どの課目を履修しようかな?
だ、誰も一言もしゃべらない回です。
設定回になるので、長いですが1話にまとめました。
学園長が話していた通り、この学園には3つ科と、それぞれの科の中にも履修課目というものがある。
イオネちゃんと二人で、どの科目を履修しようか、学園の大きな学食の隅っこを陣取り、パンフレット型の案内書を開きながら確認をしていく。
学科は『兵科』と『研究科』と『魔法科』の3つ。それぞれに履修課目がある。
まず兵科とは、その名の通り兵士を目指すための訓練科。
ボクが暮らしている国グルーネは、度々隣国であるエリュトスという国から侵攻を受けたりしているし、未開拓地の探索やダンジョンの攻略など、兵科訓練はかなり重要度の高い科目と言える。
兵科の履修課目は……
軽装兵課・重装兵課・騎乗兵課・射撃兵課・将校兵課・総合課
の6つ。
もちろん満遍なく履修することもできるし、一つに絞り、その課目を極めることもできる。
課目ごとに履修回数で教導内容が違うのだ。
軽装兵課は歩兵戦闘術を主とし、剣や槍といった武器を主に扱う。
出身や地域性、嗜好などによって、大斧や短剣、槌なんかを好んで扱う人もいる。
戦場での呼称や総称はソルジャー。
重装兵課も歩兵戦闘術を主とし、剣や槍を主に扱うというところまでは軽装兵課と同じ。
軽装兵科と違うのは身軽さ。大きめの剣や槍を扱ったり、全身をプレートメイルで覆い盾を持ったりする。役割や戦闘内容によっては、攻撃用の武器を持たず、大盾のみを持つこともある兵課。
総称はガードナー。
騎乗兵課は字の通り、魔獣や馬などといった生物に騎乗する、その名の通り騎乗戦闘術を扱う兵課。
武器種は多種多様に渡り、軽装兵種のような武器や射撃武器を扱うこともあれば、魔法兵が扱うこともある。
総称は一般的にライダーだけど、乗っている魔獣種によって分けられることのほうが多い。
例えば下位亜竜など、飛行魔獣に乗っているライダーはドラグナーと総称されたりする。
射撃兵課は、弓や銃といった遠距離戦闘術を扱う兵課。
この時代でも銃はある。が、現代日本の時代のようなものではない。
そもそも、この時代ではダイナマイトが開発されていない。爆薬もない。
では銃とはなんぞや? 魔道具だ。つまり、銃とは魔法を扱える者が、魔法陣のサポートを受けた遠距離武器。魔力はあるが、自力で魔法戦闘ができるほどではないものが好んで扱う傾向にある。
総称はレンジャー。
この4つが主な戦闘兵課。
残りの2つの内の1つである将校兵課は、戦略・戦術を主とした、研究科との融合色が濃い兵課。
この兵課を履修するためには、4つの戦闘兵課をある程度以上の成績で修了が条件となる。
司令塔である。
そして最後に総合課。
字のごとく、総合的に訓練したり、陣形や隊列といった訓練、基礎訓練といった側面もあるが、実は人気が高いのが、冒険者としての教導内容が含まれること。
この学園にも、貴族とは言えど、家督権からは程遠い子たちがたくさんいる。いかに伯爵家に生まれていようと、7男ともなれば家督相続権などほぼ無いに等しい。
そんなときに、魔法適性もある貴族は冒険者として自由に生きる道を選ぶ者も少なくはないのだ。
冒険者には夢がある。下位冒険者はとても生活と呼べるような暮らしができるだけの収入を得ることは難しいが、上位の冒険者ともなると、貴族よりも収入が多かったり、ダンジョンや未踏地の開拓で思いがけないお宝を発見することだってある。
そしてここは魔法学園。
ここに来てこの授業を履修しているものは、同じ目的を持ち、さらに最低限魔法が使えることを意味しているため、ここで将来のパーティメンバーやパートナーを探しているものはとても多い。
実際、今あるこの国の冒険者パーティの上位陣は7割以上がこの学園の卒業者が主体のパーティ。
例外もあるが残りの大体3割も、主体ではないにせよ魔法学園卒業生が所属しているようだ。
学園卒業生のパーティと、誰も卒業生を含めないパーティでは、活躍度に天と地ほどの差がでているということ。
冒険者で成功を目指すのであれば、この学園ほどパーティ設立ギルドとして有益な場は他にないだろう。
イオネちゃんは、兵科のような訓練や荒事が苦手のようで、兵科の授業を履修したくはなさそうだったため誘いづらいが、前世で自由がなかったボクとしては、兵科にはとても興味がある。特に総合課。イオネちゃんが一緒にいない日には体験しておく予定。
次に研究科。研究科にも兵科と同じく履修課目が設定されている。
薬剤課、軍事課、生活課、生態課、政経課の5つ。
薬剤課は、ポーション、解毒薬、浄化剤といった薬物の生産や新薬の開発、効能や薬草の研究など、医療面の研究はもちろんのこと、毒薬など軍事や罠用に使用される劇物を扱う側面も持つ。
イオネちゃんは薬学特待生なので、この種目が必修科目。なのでボクも履修しようと思う。ポーションなんかの生成にあたって、錬金術の履修課程もあるらしい。とっておいて損はなさそうだ。
軍事課は、兵科の将校兵課と共同で行われる授業があるほど、兵科とつながりの強い研究科のひとつと言える。
主に、2種類の履修内容があり、一つは戦術・戦略の有用性・対応策や、地形情報の収集、敵国・モンスターの情報収集術を学ぶことができる。
