ボクはスパイにはなれません・・・。
「遅いな……。」
「ルニスの奴、しくじったんでしょうかい……?」
「馬鹿なことを言うな。ルニスがそう簡単に遅れをとるものか……。」
コンコンコン。
「……。」
コンコン……。
コン。
「遅れました。フェミリア様、ルニスです。」
リズミカルにノックされた後、ルニスさんの声が廊下で響き渡った。
リズムは合図だろう。
がちゃ。
扉が開く。
中から男性が2人ルニスさんを出向かえる。
その部屋の内側中央には、軍服を着ていないので見慣れない格好のフェミリアさんがいた。
「どうした、ルニス。遅かったじゃないか。」
「いえ……すみません。少し足止めをくらいまして……。」
「足止め?」
「はい。突然砂漠の中に少女が現れて、これをフェミリア様に渡すようにと……。」
そういいながらルニスさんが差し出したのは手紙だ。
もちろんボクがその場で書いたものだよ?
「グルーネ語……。」
あ、やっべ。この人エリュトスの人だった。グルーネ語、読めるかな?
ルージュに聞けばエリュトス語で書けただろうに……。
「読めますか?」
「ああ。大丈夫だ。」
ほっ。よかった。男性の2人も手紙を覗き込んでいるが、どうやらグルーネ語が読めないのか早々に手紙から目を離してしまった。
正直フェミリアさんにだけ読んで貰うのがベスト。
意図していなかったとはいえ、丁度よかったかも。
「……これを渡してきたのは本当に少女だったのか?」
「はい……。姿や声は……。けど、気持ちの悪い少女でした。」
「気持ち悪い?」
「はい。砂嵐が勝手にその子を避けるんです。まるで吹き付けちゃいけないかのように。」
「魔法士か……。確か殺戮乙女の中に少女はいなかったな?」
「ええ、若くても双子の二十歳程度の子でしたかと……。」
「新しい殺戮乙女か?」
「いえ……わかりません。なんと書いてあったのですか?」
もしかして殺戮乙女って、シルの姫騎士隊の人達のことか。
……確かに!! 戦争国としては、単騎で戦術兵として何百何千の兵を屠っていたのだとしたら、殺戮的なイメージが定着してもおかしくないかも。
後全員女性だし。地獄公女と殺戮乙女……。
ぷぷぷっ。
「誰だ!」
「何奴!」
うへ!?やっべ……。
え?……うそ……。こんなくだらないことでバレました?
魔力節約で音を消さなかったのが、まさかこんな所で仇になるなんて。
なにしてんだろ、ボク。
「こんにちわ!」
何事も無かったように装って部屋の中に姿を現す。
「貴女はっ!!」
「フェミリア様! こいつぁやべぇ! 感知が反応してねぇ!!」
「ルゼ!!」
「うわわぁ!?」
いつもしゃべらない男の人が、突然どこから出したのかわからない短剣で斬りかかってきた。
違う、短剣じゃないわ。この男の人が大きすぎるせいで、普通の大きさの剣が短剣程度に見える。
「!!」
まぁもちろん姿を出す前に設置盾を広げているので届くわけも無いんだし、焦る必要もないんだけど。
受け止められたのかと思った男の人が、左手にもう1本、大きめの剣をまたどこからとも無く繰り出し斬りかかる。
明らかに死角を突いた攻撃も、空で止まった。
「こっわ!!」
届かないとは分かってても、迫力がありすぎる。
「フェミリア様! こいつよ! その手紙を渡してきた少女!!」
「ルゼがこの距離でしとめ損ねるか……。」
ふっと立ち上がり、フェミリアさんが戦闘態勢を取る。
腰にぶら下げていた細剣を抜き放った。
もちろんこれは金庫から出した短剣ではないよ。
もっと綺麗で輝いて……いる……というか発光している。
魔法武器だろうか。威圧感を感じる。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 話に来ただけなのにっ!!」
「敵国の将の部屋に忍び込んでおいてよく言う。」
「忍び込まれる方が悪くない?」
煽るようですけど本音です。
「…………」
いつもしゃべっている男の人のほうがめちゃくちゃ渋い顔をした。
多分この人、感知系のスキルを持っているんだろう。
さっき感知に引っかからないって言ってたしね。
で、警戒することがこの人の役目。
お役目を果たせず、敵と思われるボクにこんなプライベートな場所まで踏み込まれてるんだから、警戒できなかった方が悪いのだ。戦争中である今は、なお更に。
「言っておくけど、やろうと思えばボク、後ろから襲い掛かる事だってできたんだからね?」
「……その通りだな。して私の命を握って何を求める? 戦争の終結か? 王の鍵か?」
「フェミリア様!?」
「フェミリア様!!」
「!!!」
この状況でもしゃべらないんかいっ!
