フフフ。妖艶な女にはミステリアスで対抗だよ!
姿を消したまま戦場を眺める。
戦争が開始する前時点での情報では、エリュトス軍4000vsグルーネ軍3000の戦いであったはずなのだけれど、現状の損害は両軍1/10も無いだろうか。
あわせて1000人ほどの死体は見受けられない気がする。
人の死体なんて数えた事ないからわからないけどね。
……正直、直視できないからこれ以上数えられないんだけど……。
これ以上近くに行ったら吐いちゃいそうだもん。
所々で鍔迫り合いの金属音が鳴り響きながら、グルーネ側が防御壁を上手く使って牽制をしている。エリュトス軍も防衛壁まで取り付く事はせず均衡状態を保っていた。
と言うのも。
エリュトス側にそこまで攻める気迫がない。
そりゃそうなんだろうけど。
だって撤退指示が出ているはずなんだから。
つまりは、つい先刻まではもっと城壁に取り付いて、落とせる所まできていたのだろう。
エリュトス側の名残惜しそうな攻撃を見る限り、そう感じる。
それにしても……。
エリュトスは何をもって”攻めている”としているのか、ボクには理解できない。
だって、こんな所で足止めくらっていたらどうやって防衛側に勝つと言うのだろうか?
この防衛壁1枚突破できた所で、まだまだこの先はあるのだ。
この先にはもっと硬い壁や砦、ましてや要塞すらあるのに。
……それとも、領土を獲得する以上に、もっと重要な何かが。
この地にあるということなのだろうか?
空に足場を作り眺めていると、さっき砦を出て行ったルニスという女性を見かけた。
馬に乗って偉そうな髭の男性と話している。
髭の男性はものすごい剣幕で怒っているのがここからでもわかるくらい顔が真っ赤。
もうすぐ戦果を上げられそうだったのに、負けて戻れと言われればそりゃそうもなるのかもしれないけど。
だからだろうか、全軍撤退の指示が中々でないようだった。
エリュトスの兵士も混乱しているようだ。
後一押しすればこの戦いも終焉を迎えるはず。
こんな所をせっついて、万が一この場を勝利で飾る事ができたとしても。エリュトスは多少の領土を得ることが出来るだけ。グルーネ側が取り返す事など容易。
これ以上無意味に戦争が長引いた所で得をする人なんて1人もいないはずなのだ。
空に金色の眩い光を投影する。
単なる光魔法で、殺傷能力もなければ目暗ましにもならない。
だけど。その中からこの剣が落ちてきたらどう思うかな?
ボクの姿が見えていないことをいいことに、光の中心に立ち、注目を集めた所で地面に向かって剣を突き刺した。
ヴィンフリーデさんが山脈防衛の時に召喚していた、ものすごいプレッシャーのある剣。
そのレプリカだ。
形を真似ているだけで何の力も無いただの土くれ。
いつもいつも戦場に出てきてはと言われていたヴィンフリーデさんの象徴とも取れる武器が、両軍が激突しているど真ん中に降って来たのだ。
「きっきた……! 悪魔がでたああ!!」
「うわぁあぁあ!」
「逃げよう! 撤退指示も出てるんだろ?!」
既に混乱状態にあるエリュトス軍がパニックに陥るのは、グルーネ軍が状況を把握するよりも早いほどだった。
「お前等っ……!!軍規違反だぞっ!こらっ!!」
顔を真っ赤にした偉そうなおっさんが、逃げる兵士を止めようとするが、何千もの人の流れなど止められる筈も無く。一緒に押し流されていった。
「ヴィンフリーデさんがきた!? じゃあモンスターパレードの侵攻が終わったのか!?」
相手のパニック状況を見て、やっとグルーネ軍も把握する。
士気が両軍で真逆へと振り切って行くのがわかる。
ドン!
「うわっ!?なんだ?!」
士気が振り切れたグルーネの軍が、防衛壁から飛び出そうとするのを見て、設置盾を出口に張ったのだ。
これ以上無駄な犠牲を出す必要なんてないもんね?