もう一つは、武器・兵器の開発・創作等鍛冶職の研究。鍛冶屋を目指している貴族というのはほとんどいないのだが、自領で鍛冶製品を特産していたりすると最重要履修課目になったりする。
生活課は、生活用品の開発や流通、流行や販売・経営など、商学を学べる。実際、これは貴族としては必須と言っていいほど重要で、さらには、この授業には同じ側面の学生が集まる。つまり顔を広げるには絶好の場。研究科の中では政経課と並ぶ人気課目のひとつだ。
次に生態課は、主にモンスターや、植物の生態・情報調査、モンスターの攻略、戦闘法の確立。ダンジョン情報の収集に、さらには家畜の品種開発や飼育方法の研究を行なう。
ダンジョン情報の収集とは、どこのダンジョンで、何階に、どんなモンスターが生息するのか。そしてそこに発生する亜種や危険種の情報、マップ情報など、冒険者となるには需要の高い課目だ。
最後に政経課。
つまりは字のごとく、政治と経済に関する課目。貴族であれば必修なのは間違いない。ただ、ボクには一番縁遠い課目なので、特に興味はなかった。ほぼ貴族しかいないこの学園で、ほぼ必修であるこの課目は、履修者数がとんでもなく多い。わざわざそんなところに行く必要性は感じない。
さてさて、最後の学科はボクが必修である魔法科。
もちろん魔法科にも各課目がある。
元素魔法課、次元魔法課、神聖魔法課、魔法陣研究課、総合魔法課、特殊魔法課の6つ。
まず元素魔法課は、その名の通り、元素魔法を扱う魔法士の必修科目。一般的にエレメンタルと総称される、
元素、つまり炎、水、風、大地、光などの物質を扱う魔法で、魔法といったらこれ!という代名詞だ。
この学科課目を聞いたときはびっくりした。この世界で元素という科学的物質が見つかっていたのかと思ったのだ。が、どうやら転生翻訳機能によるものらしい。
ボクは転生直後、親の会話を聞き取ることができたし、この世界の文字を読んだり書いたりすることができた。それをボクなりには“ギフト”と称しているのだけど、このギフトを3歳の頃に認識したときに、自分が単純な輪廻転生ってやつではなく、ゲームや漫画や小説の世界で憧れた異世界転生なんじゃないかと思うに至った。
まぁ、異世界転生するときにお約束のはずの神様とのご対面とか、ギフトの説明みたいなものは一切無かったので、自分の魔法やギフトについては、生涯をかけて自分で探していかなきゃいけない。
ちなみに、ボクの弟であるジークは、このエレメンタルの魔法種への適性があったため、特待で今貴族学校に通っているはずだ。妹はディバイン魔法種の適性があり、3年後にはこの学園にきて、それぞれの科目を履修する予定。ボクの弟妹は転生者ではないはずなので、単純に二人とも天才なんだと思う。
話を戻すと、元素魔法とは、魔力を変換して火をつけたり、岩を砕いたり、大地を練成して建物を建設したりと、自分の得意な属性分野において活動の幅がとても広く多岐に渡る。その分、まだまだ未開発の部分も多くある。
魔法と科学は同時に発展しないもので、例えばこちらの世界では雷は神様が起こしていると信じられている。ボクは、前世では一応17歳まではネット環境で授業を受けていたので、高校卒業くらいの科学知識がある。それをこの世界に持ち込むのか、はたまた持ち込んで同じ現象が起きるのかはまだわからないけど、どうなるのか、楽しみであることには違いない。
次に、次元魔法課とは、次元関係の課目だ。総称はディメンジョン。
科学の発展していないこの世界で次元に関する知識などあろうはずもない。この世界の文字列を勉強すれば、どんな意図でこの名前がつけられているのかわかるのかもしれないけど、残念ながらギフトのせいで文字が勝手に翻訳されてしまうので、本当はどんな経緯でディメンジョンという単語に訳されているのかな? ちょっと気になる。
課目履修内容は転移・時間操作・空間操作のような大魔法が挙げられるが、これを単体で扱える魔法士は現状いないとされている。
主な履修内容としては、エレメンタルや次にでてくるディバインといった他種魔法との併用による応用にある。
例えば、ディバイン魔法種には、身体能力の強化という魔法が存在する。
では、単純に脚力を強化してジャンプしてみよう。個人の魔力量にもよるが、30mもの上空に跳ぶことが実際できる。
その後、どうなるかというと、重力に従い自由落下が始まるのだ。
捕まる場所でもあればよいが、そうでもなければそのまま30m上空から地面に叩きつけられることになる。
身体をいくら強化しようが、それによって自分がダメージを負うのでは意味がない。
解決策としてはいくつかある。
風のエレメンタル魔法で衝撃と同等の威力を着地の瞬間に地面にぶつける。
これはものすごい緻密な魔法力の操作や、一瞬の遅れで大惨事にはなるが、一応確立した方法ではある。
もしくは落下中に落下方向に向かって風魔法を射出し続ける。こちらのほうが調整は利くので安全ではあるが、消費魔力量の費用対効果や、そんなことがしていられる場面の限定さを考えれば実用的ではない。
炎魔法でも同じことが可能だが、危険度は風魔法よりも高い。
では、土魔法で階段を作ればいいのか?
