最近扱いが酷い、ボクと彼。
「たっだいま~っ!」
「レティ? 随分かかったわね。」
木を隠すなら森の中って言葉があるように、人ごみの中に突然転移しても大概驚く人はいない。驚いたとしても、自分の目のほうを疑ってくれるからね。本当はいたんだろうって。
人ごみの中とはいえ転移にもルールがあるから、その範囲内。それにしたって最初は1mの高さから降りるのに尻餅をついていたんだから慣れたものだよね。
なんでシルが人ごみの中にいるのかって、そりゃモンスターパレードが最終決戦を迎えているからに違いない。もう指揮がどうこうという状況はとうに過ぎ、大規模戦闘が砦を取り巻き行われていた。
もちろん、この状況下でも指揮は発揮されるべきなんだろうけど、今回は状況が状況だっただけに各部隊ごとに任せた方がよいと判断したのだろう。
統率が取れていないわけじゃない。
姫騎士隊の皆がそれぞれの集団ごと指示を出してまとめていたり、冒険者のパーティなんかはそれぞれのパーティやクランごとだったり、各街ごとの冒険者組合で固まっていたり。それぞれの方法で、それぞれが各地、補い合って戦闘をしていた。
そこまで纏まっていれば、自軍の半数以下まで落ち着いたモンスター戦で、しかも相手は戦争開始当初に比べ統率も完全に失われている状況。
被害もかなり極端に抑えられていそうだった。
街の中に設置されている衛生本部には、手が空いている衛生兵も見受けられる。
こんな煩い状況の中、後ろから突然声を掛けられてもびっくりすることも無いのか、シルが冷静に答えてくれた。ちょっとはびっくりさせる予定だったので少し残念なんだけどね。
「う~ん、戦争終結まで待ったからかな?」
またエリュトスの、それも幹部と話をする所まで潜入してきました!
なんて報告できるはずもなく。
本来もう少しかかるはずだった戦争終結の場面を報告に持ってくれば辻褄も合うだろうから、そのつもりでエリュトスとの戦争が一旦終結したことを報告する。
別にボクは聖女でもなんでもないので、戦争が終結に向かった功績は隠すことなく。言いたくない事は時間軸までしっかりと計算して、辻褄を合わせて報告しておく。
もちろん迷惑が掛からない程度に、だけどね。
シルが思っていたよりも戦争が早期終結した事が一番大きかったのだろう。
そこまで何かを疑われる事もなく、報告は無事終わった。
「お疲れ様。レティはもう魔力も残っていないのでしょう? 後方に下がっていいわ。」
そういわれたので、お言葉に甘えて後方に臨時設置されていたテントまで戻る。
確かに魔力は殆どもうないし、ボクの魔法はこういう混戦にあまり向いていないんだよね。
そもそも魔法をちゃんと使い始めて半年。
確かに膨大な魔力量に物を言わせて殲滅するような魔法は扱えるけど、敵味方を判別したり、それこそルージュが手伝ってくれたときのような精密な魔法を一瞬で組んだりなんて言う熟練度で言えばまだまだ。
もちろん、混戦時に使えるような魔法だって全く無いわけじゃない。あるにはあるけど、ここが稼ぎ時の人だっているだろうし功をあまり取りすぎるのはよくないしね!
単純にサボりたいだけとか、そういうわけじゃないんだよ。
疲れたしね。色々と。
臨時テントには、街にある衛生本部よりも簡易な作りの衛生用テントも設置されていて、そこには知り合いもちらほらと働いていた。
イオネちゃんとアレク、それにウルさんの姿もある。
「あっイオネちゃん! ただいまー。」
「レティちゃん! 無事だったんだね! よかった。」
「イオネちゃんも、よかったね!」
「私は後半からずっと後方だったから……。比較的安全なところにいたもの。」
「それって普通じゃない? ボク達、まだ15歳の女の子だもん。前線でこき使われる方がおかしいよ?」
「あはは、それをレティちゃんが自分で言うのって、なんかおかしいね。」
「一番使われてるのはボクじゃなくてシルだもん。」
「確かに……。」
小さなテントなので、本部っぽい所に偉そうにふんぞり返ってる貴族がいる。
わざとそいつ等に聞こえるように言ってあげた。
特に目を合わされることも無く。
聞こえない振りをしているようだ。
まぁシルも自分の意志でやってることなんだから、別にいいんだけどね。
とはいえ!
