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支えられてる人から支えられる人へ。

「ルージュ。」

「ここに。」


そういうと、ボクの後ろにできた影から、褐色の女性が現れる。

シルがあからさまに怪訝な顔をした。


「どなた?」

「ルージュと申します。主様の忠実な僕にございます。」


執事のような佇まいでシルに挨拶をすると、条件反射なのかシルも挨拶を返した。

女性だから執事じゃなくて秘書なのだろうか?

でも雰囲気が執事のそれなので、執事にしか見えない。

背も高いし、どちらかというとかっこいい系の女性だし、パンツルックだし。


「しもべって……レティ貴女……。」

「本当は今大変な時だし、色々ここの問題が解決したらシルに打ち明けようと思ったんだけどね? でもシルを説得するのには、それなりの材料が必要でしょ?」


「それで?」

「ルージュは元、バルハリトさんだよ?」


「は?」

「元ばるはりとさん。」


シルがフリーズした。

おーい。目の前で手を振ってみると、頭を抱えてしまった。


ごめんね。

本当はこんな事に気を回させたくはなかったけど、シルの為に必要なんだから!


「ちょ、ちょっと待ってよレティ。バルハリトは役目を終えて帰ったんじゃなかったの?」

「うん? 役目は終えたけど、帰ったとは言ってないんだよ?」


……めちゃくちゃ顔に皺を寄せて睨まれました……。


ご、ごめんなさい。


「ち、違うんだよ……? ボクだってそう思ってたらね? いつの間にか肉体ができちゃってて、いつの間にか契約が完了しちゃってて、いつの間にか名前までつけちゃった……! てへ。」


っ!

はうぅ……。さ、さっきよりも怖い顔で睨まれました。

しれ~っと目を逸らしておこう……

合わせることができませんっ!!


必殺技のあどけない笑顔は、女には効かないんだった……。

母親で実証済みなんだよなぁ。


「ご、ごめんなさい。」


こういう時は素直に謝っておこう……。


「……はぁ。わかったわ。とりあえずこの件については、今は貴女に任せるから。それよりも、なぜこの手札が交渉材料になり得るのかを教えて?」

「じゃあルージュ。説明して?」

「はい。畏まりました。……ラーズニクスにつきまして……ですね。」


「……ラーズニクス?」

「シルヴィア様のご両親が今も戦われている生体遺物でございます。」


シルの表情が少し曇る。

やっぱり心配だったよね。

15歳の女の子が、親の生死を決める状況とか酷すぎる。


「……それで? そのラーズニクスだか生体遺物だかなんだか知らないけど、それと貴女と、何の関係があるのかしら?」

「はい。神魔戦争時代に戦った相手ですので。弱点や攻撃パターン等知り尽くしておりますので。お役には立てるかと。」


「はぁ!? 神魔戦争時代!? 一体何千年前の遺物だって言うのよ!?」

「約6千年前でしょうか。」


6千年って。機械ってそんな時間が経って動くものなの?

う~ん。AIって聞いて前世の世界から持ってきたものかと思ったけど……。

もっと進んでる文明世界からの遺物なのかもしれないね。


「……。で、でもレティが行く必要はあるの? 貴女は主位悪魔なのでしょう? 貴女が行ってくるのではだめなの……?」

「はい……。残念ながら、わたしも主様を見習いまして肉体を弱体化しておりますれば……。わたしの現状の魔力では破壊は絶望的。危険な地域へ赴いていただく事、わたしとしても断腸の想いですが……。主様の力は必要にございます。」


「そ、そうなの……。」

「シル……。絶対助けて帰ってくるから。」


「……。」



沈黙が続く。


シルが頭の中で何かと葛藤しているのがわかる。


……こんな心配させるつもりじゃなかったのに。


ボクにこんなモンスター群なんて、相手にならないくらいの魔力があれば問題なかったのに。

ボクにティオナさんやヴィンフリーデさんみたいな力があればよかったのに。


理想を上げればキリがないけど。




考え込んでいるシルの手を握る。


今、ボクにはそんな理想の力は無いけど。

シルやイオネちゃんや。

周りの皆の力を借りればできないことなんてないんだよ。


「レティ……。お願い。お父様とお母様を……助けて……。」


シルの瞳から大粒の涙が流れた。


指でシルの目尻を拭う。


「……まかせて。いってきます。」


「……いってらっしゃい。」







そのままボクは振り返り、砦を後にした。

ルージュも後ろから付いてくる足音が聞こえ、2つの足音だけが木霊した。




「レティ。」


決意を背に城壁の上に立っていると、また聞きなれた声で呼び止められた。

この城壁の外を走って抜けるのはモンスターが多すぎて困難。


だけど今や空はがら空きだ。

このモンスターを空から飛び越えていく為、城壁の端っこにやってきたのだ。

ここならモンスターも少ないので、邪魔をされる数は少なくなるはず。


逆に、警備兵も少ない場所だったけど、それを判ってて待ち構えていたらしい。




「ラインハート公爵のところに行くんだろ?」

「……うん。」


「俺もつれてけよ。」

「嫌だよ。王子様が危ない所に行っていいわけないでしょ?」


「いいさ。お前の後を着いていくだけだから。」

「次元魔法は解除するもん。」


「そしたら下のモンスターの群れを突っ切ってかないといけないな。」


むぅ。


こんな事してる時間も惜しいのに。

わざわざ王子様を危ない目に合わせることなんてできないし、ここで説得している時間なんてもう無いに等しい。


「怪我してもしらないよ? シルには後で言うから。」

「うっ……。」


リンク様もシルは随分怖いようで……。


「ティオナさんにも言うから。」

「うううっ……。」


姉のほうが怖いのね……。


「いいから、いくぞ!!」

「ほんと! 知らないからねっ!!」




ま、そんなこといいながらも、ちょっと心強いんだけどね!


2人で空に足を踏み出した。


あ、ちなみにルージュはボクの影の中にいるんだよっ!!




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