まほー?
少し時が過ぎ、3歳になった。
ある程度しゃべれるようになり、歩き回れるようになってきてわかったことがある。
ここ、日本じゃない。
初めは両親が日本語で話しているんだと思っていたけど、よくよく耳を澄ませてみると、どうやら日本語ではないようだ。口の動きと聞き取れる内容もなんだか違う気がする。どうやら、自分の脳内で理解できる言語に置き換えられているらしい。
それだけだったら、なんとなく英語を聞いて脳内で日本語に変換しているようなイメージだと自分に納得させていたのだけど……
文明が違いすぎる。いくら人里離れた村だといっても、こんな貧しい山村は現代日本にはないだろう。大体この村が日本のどこかなら、震度4か5程度の地震がきたら村の建物が全部崩壊してもおかしくない。
そして、地球のどこかでもないだろうと思う理由。それは、この山村には領主様がいることだ。
領主様がいる。地球上にここまで貴族制の色が濃くのこった地域は、既に無かったと思う。
では過去の地球に転生したのだろうか?
多分それもない。
なぜって?
この世界には魔法があるからだ。
とは言っても、皆が魔法を使えるわけではない。
素質は個人差にもよるが、平民であろうと、貴族であろうと、王族であろうと、等しくあるらしい。
だけど、この世界で魔法をちゃんと扱えるのは、ほとんどが貴族位以上である。
理由は簡単だ。
子供の頃から教育と訓練を積み重ねなければ、ある程度の年齢になるころにはマナ(魔法を使うための自然エネルギーらしい)を扱うことが難しくなるためである。
この中世レベルの文明で、平民の子供が魔法の訓練や教育を受けるというのは難しい。そもそも平民の世帯では教育を受けられる子供の方が少ないのだから、資質に左右されてしまうような魔法なんてものの教育を、受けるだとか受けないだとかいう話ですらないわけだ。
もちろん、個人の資質が恵まれていれば、稀に平民の子でも魔法を扱えることはあるらしいが、相当珍しいようだ。
魔法があることを知ったのはつい先日のこと。
領主様が徴税に来た際、側近の執事であろう人物が風の魔法で重さ1俵(大体60kgくらい)もある小麦を浮かせて運んでいたのだ。それも複数同時に。
思わず一緒に散歩していた父親に抱きついてしまったほどである。
「ぱぱ! あれ、なに!? あれ! すごい!」
ちなみにこの言動はわざとではない。どうやら意識は前世のままなのだが、精神が幼女の体に引っ張られるのだ。もう諦めた。ある程度大人になればきっと自制も利くはずだ。
「ああ、領主様が来ているんだよ。貴族様は魔法が使えるんだ。ああやって風をびゅーっておこしたりな!」
「へえええ! しゅごいね! ぱぱもできる?」
「俺は貴族様じゃないから無理だなぁ……レティも魔法が使えたらいいな」
「ボクも使える?」
「こら、レティ。ボクじゃないだろ? わ・た・し」
なんだろう。精神と肉体が不安定なせいで、一人称がボクになってしまった。
……出会ったことはないけど、まさか地球にいたボクっ娘は、皆転生者だったんじゃないだろうか……?
「本当は皆使えるはずだから、レティも頑張れば使えるんだぞ? でも勉強しなきゃいけないからなぁ」
「えっ! じゃあボクがまほー使って、ぱぱとままに楽させてあげるねっ」
「おお、俺の子はなんて天使なんだ……」
前世は男だが、父親に顔をじょりじょりされても特に嫌悪感もない。
前の人生では親とのスキンシップもそこまでできなかったのもあるが、単純に嬉しさが勝る。
別にそっちの気があるわけでは決してない。決してないのだが……ボクは女の子なので、男が好きなのは正常なんだよなぁ……