土魔法をジャンプした位置まで盛り上げないといけないので、無駄な魔力を消費してしまう。そもそも、そんなことをするのであれば、最初から盛り上げればよい。ジャンプの必要性皆無である。
もちろん空中に土魔法で足場を作ったところで、同じく重力で落ちていくので足場にはなり得ない。
この場合、土魔法にベクトルを付与して、打ち出し、それに乗る。
というのも解決策ではある。が、そもそも“ベクトルを付与する”行為がディメンジョン魔法のサポートで、最低でも2重の魔力を消費するし、空中で自由落下中に撃ち出した魔法に乗るとかどんな運動神経だ。
後述する、“魔法構造的”にも、これは現実的ではない。
ちなみに重力魔法が一番簡単な解決方法だけど、エレメンタルとディメンジョンのハイブリッド魔法。そのため、研究が進んでおらず、扱える者がほとんどいない。
では一般的な解決策。一番簡単な方法は、“飛天”というディメンジョン魔法だ。
自分の足元に位相をずらした空間を作る。そうすると、ずれた位相に物理的に乗ることが可能なのだ。つまり単純に言ってしまえば、高く跳びすぎたなら、階段を作って降りればいいのである。もちろん降りるだけに用途は留まらず、いわゆる2段ジャンプ・3段ジャンプが可能。
しかし、飛天は連続で使えば使うほど扱いが難しいため、一般的には、連続で、できても5回。つまり30mジャンプしてしまったら、垂直に落下する場合、6mの落下衝撃に5回は耐えなくてはならないのだ。
身体強化しているとはいえ、ダメージはダメージなので、実際に30mジャンプする。というシチュエーションは現実的ではないといえる。
こういった形で、他種魔法の補助魔法としての位置づけが確立されている。
英雄と称される戦士や冒険者の中には、ディメンジョン系大魔法を確立している魔法士もいるが、もちろんそんなものは企業秘密。学園で教えてくれるわけはない。
魔法科の履修内容についてイオネちゃんと話していると、あっという間に時間が過ぎていく。
どうしてもボクの専門分野だから、考える時間が長くなってしまうな。
次に神聖魔法課。総称はさっきもでてきたけど、ディバイン。
回復魔法や呪い、封印。その逆に解呪や開封魔法がこれにあたる。
兵科に通う生徒が、次に選ぶとしたらこの魔法だろう。
回復魔法、と言っても、ディバイン種の回復魔法は、自然治癒力の強化。治癒力が強化されるのであれば身体能力も強化できる。そうなるのは自然の流れ。つまり、身体能力の向上は回復魔法に定義される。ゲーム的に言えば、”BUFF”だろう。
ディバイン種の回復魔法と明文されているのには、ディメンジョン種に回復魔法があるからだ。これはとある有名冒険者パーティの一人が扱っているため、珍しく確認されているディメンジョン系大魔法の一つ。仕組みは公表されていない。
魔法科は、この3つの魔法課を主とする学科。
ボクの特待生必修科目は”特殊魔法課”だけど、魔法士を目指すには、この3つは必修といっても過言ではない。イオネちゃんは特殊魔法課の履修権利を持たないので、イオネちゃんと受ける魔法科の授業は実質この3つと、総合課の4つになるだろう。
まだ魔法科の課目は後3つある。
魔法陣研究課。
これは研究科の課目のようだが、魔法に長けていないと、そもそも研究をするフィールドに乗ることすらできないので、魔法科の課目。
魔道具の開発と魔水晶・魔結晶の発掘・管理・研究・開発が主な内容。
この世界の銃は、この魔道具の一種。
そもそも魔水晶とは? という話になるが、魔水晶とは、魔法構造を書き込む媒体で、自分の血液を水晶に流し込むことで、自分専用の魔水晶とする。つまり血液による魔水晶の契約は遺伝子レベルで行なう鍵の役割を担う。
魔水晶の純度によって、保存できる魔法構造や、複雑さ、数などが異なる。
ボクの持っている最低限の魔水晶の欠片では、単一動作を1つ動かすのがやっとなので、
例えば“火を起こそう”と思ったら、火を起こすための魔法構造を水晶に保存し、魔力を流すことで結果を得る。
