくれるなら、それは嬉しい事なので、トランプカードを使ったゲームをいくつか覚えている範囲で皆に説明した。
ババ抜きをはじめ、ジジ抜き、ブラックジャック、大富豪。
それこそ神経衰弱に七並べ、ポーカーにダウトと、知っている限りのルールを説明していく。
「やっぱり持つべきはお姉ちゃんだよ!これ面白いね!」
「学校でやってたカードゲームの何倍も面白いな!」
「なるほどね。紙質はこれより少し固めがいいかしら。後は……裏の模様は統一しないとだめね。デザインはわかりやすく、確かにサイズはこのくらいが持ちやすいかしら……。シャッフルの時に折れ曲がらない様に………………」
なにやらシルがぶつぶつと囁きながら自分の世界に入っていってしまった。
シルの観点はいつも皆と違うよね……。
「わぁ、また負けたぁ……。」
イオネちゃんが肩をがっくりと撫で下ろす。
「あらあら。また勝っちゃったわ。」
「ママ強っ……。」
っていうか、この人の強運は今に始まった事じゃない。
子供3人が魔法学園に通える才能を持っているってだけでも相当だもんね。
そういわれてみれば、ボクの強運もママ譲りなのかもしれないね……。
ダウトのような心理戦は、やっぱりシルの圧勝。神経衰弱のような記憶力や空間図形把握能力も、シルが抜けているせいでゲームにすらならなかった。
すぐに顔に出ちゃうイオネちゃんやユフィは、ジジ抜きやババ抜きといったゲームで、2人で連敗を記録していった。
その中でも盛り上がったのは、都落ちルールのある大富豪だった。
シルが勝っていても、カード運でどうしようもない状況だってある。
1位を転落させられ、ぐぬぬぬぬってなってるシルを見て笑ってしまった。
ふふふ。大富豪の安定ポジションは2位なのだ。
精々栄光と転落を繰り返しているがいいさっ!!
そんなこんなであっという間に時は過ぎ。
どうやら王都に着いたらしい。
今日は王都にあるシルのお屋敷で一泊してから、明日の朝またラインハート領に向けて出発する。
……やっぱりシルのお屋敷だけあって……。
お城のような場所に案内され、そこで豪華なフルコースの夕食まで振舞ってもらった。
なんだろうこれ。
一生分の贅沢をしているような気分だよ……。
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