《閑話》バレンタイン・リターン・ストーリー 後編
バレンタインのお返し特別編後編!
※読み飛ばしても本編にはなんら影響ありません。
※季節的に未来の話になるので、それまでに起きた出来事はニュアンスで回避します。
「どうしたの? アレク。お話ってなあに?」
もちろん、このタイミングでアレクから呼び出される心当たりなんて一つしかないのだから、なんとなく予想はついているんだけど、そこは気づかない振りをしておかなくちゃね。
ボクは空気を読める女なんだよ?
「うん。これ、こないだのちょこれーと? のお返しに。僕がお城の庭で栽培してる花束なんだ。後、これも。」
「わぁ! ありがとう!!」
渡されたのは、両手いっぱいに彩られた花束だった。
もちろん、ちゃんと包装されており持ちやすくなっている。
色んな種類の花が綺麗に包まれており、中心に白い薔薇が何本か纏められていて、それを周りの花が引き立てるように作られていた。
とても綺麗。
……正直、花を貰ったのは初めて。
まぁ普通に生きてきて花を貰うなんて機会、そうそうないだろうけど……。
それでも、実際貰ってみないと判らない嬉しさがあるんだね。
なんだろ、実用的にはね?
食べ物だったり使えるものを貰った方が嬉しいじゃない?
いや、食べ物でも使えるものでもあるのに、某なんとか先輩みたいに逆に器用に素晴らしくいらないとこ突いてくる物もあったけれども。
それに比べて、確かに花は綺麗で可愛いけど、実用的かといわれればそんなことはないし、こういうプレゼント用の花は観賞用。お腹を満たしてくれるわけでもない。
それなのに、こう……。気持ちが明るくなるような嬉しさがあるんだね。
お部屋に飾っておこうかな?
お手入れなんかは、いざとなればシルが知ってそうだし。
なんとかなりそうだ。
もしかしたらそういうところまで考慮済みで渡してくれたのかもしれない。
アレクだし。十分にそれもありえるかも。
もう一つ渡された物は、綺麗に箱に包まれていた。
「開けていい?」
「もちろん。」
開くとすぐに、白い布地が見えた。
両肩を掴んで持ち上げると、綺麗なワンピースが広がった。
肩紐が短くて、スカート丈も短め。
膝上くらいしかないだろうか?
それでも、こういう今までとは違い、肌の露出が高めのファッションはこの国の都会部では最新の流行色の強いファッション。
センスもよくて可愛い。
丈は短めだけど、下に服を着るタイプのワンピなので春服用だ。
わかってらっしゃる。
こういうことはちゃんとできるのに。
あんなことになって……。勿体無い。最初っからしっかりしていればよかっただけなんだから。
「ど、どう? 気に入ってくれた?」
「もちろん! ありがとうアレク!」
「どういたしまして!」
ぱっとアレクの顔にも華が咲いたようだった。
それにしても……。
チョコ1個でこんなに貰ってしまった。
流石になんか悪い気がする。
賢王が流行らせた最新系のファッションは、そんなに安くは無いはずだから。
渡して満足したのか、にこにことしたまま、くるっと回転して帰っていった。
う~ん。花とボクの好みも把握したプレゼント。
やりゃできる男なのに。
ちなみにその兄、リンクはと言うと。
「お、レティ。これお返し。」
そう言って渡されたのがアレクと同じく服の入った箱だったんだけど。
「え! ありがとう! 開けてみてもいい?」
うん、そこまではよかったよ?
「わぁ! うれし……。」
……。
「お前、肌出すの好きだろ? こういうのがいいかと思って。」
好きでやってねぇよ!!
渡された服は、胸の真ん中からおへその下まで大胆に開いた、いつ着るのか意味がわからない服だった。
「やり直し。」
「うぉい!?」
はい、2人目のやり直し入りましたー。
物がセクハラすぎて、ティグロ先輩の時みたいにちょっと気を使ってお断りする気も起きなかったんだよ!
いつもそういう目でボクを見ていたのね!!
「じゃ、じゃあこれはどうだ!?」
下着!? セクハラかっ!
「こ、これは……。」
だからセクハラかっ!!
「これ……。」
セクハ(ry
「……。」
4度目にしてもう何もいわずに今度はボクが180度回転して歩き去った。
流石にここまでプレゼントのセンスがないのはびっくりする程。
しかも、貰ったはいいけどいらないかなー?とか、そういうレベルではなく、受け取る以前に拒否するレベルの奴。
大体、シルが好んで着てるからって学生がえっちな下着をチョコのお礼に送るってどうなの? セクハラどころの問題じゃないんですけど?