明らかに引いていくエリュトス軍を見守り、グルーネの追撃をすべて止める。
ここから追撃をすれば、グルーネは大勝すると思う。
エリュトスの被害は一気に膨れ上がるだろう。
でもグルーネの兵士にも死傷者は出てしまうだろうし……。
何より、エリュトスが戦争を仕掛けている意味がボクにはわからない。
この人達は軍人だ。
国に命じられれば意味など考える必要もなく戦争に赴かなくてはならないだろう。
そこに死ぬ覚悟はあるはず。
死ぬ覚悟の無いものが戦争になどきたら、そんな人間から死んでいくだろうから。
だからと言って、こんな無意味な殺し合いで散らしていい命なんて、ボクには到底許容できそうにはなかった。
せめて、理由が知りたい。
その理由を知っていそうな心あたりが……。
ね。一人だけこの場にいる。
エリュトス領土。
渓谷上部には砂嵐が今だ吹き荒れていて止む気配すらない。
既に3000人以上はまだ残っていたであろうエリュトスの軍隊も引いていき、グルーネの追撃もない今。静かに吹き荒れる砂嵐が視界を狭めてくれる。
「……誰かしら? 何か御用?」
馬に乗って殿を走ってきた女性が、ゆっくりと馬を止めた。
砂嵐で丁度姿が見えない程度の距離だ。
「こんにちわ。ルニスさん。」
「……私の名を知っているのね。グルーネの方かしら? 何か御用でも?」
臨戦態勢にまでは入らないけど、明らかに殺気が向けられてくる。
「用が無きゃ、こんな所で待ち伏せしないでしょ?」
「……要件をどうぞ?」
「フェミリアさんが持っている短剣について……って言ったら、わかってもらえるかなぁ?」
もちろんボク、あれが何かなんて一切わかってないけどね。
でもあんなに厳重にしまってあって、部屋を片付ける前に唯一取り出して行った物。
それなりに重要なものである可能性はかなり高いよね。
「っ! ……貴女、どこまで知っているのかしら?」
ふと、砂嵐が空気を読んだかのように止まった。
晴れた空が2人の顔を照らし出す。
「……あら、可愛い子。気持ち悪い。」
正直に言われるとショックだけど、そりゃそうだろうね……。
今まで砂嵐をまともに受けていたルニスさんは、砂で全身が覆われている。
砂避けにフードをかぶらなければ、正直目も開けられないほどだったのに。
それなのに、ボクは砂が一切体に付着していなければ、フードすらかぶっていないのだから。
単純にクリアの魔法で防いでいるだけなんだけどね。
光の向きを反射できるのだから、砂粒くらい反射できるのよ。
ただし、消費魔力はとても高い。
姿をずっと消していたり、こんな魔法で覆っていたりと、今のボクは殆ど魔力が回復していない状況ではあった。
まぁ逃げ足にはちょっとは自信もあるので、逃げる前にちょっとくらい話もできるかなと。
棚から牡丹餅的に戦争も終わってくれたので、シルが想定しているよりは遥かに、このエリュトスvsグルーネの戦争は早期終結しているはず。
その稼げた時間分、ちょっと位話とかしてても怒られたりしないよね?
別に悪魔と契約するわけじゃないんだし。
「……何が目的なの? あれをフェミリア様が持っている事なんて、誰でも知っている事よ? だからどうしたと言うのかしら?」
そ、そうなんだ。もっと秘匿されているものかと思ったのに。
「それを今、彼女が身に着けていて? ポランコッテにいる事も知っているよ? 姫騎士隊が全員ここに来ているんだから、いいタイミングだと思わない?」
嘘ですけど。誰一人として来ておりません。
まぁ交渉が失敗したなら失敗したで、それほど大した事にもならなそうだし?
ブラフを掛けられるだけ掛けておこうかな。
そもそも戦争始まってもう数十年が経つ訳で。
ボクのせいで戦争が始まっちゃう!なんて懸念すらないのだ。
「……もしかして、侵攻してくる軍って……!」
「あれ、わかっちゃった?」
「貴方達!! もしかしてあの鍵の意味がっ……あっ!」
咄嗟に口を噤んだけど、情報。頂きました!!
なるほど、あの短剣は何かの鍵なのね。
で、短剣として認識はされているけど、何かの鍵だって事は秘匿されている秘密ってことだ。
うんうん。ポーカーフェイスを続けているけど、内心ドヤ顔が収まらないんだよ!
「鍵……? なんの鍵なのかな?」
こういう時はわざと惚けるのが定石でしょ?
実際本音ですけど。
「くっ! 貴女何者なの? ……もしかして、あの殺戮乙女どもを従えているという、地獄公女シルヴィア・エル・ラインハート!!」
え? 確証を得たりみたいな感じで言われても違いますけど。
「いえ、違いますけど。」
「…………。」
確信した所に、あまりにも即否定が入ったおかげで沈黙が続いてしまった。
それにしても、地獄公女って何よ。
シルってエリュトスの人達にそんな痛い2つ名付けられちゃってるの?
可哀想……。
「あの……?」
「くっ!!」
馬を急に走らせ、ボクの遠くから追い抜いていく。
見える距離にいて、その速度でボクをおいていく事などできないので、更に行き先の向こう側に転移して出迎えてあげた。
「なっ!? な、何がどうなっているの?!」
再度方向を変えて走り出す。
「よっと。」
先に転移しておく。
「なんなのよ! 何が目的なの!?」
「あ、目的言ってなかった。ねぇフェミリアさんと一緒に本気で亡命する気、無い?」
あ、またシルに相談もせず暴走している気がするけど
まぁ……シルなら事後報告でもどうにかしてくれるよね?
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