表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
181/515

ボクがしたいことの違い。

エリュトスの砦から軍が発ち。毎年グルーネが防衛軍を展開している衝突場所までは、約10km程離れた距離になる。

丁度エリュトスからグルーネの国土に侵入した辺りで、これ見よがしに土地柄が変わる場所。


ここまで国境を境に国の土壌が変わると言うのは、エリュトスと言う国が何か呪われているんじゃないかと思わせるくらいに異様なことだと思うんだけどね……


な~んか案外そこまで的外れでもないような気がしてるんだよ。


そうでもなければあんなコテコテの軍人さんが、そうは国を捨てるような発言しないでしょ?偏見かな??




遠くに緑の土地が見えてきて、山の色も黒い岩肌しかなかった山から緑色へと移り変わっていく。本当に、エリュトスの土地はどこかおかしい。

かといって汚染が進んでいる様には見えない。そうであればグルーネの海だって汚染がエリュトス側の海から流れてくるはずだからね。


汚れているのではなく、枯れているのだ。

枯れた大地は荒れ果て、砂と崩れた肌色しか見えない渓谷が殆どだった。




国境が目で見てわかる場所までくると、戦場の音が遠くから聞こえてきた。


ちなみに、エリュトスとグルーネの国境は土壌の肥沃さという色もあるが、もっとわかりやすい場所になっている。

それがこの大渓谷だ。


この渓谷を挟んでグルーネ側は緑が続き、エリュトス側は砂漠の肌色が続いている。




ここから音が確認できるという事は、グルーネ側が押されているとはいえそこまで戦況が傾いているような状況ではないという事。

むしろ毎年ヴィンフリーデさんがここにいたんだろうから、今年はいない分慎重にならざるを得ないのだろう。数の上では負けている戦争でも、そこまで劣勢と言うわけでもなさそうだった。


この状況をさっきの人達は”押している”とも取れるニュアンスで話していたの?

そう疑問に感じてしまうくらいには、別に押されているとは思えない。


そもそもグルーネは戦果を焦る必要もなければ、戦争を早期終結させる必要もない。


もちろん戦争は基本、国や領土が所有する兵士で行われているとはいえ、そこに兵士だけがいるわけではないので、義勇軍として参加してくれている一般の平民の方々からすれば、さっさと参加報酬だけ貰って自分の仕事に戻りたい事は確かだろうけど。


とはいえ、少し長引くのと戦争に負けてしまうの。どちらを取るかと言えば、少し位長引いた所で戦争自体に負けてしまうよりは遥かにましなのだ。

平民で義勇軍に参加している殆どの平民さん達は、この近くの土地に住んでいる人達なのだから。


戦争に負けてしまったら、最悪領土がエリュトスのものとなり蹂躙されてしまうし、そうでなくてもボクの実家のような農民なんかは、田畑が焼かれ収入の一切を燃やし尽くされてしまうことにだってなりえるかもしれない。




戦場と言うものは探しやすい。

遠くから多くの声や戦闘音がこだまして聞こえてくるから。


ボクが音のする方に走り渓谷の上にたどり着くと、丁度その真下。谷の下で今も戦闘が繰り広げられている所だった。グルーネが所有する防衛壁が張られた場所の真上に位置する場所。


グルーネ国側はエリュトスとの国境に、砦なんていうレベルではない程の防衛拠点を敷いている。

この場所は最前線防衛壁にあたり、ここが突破されても内側にいくつかの壁がまだ存在し、さらにその内側には要塞と呼べる規模の建物が建設されているのだ。

その要塞の周りには城下町のように町が形成されており、海にも近く肥沃な土地が多い事から、城壁と要塞の間に村々がそれなりの数の集落を形成している。


事実上、この最前線防衛壁を突破された事は過去に1度も無い。


エリュトス側もそりゃ偵察くらいは出してきているだろうけど、要塞を含めたこの土地は、当たり前だけれど管理が厳しい土地柄となる。


国境防衛都市アクリアス。

それがここ一帯につけられている町や村、要塞や砦、防衛壁すべてを合わせた総称。


まぁ、ここまで大きな防衛機能を建設しているのだから、この戦場が今回一番重視されないのも頷けるだろう。城壁を越えられたとしても、要塞までたどり着くのには数日はかかるだろうし。


