ボクが今、できること。
ルージュがこの世界に召喚されてきた時に、ボクの前世である世界とこの世界の狭間の世界から来たって言っていたし日本語を理解していたから、神様とやらがボクの前世の世界の科学知識を持っていたとしてもおかしくはないんだよね。
まぁ……前世とは違う世界の科学知識かもしれないけど。
ボクの転生や賢王様のように転移で飛ばされてきたのではなく、自分の意志で違う世界を覗けるのだとしたら、厄介なことこの上ない。
そもそも神魔戦争はこの世界の時間軸で数千年前の出来事だ。
その時代にAIが実用化されるほど科学の進んだ世界があるんだとしたら、数千年経った今はどんな世界になっているんだろう。
少なからずAIには機械的とはいえ知能がある。
そして何より、神魔戦争時代の経験も蓄積されているだろう。
もし、そこにモンスターの洗脳方法でもあれば、この状況って作れるんじゃない?
よくよく考えたら、悪魔がなんでモンスターを指揮できたのか疑問に思うべきだった。
悪魔だから?
自分と同じ位の強さの超級危険種3匹を一度に従えて??
そうじゃなくて……
その生体遺物だかなんだかの魔法とか能力だったとしたら?
うん。その方がありえそうだ。
神魔戦争って、つまりはモンスターのような魔軍と天使とか精霊の神軍ってことでしょ?
相手を洗脳するのって常套手段だし……。
普通、戦時中ならそういう魔法なんかには対応策もあるんだけど、それも数千年前の話なら……ね?
対策なんてできないだろうしね。
ただ、わからない事はある。
そもそもの話、レクゼという悪魔の人は誰が召喚したのだろうか?
自然的にこちらに生まれたんだと言われればそうなのかもしれないけど、そうなると引っかかることがいくつかある。
まず、レクゼには明確な行動目的があったはずだ。
ルージュをこの世に顕現させるという。
そして、誰が彼に受肉させるほどの肉体を与えたの?
ルージュはもう顕現してるわけだから、実質彼の願いは叶っているのだけど。
それだけであれば……まぁ……。マナ溜まりが重なったりして偶然生まれる事だって無くはないだろうし、疑問を持つこともなかったんだけど。
そのラーズ……なんとかとか言う遺物が出てくるというのには、違和感を持たざるを得ない。
相手が機械じゃ魂を集めることも、物体なので肉体としてルージュへ捧げることすらできないのだから。
そうなると考えられる可能性として高いのは……。
「レクゼを召喚した人がいる……?」
「その可能性は高いかと。……今ラーズニクスの周辺を2人に探らせております。あれだけの遺物を扱うとなれば、その近くにいて転移の罠に一緒にかかっている可能性は高いですから。」
なるほど。確かにそんな危険そうなものを動かしておいて、放置しておくっていうのは怖くていけないよね。
神魔戦争の遺物を引っ張ってきて、悪魔を召喚してまでして成し遂げたい何かがあったということなのだから、そんな大がかりな物を起動するだけして放置なんてお粗末なことはしないだろう。
世界を滅ぼしたいとか、そういう理由でもなければね。
まぁ、世界を滅ぼしたいのであればグルーネに侵攻してくる事自体がおかしいし。
軍事力が世界最大なわけでもなければ、弱い国というわけでもない。
確かに、ボクがロトやエリュトスを偵察で覗いてきた事を信じて、グルーネの世界教育が正しいものだとすれば、グルーネの魔法技術は世界でも突出しているはず。
その魔法技術をラーズなんとかに学習させたいというのならなんとなくわかるけど……。
その間に、ロトに戦闘準備を整えさせてしまえば元も子も無い気がする。
グルーネから世界を滅ぼしに行くのなら、次はエリュトスとロト方面に行かなくてはならないのだから。
そもそもグルーネの戦術兵士とはいえ、15人で足止めができる程度の災害ではロトの軍隊はどうにかなるレベルじゃないはずだしね。
とりあえず、ボクがやるべき事は決まった。
この戦場は、敵の遠距離攻撃が始まりはしたがボクがいなくなったとしても対応できないほどのものではない。そんなに激しい遠距離攻撃ができるのであれば、あんなに数が減る前に最初からやっていただろうし。
後はシルの許可を取るだけだ。
ただ、シルはまだ会議中。
あんな人達のいる中に行くのは嫌だなぁ。
でも一刻を争う中、ボクが嫌だからって時間を引き延ばすことはできないよね。
がんばろ。
コンコン。
今度は少し経ってから扉が開いた。
あらかじめ決められていた来客じゃないんだから、そりゃ扉を開ける用意なんてしてないよね。
「どうしたの?」
すると、シルが自らこちらに足を運んできてくれた。
扉の外へ押し出され、扉を閉めてしまう。
「はぁ。あの方達は私を殺したいのかしら。頭の血管が何本切れたかわからないわ。」
「だ、大丈夫?」
「ちょっと休憩よ。で? どうしたの? よく戻ってくる気になったわね。」
「うん、急ぎだったから。」
「?」
「シルのご両親が見つかったかも。」
「…………そう。それで?」
シルが感情を表に出さないだろうって……分かってはいたけどちょっと居たたまれない気持ちが湧き上がってきてしまう。
「ここから北西に120キロの位置に。転送されているのは、やっぱり大きなモンスターと、シルのご両親を含めた15名。」
「……。」
「既に死者が出始めてるの。一刻を争うかも。」
「……そう。どんな方法でその情報を知りえたかは、今は置いておくとしましょう。でも現実的に助けに行く事は無理よ。この状況ではね……。残念だけど。」
自分の気持ちを押し殺しすシルに胸がどんどん締め付けられていく。
ボクなんかより本人の方が辛いだろうに。
「だから相談に来たんだよ。ボクが行ってきてもいい?」
「はぁ? それはダメよ。貴女を死地に送るのは許可しないわ。」
思ってたよりも即答されたね……。
「そりゃ私だって助けられるものなら助けたいわよ? でも……私の両親とレティじゃ天秤に掛けるまでもないのよ。レティを失ってしまったら、その後に来るであろう大型モンスターの決戦で被害も増えるわ。ダメ。認めない。」
「えぇ……。でも、ボクが助けるのに成功すればボクは戻ってくるしシルのご両親だって戻ってくるし、戦術兵の皆だって戻ってこれるんだよ?」
「それができるっていう確証はあるの? どんなに小さな冒険やクエストだって、命を落とすことはあるのよ? それを、未開拓地へ120キロも踏み込んで帰ってくる勝算はなに?」
うっ……。
確かに転移で逃げるとかはできるだろうけど、転移で逃げるなら最初から行くなって話になってしまうだろうし、いくら魔法が得意だからって、この砦のように囲まれてしまえば終わりだ。
ボクにはティオナさんやヴィンフリーデさんのように、一人で立ちまわれる程の技量がないことは、昨日と今日で痛いほど判っているのだから。
シルとの交渉材料が必要。
シルの両親を助ける為にシルを説得しなきゃいけないって、なんて状況なのよ、これ。
まぁこうなる事はわかってたんだけど……。
さあ……交渉に移りましょうか。
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