誤算だったのは、15歳の女の子がいるべき場所は、本来ここだということだった。
戦争には狩りだされ。
ボス戦にも狩りだされ。
防衛線でもこき使われ。
挙句、エリュトスで偵察までしてきた帰り。
3つの戦場全部回ったのなんて、多分ボクだけなんだよ!?
普通の兵隊さんよりも随分働いてると自負しているくらいなのに!
なのに!
衛生兵のお手伝いをさせられてしまった。
うぅ。これなら戦場にいたほうがいくらかマシだったかもしれない。。。
重症患者は街の本部へ運ぶんだけど、軽症患者はここで一手に引き受ける。
街の本部はそこまで忙しそうでないということは、重傷者は少ないのだからいいことなんだけど。
軽症患者っていうのは後を絶たないのよね……。
ここも戦場。
めちゃくちゃ忙しかった。
さらにボクにはそんな知識が一切ないので、疲労は戦闘の2倍くらいに感じるよ……。
「お、お疲れぇ……。もうだめぇ……。」
「だらしないわねぇ。」
あまりに疲れたので、空いたベッドに潜り込むと、知らない衛生兵さんにちくっと言われてしまった。ボクがこれまで戦場をどれだけ駆け回っていたのか小一時間くらい説明してあげたい所だけど、そんな気力すらない。
うぅ……
そのまま意識が遠のいてく……。
ばっ!!
とシーツもろ共起き上がると、辺りは真っ暗。
夜も大分更けている時間になっていた。
「え!? 今何時?!」
「ああ、おはよう、レティ。」
「アレク!? モンスターパレードは?」
「もうすぐ終わる予定みたいだよ。」
そういわれると、確かにまだ遠くから怒号と金属を打ち付ける音がまばらに響いて来ている。その音が大分まばらになってきていることが、終結へ向かってくれていることを教えてくれていた。
「他の皆は?」
「前線が上がったからね。皆そっちに移ったんだよ。」
「アレクは? サボタージュ?」
「あはは……。レティを一人で戦場に寝かせているわけにはいかないでしょ? それに王家のボクがここで働きすぎていると、衛生兵の皆が気を使いすぎて余計疲れさせちゃうから。」
「王子様も大変だね。」
「僕に兄さんと同じくらいの才能があれば、もっと色々できたんだろうけど……。」
「アレクにもいいところがいっぱいあるじゃない。兄弟だからって、伸ばす才能が同じ必要はないじゃない?」
「そうかな……。」
つい、今さっき。
意識が遠のいて、次の瞬間起きたと思ったはずなのに。
いつの間にか数時間が経っていたようだった。
ここまで疲れたのはいつ振りだろう。
此処も静かになり、お手伝いさせられる事ももうなさそうだし。
……もうちょっと寝ちゃおうかな?
まだ体もだるいし。
「あ、アレク……ごめんね。もう大丈夫だから。」
流石に王子様にボクが寝てる間の見張りをさせてるのはまずい。
まずいし気も引けるし、そもそも気になって眠れないし。
「あ、えっと?」
ごめん、ルージュ。見張りよろしく。
そうルージュにお願いすると、アレクの後ろから声がかかった。
「わたしめが番を致しますので。」
「……え?」
「ルージュ、お願いね。」
「はい、ごゆるりとお休みなさいませ。」
「え? ……え???」
じゃ、お休み!
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