では、同じ魔水晶をもって、次に“水を出そう”と思ったら、先ほどの“火を起こす”ための魔法構造を消し、“水を出す”ための魔法構造を保存して、魔力を流し込むことでやっと水が出てくることとなる。
魔力量や、個人差による資質、訓練強度にもよるが、エレメンタル種に適性のある魔法士で、特に炎に適性があったりすると、この“火を起こす”魔法構造を保存するのに1秒もかからないのに、適性がなければ1時間かけても保存できなかったりする。これが一般的な魔法資質といわれるもの。
ただし、水の魔法構造を保存するのに3時間かかろうが1日かかろうが、保存さえできるのであれば、魔水晶に保存しておけば、いつでも魔力を流すだけですぐ使えるのだ。
苦手な術式は、純度の高い魔水晶に複数個用意しておけばよいのだ。
魔水晶の純度は、そのまま大きさに比例する。一般的に流通している直径が3~5cmの魔水晶であれば、単純であれば多くて5種類の魔法が保存できる。単純計算で1cmにつき1個かな?
さっきも例にでてきたような土魔法にベクトルを持たせて射出するには、“土魔法”、“ベクトル魔法”、“発射エネルギー”の3種類の魔法構造が必要。これを単一の魔水晶に保存する場合、最低でも3cmは必要となるわけだ。
前世のイメージからすると、魔法構造を魔水晶にプログラミングして、マクロ化しておくことで、1つの命令で結果を導き出す。
純度が大きさに比例しない魔水晶のことを、魔結晶と呼ぶ。魔水晶が自然界で融合した結晶。
魔結晶には、保存容量が、どれだけ融合しているかによるので、ピンからキリまであり、魔結晶用の基準単位がある。ティアレベルというらしいけど、実物は見たことが無い。本の知識。
価値ももちろん天井知らず。ボクが手に入れるのは、今のところ夢のまた夢だ。
長くなってしまったけど、魔法陣研究課とは、こういった魔法構造の研究や、それを陣化して、魔水晶のように契約式にするのではなく、一般的に誰にでも扱えるように魔道具化することを研究したりする。
さてさて、そろそろイオネちゃんが悩むのに疲れてきているが、もうちょっとだ。がんばれイオネちゃん。
ボクは幼少の頃から本の虫なのだ。こんな薄いパンフレットをくまなく読んで妄想に耽ったところで疲れるわけはないけどね。
次に、総合魔法課。
これは魔法科課目を総合的に扱う課目。
特にディメンジョン種と他種魔法の融合は、この課目で習うことが多い。
魔法科の基本3課をある程度の実績で修了しないと、履修することができない。
とりあえずボクもイオネちゃんも、基本3課の成績を出さないといけないので、とりあえずこれは置いておくとしよう。
そして最後に、ボクの特待必修課目、特殊魔法課。
特殊魔法課は、“エレメント種・ディメンジョン種・ディバイン種に含まれない”、もしくは“その内2つ以上のハイブリッドである”、または“エレメント・ディメンジョン・ディバイン種だが、各種魔法界で発見されていない新種”のいずれかの魔法を適性に持つ魔法士のみが履修する課目。
実際には、原理がわからないから一緒くたにしてしまえ! という暴論から成り立つ課目だが、それゆえに魔法学園の粋を集めた研究チームが、それぞれの適性魔法に関するデータや、結果に基づくことから導き出される考察を、実際にどんな特殊魔法なのかわかっていない本人と一緒に考えながら実験してくれる、ありがたい課目なのだ。
魔法適性検査の結果、ボクに渡された適性魔法、固有名“クリア”。
このアルビノ体質からきた魔法適性なのだろうか?
3歳から勉強してきた魔法知識の中で、このクリアという魔法に関して、少し思い当たる節はあるけど、実際どんな結果なのか、楽しみの一つだ。
履修内容は寮に帰ったらシルとも相談しよう。
さて、イオネちゃん、今日はどこいこっか。
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