ってかこの大きな男の人、しゃべれないのかな。
喉でも潰されているのだろうか……?
「いや、だから手紙に書いたでしょ?」
「はぁ? こんな子供の戯言のような事を信じろとでもいうのか?」
「だってボク子供だもん。」
そういうと、すぐにフェミリアさんがルゼと呼ばれた寡黙な男に目線を送った。
何かがボクに投げつけられ、目の前で次元面に阻まれ落ちる。
小さな短剣だ。
刀身にめちゃくちゃ毒々しい液体が塗ってある様に見えます。
毒じゃん!
「これが子供か? 正体くらいみせろ。化け物。」
……
……
……え?
ちょ……ちょっと。……純粋に傷つくんですけど……?
めちゃくちゃ心に傷を負っていると、影から怒りの感情が噴出してきた。
ルージュ達だ。
ただ、ボクが常時魔力を消費してしまっていた為、出てきてしまうと魔力が回復しなくなってしまう。ここは抑えていてもらいたい……。
怒ってくれるのはありがたいけど。
「正体も何も……。」
「人間はそんなに白くないぞ。どんな化け物が化けているのか知らんが、知識が足りなかったようだな。」
うわぁ、まじか。
確かにこの世界でアルビノの人見たことないけど!!
まさかアルビノのせいで人間かどうかから疑われるなんて思ってもいなかったよ!!
「も、もういいよ……人間じゃなくても……。」
「まさかこの私が、戦場以外の場所で死を迎えるとは……。なんとも情けない幕切れだったな……。」
「フェミリア様……いえ、前々から申してますとおり、あっし等が必ずこの場を切り抜けてみせますんで!!」
「私の後をつけて来たのね!!フェミリア様に指一本触れさせはしないわっ!!」
3人がフェミリアさんの前に立ち、戦闘態勢をとった。
むやみに攻撃した所で届かないのは実証済みだからか、相手から仕掛けてくる様子ではなさそうだ。
もういいや、なんか話をしていられるほど冷静でもなさそうだし。
まぁボクがミスったせいなんだけど。
最後に思い当たる節でも吹っかけて終わりにしよう。
どっちにせよ、この戦争関連にはボクが関わる事なんて無かったわけだし、今後もないだろうからね。適当に今回得た情報をシルに話して、プラスになればそれでよし。
どうせボクなんて人間にも見られてないんだから、グルーネにも迷惑とかかからないでしょ。どうせ、どうせ!!人間じゃないんだしね。いじいじ。
「……はぁ。……ねぇ、もしかしてフェミリアさんて、竜族の末裔とかなの?」
めちゃくちゃフェミリアさんが目を見開いた。
3人の顔に何故それを!って書いてあるんですけど。
顔は口より物を語っております。
まぁ、確証があったわけでも、繋がる点があったわけでもなかったんだけど……。
最後にちょっと気になったので吹っかけてみたら見事正解したようだ。
こんなにわかりやすい人達が、よく今まで隠し通してきたよね。
そんなこと……。
よろしければ、ご意見・ご感想お聞かせください。
ご評価・ブクマのワンクリックがとても励みになります。是非よろしくお願いします。
勝手にランキング様に参加しております。応援していただけるようでしたら、
勝手にランキングのリンクをぽちっとお願いします!1日1投票できます!
ブックマークのクリックはすぐ↓に!
ご評価いただける場合は、『連載最新話』の↓にスクロールするとアンケートが表示されています
是非よろしくお願いします!




