科学の実験は危ないので、注意しないとね?
「じゃあ、すぐにお願い。あ、最後に人が一人囲えるくらいの魔力は残しておいてね?」
「うん……? わかった。」
それくらいなら1,2分で回復する魔力で十分足りる。
わざわざ残さずとも問題の無い量だろう。
ルージュが爆発規模の予測範囲や、作戦決行手順をシルと話し合っている間に、ボクはその場にいる必要もないので逃げ道を塞ぎに転移した。
もう砦内に一般兵は残っておらず、シルの姫騎士隊とボクと、偵察にでているシトラスだけ。
「あれ? そういえばシトラス遅いな……? 大丈夫?」
「はいなの!!」
「あ、戻ってきた。遅かったじゃない。大丈夫だった?」
「ご、ごめんなさい……。ちょっと数えるのに時間かかっちゃったの……。」
「数える?」
「報告します! 現在の残存モンスター群。兵力126万8340匹。うち大型種12万8701匹。超級危険種に該当する戦力2。危険種に該当する戦力1万2998匹。航空勢力5455匹。内大型、危険種なし。統率解除後、脱走したモンスター群が約2000匹。散り散りでしたので、先のラーズニクス戦から戻られる方達に接敵しそうなモンスター群約100のみ、全部排除しておいたのです!以上、報告終わりなのです!!」
お、おおう……。
ラーズニクス戦を見ている時点で感じてはいたけど、この子も弱体化してるはずよね? 戦力おかしくない? 大丈夫? 弱体化の意味ってわかってる??
受肉してるはずだから、肉体に多大な損傷ができればいくら悪魔と言えど死んでしまうはずだ。流石に出会ったばかりとはいえ、折角契約もしたんだし、こんな可愛い契約者達をいきなり失いたくはないんだよ……?
まぁ大丈夫だったんだからいいか。
それにしてもね……。モンスターの数、全部数えたの……?
すごいな。
よしよしと頭を撫でてあげると、目を細めて嬉しそうにしてくれた。
影の中からなんかちょっと複雑な視線を感じるのは、シエルのものだろうか。
勝手に出てくるとボクの魔法回復量に関わるので、出てこれないのだろう。その点、勝手に出てきたシトラスが評価されてしまったものだから、そりゃ悔しくもあるわけね。
「じゃ、私も戻っちゃうのです! ……よっと。」
そう言ってボクの影の中に戻っていった。
なんか影の中が騒がしい。
魔法回復量も少し増えたので、砦の出口を一気に塞ぎにかかる。
この砦はモンスターパレード専用に作られた砦。
なので、モンスター侵攻側に向かって城壁があったりして分厚い作りにはなっているが、逆の方向はオープン状態。門や通路などあるわけではなく、突然道に出る。
つまり、城壁からモンスターを通す穴を開けた後に、砦の中に閉じ込める為には城壁方向以外の3方向すべてを閉じなくてはならないのだ。
6キロの距離あった城壁すべてを守る程の距離は必要ないけどね。
城壁は場所によって高さの差はあれど、平均で約5mの高さもあってかなり大変だった。
設置盾は、性能と消費魔力を比べたらその効率は最高クラスだと思う。単一構造の魔法なのに、今だ1度も破られた事の無い防御力を誇り、消費魔力は1桁程度。
ただ、その1桁程度というのも自分1人を守る範囲での話だ。
いつも使っている範囲は大体、縦1mに横50cmくらいだろうか?
それくらいで消費魔力量は5程度。
高さ2mを囲うとしたら、縦2m横50cmで消費魔力は丁度10程度という事になる。
砦3方向を囲うためには、城壁と砦の間にある広場すべてを塞き止めなければいけないので、城壁から砦までの距離が約1kmほど。左右で合計2km。
横幅としては広く取りすぎてもダメだろうけど、建物が広がる範囲が1kmくらいあるので、それを囲えるように1kmくらいとっておけばいいだろうか?
合計横幅3kmということは、消費魔力量は……。
約6000。
正直馬鹿げている数字だとは思うよ……?
ルージュ達と契約していなかったら無理だったし。
ルージュが表に出てきていて、シトラスもさっきまで外にいた状況で、ボクの現在の残存魔力量は3000弱くらいまで回復している。
全然足りないように思うかもしれないけれど、これは単純計算だからね。
砦の残ってる部分に魔法を張る必要はないわけだから、もう少し節約できるし、まだ粉の方の準備も終わっていない。
先に粉を巻いてしまうと、遠距離から攻撃されている状況でこちらが爆発に巻き込まれてしまうので、粉塵を起こすのは一瞬でなければならない。
そして、その間モンスター群の注意を引く役目も必要だ。
先に城壁と直角に横を塞いで行く。
もしも何かあってモンスターに先に侵入されてしまった時に、こちらに広がられる方が対処しにくいからね。正直2mの高さじゃすぐに乗り越えられるだろうけど、見えない壁が2m張られているっていうのは怖いものなんだよ?
