それぞれの覚悟。
夏の空。
初夏の澄み渡った空に気持ちの良い朝。
「……風?」
自然な流れではない風に、最初に気付いたのは後衛側にいた人たちだった。
吹き上げる風が空へと流れる。
ラーズニクスの流す大量の水で湿気った大地から吹き上げる風が、空に大量の雲を作り出していく。
不思議な風の発生源。
その中心であるボクの立っている大地の周りに、大きな魔法陣が描きあげられた
この魔法で直径5メートルくらいの魔法陣かな?
魔水晶に魔力を流すだけで発動するこの世界で、魔法が陣を描くというのには理由がある。
本来、魔法を使う際には”自分の魔力”と言うものを使う。
つまり自分の中に蓄えられたエネルギーなのだけれど、じゃあこの魔力というのはどこから蓄えられているのか?という話になれば、基本的には食料や大気中から吸収しているものとして知られている。
実際、前にフラ先生がやっていたように大気中のマナを使い尽くすと魔力回復量がガクッと下がる事から、それが正しいのであろうという予測はつくし、食料というのも元を辿れば植物であろうが家畜であろうが大気から魔素を吸っているものなのだから、それを取り込んで魔力が回復するのも頷ける。
これが自分の中の最大魔力量を限度に取り込まれているのだけど。
じゃあレクゼがルージュを召喚するために空に描いた魔法は、レクゼの最大魔力量の範囲内なのか?と言われればそんなはずはない。
ルージュを召喚するということは、ルージュを召喚できるだけの魔力が必要ということ。
レクゼは自分の自由をすべて捧げてでもルージュを救いたかった程、傾倒し心酔しきっていた部下なのだ。ルージュよりも遥かに魔力量で言えば劣ってしまう。
”自分の魔力”で足りないのであれば補えば良いのだ。
マナはこの大気中に大量に溢れているのだから。
ただし、その場合に限り魔法の効果の核である魔法陣が大気中に描写されるのだ。
ルージュの召喚ってどんだけの魔力が消費されてたのよ。
これだけの魔法でも相当の魔力を必要としているのに、空一面に輝く魔法陣って。
じゃあ、何で皆が限界なんか気にせず魔法陣をバンバン大気中に描いて使わないのか?って思うでしょ?
まず最大の理由。
できないのだ。
魔法を構築する事ができなければ、魔法陣を大気に描く事など出来ない。
もちろん、数えられる程度らしいけど魔法を構築できる人は世界に数人はいる。
ただ、聞いている話によればボク程自由に構築できるわけではなさそうだけどね。
そこで最大ではない理由。
知らないのだ。
レクゼは数千年の時と生きてきた悪魔。
かたやこの世界は1000年ちょっとの歴史しか残っていないのだから。
うん?じゃあ何でボクが知ってるのかって。
ね?
そりゃ……それを扱った悪魔が心酔した、さらに上位の悪魔がボクに今、仕えてくれているんだから。ルージュが教えてくれたんだよ。
まぁ、今回は自分の魔力が回復していないから少しだけ扱うけど、今後は緊急でもなければ絶対に使わないとは思う。魔力が3万を越えた今、相当の事が無い限りこんな必要は訪れることはないだろうし、ルージュに教えてもらった時、危険性についても教えてもらっているからね。
まず危険性の一つとして、単純に陣を構築するほどの大きな魔法を扱うという事は、詠唱と同じく読める人には読めてしまう。つまり反射や対抗の措置がとりやすいのだ。
自分の魔力を全部使って尚且つ周りの魔素まで使って放った魔法が反射なんかされたら目もあてられないし、大気中の魔素を扱っていると精霊界に目をつけられてしまうらしい。
そして一番危険視されている問題点。この大気中の魔素を扱うという魔法のせいでこの世界の文明は2度程文明が滅びているのだそうだ。
それを知っているのがルージュが何千年もいた精霊界。
魔素という謎の物質はこの世界から溢れている恩恵なのだそうだ。
そして、精霊界に見放された世界には魔素がない。
つまり、ボクの前世の世界は……。
大概魔素の無くなった世界は、生命が進化しづらくなりやがては生命が絶えるのだそうだ。
つまり、魔法の使える世界よりも科学の発展した世界の方が極めて稀ってこと。
科学の知識をもつ異世界人が、魔法を比較的こちらの世界の人よりも自由に扱えるのにはそういう理由もあるのかもしれないね。
だからと言って、ここでボクが自重するわけにはいかない。
ここにいる人達が、何が起きたかを研究し始めて、いつの日にか真理にたどり着いてしまうかもしれない可能性だって、限りなく低いかもしれないけどゼロなんかじゃないことも十分に理解している。
けどね。ここでラーズニクスは廃棄処分しておかなくちゃ。
もし遺物がこれだけじゃなく、まだあってAIが共有してしまったら、それこそ大変なことになるし。
ボクが突然何かをし始めるなんて、いつものこと。
でもそれを一番理解しているフラ先生はこの場にはいないわけで。
「王子様っ!ご主人様を護ってほしいの!」
「っ!わかった!あいつんとこに、このでか物を行かせなければいいか?」
「そうなの!!」
流石シトラス。
ここにはボクのことをさらに根底から理解してくれている3人の精霊がいる。
やがて雲は濃くなり、晴れた空を暗く染め上げる。
ラーズニクスも気付いたのだろう。
あからさまに方向を変え、こちらに突っ込んできた。
六星の球が召喚され、6つの光がすべてボクに向かって発射される。
ルージュ・シトラス・シエルの3人が、射線上に立ちふさがった。
「ぬぅっ!!」
「うぅん!」
「くぅっ」
流石に6本合わさった火力は、弱体化した3人の防御魔法を凌駕している。
後衛の皆の魔法がサポートに回るが、破られるのは時間の問題。
「その槍、俺に寄越せ!」
「何をするんだ?」
「いいから!」
さっきボクが渡した前衛の人から槍を奪い取ると、3人とボクの間にリンク様が陣取る。
「いいぞ!避けろ!!」
リンク様の合図とともに、ルージュたちの防御魔法が砕け散った。
サポート魔法により、3人がその瞬間射線上から吹き飛ばされた。
「俺がお前を……
守ってやるよっ!!!」
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