そういうのは夫婦間で相談してやってください。
夫婦間でも相談もなしに送ったら単なるセクハラだからね!?
まぁ、こういうファッションで流行し始めたのはごく最近。
しかもこの世界にコンプライアンス的な概念などありはしないのだから、リンクの行動も別におかしなことじゃない。
むしろ、国の王子からこんな下着送られてきたら、人によっては勘違いして夜這いでもするんじゃないだろうか?
……ボクの場合、勘違いではないはずだけど。
各国の特産品をお返しに貰ってみると、グルーネ特有の特産品というものはそんなにはない事に気づく。
魔道具もグルーネの特産品の一つと言っていいが、そもそも値段が高くてこういった場合のプレゼントにはあまり適さない。
そう考えると、特産品としてグルーネで流行っているファッションというのが特色としてあげられるのだろう。露出が高めの現代ファッションが受け入れられるのかは別問題として。
それを考えて贈ってくれたのだろうけど、兄弟でここまで差が出るか。
嫌がらせとかじゃなくて本気なのがわかってるだけに怒る事もできないし、そもそもチョコ1個のお礼に何着も服を買ってきてくれた事自体は嬉しい。
流石にあれは受け取れないけどね!!!
……っていうかあれ、リンクが1人で買いに行ったの?
女性用下着? めちゃくちゃ恥ずかしくない?
……ちょ、ちょっと頭に血が上りすぎたかな。
相手は王子様なのだし。そうでなくても悪い事をしたかな……?
……とはいえ冷静になって考えてみても、あれはないな。
いくら恥を忍んでくれたとはいえ。
最後に、プレゼントが国の特色を現していて意外だったのが、生徒会長であるメルシオンさんのプレゼントだった。
「はい、これお返しだよ。」
そうニコニコした生徒会長に桐の綺麗な箱を渡された。
いかにも高級品で、木のいい匂いがする。
前世ではよく、高級品の贈答用についてきた肌触りのいい木箱に懐かしさすら感じるけど、実際ボクは前世でこんないいもの貰った事なんてないけどね。
こっちの世界でもあるんだね。
生徒会長の顔を覚えてから、ちらほらと学校内で見かけるけど、生徒会長がニコニコしていない所をみたことがないくらい、いつも爽やか笑顔だった。
木箱を開けてみると、そこには華やかに彩られた1枚のお皿が収められていた。
艶やかな光沢のある彩りと、”和”の色彩。
「わぁ、漆器のお皿!? すごーい!!」
「……え? 知ってるの?」
あれ? そういえばなんでこの世界に漆器があるの?
思わず漆器だと言ってしまったんだけど……。
知ってるの? といわれた事は漆器で合ってるってこと?
「え……? あ、はい。どこかで見た事があって……。」
実際のところ、実物を見た事は前世でもないので、知識的に知っているだけなのは今世でも変わらない。
「あれ……残念。もっと珍しがって貰えると思ったんだけどね。」
「え!? すっごい珍しいですよ!? どこかで見かけたのはデータベース上の話しですので! 実物なんて初めて見ました!」
「そっか。それは良かった。ちなみに、このイベントは来年もあるのかな?」
「え? もちろんバレンタインは毎年2月14日にありますよ?」
でも生徒会長は1個上だから、来年の3月14日って、もう卒業してる頃じゃない……?
研究室の先輩は卒業決まっててもお礼を渡しにきれくれたけど、ボクは生徒会長とはほぼ面識もないから、先輩とは違ってわざわざ卒業したところを来て貰ってまでは気が引けるような……。
「それはよかった。来年はもっと驚かせてあげたいね。」
「……期待しちゃおっかな!」
そう言われたら嬉しくないはずもないし、わざわざ引け目を感じる事もない。楽しんでくれているのだから、ボクも楽しんじゃおう!
アレクから色々もらい、リンクの贈り物は全部突き返し。
シルは個別にお勧めのお菓子と下着をくれた。
うん? リンクからの下着は着き返したのに、シルのは貰ったのかって?
そりゃそうよ?
同性で同居してて、殆ど好みを話してるシルから下着を貰うのと、返礼品とはいえ突然異性から、えろえろな下着を贈られるのとじゃ意味合いが全く違うもの。
実はフラ先生はちょっと意外なプレゼントをくれたんだけど……。
これは内緒っ!
2年生になったらわかるかもね!