実際、どれくらい高い壁なのかわかんないんだから。
もちろんモンスターには2mの身長をゆうに越えてくるのもいるから、すぐにばれちゃうかもしれないけどね。一瞬でも止まればいいんだから。
《ヴィンフリーデお願い。……悪いわね。貴女にばかり頼ってしまって。》
シルの声がテレパス受信用魔道具から流れてきた。
設置の準備が終わったのだろう。
ヴィンフリーデさんの返事は、ここにいるわけじゃないから聞こえるはずもないのに、遠くから感じる程の魔力が返答として伝わってきた。
これから粉塵を起こす間、さっきシトラスが報告してくれた量のモンスターの注目を一手に受けるのだ。
流石勇者様という尊敬の気持ちと、不安で心配する気持ちが渦巻いて。
焦る気持ちが仕事を雑にしていく。
ボクが後方までどうにか設置盾を張り終えると、城壁の外で、爆音の合図と共に戦闘が開始された。
今までまばらに攻撃されていた砦の方は、攻撃が止んで突然静かになった。
転移でシルの元へ戻る。
「シル。終わったよ。」
「ありがとうレティ。それじゃ最後に、私を囲んで貰える? ヴィンフリーデ以外の姫騎士隊は全員粉塵を起こしたら砦からすぐに離れさせるわ。」
「え?待ってよ。」
シルをここで囲んだら、囮役はシルが引き受けるという事になってしまう。
「囮役なんて危ないからボクがやればいいじゃん。シルがやる事ないよ。」
「私が戦場のど真ん中にいたほうが、戦況を把握しやすいでしょ?」
「そんなわけないよ。戦場のど真ん中にいたら戦況を把握するもなにもないんだよ?」
「……。」
この爆発で、敵がすべて吹き飛ぶわけではないことを一番知っているのは、ルージュに被害規模を教えてもらったシルなのだろう。
ボクだってシトラスに教えてもらったような大量のモンスターが、今作った規模の爆発程度で殲滅できるわけない事くらいはわかっている。
次元牢獄は完璧じゃない。
相手には魔法を使えるモンスターだっているのだ。
前に気付いた通り、魔法の設置を牢獄の内側に設定されると防ぎようがないのだから。
……。
ああ、そうか。
ボクよりヴィンフリーデさん達と長いシルが、ボクより動揺していないわけがない。
「わかった。じゃあ2人でここに残ろう。」
「え?」
「2人ならできる事だって増えるでしょ?」
……爆発をど真ん中から見られるなんて貴重な体験もできるだとか、そんな不純な理由が頭を駆け巡ってなんかいないんだよ?
ボクがいる限りは半径数m程度なら月虹光輪や白虹暴風で周囲のモンスターをある程度排除だってできるだろう。
流石に白虹暴風は魔力効率が悪すぎて、今の魔力量で使ったら数cmくらいの効果範囲しかないけど。
「……そうね。もし何かあっても貴女なら転移で逃げられるし。」
逃げるつもりはないかなぁ。
「何より……。レティが傍にいてくれたら心強いわ。」
聞こえるか聞こえないか程度の声量だったけど、ちゃんと聞こえました。
「うん!」
もう崩れて屋根もなくなった砦の入口部分に2人で立ち、2人を次元牢獄で覆う。
《始めて!》
一斉に白い埃が砦内に吹き荒れた。
ルージュもそれを確認するとボクの影の中へと戻る。
《ヴィンフリーデ!》
そうシルが叫ぶと、突然していた戦闘音が1つの爆発音にかき消され静かになった。
城壁が崩れるのを合図に、約5メートル程だろうか。崩れた城壁にかかっていた設置盾を解除した。
なだれ込むようにモンスターが砦に侵入し、空から見守っていた航空戦力も一気に城壁内へ流れ込んできた。
既に無人と化した城壁内に、勝ちを確信したモンスターがニヤつきながらボク達2人を発見する。
なだれ込む量が多いのか、一瞬にしてあたり一面がモンスターの醜悪な肉体に囲まれた。最初に牙を向いて突っ込んできたオーガが、ボク達2人を囲む次元牢獄に弾き返され足踏みする。
城壁で学んだのだろう。それを見た周りのモンスターは、取り囲むように見守り、それ以上攻撃を加えてはこなかった。
「気持ち悪いわね。」
「ヴィンフリーデさんは?」
「……もう外へ避難したようよ。」
「じゃ、やっちゃいますか。」
「ええ。懲らしめておやりなさい。」
どこぞのご隠居様かな?
シルと肩を寄せ合って手を繋ぐ。
「粉塵爆発」
……単なる火種ですけどねっ!!
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