実際、規模も危険度もモンスターパレードと山脈侵攻の方が高かっただろうしね。





ボクの姿は誰にも見えないはずなので、敵味方の場所を問わず、戦場ではない場所から渓谷を降りていく。流れ弾とか、見えないまま押し倒されたりなんかしたら生死に関わるからね……。


少し戦場から遠めに渓谷を下ると、エリュトス側から走ってきたんだから当たり前なんだけど、エリュトス軍の後方へ降り立つ形となった。

実際降り立ってみると、太陽の光が渓谷に遮られるからか雰囲気は暗く、ひんやりと冷たい冷気を感じる場所。


「……。」


その地面を転がる石のごとく人の死体の数々が積み上げられている。

敵と味方がわかるように国旗を腕につけていたり、旗をつけていたり。


一番わかりやすいのは、エリュトスは赤く、グルーネは緑色の目立つものを体につけている。ぱっと見渡す限りでは、グルーネとエリュトスとの被害にそれほど差がある様には見えなかった。




正直……モンスターとの戦争はどこかで割り切れる自分がいた。

モンスターとの戦いは、いわば生存競争だ。

弱肉強食の世界で、食うか食われるか。


モンスターは生命の定理を超え、マナ溜まりという自然災害とでも呼べるような異常気象から自然発生してくるせいで、無限に増殖する。

無限に増殖する生命は、生きる糧を求めてやがて他種族と戦う運命となる。


そして、それを受けて戦う人類側のボクとしては、モンスターとの戦いというものに抵抗を感じることは、今までそれほどなかった。

たまーーに可愛いモンスターとかいるもんだから、そういうのは殺したりするのはちょっとね?

可哀想だけど。




前にも先生に促された時、人と戦うのは嫌だなって漠然とは思っている自分を客観的に理解しているつもりでいたし、実際人と殺し合いをするなんて……どんな状況であろうが受け入れたくは無いよ。


この場に立っていた人達からすれば、こんなボクは平和ボケしていてどうしようもない15歳の子供程度にしか思われないんだろうけど……。




この戦場では、人が人を殺した形跡がありありと残っている。


刺し違えたのであろうお互いに刺しあったまま絶命している死体。

一方的に首を落とされたであろう胴体。

恐怖に歪んだ顔。


何よりモンスターとの戦いと一番違うのは……

その死体の()()()だ。


人が人を殺しにやってくる。

生まれた環境や場所が違うだけで。


……違うだけ、そう思っている事自体がおこがましいのかもしれない。

ボクはグルーネと言う恵まれた国に生まれたのだから。


エリュトスの国土内を少しだけしか覗いてないボクですら、エリュトスという国家の危機が当たり前のように感じられる。

その人達からしてみれば、何故自分達だけ。

そう思っても仕方がないのかもしれない。




……とはいえ、グルーネはエリュトスに毎年侵攻されていようが仕返しをしていないのだ。

武力侵攻と言う最終手段をとるばかりではなく、意志の疎通による道だってあったはず。今までは仕返しをしないグルーネを不思議に思っていたけど、グルーネなりの温情だったのかも。


前々から先生たちに、”エリュトスに生まれていなくてよかった”と言われる事が多々あった事を覚えている。その時はどんな意味か理解もできなかったけど……ボクは今、エリュトス側からグルーネへ侵攻をしている場所の最後方から戦場を見渡す場所に立っていた。


もしボクがエリュトスに生まれ、グルーネに羨望の気持ちを抱いていたとしたら?

そしてこの場にエリュトスの兵士として立っていたとしたら……?


この戦争に加わっていたのだろうか。


動くはずの無い人の死体達が、ボクのことを睨んでいるように思えてきてならなかった。




ボクはボクなりの矜持を持つなんて、そんな大した人間じゃないけど。


それでも、戦場に立ってみて……。

それで尚、人を殺さない道を探し続けるくらいの。


そんな甘い人間であり続けても……。


いいのかな。




よろしければ、ご意見・ご感想お聞かせください。

ご評価・ブクマのワンクリックがとても励みになります。是非よろしくお願いします。


勝手にランキング様に参加しております。応援していただけるようでしたら、

勝手にランキングのリンクをぽちっとお願いします!1日1投票できます!


ブックマークのクリックはすぐ↓に!

ご評価いただける場合は、『連載最新話』の↓にスクロールするとアンケートが表示されています

是非よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