それぞれ思い思いのプレゼントも考え終わり、それぞれの場所でボクに渡し終えた後。
ボクの知り合いがフラ先生の研究室と生徒会室に極端に集中している事から、自然と各部屋でその話が持ち上がっていた。
- 研究室
「どうだ?間に合ったか?」
「ああ、どうにかな。うちの実家の領土で工芸品を作っててな。それを贈ったんだ。」
「へぇ。お前んとこの工芸品ってあれだろ? 結構高いんじゃないか?」
そう親指で指を指す先には、メンテ中で机の上に乱雑に置かれている防具があった。防具の胸の金属部分には、明らかにデザインの違う金属が埋め込まれている。
鳥が模ってあるんだけど、普通に格好いい。
これがその先輩のご実家で作られている工芸品の一種なんだけど、後で埋め込まれたとは思えない程綺麗に仕上がっており、繋ぎ目が全くわからない。
ちなみにデザインとしてだけではなく、剛性の強い金属を入れているため、急所の防御力もあがるのだそうだ。
「いやぁ、それがな? 何をあげたらいいかわからなかったから、リストを作って欲しいものを選んでもらったんだよ。」
「あ、それ頭いいな。」
「そしたら意外に小さくて可愛いって銅貨5枚くらいで買えるような親指サイズの置物がいいって言うからさ。本当にそれでいいのかって確認したんだけど。」
もちろん、先輩の防具に埋め込まれたようなゴツゴツしたものではなく、その技術力を使って観光客用に作られている小さなお守りを貰ったのだ。
作られている金属自体がとても軽く、バッグなんかにぶら下げてて可愛いかんじだったので、それにして貰った。
「贈り物は値段じゃねぇって言うしなぁ。」
「丁度俺、こないだ装備新調したばかりだったから、出費が少なくて助かったは助かったんだけどな。なんか悪い気もしてるんだよな。」
「ああ、さっきメルシオンに会った時に聞いたんだけどな。来年もばれんたいんっていうイベントやるんだってよ。だから、そん時にでもまた返してあげればいいんじゃねぇか?」
「そうなのか。来年かぁ。今から考えとこうかな。」
「……で? ティグロは結局何を渡したんだ?」
「……聞かないでくれ。泣きたくなる。」
「あ、ああ……? 何があったんだよ……。」
「……にしても、このカレンダーのマーク。レティーシアちゃんだよな?」
「どう見てもそうだろ。」
「判りにくいよなぁ。」
「ははっ。判りにくいというか普通見えねぇだろ。」
「いや、自分の特徴をよく捉えてるけどな。」
「白地のカレンダーに白いペンで似顔絵って。」
- 生徒会室
「まさか漆器を知ってるとはなぁ……。」
「? どうしたんですか? 会長。独り言なんてめずらしいですね。」
静かな生徒会室でぼそりと呟かれた生徒会長の独り言に、隣にいた生徒会の女性が聞き返した。
「いやぁ、こないだレティーシアちゃんがチョコをくれたでしょ? 男はそのお返しをしなきゃいけないって聞いたから、僕の国の特産品である漆器をあげたんだよ。」
「漆器? 聞いた事ないですね……。」
「でしょ? だって僕の出身国のパンテローネは、グルーネから最速で移動しても片道20日くらいはかかるからね。相当遠いんだよ? なのにそこの工芸品を知られてるなんて思ってもみなかったよ。」
「へぇ……。チョコ。おいしいですよね。あれ1年に1回しか食べられないのかぁ。お願いしたら作ってくれないですかねぇ?」
「どうなんだろ? カカオが原料って言ってたから、そんなに珍しいものでもないんじゃないかな? それとも他の材料が冬にしかとれないものなのかもね。」
「ああ、でも確かに。ちょっとどろっとしてましたし、暖かいと溶けてしまうのかもしれません。」
「そういわれてみればそうだね。来年の2月14日までお預けかな?」
「わー後11ヶ月だぁ。会長! カレンダーを進めましょう!」
「あはは。カレンダーだけ進めても彼女が知らなきゃ意味がないじゃないか。それに、僕としては丁度1年後の3月14日こそが勝負の日さ。」
「会長、人を驚かすの好きですもんね。」
「そうなんだ! だから3月14日は勝負の時……。そうだな、どうやって覚えておこうかな。」
「彼女の特徴で覚えておけばいいんじゃないですか?」
- 研究室
「白地のカレンダーに白地のペンね。覚えやすくて良いや。」
「だな。レティーシアちゃん、そのものだしな。」
「じゃあ3月14日は……」
- 生徒会室
「彼女の特徴……? ああ、なるほど。それなら……」
- 研究室&生徒会室
「ホワイトデーだね。」
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